Project Moon RPG気ままに実況プレイ 作:とろねぎ
照りつける穏やかな陽光。
暖かい風が傍を吹き抜いて、桜の花びらがそれに吹かれて巻き上げられている。
〈.........え?〉
紛れもなく外だった。
でも、地平線の先まで大地が続いているこの場所は都市じゃない。
古ぼけた家屋が連なる中でたった一つ、階段の上に鮮やかな紅色の鳥居が見えた。
〈あそこに行けって?〉
返事なんてものはなかったけど、色あせた建物が静かに肯定した気がした。
〈...これを登れって?〉
雲の上まで届きそうな長い階段を前にして呟くけど、誰も答えなかった。
十分ほどかけて階段を登りきると、そこは古ぼけた神社だった。
〈なんだここ...〉
胃に重たくのしかかる様な重圧を気のせいだと伝えるように、目の前では桜が花を散らしていた。
古さはある。でも放置されたような場所じゃなくて、誰かがずっと手入れしているようにも思えた。
そしてその中心には...
〈...アリス?〉
居なくなった方のアリスがいた。
声をかけても振り返らなかった。
「...どこかしら、ここ...」
〈アリス?〉
あの落ち着きのない様子できょろきょろと見回していたが私の声だけは届いていないようだった。
近寄ろうとした直後、空気が震えた。
文字通り、微かな振動が周囲を包むとあの裂け目が現れる。
ぶち、ぶちと何かをちぎる様な音と共にそれは広くなり...
『......』
這い出るように現れたそれは、純白の獣だった。
「...!」
硬直するアリスにそれは近寄ると、にんまり口角を上げたように見えた。
それは、悪意とも歓喜とも取れる笑みのようでもあった。
『おかえり、■■。』
〈っ...!?〉
「如何されたのですか管理人様!」
〈ここは......戻ってきた...?〉
「戻っただぁ?どっか行ってたのかよ時計ヅラ。」
「数瞬、心ここに在らざりしように見ゆる。」
「ダンテ、その裂け目に触ったら固まっちゃったんだよ?立ったまま死んだかと思った。」
〈し、死んではないよ...大丈夫。〉
あの時見えたものを伝えるべきか迷った。
きっと...どちらのアリスにも関係のある話だったから。
裂け目はもう消えていた。
〈...あの裂け目は他の部門にもあるのかな?あるなら...探そう。〉
「あ?いきなり何言ってんだ?せめて理由を言えよ。」
〈理由は...まだ、言えない。言っていいのかまだ悩んでるんだ。〉
「......は、なんだそりゃ。」
〈理由も言わずにただ要求するだけなんて困惑するのはわかる。本当に悪いと思っている。でも今は───〉
「勘違いすんな。別に謝れつってるわけじゃねぇんだ。」
「大丈夫です。管理人さんが何かを隠す時は、それ相応の理由があるんだって僕たち分かってますから。」
「たまに、本当にくだらないことを隠そうとしたこともありましたけどね。」
〈...ありがとう。〉
本当に...初めて顔を合わせた時からは信じられないほど素直に話を聞いてくれるようになったな。
とんでもない成長だ...
「......ん?アリスさん?置いてかれちゃいますよ〜。」
「...あっ、う、うん...」
「さ・歩。」
「管理人様。」
ムルソーが立ち止まったのは、安全部門に向かうために指揮部門の通路を歩いているときだった。
「先程の裂け目と呼称される物と同一に見られる存在を確認しました。」
〈えっほんと?どこに?〉
「この収容室内です。幻想体の背後にあります。」
〈...どういうこと?〉
促されるまま覗くと言われた通りの光景が広がっていた。
玉座にも見える豪勢な椅子に綺麗な姿勢で腰掛けている白と赤の幻想体。
幻想体に綺麗な姿勢があるかは分からないけど。
あれは......チェスの駒?
「クイーンの駒です。」
〈クイーン......ねえ、まさかだけど...〉
幻想体を再度見ると、波打つように交互に赤と白が流れていた。
「...この会社、職員を幻想体にしてたのか?イカれてんな...」
ここが現実とも心象とも言えない空間だから断言はできないけど...ここは確かに、誰かの記憶や経験から作られている気がする。
なら目の前の光景は、実際に起きたことなのか?
「イカれてるのは別にいいんだけどさ...あれどうするの?収容室に入る以上作業を終わらせないと出れないよ。」
〈作業?〉
「ロボトミー・コーポレーションでは例外こそありましたが四つの作業がありました。生理的欲求を満たす本能作業。室内の清掃等行う洞察作業。社会的欲求を満たす愛着作業。存在の抑圧...平たく言えば暴力を振るう抑圧作業がありました。」
「ま、待って!?他はわかるけど...暴力!?」
「幻想体によって好む作業は変わり、また作業内容によって能力が発動する場合もあります。」
〈それは理解できたんだけど...じゃあ、あれに触れるためには作業で入らないといけないんだね?〉
「たぶん。入るためには作業を決めないといけないし、一度入ったら終わらせないとテコでも開かないよ。おまけに、収容室に入れるのは一度に一人まで。」
「待て...整理させろ。管理人様はあの裂け目に触れる必要がある。しかし入退室には幻想体のご機嫌取りという危険極まりない作業へ管理人様を放り込む必要がある。違うか?幻想体の情報は開示されているのか。」
扉横のパネルが光った。
〈...名前だけ。『F-01-80F』『善き圧制者』クラスはWAWだって。〉
「ふむ...?圧政なのに善き?難しい言葉遊びのようでもあるな。」
「そんなことはどうでもいい!管理人様の安全な作業を確保するために、貴様ら有象無象が入り確認しろ!」
「ハァ?なにテメェは例外見てぇなツラしてやがんだ?テメェも入んだよ!」
「言・ぺが先にやるべきだろう?」
「どうせ全員やるなら、早い方が気が楽ですよ?」
〈......待って、みんななんで乗り気なの?なんで先に作業を試す方向になってるの?〉
「だってそうするのが確実で安全じゃん。あ、私最後〜。」
「思ったんですけど、アリスさんはどうやって作業するんですか?あ、でも愛着作業はぴったりそうですね〜。」
「ぶっ殺すぞ。」
〈...はは。みんな、ありがとう。〉
「最初は?」
「やっぱりウティでしょ〜!」
「なんだと?」
「言・ぺ。」
「......チッ。管理人様、作業指示を。」
〈...うん。〉
あれがクィーンの成れの果てだとしたら...
〈......ウーティス、愛着作業。〉
パネルの愛着の部分に触れると扉が開いた。
「愛着...社会的欲求を満たすと言っていたな。会話でいいのか?」
「はい。」
「ふむ...かしこまりました。不肖ウーティス、行って参ります。」
〈うん、行ってらっしゃい。〉
ウーティスがあの幻想体に語りかけている間、固唾を飲んで見守っていた。
時折不愉快そうに顔を顰めながらも何かを話していると幻想体が身震いしたように見えた。
〈ん?今、なんか震えてなかった?〉
「い、言われてみたら...?」
『首を刎ねよ!』
〈えっ〉
幻想体が...いや、声はクィーンだった。
その声が響くと同時に、目を見開いたままウーティスの首がごとりと落ちた。
〈......え〉
「...う......うわあぁぁあ!!?ウーティスさん!!」
「ほう、美しい断面だな。」
「なんつーか...あの流れでこれだとギャグみてぇだよな。」
「えっ、ギャグじゃないの?」
「な、なんで皆さんそんなに落ち着いているんですか!?」
〈...これに関しては、シンクレアが正しい。安心して。〉
ちかちかとパネルが主張していて、それを覗き込むと名前以外にも情報が追加されていた。
〈...『作業結果が悪いと作業していた職員は首を刎ねられた』...〉
「ハッ、要するにヘマしたってわけだな。」
〈でもおかしいな...愛着作業は成功率が高いのに。〉
開示された情報には確かに、愛着作業の成功率が高いと表示されている。
「じゃあ余計ウーティスが下手くそだったってことじゃ...ほら、もう表情から愛着作業に向いて無さそうだったし。」
「ぷっ。おい、言・過。」
「管理人殿!管理人殿!!次!次は当人がゆくのである!」
いつの間にか...本当にいつからか仲良くなっていたアリスと良秀がじゃれ合っている中、ピンと棒のようにまっすぐ腕が伸びた。
「おちびちゃん...合法的に色々話すチャンスだと思ってない...?」
「ん...ごほん、ごほん...えへん......そのようなこと、少しも...いや...すこぉししか考えておらぬ!対話ならば当人も望むところ!ウーティス君も回収してこようではないか!」
〈...わかった。頼んだよ、ドンキホーテ。〉
大股の勇み足で収容室に入ったドンキホーテは幻想体と目が合うと身振り手振りで何かを語り始めた。
「あれでまた死んだらちょっと面白くない?」
「だな。」
ヒースクリフとその肩に乗ったアリスがまた笑えない話をしているうちにも作業は進み......
「滞りなく終えたぞ!!」
ウーティスの首と首がないウーティスを引きずったドンキホーテが戻ってきた。
〈あれ...?今度は生きてる。〉
「まるで当人が生還したのが不服なような言い方であるな!管理人殿!時計を回してくだされ!」
〈あ、うん。〉
時計を回す。
彼らが受けた苦痛を私が受け持ち、そして戻す。
あっさりと首が離れる感触。
針が突き刺さるような痛み。
「......申し訳ございません管理人様...私としたことが、あのような体たらく...」
〈いや、謝らなくていいよ。幻想体がたった一度試してみただけで解決したことはないでしょ?〉
「...ありがとうございます。」
〈そういえば、作業中、時々顔を顰めてた気がするけど何かあったの?〉
「あれは......あぁいえ、ただあの幻想体に睨まれたような感覚を覚えると同時に、肉体に衝撃が訪れ、不快な感情が流れ込んだだけです。」
「あの幻想体はblack...肉体損傷と精神障害を同時に与えるタイプのようです。」
〈てことは、ドンキホーテも?〉
「ドンキ、痛いとこない?」
「む?いや何も...強いていえば、少し頭がぼーっとするぐらいであろうか?」
〈攻撃のタイプ、変わってない...?いや、とにかく情報を...〉
追加されていた。よかった。
〈『白の女王は職員へWhiteダメージを与えた』...これが答え?白の女王ってなに...?〉
「ふふん、幻想体の洗礼、堪能するといいよ。こいつら意味わかんない固有名詞たくさん出してくるから。」
〈遠慮します...〉
あの幻想体の見た目からして、白があるならその反対はおそらく...赤?
クィーンの白と赤と考えて思い出せるのは、普段の温厚な白い姿のクィーンと、大罪の鎮圧時に見せた怒り狂う赤い姿のクィーン。
〈...色が変わってる。〉
「囚人ウーティスの作業終了時に白へ。囚人ドンキホーテの作業終了時に赤へ変色しました。」
〈......もっと早く言って欲しかったな。〉
「幻想体の体色に変化があった時は報告します。」
〈色だけじゃなくて...いや、ううん。なにか変化を教えて欲しい時は言うね。〉
「はい。」
〈今は赤色...全部の作業は確認しておきたい。その...抑圧作業やってくれる人...いる?〉
明らかにダメそうな感じだから、これはそのままでも...
「管理人様。挽回の機会を。」
〈...わかった。任せたよ。〉
パネルの抑圧作業に触れると、パネル下にあった空間がごとりと音を立てて開いた。
「こ、今度はなんですか!?」
「...抑圧作業が平たく言えば暴力というのは聞いていたが...あからさまだな。」
覗くと、鞭やナイフなどの凶器が詰まっていた。
「ウティ...?まさかこれ、使うの...?」
「...いいや。おい白髪女。抑圧作業は存在の抑圧なのだろう?ならば暴力でなくとも良いはずだ。」
「ファウストを白髪女と呼ぶ意味はありませんが、肯定します。」
「ならば容易い。」
「...こんでまたあっさり死んだら笑えるよな。」
「わかる。」
「何か言ったか?」
「「なんでもない。」」
収容室に入ったウーティスは幻想体へ何かを捲し立てているようだった。
...結果として、ウーティスは今度こそ首が繋がった状態で出てきた。
そして...管理情報が開示される。
〈『白の女王と赤の女王は好む作業が反転する』...つまり、赤い時に愛着をやったらだめで、白い時に抑圧はだめ...ってことになるのかな?抑圧は最低みたいだし。〉
というか、赤が最初の姿なのに作業結果は白い時のを参照されてるの...?
情報はあと一つ...念の為確認しておきたい。
本能か洞察...
〈......ムルソー。洞察作業、できる?〉
「できる。」
凶器が出てきたところから、今度は掃除道具が出てきた。
〈...『作業を終える毎に『F-01-80F』は色を変えた』......もう知ってるよ...洞察は普通か。ありがとうムルソー。あとはまた抑圧作業をして、白くしてから......私が、入るね。〉
「はっ!お任せ下さい管理人様!」
もう手馴れたように終えてきた。
温厚な白色に戻っている。
「プロ職員の称号が貰えそうだね。」
「おぉ!プロ!やはり翼ほどの企業ともなれば頻繁に最優秀職員の表彰が...!?」
「いや全くなかったけど。」
「無いのか!!?」
囚人たちの喧騒をよそに、私はパネルの愛着作業に触れた。
〈...行ってくる。〉
そして、収容室に足を踏み入れた。