Project Moon RPG気ままに実況プレイ   作:とろねぎ

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■-20 観測1

 

 

 

収容室は不自然な程に整えられた空間だった。

 

暑すぎず寒すぎず。

 

乾燥も湿ってもいない。

 

その中心で、裂け目を背後に隠すようにクィーン...いや『F-01-80F』はいた。

 

『あら、お客様でしょうか?』

 

〈っ...喋った...!?〉

 

幻想体がここまで流暢に喋るなんてこと...あるのか?

 

少なくとも、さっき作業に入っていた囚人たちからは何も聞いていない。

 

『このロボトミー支部にお客様がいらっしゃるとは...実に何年ぶりでしょう。』

 

〈何年ぶり...?ロボトミー・コーポレーションはそんなに長く続いているのか?私は...何も知らなくて。〉

 

『いえ、私たちは皆繰り返しているのです。数多の死を。数え切れない一日目を。そうして消耗しすり減っていく彼らを、私は救えませんでした。アブノーマリティの自我の欠片にすらも入り込まれた私は、誰を救うつもりだったのでしょう?』

 

〈...やっぱり君は、クィーンだね?〉

 

『クィーン...ただの一個体を示す識別名称は既に忘れ去られてしまいました。無限に繰り返す不可思議な王国では、正気は狂気の代名詞でしかありませんでしたもの。』

 

〈...そこをどいて欲しい。それか、私のすることを黙って見ていて欲しい。〉

 

ぴしり、と空気に亀裂が入った音がした気がする。

 

『...どうして私に指図できるのでしょう。ただ一企業の義体が、この王国の女王であるこの私に!一体どのツラを下げて要求ができる!?』

 

見る見るうちにクィーンの体が赤く染まっていく。

 

『私の王国だ!私が女王!支配者!全ての民は私に平伏し、跪き、頭を垂れて己の運命すらも私に捧げるんだ!』

 

頭の中に直接怒声が響き、玉座から立ち上がった幻想体の手には、半分に割れたハートのような鎌があった。

 

「...!!」

 

「...!」

 

「〜〜!!」

 

囚人たちの叫び声が聞こえるけど...平気だと思う。

 

〈捧げられたその命を、一日を無事に終わらせるために預かっていたんじゃないのか?〉

 

『......』

 

〈他人の人生を捧げられて当然という人間は見たことがある。でもそれとは話し方も声も全てが違った。〉

 

クィーンの動きが完全に止まった。

 

〈正直、一日や二日程度しか関わっていないから何も分からないと思う。でもわからないなりに理解した結果だ。〉

 

『......そうでしたか。』

 

再び座ったクィーンは、白かった。

 

『出会って日も浅いあなたに聞くことでは無いのかもしれません。ですが...私は......善い職員でしたか?』

 

〈...いや......善い支配者だった。〉

 

『...そうですか。』

 

作業が終わったのか、収容室の扉のロックが外れた音がした。

 

無事に終わったと思い前を見ると、『F-01-80F』の姿は消えていた。

 

そこにあるのは裂け目のみ。

 

〈...これを、繰り返していけってことなのかな。〉

 

そして、触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.........何も見えない。

 

ただ、明かりを一切持たされず真夜中の暗闇の中に放り出されたような、そんな感じ。

 

......いや、声が聞こえる。

 

『私が───■■を───』

 

これは...さっきの、獣の声?

 

『私がどれだけ───ても───■■を───』

 

頭が痛い。

 

割れそうだ。

 

重い金槌で直接殴りつけられるような痛みと不快感だ。

 

『■。私の愛しい■。■■の■。』

 

何かの単語にだけノイズが走って、視界に砂嵐がちらつく。

 

『何度■■■たって...私は必ず、■■を守る。』

 

ただ酷く優しくて、眠気を誘うような...母親の、声だった。

 

『■■、したから。』

 

 

 

 

 

 

 

無機質な照明が照りつけてくる。

 

〈...戻ってきた...?〉

 

何も無い収容室に一人立っていた。

 

今回は...短い夢を見ているような心地だった。

 

「ダンテ、心地はいかがなり?」

 

〈大丈夫。少し足元がおぼつかないけど...〉

 

「無理はなさらないでください管理人様!微かな体調の変化もウーティスめにお申し付けください。」

 

「テメェはこいつの親かなんかかよ。」

 

「ダンテ...それで、なんなのかは話せそう?」

 

〈...いや。さっきのは...ほとんど分からなかったんだ。何かが見えた訳じゃなくて、ただ誰かの声が聞こえていただけで。〉

 

「声...なりや?」

 

〈うん。なにかに執着してるような...でも、暖かい声だった。太陽みたいって言うと...ちょっと大袈裟か。でもどこか安心するような声だった。〉

 

「太陽...?なあそれ...女の声じゃなかったか? 」

 

〈えっ?えっと......どちらかと言うとそうかな...?〉

 

私の返答でヒースクリフとあとなぜかムルソーとアリスも変な顔をした。

 

「何言われても聞かないようにしようね。無視無視。」

 

「だな。返事すんなよ時計ヅラ。」

 

〈???〉

 

「...おい待て。お前...」

 

「えっ?な、なんにも言ってないよ?気のせいじゃない?」

 

下手くそな口笛...狐なのに口笛はできるんだ...

 

〈......あ、そういえばさっきの幻想体、喋ってた?〉

 

「...喋る?いえ...そのようなことは全く...」

 

〈...そっか。〉

 

 

 

 

 

 

 

───旧L社支部安全部門───

 

 

 

「......お、あったぞ旦那。」

 

〈あっ、ありがとう。どこに......あぁ、またか...〉

 

収容室の中は青い煙が下の方に漂っており、シンクレア程もある巨大なきのこの上に寝ている芋虫がいた。

 

青と緑が混ざったような色をしている芋虫だけど、特徴的なのは頭がない事だった。

 

鏡ダンジョンや紐採光の首がない魚のような、切り落とされているようなものではなく、元々存在しなかったかのように。

 

「この場所は一体、何をさせたいんだろうな。」

 

〈さあ...でも、やることはわかった。〉

 

見計らっていたかのように光り始めたパネルを見る。

 

〈『F-02-07B』『水タバコの夢』クラスはHE...あ、あの抱えているのって、もしかして水タバコ?〉

 

「ほう...結構なモンだな。」

 

〈あ、良秀はわかるの?そういう良し悪しとか...〉

 

「いんや全く。言ってみただけだ。くく。」

 

〈......〉

 

「とりあえず作業してみないか?」

 

〈あっ、そ、そうだね。じゃあ...グレゴール、洞察作業で。〉

 

「......なあ、今俺の腕見て言ってなかったか?」

 

〈...気のせいだよ。私は上手くやれると思ったから...〉

 

「虫シンパシー?」

 

「...いや...慣れてるからいいんだ。ウン。」

 

「グレッグ頑張って〜!」

 

「まあ、やれるだけやってみるよ。」

 

グレゴールが入ってから作業中、アリスはどこかそわそわしていた。

 

「お・い。うろちょろするな。」

 

「...してないけど。」

 

「してたよおチビちゃん。」

 

「してましたね〜。」

 

「完璧にソワソワしていたのである!」

 

「...してないもんんん...」

 

ロージャ、ホンル、ドンキホーテの追撃で完全に撃沈した。

 

「いたっ!?え、アリスさん!?なんで僕に噛みつ...いたただだだ!!」

 

「ふ、阿鼻叫喚。」

 

「あとは支離滅裂と無我夢中ですか?」

 

「......だ・ま。」

 

「いてっ。痛いですよ〜。」

 

「おーい終わったぞーって...なんだこれ。」

 

〈あっおかえり!どうだった?〉

 

「どうって...特にどうもなかったぞ?確かにドンキホーテの姐さんが言ったみたいに、頭の中がちょっとぼーっとするけど。」

 

〈White属性...でよかったっけ?〉

 

「はい。他には直接肉体損傷を与えるredと母数は少ないですが生命活動に直接支障を与えるpaleがあります。」

 

ファウストの補足を聞きながらパネルを確認する。

 

洞察は...普通なんだ。

 

〈管理情報は...『作業結果が良いとクリフォトカウンターが1減少した』...クリフォトカウンター?〉

 

「ヒー...教養の無いものでも理解できるように言うならば、幻想体が固有の能力を発動するまでの猶予です。」

 

「オイ、今なんか言いかけなかったか?」

 

「し、知らない方がいいことも世の中にはありますよ!」

 

「?なんだ、変な奴だな。」

 

〈じゃあ、そのカウンターは減らない方がいいのかな?〉

 

「結果良いで減るって...うわぁ、これカウンター0にしたらだめなやつじゃない?好きそうな作業避ける系だよ。」

 

...経験者の言葉は助かるな...いや、本当に。

 

「ですが、好まない作業は幻想体からも攻撃を受けますよね?それならダンテには好む作業をしてもらうのがいいんじゃないですか?」

 

「カウンター1個だけで0になったら1に戻るまで能力発動し続けるタイプかな?それともいくつかあるカウンターが0になったら大変なことになるタイプかな?楽しみだね。」

 

〈楽しみじゃないよ...〉

 

恐らくあれはトバム。

 

チーフ達とは全員顔合わせと軽い会話はしているんだからある程度予測はできるはず。

 

確か...騒がしいのが嫌いだったように見える。

 

なら愛着作業は嫌いそうだな。

 

〈...グレゴールもう一回いい?今度は本能作業で。〉

 

「あぁ構わないぞ。ところで本能作業ってどうや───あぁ...なんか理解した。」

 

作業用の道具が出てくる場所から、四角い何かが出てきた。

 

「む?これは...スンスン...なんであろうか?中々慣れぬ匂いであるな。」

 

「こういうのは下手に知らない方がいいんだって...」

 

「スン...すごく肉だね。」

 

「......な、なんの、ですか...?」

 

「肉だよ。」

 

「ひっ。」

 

「はあ...だから言わんこっちゃない...まあ、やってくるよ。」

 

収容室に入るとグレゴールが幻想体の前にあの肉を置いているのが見えた。

 

「ただの人工肉なのにね。」

 

「じゃっ、じゃあそう言ってくださいよ!」

 

幻想体は本来顔があるであろう部分を肉に近付けると吸い込まれるように消えた。

 

それを何回か繰り返していると、収容室が青い煙に覆われた。

 

「グレゴールさん!」

 

「わあ、大変ですね〜。グレゴールさんはどうなってしまうんでしょう?」

 

「もう片手も虫になるんじゃねぇか?」

 

「いや、ここはあえての足...」

 

「...なんだかおぞましい予想が聞こえた気がするんだが...気のせいだよな?」

 

〈あ、グレゴール。無事だっ...た?〉

 

「?どうしたんだ。管理人の旦那。」

 

きょとんとした顔のグレゴール。

 

横に視線をずらすとウーティスの顔があって、そのまま横に戻すとグレゴールの顔がある。

 

〈......なんか大きくない?グレゴール。〉

 

「え?」

 

「なに?」

 

「...あ、確かに!グレッグ大きくなってるよ!良かったじゃな〜い!」

 

「は、えっ!?なんで俺...!?」

 

〈...こういう時の管理情報だよね。えっと...本能は...高い。『作業結果が良いと職員のステータスを変化させた』......えっ?〉

 

今の作業は良い結果だったの?

 

あ、カウンターも...今は減って1つだけど、最大は2つあるみたい。

 

「スティタスとは...まるでゲームのようであるな!」

 

「...管理人さん。つ、次...次は、僕がやってもいいですか...?」

 

「私欲に目が眩んだ愚か者が!あの薄汚い芋虫風情に媚びへつらうなどと!!」

 

「ひいごめんなさい!」

 

〈...グレゴール、時計回すね。〉

 

「あ...そうか...わかった。ちゃちゃっと戻してくれ、旦那。」

 

〈なんかごめん...〉

 

「いや、謝らなくていいんだ。本当に...」

 

かすかに、それでもはっきりと縮んで行ったグレゴールはいつものサイズに戻った。

 

「ん〜!やっぱりこっちが安心するね〜!」

 

「ぅ...ロージャさんやめてくれ...さすがに恥ずかしいんだが...」

 

〈とりあえず、カウンターを減らさないようにやってみよう。嫌いそうだし抑圧作業を......ヒースクリフ?〉

 

「あ?オレか?」

 

〈なんか得意そうだし...あと暇そうだったから。〉

 

囚人たちの作業を見ておきたいっていうのもあるけど。

 

「ンだその決め方は。まあ...指示されたんならやるしかねぇよな。」

 

「気をつけてくださいよ。中、見えないじゃないですか。」

 

イシュメールの指摘の通り、足元だけだった青い煙が今は収容室内に蔓延して、扉越しじゃもう中が見えなくなっている。

 

備え付けの器具を肩に担いで入るヒースクリフを見送り、また暇な時間ができた。

 

見えていない情報はあと二つ。

 

一つはこの作業で開放されるはず。

 

なら考えられるのはあと一つ。

 

カウンターが0になったらもう私じゃ対応できない事になるかもしれない。

 

一応、0にはしないように気をつけよう。

 

「...あ、あの...管理人さん?作業が...終わっています。」

 

〈あっ、ごめん。ありがとう。ヒースクリフは?〉

 

「それが、その...まだ、出てきてないです。」

 

〈え?〉

 

私、なにか間違えたのか?

 

いや、まず確認だ。

 

〈抑圧は最低。まあ思ってた通り。あとは...『クリフォトカウンターが1の時に抑圧作業をした職員は深い眠りに包まれた』......あっ。〉

 

「...見事にやらかしましたね、ダンテ。」

 

〈えっ、いや...!こんなの予想出来るわけないじゃん!?〉

 

「ダンテ...普通はね、現状で大丈夫な作業を繰り返して情報を広げていくんだよ?」

 

〈じゃあ先に言ってよ!〉

 

「それはごめん。」

 

「つまりあの粗・男は今頃眠りこけてるってわけか。」

 

〈じゃ、じゃあ平気だった洞察作業をしよう!えっと...ロージャ...〉

 

「え...」

 

〈...やっぱりイサン!〉

 

「うむ...良き結果をいだすよう努むる。」

 

〈普通でお願いね!?〉

 

「ほっ...良かった...虫の部屋で掃除なんてしたくなかったよ...」

 

〈ヒースクリフも回収してきて。〉

 

私の指示に頷いたイサンは、道具を持って入室して行った。

 

「...イサン、ヒースの回収できるかな?」

 

〈......まあ、引きずってでも連れてきてくれたらいいから。〉

 

数分後...

 

「ダ...ダンテ...い、いま、戻りしぞ...ヒースクリフも...しかと、回収、せり...」

 

「ほらやっぱり。」

 

〈ムルソー受け取って。イサンもありがとう。〉

 

ムルソーの脇に抱えられたヒースクリフは、普段の振る舞いからは想像もつかないほど穏やかな顔をしていた。

 

〈...良かった。死んでない。〉

 

深い眠りが遠回しに死ぬのかと思っていたけど、そうじゃなかったみたいだ。

 

「この木・坊はどうする。叩き起こすか?」

 

「覚醒のためにある程度の方法は試しておりますが目を覚ます気配はありません。」

 

〈じゃあ、起きるまで寝かせておこう。時計を回しても、ただ寝てるだけならどうにもできないし。〉

 

「ん......キャ...シー.........ようやく...」

 

〈...〉

 

「ヒースクリフさんが時々言っているこの人は誰なんでしょうかね。」

 

〈...さあ。大事な人なんだよ、きっと。〉

 

最後の情報を確認する。

 

愛着作業は普通だった。

 

予想だと低いか最低だったから、これはちょっと驚きかな。

 

〈『クリフォトカウンターが0になった時、羽化した』...羽化?〉

 

「あ...ダンテ。かの幻想体は蛹の姿になれり。」

 

〈カウンターが減ったから...ってことかな。情報も出きったし、じゃあ...洞察にしようかな。〉

 

「ダンテ...私情に塗れし意見かもしれねど...かの幻想体は脈打ち、翼を欲せしようにも見ゆ。羽化すとも害を与えることは望まず。ただ宙を羽ばたくことを願へるようにも見えき。」

 

「貴様、幻想体に情が移ったのか!なんと情けなく、軟弱極まりないことだ!」

 

「うむ...あやしき事を言へりし自覚はあり...されど...」

 

〈...わかった。〉

 

パネルで本能作業を選んだ。

 

「管理人様!」

 

「うわ...ダンテ本気?入る前なら取り消しできるよ。」

 

〈大丈夫。大丈夫な気がするんだ。〉

 

「そのような確証のない根拠で......いえ...管理人様の判断を信じます。」

 

〈...ありがとう。〉

 

出てきた四角い肉を持って、収容室に入った。

 

 

 

 

 

 

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