Project Moon RPG気ままに実況プレイ   作:とろねぎ

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■-21 観測2

 

 

 

 

収容室内は意外と、はっきりと見えていた。

 

外からは煙で見えなかったけど、室内は結構明瞭だ。

 

〈...さて。〉

 

中央にはあのキノコの上に一つの蛹がぽつんと置かれていた。

 

〈......こんな状態で食べれるのかな?〉

 

とりあえずそばに肉を置いてみた。

 

...まあ、置かれただけ。

 

備え付けられていた布巾で蛹を軽く拭いてみた。

 

一緒に出された道具だし、たぶんこういう使い方なはず。

 

さっと全身を拭いてみるとキノコに固定していたらしい糸がいくつか手に絡まった。

 

〈...やっぱりこれであってるの?〉

 

嫌気が刺してきた頃...ぴくりと、確かに蛹が動いた。

 

生きて、脈打っている。

 

『うるさい...ねぇ...』

 

〈...喋った。〉

 

この声...やっぱりトバムだ。

 

『まだ、寝ているじゃないか。静かに......あんた、誰だい?』

 

〈えっ?ダンテだけど...覚えてないの?確かに関わりも全然なかったし、今はそっちもそんな姿だけど...〉

 

『あんたは...昨日もダンテだった?』

 

〈...え?〉

 

『ティック、タック、ティック...壁掛け時計が歩いてるだけじゃないのかい?』

 

〈確かに時計だけど...〉

 

『カチカチ針を戻したら、それはダンテなのかね。チクタク針を進めれば、それはダンテじゃないのかね。』

 

〈え、えっと...〉

 

『戻した針は同じかい?昨日と同じ?全く?』

 

〈いや、そこまでは...〉

 

『針が進んだ時計は昨日とは同じかい?それとも...別物?』

 

〈...〉

 

そうだった。

 

クィーン以外、こんな感じだった。

 

イマイチ要領を得ないというか、夢の中のような不思議な言葉というか...

 

『何もないなら、構わないでおくれ。今...いい所なんだ...もうすぐ...もう少し...もう少しで...』

 

〈......羽化する。〉

 

『そうさ。そうなるんだろうね。あんたの皮を破って狭い土の下から這い出るんだ。』

 

〈......私の?〉

 

『誰のでもいいさ。』

 

蛹がゆっくりと脈打つ。

 

煙が、呼吸みたいに揺れた。

 

『芋虫は眠る。蝶になるために。人は眠る。忘れるために。』

 

〈......〉

 

『あんたはどっちだい?』

 

頭の奥で、時計の針が一つ鳴った気がした。

 

〈私は......〉

 

答えようとして、でも答えられなかった。

 

私は何度も針を戻している。

 

死んだ囚人たちを生き返らせて。

 

壊れた時間を繋ぎ止めて。

 

でも、そうして戻された囚人たちは本当に同じ人間なんだろうか?

 

『ティック、タック。針を戻しても、削れた歯車は戻らない。眠ったままの方が幸せなものもあるのさ。』

 

蛹の表面がわずかにひび割れた。

 

内側から、淡い青色が漏れている。

 

〈......それでも起こさないといけないんだ。〉

 

『ふぅん...じゃあ、あんたは蝶になれないね。』

 

〈え?〉

 

『羽が生えるには、いらないものを捨てなきゃいけない。足も、名前も、昨日も。全部抱えたままじゃ、重くて飛べやしないんだから。』

 

ゆっくりと亀裂が入っていく。

 

まるで止めるなら今だと警告しているようにも見えるし、誰かを待っているようにも見えた。

 

『だから全員沈んだのさ。捨てきれないから。抱えきれないものを抱えて、地面を這いつくばったから。羽なんかよりずっと重いものを抱えていたから。重くて引き上げる奴なんていやしないのさ。』

 

〈...今までずっと、職員たちの死に向き合っていたのか?〉

 

『向いてない。向かれていただけ。人の気も知らないで喚かれるのは気分が悪かった。』

 

さっきよりも言葉が伝わりやすくなってきた。

 

『拾い上げた手がまた沈んでいくのを見るぐらいなら、最初から沈ませてやればよかったんだ。』

 

〈......それでもきっと、また沈んでしまうまでの間に上手く飛び立ったものもあったんじゃないのかな。〉

 

無意識に、割れた蛹の殻に手をかけた。

 

『.........それが...私が見た都合のいい夢でなければ...』

 

〈どれだけ深く沈んでも、限界まで体を沈めてすくい上げる。それが管理人である私の役目だから。〉

 

慎重に、割れ目を開いた。

 

『...あんたは...蝶になる必要は、無さそうだね...』

 

青い煙が全てを包み隠し、煙が晴れた。

 

さっきまで見ていたはずの場所には、抜け殻と青い粉が落ちていただけだった。

 

〈......次は何が見えるんだろうか。〉

 

裂け目に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は...写真を眺めているようだった。

 

静止した光景だけが次々と流れていって、見る間もなく次へ次へと移り変っていくというのに、脳にはその光景がこびりついてくる。

 

ただ頻繁に見えていたのは...あの白い獣と...深い森のような緑髪。

 

最初に見えた社やここに来る前、チェシャに襲われた花畑から始まって...

 

大湖を彷彿とさせるどこまでも水平線が続く場所も見えたけど、ほとんどはあの社で親子とも親友とも言えるような距離感の一人と一匹だった。

 

顔まではわからなかったけど、ナオに似ているような気がした。

 

数日、数週間、数ヶ月、数年...

 

時折背丈が変わる彼女の傍には変わらずあの獣がいて......まるで自分もその場にいて同じことを経験したかのように直接脳裏に焼き付いていく。

 

緑髪が何かを包んだ布を獣に見せていた。

 

それが何なのかはわからなかったけど、今までとは明確に何かが違った気がする。

 

それだけが、まぶたの裏にまで刻みつけるようにゆっくりと流れていたから。

 

 

 

 

 

 

 

眩しい。

 

太陽は相変わらず照りつけていて......あ、違う。ただの照明だ。

 

〈...なんかほんとに...夢見てるみたい...〉

 

詰め込まれた思い出たちが脳を圧迫してズキズキと頭痛がする。

 

「ダンテ...先刻の程よりも足元がおぼつかなけれど安穏なりや?」

 

〈うん大丈夫。ただちょっと、色々見すぎて頭が痛いだけ。あ、それと...ちゃんと、飛んで行ったよ。〉

 

「さなりか...かたじけなし、ダンテ。」

 

「んで?頭痛くなるまで見て話せるもんはあんのか?」

 

あ、ヒースクリフ起きてる。

 

〈...まあ......うーん...〉

 

「...もう全部話したらいいでしょ。どうせ私のことなのに...何を隠す必要があるの?」

 

〈えっ?だ、誰も、アリスと関係あるだなんて...〉

 

「この状況でまだ私以外の話って思うわけないでしょ。チェーちゃんが何か知ってて、嵌められて、こんなロボトミー支部に落とされて...もういいでしょ。」

 

声が、震えていた。

 

幻想体や敵対組織なんかの単純な怯えで陥ったことのある声だったけど、あの時はもっと軽くて...今のとは違う。

 

今は...本当に、小さな子供の声だった。

 

〈...わかった。〉

 

それからはもう...全て話した。

 

アリスをそのまま大きくしたような獣が、白髪のアリスに言った「おかえり」も。

 

なにかに執着するような声の内容も。

 

さっき見た断片的な光景も。

 

〈───って感じ...もしかしたらアリスも、一枚噛んでいるのかもしれない。〉

 

「そこまで考えれるようなツラはしてなかった気がするけどな。」

 

「断定するんですか?私たちが今まで出会った人間の中に、腹の底に何も抱えていない人間なんていましたかね。」

 

「管理人様が見ていたそれは、外郭でまず間違いないでしょう。その獣の存在を都市が容認するとは到底考えられません。」

 

〈うん...ここに来るまでで見覚えのある場所もいくつか見えたし、外郭で生きていたものなんだと思う。〉

 

「......その...獣は───」

 

「おい。ロクに考えることもないくせにぺちゃくちゃ騒ぎ立てるつもりか?時・無としか言いようがないな。」

 

「なんだと?今ある情報の整理と精査をだな...」

 

「それがくだらないと言っているんだ。時間なら飽きるほどあるだろうに、ここで足を止めて粗・脳・働が好みらしいな。俺にゃ理解できん。」

 

「このアマ...!」

 

〈...いや、良秀の言うことも完全に間違ってるわけじゃないと思う。なんにせよもっと調べてから考えてもいいんじゃないかな?〉

 

「...ごほん...管理人様がおっしゃる通りですね。欠けたピースだけを適当に並べるのは時間を浪費するだけになります。次のものを探しましょう!管理人様!」

 

〈あっ、う、うん。行こう。〉

 

「......あ゙ッ!?」

 

後ろで変な悲鳴が聞こえたから振り返ると、またアリスが良秀の小脇に抱えられていた。

 

「いや、ちょ...は、離してぇ...?」

 

短く白い毛に覆われた手足が宙を掻き、困惑したような要求。

 

「...ふう。」

 

それは無情にも、煙草の煙となって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

───旧L社支部情報部門───

 

 

「......あの...管理人さん。何か聞こえませんか?それに、匂いも...」

 

イシュメールの言葉で...嗅覚と聴覚を総動員させた。

 

...今更だけど、私の鼻と耳ってどこなんだろう。

 

「...笑い声と、あと...すんすん...紅茶の匂い。」

 

〈紅茶...あっ。〉

 

アリスの補足で何人かの囚人の目が遠くなった。

 

主にイサンとファウスト。

 

「う...情報部門にて茶葉の香りせし時は...漏れず茶会が開かれし証明なりき...」

 

「あー、あのダントツで頭おかしい奴らか。つってもそんな身構えることかよ。」

 

「...あの場にいなかったものには理解が難しい話でしょう。」

 

「朝。午前業務後。昼食後。午後業務前。午後業務後。残業前。残業後。幻想体の作業後。少なくとも一日七回の茶会が開催され、また我々はその全てに参加を余儀なくされた。」

 

「......それは茶会っつーより...儀式じゃねぇか?」

 

「言い得て妙なり...ヒースクリフ君の言いせりし通り、もはや儀式の領域まで入れり...ただ確かなるは、あの場の茶葉と菓子はいと良きものなり。三度目よりは味に意識をむけざること叶わず...」

 

「えぇっ!?三人とも、あの退屈な業務中お茶してたってこと!?私たちなんてあの二人の長話にぐったりだったのに!」

 

「その二人もドンキホーテさんには負けていましたけどね。」

 

〈あはは...みんな、大変だったんだね。...メインルーム、入るよ?〉

 

囚人たちの頷きを確認して入ると、まずは茶葉と茶菓子の濃く甘い匂いが届いた。

 

目に入ったのは、香ばしい香りのする丸机一つと、あと二つ。

 

『あぁ!お茶が冷めちゃう!』

 

帽子を深く被った人形が既に満杯のカップへ、追い打ちのように湯気が立ち上る茶を注いでいて...

 

『お客様、お客様!たった一人のお客様〜!』

 

鼻歌のような浮ついた声で菓子を並べていく人の形をした兎の人形。

 

そのどちらにも共通していることといえば、天井から細い糸のようなものに吊られていたこと。

 

あと...継ぎ接ぎの布のようで、その二体の間には不自然に空いた席が一つあった。

 

「めちゃくちゃに収容違反じゃねぇか。で、どうすんだ?ぶちのめすのか?」

 

〈......いや...〉

 

『座ってください。マナー違反ですよ?』

 

縫い付けられたボタンの眼球が二対向いた。

 

〈...みんな、大人しく参加しよう。〉

 

下手な刺激は避けようとしたんだけど......ようやく気付いた。

 

〈席...少なくない?〉

 

おそらくハートンとマーチが人間だった頃は大掛かりな長机だったが、今はこじんまりとした丸机だ。

 

『当たり前!』

 

『ホストとゲストは対称じゃなきゃ!』

 

〈...つまり...二人だけ?〉

 

『よく見るんだ!その針二つで、じっくり!』

 

『三人だよ!限度はきっかり三人まで!』

 

〈なんだって?じゃあ...残りは、どうすればいいんだ?〉

 

『さあね。』

 

『知らない。』

 

「...ダンテ。ファウストは囚人たちを分割し編成することを勧めます。」

 

〈え?でもそれは...〉

 

「その自慢の頭脳もついには役に立たなくなったようだな。裏路地のネズミ一人にすら負ける貧弱極まりない管理人様を、たかが一人の囚人を置いて目を離せと?」

 

〈...一人?二人じゃ...〉

 

「ご安心ください。このウーティスがおれば他の惰弱な囚人は不要です。」

 

〈...いや。ウーティスは、みんなと一緒に裂け目を探して欲しいな。もし幻想体の収容室に入ったら、無理のない程度に調べておいて欲しいかも...なんて。〉

 

「はっ!お任せ下さい!」

 

ウーティスも納得してくれたし...他の囚人たちも刺激するのは得策じゃないと分かってくれているようだ。

 

〈私と一緒にいるのは...アリスと───〉

 

「俺。」

 

帽子を被った人形の対面に腰を下ろすと、隣にどかっと座ったのは意外すぎる人物だった。

 

〈えっ?〉

 

「えっ?」

 

良秀は抱えていたアリスを隣の席に下ろし、足を組んだ。

 

「文・有なら聞くぞ?時計。」

 

〈い、いや...なんにも...〉

 

「よりにもよって...!管理人様に指一本触れさせてみろおかっぱ!明日の朝日は拝めないと思え!」

 

「静・犬。」

 

静かにしろ犬っころ...かな?絶対怒るから言わないけど。

 

〈...じゃあ、教育部門方面をイサン、ホンル、ヒースクリフ、イシュメール、シンクレア、ウーティス。中央本部の方をファウスト、ドンキホーテ、ムルソー、ロージャ、グレゴール。〉

 

私が編成を伝えていく間にも幻想体たちは嬉々として茶を溢れさせ、乗り切らない茶菓子が皿からこぼれ落としていく。

 

〈...皆、くれぐれも無理はしないで。〉

 

どうやら『ゲスト』の数があっていればいいみたいで、囚人たちがこの空間を出ていくことは一切咎められなかった。

 

 

 

 

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