Project Moon RPG気ままに実況プレイ 作:とろねぎ
───旧L社支部中央本部部門───
「はあ...もうクタクタ〜...立つのもしんどいよ〜...」
「偉大なるフィクサーを心がけるものならば、これしきのことで弱音を吐いてはならぬ!」
「私はフィクサー目指してないってば〜...」
「管理情報、各作業の効率、ある程度の行動パターンは把握済みです。あとはダンテを待つのが得策でしょう。」
「ファウストさんもこう言ってることだし、な?」
〈みんなお待たせ。大丈夫だった?〉
「おぉ管理人殿!当人の働きにより、あの幻想体の情報は全て明らかとなったぞ!それに伴い...んん、えへん、へん...無事にバスに戻ったらであるが、その、見返りを求めるわけで無いのだがな?アイスクリィムなんかを...」
「ドンキホーテの姐さんは好き放題話してただけだろ。」
「ダンテ。裂け目を発見しました。この収容室内にあり、幻想体の作業が必要になるため必要な情報は全て開示しました。」
〈おぉ...ありがとう。〉
収容室を覗く。
中には同じ帽子を被った、そっくりな二体の幻想体と...
〈...貝?〉
大きな貝としか言いようも無いものだった。
〈...えっと...『F-06-25』『悲劇的なおしゃべり』クラスはHE。『作業結果が良いとクリフォトカウンターが1減少した』『作業結果が悪いとクリフォトカウンターが1減少した』...えっ?...『話を聞いた職員は自制ランクに対応した確率ででパニックになった』...えっと...なんて言えばいいかな...〉
「控えめに言ってゴミ幻想体。私なら絶対作業したくないね。」
「唾・棄・存か?」
「うん。」
「機嫌取っても損ねてもダメなのほんとにキツかったよ〜...」
〈パニックってあるけど、みんな大丈夫だったの?〉
「まあ主に作業してたのはおちびちゃんだからね〜。」
「あれ程までに心揺さぶられるものに出会えるとは感激なのである!!うぅぅ、ぐす、ぐすっ...!」
〈...作業中、なにか気をつけることってある?〉
「何もないぞ管理人殿!ただ彼らの話をもがもがもが...」
「お〜、ムル、ナイス〜。」
「管理人様に誤った情報を与える可能性がありました。」
〈む、ムルソーが自分で止めに入るほどの嘘吹き込まれそうだったの?私?〉
「でも気を付けることか〜...うーん...あんまり話を聞きすぎないとか?適度に聞いて適度に流すのが一番っぽいよダンテ〜。」
...まあ確かに、ドンキホーテよりはロージャのアドバイスの方が遥かに信用できる...か?
「むぐぐぐぐ...!ぷは!とっ、当人が手本を見せよう!遠慮するでない。管理人殿の役に立てるというのであればこのドンキホーテ火の中水の中!」
〈...それは......あー...うん、お願い。〉
「お任せあれ!!!!」
愛着作業を選んだドンキホーテは凄まじい速度で突入して行った。
「なんつーか...幻想体の方が不憫じゃねぇか?」
「なんか、姐さんの気迫に負けて、心做しか狼狽えてるようにも見えるよな。」
「世紀のマシンガントーク対決会場はここ?」
〈...楽しそうだね...〉
収容室を覗いているとドンキホーテは大袈裟な身振り手振りで何かを話していて、話し終えた。
さあ次はそなたらの番であるぞ、とでも言いたげに腰に手を当てると幻想体も動き出し、貝が開いた。
中にあったのは......え?血液バー?
〈待って。なんで血液バーがあんなところにあるの?ラ・マンチャランドにしかないんじゃ...〉
「ダンテ。あの幻想体は入室した職員の記憶を読み取り、それにまつわる悲劇を語る性質を保有しているようです。」
...みんなは何が出たのかなんてのは絶対聞かない方がいいよね。
でもドンキホーテは顔色一つ変えずに今度は腕を組んで聞いていた。
まるで愉快な話を聞くように...いや、愉快とまではいかないか。
ただドンキホーテにとってそれは、もう忌むべき過去でも背負い続ける罪悪感でもなかったのかもしれない。
私が入ったら、何が出るんだろう。
話が終わったらしく、貝がパタンと閉じた。
「と!このような感じである!何も気負うことはないぞ管理人殿!!」
「そう思うのはおちびちゃんだけだって〜...」
〈...その話って、どんな感じなんだ?〉
「それなんだが旦那......たまに、めちゃくちゃくだらないのを出してくるぞ。あいつら。」
「あー!グレッグ、殺虫剤出たもんね!」
「......なんなんだろうな...この扱い...」
〈あ、あはは...〉
一定確率でパニックって、こういうこと?
人によって話の落差があるから?
〈...うん...あんまりみんな見られたくないだろうし...私が入ろうかな。〉
愛着作業を選んだ。
収容室の中はやけに湿度が高かった気がする。
磯と潮のにおいと二対の視線が注がれる。
〈...作業に来たよ。〉
あれ程会話をすることに執着していた二人が、今はじっと立ったまま私を見つめている。
会話や直接的な接触を行っていると、二体が同時に口を開いた。
『時計が来たよ。』
『カチカチ来たよ。』
『記憶が無いんだって?』
『それはとても素敵だ。』
『『覚えていなければ重荷を背負う必要も無いんだから。』』
〈...私は、今の重荷も過去の重荷も纏めて背負うよ。〉
『なら教えてあげる。』
『背負ってない重荷。』
貝がゆっくりと口を開き始める。
背負ってない重荷...私が忘れているもの?それとも私が知らないもの?
少しだけ身構えて開き切るのを待つと、そこには一枚の紙切れが鎮座していた。
〈...ん?なにこれ。〉
本当になんだろこれ。
『これは、管理人の管理不足により訪れた囚人たちの危機。』
『愛する者のために手を汚した盗人の話。』
〈危機...盗人...?......あっ。〉
まさかとは思うんだけど...
『可哀想に。』
『可哀想なクーポン券。』
『使われる機会もなく暗闇に真っ逆さま。』
〈...ヘアクーポンじゃん!ヒースクリフじゃん!!〉
『愛は人を変える。』
『でもクーポンもそれを使う理由も帰ってこない。』
〈く...くだらなすぎる...グレゴールの殺虫剤といい勝負でしょこれ...!〉
確かにあの時の圧迫感と死ぬんじゃないかって感覚は、今まででも一番のものだったけど...
...まあ、時計頭になるよりも前のことを言われるより、良かった...のか?
『でもね。』
『まだ全部じゃないよ。』
〈え?〉
開いた貝の奥が、不自然に蠢いていた。
『本当に忘れているものは中々出ないものだから。』
『奥底にしまい込んで思い出さないようにしているから。』
〈...私の過去の事か?〉
『いいや。君がまだ知らないこと。』
『時計は進むけど、君の時計はずっと止まっている。』
『だから知らない。』
『だから置いていく。』
〈...何が言いたいんだ?〉
『知りたいでしょ?』
『教えてあげる。』
『さあ元の位置に下がって。』
『座ってもいいよ。』
いつの間にか閉じていた貝がゆっくりと口を開けていく。
それを...私は...
〈...いや、いいよ。〉
そっと閉じた。
それと同時に、傍に佇んでいた二体の目に明らかな敵意の火が灯った。
『なんで?』
『どうして?』
『『せっかく教えてあげようとしたのに、忘れたいんだ。都合の悪いことは全部。』』
口を開こうとする貝をもう少し強めに押し付けた。
〈...思い出したくない訳じゃない。ただ、こういうことは自分で掘り起こすべきなんだと思う。どんなに忘れたフリをしても、忘れた訳じゃないから。〉
『そんなこと分からないだろ。』
『都合が悪い時に都合がいい事ばかり。』
〈確かに言い訳かもしれないけど...少なくとも私は、思い出したことも、思い出さないように埋めていたことも、全部受け入れるよ。〉
『できてもお前だけだろ。』
『埋めたまま歩くなんて気持ち悪い。』
〈...確かに、向き合うのが恐ろしい人もいるだろうけど...でも少なくとも、私の囚人たちは全て向き合う。向き合えるようにする。私は管理人だから。〉
私の言葉で二人は互いに目を合わせた後、再び私の方へ向いた。
まだ何かあるのかと思ってたけど...体と貝にノイズが走っていた。
これで良かったんだ。
『忘れても完全には消えなくて、いつか自分から掘り起こすものなら。』
『僕たちが焦る必要は無かったんだね。』
今までの幻想体たちと比べてもあっさりと引いた彼らは、実の所幻想体になってもなお、疑問を抱いていたのかもしれない。
〈...なんにせよ、あっさり終わるならそれが一番か。〉
裂け目に触れた。
〈...ここは...都市?〉
踏み慣れた硬いアスファルト。
一面に広がる人工的な光。
ぽつ、ぽつとまばらに雨が降っている大通り。
一人も通行人がいないその中に、探していた白髪がいた。
〈...アリス?〉
「......あ...時計さん。」
感情が抜け落ちたかのような無表情で佇んでいて、本当にあのアリスなのかわからなかった。
〈ここはどこ?〉
「何言ってるか全然分からないね。あはは...」
〈君は...本当にアリス?私の知ってるアリスとかなり違うんだけど。〉
「...私は───」
アリスの言葉を遮るように、ビル群のはるか向こうから空に向かって、巨大な光の柱が立ち上った。
〈え?〉
それはこの世のものとは思えないほど明るくて、暖かい光だった。
その柱で打ち上げられた光の粒子が降り注ぐ。
〈これは...〉
雪のようでもあるけど、私の体を通り抜けて地面に落ちた。
アリスに触れると染み込むように消えていった。
「時計さん。時計さんは、もし自分の生まれた意味を知ったら、どうする?」
〈え?どうって...いきなりなんの話を...〉
「まあわからないよね。いきなり言われても。」
ふと、目に付いた。
目に付いてしまった。
アリスの腕に、小さな羽根のようなものが生えていた。
それは首にも脚にもあって...
〈この感覚...ねじれ...いや、幻想体...?〉
少し前まで無邪気な顔で騒ぎ回っていた人物が、ねじれすら飛ばして幻想体になろうとしている。
〈この光の影響なのか?〉
「これは関係ないよ。関係あるけど、まだ無い。』
〈じゃあ一体何が......待って。私の声が聞こえるのか?〉
「ちょっとだけ...あはは...時計さん、そんな声してたんだね...』
受け入れたように軽く笑ったアリスの体が、前触れなく膨張した。
存在が塗り替えられる生々しい肉の音と共に、辺りに白い羽が飛び散る。
『私は...何にも縛られたくなかったみたい...ずっと自由で、無責任で...知りたくなかったみたい...でも、知らないと...この不思議な夢から、覚めないと...じゃないと...』
〈待って...何が起きているんだ...!?〉
『私はそれでも...愛してたの...忘れてしまった、大事な......を...』
背中からいくつも生えた翼が人の形を捨てたアリスを覆い隠し、歪みのない綺麗な卵型になった。
『......暖かい...声...聞いてた通り...聞いてた以上に...ずっと...』
暖かい声なんてのは、探せばいくつも見つかる。
でも今の私が想像できる暖かい声は、一つしかなかった。
〈...ねじれる...のか...?幻想体が...?〉
『えぇそうよ...あなたの言うとおり...私は、全部聞いてあげるわ...だから...もっと...愛してあげるの...』
翼で出来た卵にヒビが入った。
血と羽毛を辺りに撒き散らして現れたのは少しだけ黒ずんだ...灰色の鳥だった。
脚があったであろう下半身は千切れて黒い触手のような物が蠢き、折れた翼で這いずることしか出来ない生き物。
『だってそれが......わたしの、うまれた、いみ...』
直後、引っ張られるように視界が遠くなった。