Project Moon RPG気ままに実況プレイ 作:とろねぎ
Mili YUBIKIRI-GENMAN
〈全員、ナオを全力でサポートして。あれを倒すんじゃなくてナオと向き合わせるんだ。〉
倒せる相手でもない。
でも、ナオが向き合って話し合う必要がある存在なんだろう。
あれが本気でそのつもりなら...私たちはきっと、既に立っていないだろうから。
「おかあさん...最近、話せてなかったよね。」
「話す必要もなくなったから。」
「私は...おかあさんと話すの、好きだったよ。どんなに他愛のないことでも、一つ一つ、確かに私の中に根付いていたから。」
「そう。なら今度はその根付いたもの全部を取り出す時ね。」
「...ううん。私はこれを、ずっと大事に抱えていくよ。紛れもない贈り物だから。」
新しく開いた裂け目から弾丸が撃ち出される。
ナオは獣を真っ直ぐ見据えながら、それを弾き落とした。
「話を聞かないのは変わらないのね...なら正さないとね。不出来な娘の始末は、母親の責任だから。」
「もう十分、正してもらってるよ。」
一瞬、目の錯覚かもしれないけど...あの二人の間に細い糸のようなものが見えた気がする。
直後。
予備動作なく振るわれた爪が、良秀によって防がれた。
「短縮は結構だが...」
鞘と爪がぶつかり火花が散った。
「俺から言わせりゃちと過剰だな。少しの意図も通じない芸術は存在するだけで無駄だ。」
「汲み取れない観衆も無駄でしょうね。」
「は、気が合うじゃないか。」
太い金属音と共に土煙を巻き上げながら後退した良秀の片腕は複雑に折れ曲がっていた。
「...おい時計。直せ。」
〈えっ嘘でしょ!?〉
黄金の枝である程度抑えられてるとはいえ、まだ囚人たちと獣の間には大きな差があるらしい。
ナオが互角にできているのは、あの繋がっているもののおかげなのだろうか?
とりあえず良秀の負傷はファウストやムルソーのE.G.Oで回復させるとして。
人格を、センク協会の四人と終止符事務所の二人を選んだ。
あの攻撃をまともに受けていれば、いずれこっちが先にもたなくなる。
「おかあさん...私の事、嫌いだったの?ずっと...鬱陶しく、思ってたの?」
「何を今更。私が喜んであなたの世話をしているように見えた?もし本気で言っているのなら、随分とおめでたい頭ね。」
「...喜んではいなくても...でも、大事にしてくれてるのはちゃんと分かってたよ。」
「だから毎晩私に密着して寝ようとしていたの?私に与えられた食事を渡して少しでもお返ししようって?滑稽で...笑いを堪えるのが大変だったのよ。」
「...話を逸らさないで。でも...私はおかあさんからあまりにも貰いすぎた。だから少しでもいい子でいよう、お返ししようって思ってたのは本当。」
「......はぁ、そうね。大事にしてた。大事な器が使う前に割れたら困るでしょう?まあ...今となればどうでもいいことよ。」
言い終わる前に獣の爪が閃いてナオの爪と噛み合う。
即座に噛み合いが解けるとナオの爪を蹴り上げ、体勢を崩した背後から弾丸が放たれる。
前方からは獣のような爪が喉に迫る。
「カバーします。」
しかし爪は届くことなく、ウーティスのレイピアによっていなされ、最後の弾丸はホンルのナイフによって落とされた。
「ナオさんは目の前のことに集中してください。ヒースクリフ!」
「聞こえてるよ...射線開けろ!」
針の穴を通すような狭い隙間をヒースクリフが放った弾丸が通り...
「小賢しい。」
獣はその場から宙を舞うように飛び退き、手に具現化させた銃の引鉄を何度か引く。
囚人たちはそれぞれ回避し、貫く対象を見失った弾丸は裂け目に消えていった。
「チッ...使い回しの効く弾丸かよ。」
「羨ましがってる暇はありませんよ〜。」
飛び退いた獣へシンクレア、ムルソー、ドンキホーテが追い打ちをかける。
「弱い。」
シンクレアのレイピアを面倒そうに避け、胸へ真っ直ぐな蹴りを叩き込む。
「ひれ伏しなさい。」
レイピアと爪が競り合い、押し負けたムルソーの胴体が浅く切り裂かれた。
「脆い。」
ドンキホーテの頭を握って軽々持ち上げると三人を巻き込んで投げ飛ばした。
あっけなく防がれた三人の攻撃の前に大きな裂け目が開いた。
「ダンテ!」
アリスの声に合わせてE.G.Oを使用するのと同時に裂け目から夥しい弾丸の雨が降り注ぐ。
霧が立ち込め、囚人たちの傷を癒すと同時に燃え盛る弾丸が霧に包まれ、あっけなく鎮火した。
「...あら...」
その霧を見た獣はまたにんまりと口角をあげた。
このE.G.Oはあれ...ねじれたアリスと同じ見た目と能力をしている幻想体のものだ。
「おかあさん...やっぱり、知ってるんだね。この人が誰なのか。」
ナオは確信と躊躇が入り交じったような口調だった。
あの時、ねじれたアリスを鎮圧しようとした時に...ナオは取り乱して私たちと敵対した。
あれは、一体なんだったのか。
「知ってるも何も...ねえナオ、産みの親の味は...どうだった?」
〈...え。〉
産みの親?アリスが、ナオの?
「.........やっぱり...あれは私の...っ...」
ナオはどこかで気付いていたような顔だったが、途中で頭を抑えて顔を顰めた。
「っ...あぁくそ...うるさい...響く...」
「初めて見た時、どこか懐かしい感じがあったんじゃないの?あの子はあなたを覚えていたみたいだけど...あなたは覚えていたの?便利な道具扱いしていたでしょう?」
「...違う。私は...そんなつもりじゃ...」
「でもいいんじゃない?あなたを捨てたんだから。当然の末路とも言えるわ。」
「...どういう、こと...?」
「そのままの意味。あれは自分の命惜しさにあなたを差し出して、全てから逃げ出した。たったそれだけの───」
「ヒースクリフ。」
「わかってる。外さねぇよ。」
何かを続けようとした獣の胸に銀色に淡く光る弾丸が撃ち込まれた。
「...長話が過ぎたわね。」
人間であれば心臓があるであろう場所に拳大の穴を空けた獣は、自分を諌めるように呟いた。
炎が空洞を埋め、次の瞬間には何事も無かったように肉で埋められていた。
ナオの陰った顔が炎に照らされて鮮明に映し出される。
「...なんとなく、私に近い人なのかなって...思ってはいた。でも...そんなのだなんて、思わないじゃん...」
「可哀想だから最期に教えてあげたの。私は優しいから...嬉しいでしょう?」
安定しかけていた心が揺れ動いていた。
いつもなら幻想体の力をまとっているはずなのに、受け入れきれなかった幻想体の自我は、空虚な霧となって消えた。
「っ...うるさい...黙ってろよ...!なんでまだ...」
ナオの目が囚人でも獣でもない方向に向いていた。
囚人たちに指示を出して、ナオが立て直すまでの時間を稼がせる。
ホンルとヒースクリフに微小な弾幕を張らせ、そこにセンク協会の四人をなだれこませる。
「おい!こんな適当に撃っていいのかよ!」
「今はいいんです!」
「馬鹿の一つ覚え。」
獣が手を軽く振ると裂け目から弾丸が撃ち出され、真正面から砕いていく。
それでも勢いは止まらず、ホンルとヒースクリフの肩を貫いた。
「チッ...!弾切れだ、後退する。」
片手間に援護射撃を止めた獣は至る所に裂け目を開き、潜り込んだ。
〈ドンキホーテ!〉
ドンキホーテの服装が古ぼけた騎士のようなものへ変わり、螺旋状の血の槍が握られる。
〈右だ!〉
裂け目から飛び出してくる獣とドンキホーテの目線が交差し、爪と槍が火花を散らした。
何度も打ち付け合い、獣の体勢が崩れ...
「お前たちのようなただの人間に見せるには惜しい力だ。」
脳髄に染み込むような声がすると同時に、再び爪と槍がかち合っていた。
「なっ...!?」
他の囚人がカバーするよりも先に、あっけなく槍が砕けた。
「どれだけ耐えれるか見ものね。」
ドンキホーテの胴体に深い裂傷が走った。
「ぐ...!」
回避行動を取るよりも早く訪れた二撃目によりドンキホーテが事切れる。
無数に開いた裂け目を飛び移りながら残りの三人から血が吹き出し、たった一度のミスで...四人が死んだ。
獣は爪に着いた血を舐めながらナオにゆっくりと歩み寄る。
〈ホンル!〉
「わかってま───」
「邪魔。」
「ぁがっ...!」
下から蹴り上げられたホンルが跳ね上がり、次の瞬間には背中から落ちた。
蹲り、血を吐きながら銃を構えた腕がぼとりと切り落とされ、ホンルも動かなくなった。
「っ...おかあさぁ゙ッ...」
身構え、呼びかけたナオの首が掴まれると、なんの抵抗もなく体が浮いた。
「そろそろいいんじゃない?忘れるのは得意でしょう?燃えて灰になったあと...それが何かも分からずに大事にしていたじゃない。今回もそうよ。」
「な、に゙...言って...」
「愛されていただなんて本気で思っているの?それにしては、あなたは結構散々な目に会ってきたみたいだけど?肉が裂けても、骨が砕けても。私が助けたことなんてあった?」
「でも...私の、心は...ずっと、助けられてた...!そばに居てくれたら...!」
「だから愛されてるって?ただの演技よ。何から何まで全部...はあ...話にならないわね。一回頭を冷やしなさい。」
「お前は親・失だな。」
ナオの首から軋むような音がした直後。
ヒースクリフと入れ替わった良秀が二つのメイスを、掴んでいる腕に叩き付けた。
緩んだ隙を見てナオも獣を蹴って拘束から抜け出した。
「...そう。失格も何も、私は親ですらないのに、何を言ってるのかしら?」
吐き捨てるようでもなく、突き刺すようでもなく。
ただ当たり前のように放った言葉を最後に、二人の間に繋がっていたものがぷつりと途切れたように見えた。
〈ファウスト。〉
「はい。」
心底不思議そうな顔をしている獣にファウストの水袋が直撃した。
ダメージはそこまで与えられないかもしれないけど、破裂した血のような赤い液体が囚人たちに染み込み傷が塞がった。
「...まだやるつもり?ねえナオ、これ以上は無駄だって伝えてあげて。いつからそんな親不孝者になったの?」
「......いやだ。」
「なら、全員殺すよ。あなたの大事なものを全部壊して、踏み躙って。そうしたらおかあさんの言うこと聞いてくれるよね?」
「......そんなことは...させない...」
「もう少し賢い子だと思ってたけど、買い被りすぎだったみたいね。こんなに頭が悪いなんて。」
「...ナオ嬢の心を傷付くる言の葉繰り返したれど、ナオ嬢のことはげに愛したらずや?私には、そなたがわざと突き放せしようにも見ゆ。」
「......」
白と黒の銃を乱射し炎の弾丸を迎撃するイサンの言葉。
それで訪れた沈黙はやけに長く感じた。
「...見当違いもここまで行くと滑稽ね。」
返事は、イサンの頭が弾ける音だった。
「チッ...おいボンボン。こいつを守れ。」
「えっと...僕結構な怪我で...」
「立ってんだろ。やれ。」
生きていたらしく、水袋である程度回復したホンルがナオの隣に立たされていた。
...よし、また、時間を稼ごう。
また、あの声がする。
本当に、このままでいいの?
拒絶したはずなのに声が響くのは、私がまだ完全に否定しきれていないからかもしれない。
このままじゃ、全員殺されちゃうよ?
また、零しちゃう。
「今度は...取りこぼさない...絶対...」
「......ナオさん。」
「あっ?なんだよ。」
ホンルはこんな時でも表情を崩していなかった。
さすがに笑ってはいないみたいだけど、ただ遠い出来事のように眺めて、流れ弾を防いでいた。
「......いえ、やっぱりなんでもなかったみたいです。」
「あっそ。」
決められるのはあなただけ。早くしないと。
皆、取り返しがつかなくなっちゃう。
ここぞとばかりに囁いてくる声と戦闘の音から耳を背けているとふと頬が生暖かい物で濡れた。
「...は。」
それは赤くて、べっとりとしていて。
「......あ...」
ホンルの宝石のようだった左目から流れている液体と同じ色だった。
「潰れちゃいました。」
まるで服に泥が跳ねたような口調で、窪んだ左目を報告してきた。
「いや潰れちゃいました。じゃなくて...!」
ただでさえ片腕使えなくなってるのに、今度は目まで潰されて、どうしてそんな態度なんだろう。
「...ナオさん。あの方は......全て演技だったと言ってましたね。」
「まあ...そう...だけど...急に何?」
「演技は、本物を知らないとできないんです。」
「......は?急に何?」
「知らないものを真似ることはできませんから。」
いきなりどうしたんだコイツ。
「昔に、あるいは今覚えているものを...覚えているうちに模倣して繰り返すのが演技なんです。」
何かが琴線に触れたのか、突然口を多く動かし始めた。
「ナオさんに与えられていたものは模倣されたものかもしれませんが...でも、模倣された本物だったのではないでしょうか。誰かに与えられた...いえ、かつてナオさんに与えられていたものを繰り返しているのではないでしょうか。」
「...模倣された、本物...」
ただ模倣されたものでいいの?それはあなたに一時的に満足させてくれるかもしれないけど、あなたを助ける訳じゃないの。
「...あは...ホンル、たまには...ほんっとうに、たまにはいいこと言うじゃん。」
「......ふふ、お役に立てたようで何よりです〜。」
いつものへらへらとした笑顔を浮かべたけど、今だけはあまりムカつかなかった。
本当に愛される方法を教えてあげる。とっても簡単だよ?
「...はぁ...聞いてない。教えてくれとも言っていない。」
どうして私の言うことを聞きたくないの?私はただ、もう傷付くあなたが見たくないだけ。
「うん、傷付くのは嫌。でも...みんなが傷付く方がもっと嫌だから。」
うん。わかってる。いざとなったらあなたは自分を犠牲にする。だから、みんなが苦しまない方法を───
「生きるってのは苦しいことだから。苦しんで、笑って...それを繰り返すものだって...ほんの少ししか生きていない私だって、知ってるよ。」
浮き沈みがあって、苦楽もある...でも、一度深く沈んだら上がれるかわからないんだよ。もしかしたらそのまま沈んでもう二度と上がって来れないかもしれない。
「そうかもしれない。断言はできないけど...でも、一つだけはっきりした。」
濃い、霧の匂い。
「今すぐ消えろ。お前は私の敵だ。」
冷たく柔らかい濃霧が、辺りを満たした。