Project Moon RPG気ままに実況プレイ   作:とろねぎ

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■-32 行ってらっしゃい

 

 

 

あれからしばらくして...

 

「ごめん、待たせすぎちゃった?」

 

〈...もういいの?〉

 

戻ってきたナオの目の下は赤く腫れていたけど、それについて言及する囚人はいなかった

 

「うん。もう充分話せたから。おかあさんがメフィストフェレスに帰してくれるって。」

 

「ま、拉致ったんなら帰すこともできるよな。」

 

ナオについて行くと、あの獣が佇んでいた。

 

そして傍にはあの引き裂かれた青白い空間があった。

 

『...ここに入りなさい。』

 

「ふわぁ〜あ...クソ疲れた。早く帰るぞ。」

 

「ヒースクリフの旦那...もう少し感傷ってもんは...」

 

「グレッグ考えすぎだって〜。丸く納まったんだからいいじゃんかさ〜!」

 

マイペースなように見える囚人たちだったけど...たぶん、ナオに気を使っていたんだろうな。

 

ヒースクリフは裂け目に入る時も獣とナオを何度も見ていたから特に分かりやすかった。

 

「ゔっ...うぅぅぅ〜っっ...!ずびっ...ずびびびっっ...!当人は...当人はぁぁぁ...!」

 

「泣くな気色悪い!えぇい鼻水がかかるだろう!」

 

「ドンキホーテさん。それ以上泣いたら体の水分が無くなっちゃいますよ〜。」

 

「既に脱水症状を引き起こす量の涙と鼻水、その他諸々の体液を分泌している。メフィストフェレスに戻った際は速やかな水分補給が必要だ。」

 

顔中べたべたにしたドンキホーテを介抱するように囚人たちが姿を消し。

 

「...不本意ではありますが、ナオさんのE.G.OについてLCE部署に打診してみましょう。必要性を感じませんが、検査設備を使用するためとはいえ不本意ですが。」

 

「どれだけ嫌なんですかファウストさん...いやまあ、別れた直後なのにまた顔を合わせるのは気まずいですけど。」

 

「うむ...されど検査設備の持ち得る重要性というは私も理解せしため、ファウスト嬢に同意せん。」

 

「ほう、今度こそバ・ロか?」

 

「ば、バトルロイヤルは絶対しないと思いますよ...!?」

 

ほんのり嫌そうな顔をしたファウストと少しだけ楽しそうなイサンを先頭にした囚人たちも消えた。

 

あとは...

 

『ナオ。まだ二つだけ...伝えないといけないことがあるの。』

 

「?」

 

ナオが裂け目に足を踏み入れかけた時、声がかかった。

 

『あなたが大好きなあの女のことよ。』

 

「あの女...って...どうして、チェーちゃんの話をするの?」

 

怒りや悲しみよりも、困惑したような声だった。

 

『そう身構えないで。あなたは......あれの、死体を見た?』

 

「...死体...あ...確かに、無い。無くなってる......まさか...い、生きてる、の?」

 

『サプライズだから黙ってろ、と言われた。でもあなたが傷付くのは私たちの本意じゃない。でも、あまり期待はしない方がいい。裏切られた時、深く傷付くのはあなただから。』

 

「...ううん。私は大丈夫。たとえ次会った時は敵でも...もう大丈夫。」

 

獣はその返事を噛み締めるように小さく頷いた。

 

頷いた拍子に体が左右に揺れた。

 

「もう一つは?」

 

『...あなたの、名前。字は、教えてなかった、から。』

 

「...字。」

 

少しだけ苦しそうになってきた獣の声に、ナオは触れなかった。

 

『ええ......那緒。これがあなたよ。「那」由多に、一「緒」。どれだけ、繰り返しても...離れることは、なかった。あなた、は......ずっと...』

 

「...那緒。」

 

ゆっくり、咀嚼するように呟き、笑った。

 

「ねえおかあさん。今度は、私が迎えに行くね。」

 

『......えぇ...』

 

一瞬だけふらついた獣を支えるように、ナオは抱き着いた。

 

獣も、意地を見せるように体を立たせていた。

 

「約束だよ。」

 

『え、え。やくそく。』

 

育て親の弱った姿に表情を曇らせることなく見つめ、笑った。

 

名残惜しそうに離れ、裂け目に向かう。

 

『いって...らっ、しゃい...』

 

「.........うん...行ってきます!」

 

ナオの姿も消え、あとは私だけ...

 

『わたし、たち、の...むす、め...を...』

 

〈...〉

 

『まか...せ......』

 

〈うん。だから安心して眠ってて。いつかナオが起こしに来る時まで。〉

 

直後、獣の巨体が地面に倒れた。

 

私の言葉が届いたかは分からない。

 

でも、獣は穏やかな顔をしたまま少しずつ塵になって行き...私の足元に、黄金の枝が転がってきた。

 

〈......帰ろう。〉

 

そして...それを拾い上げ、私も足を踏み入れた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「ねえ見て!これが私の子よ!」

 

『...へえ...柔らかい、人間の幼体...少しでも力を加えたら、弾けてしまいそうね。』

 

「物騒なこと言わないでよ!そんなこと言うならもう触らせてあげない!」

 

『結構。頼んでないから。』

 

「ひど!!しょ、しょうがないし...見るぐらいならいいのよ?」

 

『...見てほしいんでしょう。』

 

「う...だってあなたにちゃんと見てもらったら、ご利益ありそうなんだもん...」

 

『......笑ってる。』

 

「気に入られちゃったみたいね?あなたになら、この子を任せられるかも!」

 

『笑えない冗談。』

 

「冗談でこんなこと言わない!私だって、いつまでも無事で...この子のそばにいてあげれるか分からないから。だったら、あなたと一緒なら...って。だめ?友達からのお願いなのよ?」

 

『............これの、名前は。』

 

「これって言わないでよ!......那緒。那由多に至る人生を重ねても、ずっと一緒にいられますようにって。」

 

『ただの個体識別に意味を持たせるの。本当に理解ができない。』

 

「いつか理解できるようになるよ。ね、だから......ね。私は、この子が幸せに生きられるならどんな目に遭ってもいいから。」

 

『...例えば...記憶を失って、化け物になって、食われても?それが必要だって言われても?』

 

「えっな、なにその例え...怖いんだけど...!?あなたって時折、突拍子もないこと言うよね。それなのに、妙に説得力あるし...」

 

『...ふふ、冗談。考えてはおくわ。』

 

「本当!?約束だよ!」

 

『......えぇ、約束よ...有結(アリス)。』

 

「......えっ、今私の名前...!」

 

『なんの事かしら。』

 

「もう一回!もう一回だけ!!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「...ン...」

 

「...ンテ...」

 

「ダンテ。」

 

〈う...ここは...?〉

 

座り心地の悪いクッションで体が痛み、目が覚める。

 

そして...いつもの顔で私を見下ろすヴェルギリウスがいた。

 

「勤務時間中に揃って居眠りですか。ダンテ。LCBの管理人はさぞお疲れのようだ。」

 

〈...居眠り...え?〉

 

あれは...夢?いや、そんなわけは...

 

「ん...んんーっ...」

 

私の膝の上で白い毛玉から生えた手足がぐっと気持ちよさそうに伸びをした。

 

アリス...狐の姿だ。

 

「ん......ん!?」

 

「囚人14番。日頃から勤務態度に問題はあったが...今日は顕著だな。」

 

「ヴェルギリウス......あ、私たち、戻って...」

 

...夢じゃなかった?

 

「どんな夢を見ていたかは知らないが夢の続きはしばらく見れそうにないな。」

 

「.........夢?い、いや...いやいや...!夢じゃない...!私たち、外郭に行って...!」

 

アリスが必死に言葉を紡ぐ。

 

外郭。黒い森。ロボトミー支部。

 

「それはまた、随分と不思議な夢を見ていたようだな。」

 

ヴェルギリウスの感情を映さない赤い瞳に突き刺されたアリスは明らかに動揺し、私の膝の上から落ちた。

 

それを見兼ねたような顔で...あるいはとても気の毒そうな顔でロージャが覗いた。

 

「...ヴェル〜...もういいんじゃない?からかい過ぎだって〜!」

 

〈え?〉

「えっ?」

 

〈からかうって...〉

 

「大丈夫だよダンテ、全部現実だってば〜!」

 

「...本当に?」

 

アリスの縋り付くような声をヴェルギリウスは肯定した。

 

「全てファウストさんから報告されている。そう神経質にならないでください、ダンテ。」

 

「ヴェルって意外とこういうイタズラするんだね。思ったよりノリノリでびっくりしちゃった。」

 

...たしかによく見ると、ドンキホーテの顔がパンパンになっている。

 

どれだけ泣いたんだ...

 

「その上でアリス...いえ、ナオさん。私たちはリンバス・カンパニーとあなたが結んだ契約について再度見直しが必要なようです。」

 

LCBの案内人ではなく、リンバス・カンパニーの赤い視線としての立場でいるヴェルギリウスの横にはファウストもいた。

 

相変わらず少し嫌そうな顔をしている。

 

「LCEにも連絡済みです。近いうちにあなたにはLCE部署への出向命令が来る可能性が高いでしょう。」

 

「場所を変えましょう。ダンテ。」

 

囚人たちの視線...主にドンキホーテの、まるで処刑前夜の罪人が神に祈るかのような痛烈な祈りがこもった視線を受けながら、場所を移した。

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルギリウスの私室に入ると、机にはなにかの書類が大量に置かれていた。

 

ヴェルギリウスが促し、ナオは人の姿に戻った。

 

「さて、ナオさん。ファウストさんの報告によればあなたがリンバス・カンパニーと契約を結び、黄金の枝を手に入れる業務に関与する理由は消失した。これにより深緑の幻爪とリンバス・カンパニー間における契約も意味をなさなくなった。」

 

なんの感慨もなく話を進めれるのはナオと同じ特色フィクサー故か、それともヴェルギリウスだからか。

 

「あなたが所属していた死損事務所の所属者も全てリンバス・カンパニーに配属されることになった。」

 

「.........え?」

 

椅子で暗い顔をしていたナオが混乱したような、素っ頓狂な声を上げた。

 

「所長チェシャはリンバス・カンパニーの部署を調べあげた上、適した配属先、扱う上での注意点を全員分個別で作成し、俺に押し付けてきた。その上全てが事細かに記載され...いえ、この話ではありませんね。」

 

〈あ...あの書類の山ってそういう......〉

 

「その中にはあなたのリストもありました。死損事務所、ナオ。適正のある配属先はLCB。注意点は管理人ダンテなら全て理解しているとの事でした。」

 

「......チェーちゃん。」

 

「リンバス・カンパニー上層部としても、特色フィクサーとの契約を手放したくはないらしい。例えそれが囚人となり力の大半を失ったとしても。」

 

〈......あ、そういえば...ナオと私は繋がっているらしいけど...これはどういう状態?〉

 

「ヴェルギリウス。報告のあの獣の作用により、ナオさんの状態は書き換えられている状態です。鏡合わせのように同一で、わずかな差を繰り返して生まれた世界の一つ。その中のナオさんをこちらのナオさんに被せています。」

 

「あぁそんな話もしていましたね。ただ、今は仮契約のような状態です。どちらかがその鎖を切ろうと思えば、簡単に断ち切れるでしょう。」

 

〈...私は、これを切るつもりはない。〉

 

「私も、これを切るつもりはないよ。」

 

私たちの言葉を聞いたファウストが一枚の書類をデスクに滑らせ、ペンをその上に転がした。

 

「ナオさん、あなたの望みはなんでしょうか。LCB、ひいてはリンバス・カンパニーはあなたの心の奥底にあるその願望を実現させます。」

 

「...私の願望。そんなのは決まってる。」

 

躊躇することなくペンを取り...

 

「私は、おかあさんにもう一度会いたい。」

 

形式的な硬い文章が連なる場所には目もくれず、記名した。

 

「これでナオさんとリンバス・カンパニー間の契約は再度結ばれました。でしたらまず...LCBの制服に着替えた方が良いでしょう。囚人になればそのE.G.Oも寝間着のような雑な使い方はできなくなりますから。」

 

「...あー...そうだ、これE.G.Oだった...ちょっとまってて。」

 

ファウストから手渡された制服を抱え、退室したナオはなかなか戻ってこなくて...

 

全く喋らない二人と目を合わせられなくなってきた頃、ようやく戻ってきた。

 

〈...長くない?〉

 

「うるさい!こちとら服なんてしばらく着てなかったんだから!ほら、ちゃっちゃとやる!」

 

「ダンテ、契約の言葉は覚えてますか?」

 

ファウストは不安に思って確認したような声ではなく、私が忘れているわけがないと確信した声だった。

 

この言葉を言うのは久しぶり...いや、初めて囚人たちと会った時以来だ。

 

〈...お前の星に、従え。〉

 

頭の中で何かが蠢き、落ちていくような感じがして...直後。

 

私の頭から一つの鎖が飛び出し、ナオの胸に突き刺さった。

 

「うわ...これめっちゃ久しぶり...」

 

「......契約は完了しました。LCBへようこそ。歓迎いたしますナオさん。」

 

「.........いや。私のことは、アリスって呼んで。そっちの方がさ...なんか、落ち着くようになっちゃったから。」

 

〈そっか。じゃあ...おかえり、アリス。〉

 

「...あはは......ただいま。これからよろしく、管理人。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

■章 『二度と繋がることはない』

END

 

 

 

 

 

 

 

 

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