会議の時間
全人類指導機関“影山超会議”。
彼らは全ての次元に存在する人類を導くため、あらゆる次元から“
とは建前であり、本心は異なる。
影山零治の理想は共通している。
自らが支配者となること。
誰もが愛するサッカーを自分の意のままに操ること。
理由や生き方に差異はあれど、影山零治はサッカーを深く愛し、同時に激しく憎んでいる。自らに並ぶ者など存在しない。絶対的なNo.1だと自負している。
それ故に他人を信用せず、絶対の自信を持っている。
あらゆる次元を跨ぐ方法を発見した後、利用できる人間を集めよう、などと考えることは一度としてなく、自分のみを集めたのもそのためだった。
影山零治は他人を信用しない。そして決して揺るがぬ自信を持っている。
数多の次元を越えようと、それはどの影山零治にも共通していた。
「我々の中に裏切り者が居る」
影山が言った。
集った影山零治の中で、議長を務める男である。
重々しい口調と声に室内は静まり返り、普段から無駄口など皆無な会議であったが、今日は殊更に空気が重い。
「レジスタンス……事実上エルドラドを掌握した我々の脅威となるのは連中のみだ。今はまだ小規模のようだが着実に味方を増やしつつある。それはエルドラドのエージェントとの衝突が増えていることからも明らかだ」
まさか、という反応はなく、集まった影山零治の誰もが冷静に聞いている。
そうであろう、という予想があった。
彼らは絶対の自信を持つが故に、自らが絶対的な地位を得て、数多の世界を動かそうとしている状況下において、仮に邪魔をしようとする者が居るとするならば、意志はともかく実行できる人間は同じ“影山零治”しか居ないと判断している。
ましてや、数多の次元を管理する組織“エルドラド”に反抗するため、一から“レジスタンス”という組織を創るほどの影響力を持った人間など、影山零治以外に居るはずがない。
影山零治の敵となり得るのは、影山零治のみ。
そう理解するため、彼らは素直に脅威を感じ取っていた。
「裏切者は挙手をしろ、などと間抜けはことは言わん。学級会ではないのでな。だが、仮にこの席につく誰かが裏切っているのだとしたら覚悟しておけ。我々は必ずやその尻尾を掴んで、レジスタンスを討ち滅ぼし、野望を成就させる。一人や二人が努力したところで止められはしない」
議長の影山が宣言して、その場に居る影山たちは無言で同意を示した。
果たして本当に裏切者が居るのか。疑惑が漂っても不安を抱える影山は居なかった。
「我々が目指すものは全次元のサッカーを掌握すること。たとえ脆弱であっても反抗は許さない。崩れることのない絶対の支配を望んでいるのだ」
淡々としながらも力強い口調で、議長の影山は言い切った。
「せいぜい気をつけることだ。誰を集めて、どんな作戦を取ろうとも、我々を止めることなどできるはずがない。いずれ尻尾を掴んでやる」
当然、名乗り出る者など居るはずもなく、影山たちの沈黙が続く。
果たして裏切り者は存在するのか否か、真偽不明のまま会議は静かに終わっていった。
二人並んで正座していた。
正座であることに深い意味はない。強制されたわけではなく、ただ会議を始めると言われて椅子すらない部屋だったため、なんとなくそうして座っただけだ。
「よーし、それでは作戦会議を始める」
喋るクマのぬいぐるみ、そう呼んで差し支えないであろう、ワンダバが話し始める。
並んで座る
「オレたちの使命は無数に存在するパラレルワールドを巡り、協力してくれる選手を集めて、エルドラドを倒す強いチームを作ることだ。もちろん簡単なことじゃない。この監督のクラーク・ワンダバットをはじめ、お前たちの協力が必要不可欠なんだ」
「監督? ワンダバって監督だっけ?」
「あんまり言うな! 声が大きい!」
疑問を持ったフェイが問いかけるのだが、強引に止めてワンダバが発言を続ける。
「そこでだ! オレたちを束ねるレジスタンスがデータを集めてきた。必要な選手、協力してくれそうな選手、多分エルドラドが狙わないだろう選手を見繕っている。オレたちは今からこのデータに従って異世界に行き、選手を集める」
「ほー……大変そうだな」
「でも楽しそうじゃない? そのおかげでワタルに会えたんだし」
「楽しむことを否定はしないが、そんなに能天気に構えてもいられないぞ。エルドラドは全ての次元でサッカーを支配しようとしている。急がないと連中のいいようにされちまうんだ」
三者三葉、表情は違っていた。
使命感に燃えると共に、自らが監督に就任する喜びを隠せず、やる気を滾らせるワンダバからは強い熱気を感じる。
一方、渉はぽかんとしたままで、フェイはにこにこと楽しそうに笑っていた。
「つまり、時間軸も異世界も内包するマルチバースを超えて作る、マルチバース・イレブンだ!」
「えっと、監督はもう決まったの?」
「うーんどうだろ。ワンダバじゃちょっと頼りないけど」
「悪口禁止ィ! 大丈夫だ! このクラーク・ワンダバット様に任せとけ!」
隠さず不満を口にされても、意気揚々とするワンダバはまるで気にしない。
どうやら事実上の監督就任が彼のやる気を爆発させているようで普段よりも騒がしい。
「オレたちの役目は選手をスカウトすること! さあ行くぞ! 新しいチームの結成だ!」
「でもスカウトってそんなに上手くいくのかな? パラレルワールドから来たって言っても簡単には信じてもらえないだろうし」
「確かに。でもワタルはすぐ信じてくれたよ?」
「いや、俺は、自分で言うのもなんだけどちょっと特殊だから……」
心配いらないだろう。そう思って笑うフェイに対して、渉は苦笑した。
この世界なら何が起きてもおかしくない。あらかじめそう思っていたからこそ彼らの存在を受け入れることができて、その後の展開には驚き、傷心もしたが、今は自分がなんとかしなければならないと納得している。
誰もがこれほどスムーズに受け入れられるはずがない。とは思うものの、この世界なら或いはあり得るかもしれない。そんな予感もあった。
楽観的なフェイを見て尚更そう思えた。
「心配するな少年たち! サッカーを愛する者同士、どんな理由であれサッカーで繋がることはできるさ! きっと力を貸してもらえる!」
「本当かなぁ」
「大丈夫だよ、きっと。ワタルとだって出会えたんだしね!」
ずいぶん楽に考えてるな、とは思うが嫌がってはいない。むしろ渉は彼らに順応し、同じ態度で臨もうとしている。
これから一体どうなってしまうのか。
すでに彼の知識が及ばない展開になっていて、今からは未知の領域。しかしそれもまた超次元かと理解を示す。
フッと肩の力を抜き、渉はフェイと同様に気楽に笑った。