中間渉はこれまで、心底サッカーを楽しんでいた。
全身を存分に躍動させ、一つのボールを追い、時には走って時には待ち構え、広大なフィールドを自由に駆け回る感覚。これぞ心から望んでいたものだと思う。
地元ではそれなりに有名になった。しかし、まだ知らなかったのだと理解する。
全国から有力選手を集めるサッカー交流会。
そこに参加した渉は世間の広さと、初めて知るサッカーの奥深さを肌で感じていた。
全身の血が沸き、筋肉が躍動する感覚を、今日になって初めて体感する。
朝に集合。まずは説明。入念なストレッチ。その後は試合形式で実力を確かめ、高めることが目的らしく、すぐに5対5のミニゲームが開始された。
チームは無作為に選ばれた選手で作り、自分たちで意見を出し合ってプレーの内容を決定する。そしてすぐに実践。監督やコーチなど大人は手を貸さずに反省、変更、実行するのだ。
一戦目から渉の想像など軽く凌駕する試合が行われていた。
ボールを蹴って飛び出し、渉はドリブルをして前へ駆け出す。
体をぶつけるようにして相手チームの選手が追ってくる。上背は大きく、肩幅は広い。体格では間違いなく勝てないだろう。
自力でどうにかしようとは初めから考えていない。視線を周囲へ走らせ、パスを狙っていた。
前を走る金髪の少年が手を挙げて要求してくる。
渉は咄嗟に彼にボールを渡そうという動作を見せて、阻止しようとした選手の動きを見切ると、些細なフェイントを入れた後で追ってくる選手を振り切る。
「くそっ……⁉ 9番警戒! 早めにチェックしろ!」
他の選手が前から近付いてこようとしていた。
こっちに意識が向いている。その状態をしっかり認識してからボールを強く蹴り出す。
素早いパスは渉へ意識を向けていた選手の脇を通り抜け、要求した金髪の少年の足元へすぽんと収まるように到達した。
「いいね。そこに欲しかったんだ」
「10番! 撃ってくる――!」
最後まで言い切る前にドンと強くボールが蹴られた。トラップを無視したダイレクトシュート。足元に来たボールを勢いそのままにゴールへ向けて吹き飛ばす。
狙いは非常に正確。軌道は大きく弧を描き、ゴールの隅を狙っている。空を飛ぶスピードは尋常ではなくそこいらのゴールキーパーでは止められないだろうコースと速度だ。
これは決まった。誰もがそう思っただろう。
赤いビブスを着たゴールキーパーがボールを目掛けて思い切り跳ぶ。
地面を蹴って、両腕を伸ばし、視線は常にボールを捉えている。
いざその瞬間を迎えて、彼は強烈なシュートを両の掌でがっちり捕らえて掴み、勢いを殺すべく自身の胸元へ招いて受け止める。
受け身を取る暇もなく地面に倒れた。だがボールはキャッチしている。決まって当然と思われた強烈なシュートを完璧に防いでみせたのである。
「フン、あれを止めるのか。嫌なキーパーだよ」
「上がれ! カウンター!」
ボールを抱えて即座に立ち上がったキーパー、
ボールを前へ放ってキック。高く飛び、スピードは速い。それでいて狙いも正確なようで走る選手が受け取りやすいよう前方へ落とした。
ディフェンスのため自陣へ走って戻っていた渉は正面から敵を見据える。
ボールを持ったのは同世代最強と名高い
源田のクリアボールを軽やかにトラップし、対峙する渉を一瞥する。
隠すことなく正直に伝えるならば、厄介な相手、だ。両者が互いをそう思っていた。
当初から1対1の実力では敵わないと判断しているようで、渉はミッドフィルダーとして鬼道と対峙すると、一定の距離を開けてディフェンスしようとする。パスはある程度通しやすいとはいえ、ドリブルでは抜かせないという強い意思を感じ、明らかに警戒している姿勢だった。
「面白い奴だ……勝負したくなる」
敢えてカウンターのチャンスを捨て、ドリブルせずに足を止めた鬼道は渉へ声をかける。
鬼道と源田を擁する赤いビブスの赤チーム。
渉や金髪の少年が所属する白いビブスの白チーム。
スコアだけを見れば2-0と一方的に点を取られている状況だ。しかしそれは、ゴールキーパーの差と言ってもいい内容であった。少なくとも鬼道は自分たちのプレーを冷静に判断した上でそう認識しており、圧倒的な優位に立っているとは思っていない。
「試合時間は5分。残り2分程度か。お前を抜かさずNo.1は名乗れないだろう」
「え、あ……そうなんだ」
渉は驚いた様子だったが、その間も警戒は解かない。
それでいい。相手にとって不足はない。
その気になった鬼道はじっと渉を見つめたまま、足先でボールを払うと、立ち止まった状態から一瞬で加速して駆け出す。
猛然と飛び掛かる猛禽類のよう。素早く、大胆、そして力強い。ボールを足元に保持したまま直進して渉の間近を駆け抜けようとした。
咄嗟にコースを塞ごうとした渉だが、あまりのスピードに反応が遅れる。
左腕で体を押さえ、ボールを守りながら一瞬にして体の傍を通り抜けてしまった。警戒していたはずの渉が置き去りにされたのである。
「くっ……⁉ ごめん、抜かれた!」
「そのままついてけ! 挟むぞ!」
「フン、挟まれるか」
後方から渉が迫り、ゴール側からは別の選手が近付いてくる。
冷静に判断した鬼道は両足でボールを挟むと跳び上がり、前宙した後に着地した。その瞬間に、彼が触れるボールが三つに分裂して宙を舞う。
「イリュージョンボール!」
「なっ……⁉」
「取りに行かなくていい! 距離を取ってコース塞いで!」
分裂した三つのボールがそれぞれ意思を持つかの如く宙を飛び回る。その真下を走って通り抜ける鬼道にはすでに本物がわかっているらしい。
渉は敢えて距離を開けるよう指示するのだが、真正面で目撃し、見たこともない技に動揺した選手が棒立ちになって、反射的に全てのボールを目で追おうとしてしまっていた。
渉の指示は聞こえていない。これでは止めるのは不可能だ。
泳ぐように宙を飛んでいたボールが一ヶ所に集まると一つになり、間髪入れず鬼道が蹴る。
ドリブルを始めた時には立ちはだかったはずの選手を抜き去っていて、後ろにつく渉を寄せ付けずにゴールへ向かった。
マンツーマンで他の選手を警戒していた白チームが鬼道を警戒して接近しようとする。
すでに二人抜いて、フォワードとしてゴールを目指しているのは二人。
鬼道の凄みはスピード、スタミナ、テクニック、必殺技など、ありとあらゆる能力が高水準で備えられているだけでなく、視野の広さを生かして豊富な選択肢を持つことだ。
金髪の少年が止めようとした瞬間、彼を嫌がるかのように鋭いパスを出す。空中でカーブを描いて味方の下へ届け、巧みなトラップで軽やかに受け止められた。
絶好のチャンス。
「あーあ……」
日本代表候補とはいえ、ゴールキーパーの格が違う。
佐久間のシュートは狙い違わずゴールの隅へ突き刺さり、見事に得点した。
金髪の少年は腰に手を当ててやれやれと言いたげに嘆息する。
「すまないね。僕がシュートを決めておけばこうはならなかったんだろうけど。やっぱりシュート技を開発する必要があるか……」
長い金髪が腰にまで届く少年が渉に声をかけてきた。
冷静に対応した渉は、しかし胸中では密かに興奮しており、楽しげな目は輝いている。
「アフロ、さん」
「アフロディと呼んでくれ。この呼び名は母が考えてくれたんだよ。女神アフロディーテのように美しく愛を重んじてほしいと意味を込めてね」
本名が
どうやら拘りがあるようで本名で呼ばれることは好んでいないようだ。
同じくらい動いているはずなのだが、汗を掻いて呼吸を乱す渉とは違って、わずかに汗ばむ程度で呼吸も乱さず平気な顔をしている。それを見るだけでも彼と自分との実力差が明らかになるかのようだった。
他のプレーにおいてもそうだ。
涼しい顔をして、無駄な動作をしないアフロディはテクニックに優れていて、一見するとあまり動いていないように見えるが実は最小限の動きで的確に相手の動きを封じている。
涼しい顔をしていられるのも自分の体力管理に秀でているからで、それでいて存在感をアピールしているのだから高い実力を感じずにはいられない。
渉は差を感じて落ち込むどころかわくわくしていた。不思議と楽しそうに見える。
「君は良いプレーヤーだね。優れたパスセンス、攻撃も守備も能力が高いし、よく走る。さっきの僕のシュートもすごく気持ちよく撃てたよ」
「あ、ありがとうございます」
「何より、この状況下でまだ笑えるんだね。スコアは一方的なのに全く落ち込んでいない。メンタルが強いんだ」
「それは、はい、こんな試合するのは初めてで楽しくて」
話しかけられた嬉しさを抑えられずに、楽しげに語る渉からは嘘が感じられない。本心からそう言っているのだろうと悟ってアフロディは呆れながらも微笑んだ。
交流会と名付けられはしたが日本代表選手の選考会を兼ねたイベントである。他の大抵の選手は自己アピールに精を出しており、果たして彼のように純粋に楽しんでいる者が何人居るだろう。
「あはははっ! それはいいね。君のように勇気のある人間は好きだよ」
「あ、どうも」
「まだ2分くらいある。せめて僕らだけでも最後まで諦めずにプレーしよう。大丈夫、僕らが上手く繋げば勝機はあるさ」
自身もまた周囲の緊張感などどこ吹く風で悠々と楽しんでいたからか。アフロディは素直に彼を評価して、唐突に握手を求める。
戸惑いはあったが嬉しさが勝り、渉も手を出して彼の握手を受け入れた。
「とはいえ、状況は中々厳しい。噂は聞いていたけれど彼は本当に全国No.1のキーパーのようだ。僕のシュートがここまできれいに止められるだなんて経験は初めてだよ」
「アフロディさん、去年も代表だったんじゃ……」
「うん? そうだよ。よく知ってるね」
「源田君、去年も代表選手でしたよ」
「そうなのかい? うん、そうだったかもしれない。僕は人の顔を覚えるのが苦手でね」
興味がないのか、他の理由があるのか、あっけらかんとしているが顔見知りのはずの源田をあまり覚えていなかったようだ。それでもアフロディはあははと爽やかに笑っている。
ぽかんとしてしまうが、相手が彼であればそういうものだろうと納得してしまう。多分常人と同じ感覚では生きていないのだろうと理解することにして、渉が答えた。
「でも止めるのは楽じゃないと思います。さっきのはかなりきつかったですから」
「もちろん。彼だって僕のシュートには目を白黒させてるはずだよ。実力があるとはいえ、運の良さも手伝って止めているだろうからね」
「あぁ、はい……せめてセカンドボールでもう少しチャンスを増やせないかなと思うんですけど」
どうやら揺らがぬ自信があるようでアフロディはまるで落ち込んでいない。一方的に点を取られる状況でも平然としていて、まだ勝てると思っている。
心強い味方だ。シュート能力に不安がある渉にとっては特に有難い。
「つまりキャッチは避けたいということだ。どうにかできるかい?」
「え、俺ですか?」
「シュートは僕が決めるよ。決定力は僕の方がある。そうだろう?」
それは間違いない。渉もまたシュートを撃ちはしたが、アフロディのそれと比べれば相手にならないほどの差があった。スピードや正確性は間違いなくアフロディが上である。
否定することもなく頷いて渉が了承する。
どうにかできるか。そう聞かれて、どうにかしようとすぐに思考を働かせた。
「あの、どこに居てもパスを出します。だから決めてください。アフロディさんならそれが絶対できるって信じてますから」
「フッ、もちろん。約束しよう。それと敬語はいらないよ。僕らは同級生だ」
「はい。あ、じゃなくて、うん」
圧倒的な実力の差を見せつけられ、暗いムードに包まれつつある白チームの中で、彼らだけが物ともせずに前向きだった。残念ながらそのムードは周囲に影響を及ぼしてはいないが、その分濃縮でもしているのか、彼ら二人の表情は他と比べようもないほど晴れやかだ。
まだ試合は終わっていない。そう考えているのだろう。
そのメッセージは残念ながらチームメイトではなく、チーム外の人間にのみ伝わっていた。
折れる様子が見られない二人を見て、鬼道は表情をぴくりとも動かさなかった。
いくら全国から有力選手が集められたとはいえ、大抵の選手は鬼道の実力に恐れをなして折れてしまう。走ることをやめて抵抗をやめる。目の前でボールを蹴られても、必死に近付いてこようとさえしない。ただ黙って見ているだけ、という事実にさえ気付かず緩慢な動作で“動いている風”に見せているのが普通だった。
そうでない人間、自分についてこようとする人間、ついていけないとわかっていてどうにかしようと努力する人間、そんな奴は大抵認めている。
あの二人にしてもそうだ。
ただし、気に入ってはいない。
アフロディは確かな実力に見合った自信を感じさせ、鬼道に対して自分と同等だなと、或いはそこそこやるじゃないかと言いたげな視線を向けている。
渉は実力こそ鬼道に及ばないが、身体能力やプレーの精度では敵わないと自覚していて、だからこそ隙をつくかのようなプレーを実行する。
どちらも厄介。源田の力で得点されていないだけで確かな実力者だと認めていた。
一方で折れない事実にか、自分に屈しない強さにか、鬼道はわずかな苛立ちを感じている。
鬼道が不意に視線を動かした。
同じチームに所属する源田はともかく、もう一人彼についてくる男が居る。
赤チームの味方である佐久間は、普段の所属こそ別だが同チームでは唯一鬼道に順応していた。
「お前、動けるな」
「あ? フン……当然だ」
「終わりは近い。俺は今からさらに試合スピードを上げるつもりだ。ついて来れるか?」
「ああ。やってやるさ。こんなところは通過点だ」
フンと鼻を鳴らして鬼道は何も言わなかった。
佐久間はおそらく本来所属するチームではエースなのだろう。ストライカーとしての矜持は頑として譲らず、常に攻撃参加している。しかし鬼道の技量に驚き、必死にもがいているのは本人に尋ねずとも明らかだった。
負けてたまるかと思っているに違いない。
他ならぬ鬼道に誘われて、反目することもなく了承したのは自分の力を見せるためだ。
このままでは終われない。終わりたくない。佐久間は闘志を燃え上がらせる。
「言っておくが、俺はお前の引き立て役で終わるつもりはない」
「ならば俺を超えてみろ。他でもないこの試合でな」
「チッ、言われるまでもない……!」
苛立ちを隠せずに佐久間は移動していく。
ゴールを決めたため、白チームがボールを蹴ることでプレーが始まる。攻撃は彼らが、自分たちはディフェンスから始めることになるだろう。
このまま終わらせたくないのはあの二人も同じはずだ。
鬼道と源田と佐久間。単純な数だけでも有利を取っている。万が一はない。起こさせない。
気合いを入れ直した鬼道はディフェンスのために、フィールドの中央、ボールの傍に立った渉を正面に捉えて見据えた。
確かにアフロディを止めるのは難しい。しかし鬼道がわざわざ渉を選んだのは、こっちなら簡単に止められると判断したからではない。
アフロディのプレーをさらに輝かせるであろう、こっちの方が厄介なのではないか?
自らが抱いた疑問を確かめるため、そして相手を潰すため、挑戦のつもりで選んだのだ。
そうした意図が伝わったかは不明だが、渉はわずかに緊張を見せ、アフロディはにやりと笑う。
これまで鬼道はチームで最も優れているだろうアフロディをマークし、警戒していた。それが今回は渉に引っ付いたのだ。厳しい状況ではあるがだからこそ隙もできる。
実力がある反面、今まで大人しい印象だったアフロディが意気揚々と駆け出した。
この時を待っていたのだ。鬼道のマークが外れた今、さっきより好き勝手に動ける。
「ヘイ! こっち!」
相手選手の裏から飛び出したアフロディの姿を見逃さず、すかさず渉がボールを蹴る。
パスが通った。
油断していたと言わざるを得ないだろう。華麗なプレーを見せつけていたアフロディが遮二無二走るなど想像もできなかった。急なスプリントに対応が追い付かない。
それでも彼を止めようと真っ先に動き出したのは佐久間だった。鬼道への対抗心か、はたまた単純にアフロディが気に入らないのか、険しい顔でマッチアップする。
正面から向かい合い、佐久間に睨まれたアフロディは余裕を見せて笑う。
「行かせるか!」
「やれやれ、仕方ないな。まだここでは使わないつもりだったけど」
アフロディが右腕を上げる。
パチンと指を鳴らして、空気が変わった。
ボールを奪おうと接近していた佐久間の体がぴたりと止まり、その瞬間を目撃した渉は、まさかと思いながらも鬼道を出し抜くため全力で走る。
「ヘブンズタイム」
異様な光景だった。
佐久間は、走る途中の片足を上げた状態で硬直しており、明らかに重力を無視している。本人の意思でそうなっているのではない。アフロディが指を鳴らしたからだ。
まるで時間から切り取られたかの如く、正面で待ち受けた佐久間と、抜かれた後で必死に追っていた選手が止まっている。
(なんだこりゃ……体が、動かねぇ……!)
「心配しなくていい。さあ、再び動き出すよ」
意識はあるのだが動けない。見えているのだが反応できない。アフロディは軽快なドリブルで佐久間を抜き去るとさらに加速していく。
彼が通り過ぎた後、再び時間は動き出した。
突然元に戻るとがくんと体が揺れ、佐久間は勢い余って地面に膝をついた。
アフロディが単独でゴールへ向かう。勢いよく突っ込んでいく。
鬼道が動いただけでディフェンスの形が変わり、その隙をつかれている。良くないと察しながら仕方なく鬼道はアフロディを止めるために走った。
一人が突出しただけで簡単にフィールド内の状況が変わる。
狙ってそうしたのかは不明とはいえ、突然動き出したアフロディが途端にプレーのキーパーソンになったことは間違いない。
自身のマークから外れた鬼道を釣り出し、ついてこようとする渉を認めて微塵も迷わない。
フリーになった渉へ正確無比なパスを出して素早くボールを渡した。
気付けばゴール前。敵と味方が入り乱れて選手たちが走り込んでくる。
冷静に状況を見ていた鬼道は、敵の思うようにされているまずさを理解しながら、それでも自分たちなら止められるという自負があった。
ゴールキーパーは源田。そして全国No.1プレイヤーと称される自分。好奇心からマークを変えたことで後手に回ったことは否めないが、敵の連携もまた完成されていない。
勝負所だ。止めてみせると敵を見据える。
予想に反して渉がシュートモーションに入った。しかし問題はない。アフロディならば鬼道に勝るとも劣らない攻撃力を持つ一方、渉はパスこそ上手いがシュートは平凡。小学生とは思えない異常な防御力を誇る源田であれば当然の如く止められるはず。
ドンと強く蹴り出される。ボールは大きな弧を描いてゴールへ向かった。
「源田! 止めろ!」
「任せろ」
コーナーを狙った軌道。わずかに上ずっている。
反射的に動いてキャッチしようとした源田はしかし、コースに入って待ち構えながらも眉を動かして表情を変え、足を止めると飛びつこうとはしなかった。
攻撃を焦ったか。ボールは明らかにゴールポストに当たろうとしていた。
シュートの行方を目で追い、その事実には鬼道も気付いていたのだが、アフロディが止まることなく前進したことで何かを察する。
源田はコーナーを守るため向かって右に寄っていた。逆サイドはがら空きだ。
「源田! 逆だ!」
強烈なスピンをかけられたボールがゴールポストに直撃して、回転と勢いを利用して強引に軌道を変えると、まるで最初からそこへ出すつもりだったかのように左サイドへ逃げた。
あっと思う暇もなくアフロディが駆け込んできて追いつく。
「何っ――⁉」
「ナイスパスだよ」
飛び込んでヘディングする必要すらなく、悠然と右足を振り抜き、シュートが決められた。
まさかと思う展開だった。
アフロディが右腕を掲げて指を伸ばし、微笑んでアピールするとわっと歓声が生まれる。出番を待ちながら周囲で見ていた選手たちが興奮した様子で大声を発していたのだ。
決めたぞ、とアピールしながらもアフロディは渉の下へやってきて、迷わず彼の肩を抱く。
「あっはっはっは! なんてことをするんだ! あれは狙ってやったんだね!」
「ど、どうも。一応、そうです。できる自信はなかったけど、キャプテン翼とかのイメージで試してみようと思って」
「君のチームのキャプテンかい? ともあれ、良いアシストだった。名前は?」
「中間渉、です」
「ワタル。気に入った。君は良い選手だ。この得点は君のものだよ」
肩を組んで顔を覗き込まれ、アフロディから迷いのない素直な賛辞を贈られた。
まさかそこまでの反応になるとは想像していない。
渉は驚き、同時に喜んでもいて、嬉しさを抑えられずに思わずはにかんでしまう。
試合終了のホイッスルが鳴り、結果は敗北。
それなのに渉は満足していて喜色と笑顔を隠し切れなかった。