つなげ!マルチバース・イレブン‼   作:ヘビとマングース

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必殺技と普通

 まるで夢心地。

 自分は今、理想の中に居る。

 たかがサッカーと言われようとそんな風に思うのだ。

 

 無作為に選ばれたメンバーがゴールキーパーを含めて五人。たったそれだけの人数でも今まで心から楽しんでいたサッカーとはまるで違う。

 こっちの方が格段に楽しい。心が躍る。自然に頬が緩んで笑ってしまった。

 中間渉のプレーは短い間にますます磨きがかかっていたのであろう。

 

 これまでは同年代の仲間たちを気遣ってプレーしていた。

 周囲を冷静に見渡し、状況を確認しながらパスを出すのはその影響で身についた癖だ。本来は仲間を置き去りにしないための技術だったと言える。

 それが今、自身と同等、或いはそれ以上の選手に出会ったことで変化していた。

 本気でボールを蹴って全力のパス。全く苦労せず受け取る彼らは見るからに躍動していた。

 

「ナイスパス中間君」

 

 緑川(みどりかわ)リュウジが軽やかにトラップしてボールを受け取る。

 ミッドフィルダーでありながらディフェンダー・フォワードにも適正があるらしい彼は特別優れた選手だった。ぐりぐりと視線をよく動かし、フィールド全体の動向や流れを見極めながら味方を動かすパスを供給して、ゲーム全体の流れをコントロールしている。

 

 渉との相性は良い様子だった。

 鋭く正確なパスを連続させ、素早いワンツーでボールを運び、フィールドの中央を易々と支配。

 協調性の高さが故か、互いに求めるものはよく似ていた。渉は素直な協力を、リュウジは高度な連携を求め、攻撃においても守備においても二人のコンビネーションは瞬く間に構築されていく。

 近距離でのパスを連続して繋げ、二人同時に相手ゴールを目掛けて前進していった。

 

(へい)神速(しんそく)(たっと)ぶ。最速・最短で行こうか」

「オッケー」

 

 リュウジがパスを出して、渉がボールを受け取り、ぐるりとフィールドを見渡す。

 チャンスを求めて走り回る仲間がゴールを狙っていた。

 数秒にも満たない一瞬の判断。渉とリュウジは同じ答えを出していた。そして渉は、高く舞って弧を描くパスを思い切り蹴り出す。

 

 強面の少年が必死のダッシュで辛うじて追いついて、足先で前へ転がすようなトラップをした。止まるつもりなどなくそのままゴールを狙ったのだ。

 寺門(じもん)大貴(だいき)は最短、最速でゴール前に陣取った。

 

 自ら前へ出したボールに追いつき、迷わず蹴る。

 その様はまるで足が増えたかのようだった。

 両足で何度もボールを蹴って勢いを溜め、とどめとばかりに最後の一撃を加えると、その時を待ち侘びていたボールが発射されるようにしてゴールへ飛ぶ。

 見た目は普通のシュートと変わらないが勢いは段違い。ゴールキーパーが思わず驚愕した。

 

「オラッ! 百烈ショット‼」

「くっ……⁉ うおおおおおっ!」

 

 小柄なキーパーが決死の覚悟で飛び込み、両手で拳を突き出してボールに直撃させる。体が吹き飛ぶ勢いであったが、辛うじてゴールからは外れてポストに直撃した。

 キーパーが倒れるその時、寺門は驚愕して足が止まり、悔しさを滲ませる。

 セカンドボールをすかさず拾ったのは白チームだった。

 

「よくやった。これより反撃に出る」

 

 初鳥(はつとり)伴三(はんぞう)がアクロバティックな動きで空を飛び、ボールを蹴って味方へ渡す。

 受け取った音村(おとむら)楽也(がくや)がすかさずドリブルを開始した。

 

 敵対する赤チームの心臓になっているのは間違いなくリュウジと渉。殊更リュウジが厄介であらゆる能力値が高い。

 これまで通りのプレーでは敵わないかもしれない。

 それなら変化を与えるまでだ。

 

「トゥントゥクトゥントゥク……リズムを上げる! テンポアップだ!」

 

 ディフェンスのため眼前にリュウジが来たタイミングで、迷わず素早いパスを出した。

 誰も居ないスペースに蹴り込んだ、かと思われたがそこに初島が異様なスピードで現れ、ドリブルを始めて相手ゴールへ向かう。

 

 フォローに走った渉が初鳥の単独突破を止めようとすると即座にパスが出される。

 前へ向かって走り、逆サイドに居た下鶴(しもづる)(あらた)が手早く受け取った。

 

 偶発的とはいえ、白チームはメンバーの構成が優れていた。

 全体を指揮するのはリズムを武器に独特のコーチングを用いる音村。

 守備もこなす俊足ミッドフィルダーの初鳥が持ち前のスピードで至る所に出没する。

 フォワードの改はシュートも悪くはないがそれ以上にパスの精度に目を見張るものがあり、いい位置で受けて味方をサポートする能力に秀でていた。

 守備に集中する原野(はらの)(とおる)は地味ながらも基本に忠実なプレーでゴールを守っている。

 そしてゴールキーパーの綾野(あやの)勇一(ゆういち)は持ち前のガッツと頑丈さを武器に、自らぶつかりに行くことでいくつものシュートを止めていた。

 

 即席とはいえ優れたチームだ。

 素早いパス回しでディフェンスを掻い潜り、避けるように相手ゴールへ接近する。

 フィニッシャーは初鳥か改か。選択を迫られる瞬間にボールを持っていた音村が吠えた。

 

「大サビ、一番の盛り上がりだ! ライブならボンッと特効が鳴る! 最後決めろよ!」

 

 ボンッと強くボールが蹴られる。

 出されたパスは改の前にあるスペースへ送り込まれた。

 息を切らしながら、全力で走って追いついた改は止まることを考えずに足を振り抜こうとする。彼の姿には少なからず焦りがあった。

 

 周囲のレベルが高く、自分が役立たずだという自覚がある。多少はチームの役に立っていたのだろうが本人は冷静に判断できる状態にはなかったのだ。

 ゴール前でボールを与えられ、力こそ入っていたがチャンスで決めるために体は勝手に動く。

 

「ハァ、ハァ……! せめて、俺にもこれくらいは……!」

「ニン」

 

 蹴ると同時、目の前に赤いビブスを着けた選手が突然現れる。

 伸ばされた足に直撃し、ボールの軌道が変わって、それでもゴールへ向かっていた。入るか外れるかという緊張の一瞬、ゴールキーパーが待たなかった。

 

「フーッ、フーッ……!」

 

 プレーとは別の要因で激しく呼吸が荒れている、アイスホッケーの面を着けた少年が異様な雰囲気を発していた。さながらジェイソンのようである。

 (なた)十三(じゅうぞう)はひどく興奮していた。周囲とのレベルの差に絶望感と憤りを覚え、焦っているのは改だけではない。

 自らボールへ飛び込み、転びそうになりながら迷わずパンチングする。放っておいても外れたかもしれないが見逃すことはできなかったようだ。

 

 どちらもが必殺技を使えない悔しさを噛み締める瞬間だった。

 ボールはラインを割らずに生きており、プレーは続行されている。

 素早く接近して拾ったのは先程シュートを邪魔した選手だ。

 

 人一倍スピードがあり、初鳥と同等の脚力を誇る霧隠(きりがくれ)才次(さいじ)である。

 同じ学校に通って同じ指導者にサッカーを習ったという初鳥の執拗なマークを受けて、思うように活躍できていない状況であったが、だからこそ彼は燃えている様子だった。再びすかさず初鳥が眼前に来るものの、構わずドリブルして前進を始めようとする。

 

「ええい、どけ初鳥! 邪魔だ!」

「阿呆かお前は。邪魔するために居るのだろうが」

 

 足元でボールを動かし、高速でフェイントを織り交ぜて抜こうとしていた。しかし見慣れた様子の初島は霧隠の動きを冷静に見切り、敢えて反応しないことで相手を惑わせる。

 抜こうと決意した一瞬だけは的確に反応し、体をぶつけて霧隠を止めた。

 霧隠は表情を歪めて怒りを素直に表現している。そんな姿を間近に見ても初鳥は顔色を変えず、彼を叱るかのように呟いた。

 

「忍びが感情的になるな。心を読まれるな。己を律して感情を隠せ」

「おい、やめろ! それを言うな! 俺が忍びの修行を受けていることがバレるだろうが!」

「バレたくないなら大声で叫ぶな、阿呆」

 

 困った霧隠はしかし、単独で動きがちで、図抜けた速度とスタミナ、キック力を持つ一方で考えることを得意としていない。ついつい何も考えずに勢いで動いてしまう悪癖があった。初島はその性格を知っているため抑えることを苦としていない。

 それでも強引に抜こうとして抜けない時、霧隠は視界に駆け込んでくる人物に気付いた。

 

 マンツーマンでマークする相手を振り切り、手を差し出して渉が走ってくる。

 考える必要はない。体は無意識的に動いて気付けばパスを出していた。

 

 流れが変わる瞬間を肌で感じ取っている気がした。

 受け取った渉は自分でどうにかしようとはせずすぐに蹴る。繊細かつスピードのあるパスがさらに前へ出されて相手ゴールを目指した。そこにはリュウジが待ち構えている。

 

「いいね。三十六計逃げるに如かず。無理な勝負はしなくていいよ」

 

 言ってリュウジは自身に張り付こうとする音村を避け、すぐにボールを渉へ返した。

 受け取りながら渉は霧隠を見る。

 目が合い、視線が交わる。何を伝えようとしているのか、なんとなく察した気がした。

 霧隠は駆け出し、必死にマークを振り切ろうとする動きに気付いて初島がべったり張り付く。

 

「逃げるよ中間君。ついてこれるよね?」

「うん……!」

 

 心が躍る。力が湧いてくる。

 自分より明らかに上手いリュウジに認められて、ほんの一言かけられるだけで不思議なくらい勇気が湧いてその気になれた。

 渉は後先を考えずに走って、リュウジの周囲でパスを受け、彼が前進する手助けをする。素早く巧みなパス回しで相手は翻弄され、ますますリズムを早める二人についていけない。

 

 音村を置き去りにし、霧隠を警戒する初鳥は遠く、改は追いつけない。

 待ち受ける原野も二人がかりでは厳しかったようで、華麗なワンツーで呆気なく抜かれる。

 ゴール前、綾野が緊張した面持ちで仁王立ちしていた。

 

 どちらが蹴るか。判断が迫られる一瞬。誰しもがその時に注目していた。

 選択権を任された渉は、敢えて原野を抑えるべく残ったリュウジに最後を託され、一人で抜け出して前進していく。

 行ける、と誰しもが感じる瞬間だったはずだ。渉がシュートモーションに入った。

 

 綾野が緊張する一方、先程のシュートの時のように、突然前方に人影が飛び込んできた。霧隠ではなく彼と同等のスピードを誇る初鳥。敢えて先んじて止めずにタイミングを見計らい、シュートを撃つという油断するであろう瞬間を狙っていたのだ。

 注目が集まり、誰かがあっと声を漏らす。しかし渉は冷静だった。

 前方に現れた初鳥をしっかり視認して、そんな状態で微塵も驚いておらず、強烈に振り抜かれた右足は思い切り空振った。

 

 来るだろうと予想していた。だから蹴らなかった。

 空振りした渉は驚愕する初鳥に見つめられながら引き戻す足でボールを蹴る。

 

 待ち侘びただろう。疾走する霧隠が彼らの傍を通り抜けて、適当に転がされたボールを拾って素早く直進する。

 綾野の緊張が増していた。しかし先程とは些か趣が異なる。

 高速で接近する霧隠と一対一の状況になり、シュートを撃たれる、その確信が体を強張らせた。

 

「好機! 俺が決める!」

「うおっ、やべぇ……! 足のはえぇやつ!」

 

 ボールを前へ蹴り、走る速度をさらに上げて追いついてから右足を振り抜く。

 スピードは随一。もはや誰にも邪魔されない。

 それだけでなく彼のシュートは見るからに異様だった。

 地面を勢いよく転がりながら、どこからともなく現れた土にボールが覆われていき、気付けば巨大な土の塊になっていた。ゴロゴロ転がってゴールへ向かっていく。

 

「吹っ飛ばせ! つちだるま‼」

「んなっ、なんだぁそりゃあああああっ⁉」

 

 信じ難い光景に綾野は悲鳴を発して、逃げる暇すらなかったため、勇気を出して自らその塊へ飛び込んでいった。

 悲鳴を発しながら両手で殴りつけ、しかし大方の予想通り、彼の体より巨大な土の塊を止められるはずもなく吹き飛ばされてしまう。

 ゴールポストにぶつかると土の中からボールが飛び出て、優雅にすら思える様子でゴールネットに突き刺さった。

 

 決まった途端に霧隠が高く跳び、拳を突き上げて喜びを露わにする。

 初鳥に抑えられていたフラストレーションが大きかったようで、感情を隠すつもりはなく、思うまま大声で吠えていた。

 同級生の問題のある姿を見て初鳥は呆れて嘆息する。

 

「うおおおおおおおっ! どうだ見たかァ! 初鳥ィ!」

「うるさい。忍びが感情を出すな、阿呆」

 

 呆れながらも悔しく思っていることは隠し切れず、初鳥は霧隠に反応しようとしなかった。

 着地し、元気に駆け出した霧隠は素早く渉の前に移動して、勢いのいい動きに驚く彼の反応は気にせずに顔を覗き込む。非常に忙しない態度だった。

 

「お前すごいな! よくぞ出した! 俺に渡した!」

「ど、どうも。多分行けるだろうなって、思ったから」

「感謝するぞ! 初鳥は良い奴だが嫌味な奴でな! 俺の傍でウロチョロしてすごく鬱陶しかったところだ!」

「あの、聞こえちゃうと思うよ……?」

 

 あっはっはと豪快に笑う霧隠はわかりやすく上機嫌だった。あまりに大きい声で話すため、近くに居て聞こえないはずがないのだが全く気にしていないらしい。

 渉が密かに恐る恐る視線を動かしてみれば、やはりと言うべきだろうか、初鳥が霧隠を無言で睨みつけている。やはり本人はまるで気付いていないかの如く気にしていなかった。

 

 霧隠が渉を褒めているとリュウジも歩み寄ってくる。微笑む彼もまた上機嫌だ。

 あの時、選択肢はいくつかあったはず。渉自身が初鳥を抜く、初鳥が警戒していた寺門にパスを出して得点させる、リュウジを走らせて勝負させる、そして霧隠に渡して決めさせる。初鳥が唯一警戒していなかったのは、いつであろうが自分で止めてみせると考えていた霧隠のみ。

 焦らずにはいられない状況の中、一瞬の判断で霧隠を判断し、得点させたのは素晴らしい。

 

「ナイスパス、そしてアシストだ。いい働きだね中間君」

「あ、いや、そんなに言うほどじゃ。ほとんど緑川君が居てくれたおかげだし」

「謙遜しないでよ。俺が自由に動けたのは君がサポートしてくれたおかげだ」

「そうだ、謙遜するな。俺はお前を認めるぞ。名前は?」

 

 まさかとは思うのだが意外にも褒められる。

 渉は戸惑いを覚えつつも、調子に乗ることはないとはいえ、素直に喜んでいた。

 自分のサッカーが通用する。個人として鬼道には勝てなかったが仲間の能力があれば食い下がることは可能で、仲間を活かして点を取ることができる。

 

 まさに自分が理想とするサッカーだった。普通が一番、そう言われ続けて、自分もまたそう思うことが自信になっており、必殺技がなくてもサッカーはできると思っている。

 普通のサッカーが自分の強み。必殺技がなくても活躍できる。

 そして何より自分の強みにしたいのは、必殺技を使える仲間を活かすプレーだ。自分のパスやアシストで特別強い仲間をサポートする。それができれば十分に戦える。

 

 数少ないとはいえ、認めてくれる人が居た。君はすごいと称賛された。

 笑顔になった渉は霧隠に名前を告げて、これまでの人生では見られなかったほどに喜色を表す。ついに待ち望んだ瞬間を味わって、“超次元サッカー”を大いに楽しんでいたのだ。

 

 

 

 自身にとって最後の試合を迎えて、渉の顔からは余裕が消え失せていた。

 これまでにも上手くいかないことはあった。全ての試合で活躍できたわけではない。だからこそ周囲の選手がどれほど優れているかを理解し、自分の弱点を理解して、次こそはと奮起してやる気になっていたのだ。

 その上で、まさかと思うほどに渉は一方的に抑え込まれていた。

 

 全国的に知られた優秀選手、基山(きやま)ヒロト。

 鬼道と同様、彼は別格だった。

 キックの繊細なコントロール技術、並以上のスピード、優れたボディバランス。周辺視野が広く指示が的確でリーダーシップを発揮し、フォワードながらゲームメイクをするカリスマ的存在感。しかもディフェンスまで人並み以上にできる。そしてやはりシュートの決定力が高い。

 鬼道さえ居なければ間違いなく彼が全国No.1だろう。それほど圧倒的だった。

 

 体をぶつけて、ルーズボールを奪い合う一瞬、苦しそうに歯を食いしばる渉とは正反対にヒロトは余裕のある笑みを浮かべていた。

 相手を腕で押さえようとしながら前へ走り、その間もヒロトは当然の如く声を発する。

 

「中間君って言った? 悪いけど、俺は君のこと舐めたりしないよ」

「くっ……!」

 

 試合時間は5分。しかしそれほどかからずとも、ほんの少しプレーしただけでわかる。

 彼は自分よりずっと強い。緑川リュウジが完全上位互換だとして、ヒロトの実力はそこへさらにシュート力を加えたもの。

 このままではどうあがいても勝てない。渉は強くそう思わされていた。

 

「君を抑えれば、チームの動力が死ぬ。そして君のマークは俺だ。逃がさないよ」

 

 ぐっと腕で押さえられて、速度を上げてヒロトが前へ出た。必死に追い縋ろうとする渉だが単純なスピードでは敵わない。

 ボールを奪われ、尚且つ走る。

 ヒロトが独走し始め、咄嗟に止めようとする仲間たちも呆気なく抜かれていった。

 

「ハァ、ハァ、まだ……!」

 

 渉は諦めずに追いかけた。

 今まで一度も、練習で手を抜いたことはない。真面目に日々の経験を積み重ねてきた。少しでも上手くなるように自分なりに考えてきた。プロになるつもりはなかったとはいえ、いずれ来るだろうチャンスを逃さないように実力を高めてきたつもりだった。

 

 置き去りにされる。ヒロトはドリブルをしながらも渉より速く、一人だけでゴールへ向かって、誰にも止められることなく近付いていく。

 今まで感じたことがなかった絶望感。初めて大きな壁にぶち当たる。渉は大きく息を吐いた。

 

「よく見ておくといいよ……! 流星ブレード‼」

 

 ボールを高く蹴り上げ、自身も高く舞い上がり、足を大きく開いて振り回す。

 強烈に蹴りつけて、眩い光を纏ってシュートが撃たれた。

 直進しながら光はさらに強く、大きくなり、ゴールへ一直線に向かう。キーパーはもはや目視することすら叶わず必死に腕を広げるのみ。その光景の中で立っていられただけ大したものだ。

 やがてボールはゴールネットに突き刺さり、得点が決められる。

 

 気付けば足を止めていた渉は肩を上下させて息をしていた。

 努力すれば、理論を学べば、サッカーを知れば必殺技など必要ないと思っていた。しかしいざ、敵として目の当たりにするとなんて神々しい。

 

 必殺技は、ただ得点を奪うためだけに使われるのではない。圧倒的な存在感を主張して、いとも容易く相手の心をへし折る。絶対的な力の主張こそが本領なのだ。

 今、理解した。普通でしかない自分は彼のようにはなれない。

 振り返ったヒロトに視線を向けられ、渉は思わずごくりと息を飲んだ。

 

「君はいずれ、俺の前に立ちはだかるかもしれないね。でも必要なものはあるんじゃない? 現状に満足しないことだよ」

 

 渉は何も言い返せず、ただ彼の言葉を聞いていた。

 

「これがサッカーの高みだよ。俺もまだまだ、上には上が居る。だからお互い頑張ろうね」

 

 友好的ににこりと笑いかけられたのだが、いつものように返事をすることができなかった。

 言葉を失ったかのような渉はただ突っ立ったまま、自らの無力さに打ちひしがれていた。

 

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