俺たちの1年目は間違いなく原作よりも恵まれたものだった。
入学と同時に俺と、主人公の
原作でもメインキャラ。この世界でも小学生の日本代表チームに選抜されて、デビュー戦でいきなりハットトリックを決めた、明らかに強キャラ感のある選手だ。
その人がなぜか普通に雷門中に入学してきて、強豪校からのスカウトもあったはずなのに本人はどこ吹く風の顔をしていた。
なんで雷門なの? 出会ったその日にそう聞いたらきょとんとされた。
「近かったから」
どうやら本当にたまたま引っ越してきただけみたいだ。
妹さんも無事みたいで、大体の黒幕影山が何かすることもなく、サッカーをやめるつもりもないし暗くなってたりもしない。
強豪校に拘らないのは弱小校に居たせいなのか、本気で勝ち負けを競うサッカーができるならそれでいいらしい。そういう意味では雷門は弱小だけど本気でやるつもりの円堂と俺が居るわけで、環境は良かったんだと思う。
俺たちは喜んで豪炎寺を迎えて、サッカー部が始動した。
部員集めでもそんなに困ることはなく、意外とすんなり人が集まってくれた。
この辺りは原作知識があるっていうのが結構有利に働いてて、やる気に燃える円堂を煽ったり抑えたりしながら、俺がある程度コントロールして、こっちから積極的にスカウトしていった。
多分入学早々に動いたのが功を奏して、意外にもスムーズに話が進んで人が集まる。
1年目にして11人以上。原作とは違って公式戦に出場できたのだ。
真っ先に声をかけたのが
円堂の友達だったから理由もあるし、声をかけるのは躊躇わなかった。
「サッカー部? 俺は陸上部に入ろうかと思ってたんだけど……」
「サッカーだってたくさん走るぜ!」
「足の速さはそれだけで武器になるんだ。一緒にやってくれないかな?」
「うーん……まあ、円堂の練習に付き合ったことも多いしな。やってみよう」
円堂の熱意と情、俺が細かい話をしたことで納得してもらえて、風丸が最初から正式に入部してくれた。これは大きい誤算だった。
風丸の武器は何と言っても足が速いこと。練習次第でどのポジションだろうと活躍できる人材。助っ人じゃなくて仲間になってくれることが嬉しかった。
原作だと、最初に入部するのは別の二人だ。もちろんこっちから声をかけに行った。
興味を持ってたみたいで声をかけたらあっさり入ってくれた。創部当初に有難いイベントだ。
「俺をエースにするなら入ってやるぜ」
「なら無理だな。エースは俺だ」
「なにィ⁉ 勝負だ、この野郎!」
「いいぞ。勝つのは俺だからな」
「まあまあ二人とも落ち着いて。せっかくならサッカー楽しもうぜ。喧嘩とかやだよ、俺」
妹が怪我してないし入院していないせいなのか、豪炎寺は結構フリーダムな感じだった。意外に思うんだけど慣れればまさかのムードメーカーな気がして悪くない。
染岡はエースストライカーになるのを目指して豪炎寺に対抗心を燃やしているし、おかげで練習では常に手を抜かない熱血漢になっている。
半田はバランスを取ってくれる気遣いの人だ。彼が居てくれるとすごく有難い。
個性的な部員の中で、性格的には大して特別でもない、どころか、俺は個性がなくて普通。
キャプテンは円堂が務めてるけどまとめるのは得意じゃない。だからフォローが必要。でも一応副キャプテンに選ばれてる俺だって得意なわけじゃない。もう一人の副キャプテンの豪炎寺はなぜかこの世界だと自由気ままだからもっと向いてない。
バランスを見てフォローしてくれる風丸や半田は俺の精神を休めてくれる重要な存在だ。話すことも多いから自然に仲良くなれた。
二人と木野が居なければ円堂・豪炎寺・染岡の濃いめなメンバーに耐えられなかっただろう。
それから、特に仲良くなったのはマックスだった。
そもそもは俺が誘って、サッカー部に飽きて他所の部へ行かないように話しかけていたからか、いつの間にか俺とマックスは一緒に行動するのが当たり前になるくらい仲良くなっていた。
「渉は心配性だから、きっとこれから苦労するだろうね」
「やなこと言うなぁ……」
マックスの後、俺が声をかけたのはあと二人居る。
長い髪で目を隠す
いわゆる中二病と言われる
影野は同級生だからわかるけど、シャドウが居たのは嬉しい出来事だった。原作じゃ最初からは居ないシャドウが早めに仲間になったことで層が厚くなる。
「闇の胎動が聞こえる……」
「ふふふ、そうだね。でも影の中なら安全だよ」
シャドウと親しくしている影響で、たまに影野も言動が怪しくなる。
スカウトのために俺も多少合わせて喋ったとはいえ、その世界観を理解したとは言い難い。
まあ、二人とも大事な戦力であることは間違いなかった。
原作でいうスカウトキャラと呼ばれたメインストーリーに関わらない選手も部員になっている。
他の部に所属する人を助っ人に迎えることもあって、その中の何人かは半ばサッカー部として活動する人も少なくなくて、結構な大所帯。原作では考えられないほど潤沢な選手層だ。
サッカー部は作ったばかりだから技術の方は頼りないけど、流石原作におけるレギュラー陣はどんどん上達して頼れる存在になっている。
顧問の冬海先生は原作だと雷門を裏切って帝国学園の味方をする。そういう展開が怖かったから創部当初から警戒して、本人にも警告していたんだけど、幸い裏切る心配はなさそうだった。
俺が何度となく警戒してるし、警戒してる俺を見て他の部員も違和感を覚えたみたいで、冬海先生の信頼度は正直あんまり高くない。
「私、そんなに信用できませんかねぇ? 帝国学園とのパイプなんてありませんよ」
本人は不満そうな顔で困惑している様子だった。
確実に俺のせいなのでちょっと申し訳なく思ってる。
冬海先生がサッカーの素人で知識も持っていなかったから、うちのチームでは、マネージャーの木野が監督を兼任してくれている。
マネージャー業務は部員で分担して手伝うし、彼女の立場はむしろ監督の方が強い。
創部当初、というより今もそうだけど、フィールドの外から指示できる人間が居ないせいだ。
知識があれば選手でも指示を出すことは可能だろうけど、選手が権力を持ち過ぎるのはいずれ軋轢を生むかもしれない。常にフィールドの外に居て、俯瞰的に試合を見られて、的確な指示を出せる人が担当するのがいい。
正直最初は人が居ないから仕方なくだった。
いずれ監督できる人が見つかれば変わるという条件で、なんとか木野に頼めたのだ。
原作を知っている俺は、監督になってくれそうな人を見つけ出すことができる。でも敢えてそうしなかったのは練習が忙しかったからでもあるし、予想以上に木野が真剣に監督になろうと努力しているのを見ていたから。
最初は基本的なルールくらいしか知らなかったのに、真面目に勉強に取り組んで、木野はたくさんの提案をしてくれた。このまま彼女に任せていいんじゃないかって思ったんだ。
「みんながそれで頑張れるんなら、私も頑張るよ!」
木野がそう言ってくれたおかげで部が一つにまとまったのも確か。
サッカー部は早いうちから潤滑に動き出して、練習にも身が入って、公式戦にも出場できた。
1年生にして公式戦出場。原作の流れとは明らかに違う。
大した結果は出せなかったけど、その試合は、どうやらネット上で伝説と言われているらしい。
なんてことはない。
絶対王者の帝国学園を相手に結構熱い試合をしたからだった。
絶対的エースの豪炎寺を主力に、とにかくパスを繋いで戦況を掻き回し、最後は豪炎寺に託すか敢えて囮として利用するか。相手がかなり意識していたせいでそこそこ効果的だった。
ディフェンス陣が頑張ってくれた効果も大いにあって、そして何より主人公の円堂が気張って、どうにかこうにか1点差で食い下がった。
結果として俺たちは二回戦で負けたけど、帝国学園を相手に一番良い試合をしたのは、決勝戦の相手だった
創部1年にして帝国学園と伝説の試合を演じた。
俺たちへの期待は高まっていて、2年になった今年はどうなるんだ、という声は多い。
俺たち雷門サッカー部は、良過ぎるくらいに良い環境にあったのだと思う。
夏の大会が早々と終わって、秋・冬と練習を続けて、2年生になった今。
新入生が入ってきて、去年の試合がきっかけで多くの入部希望者が来た。原作からは考えられないほどの人気ぶりだ。
自慢するつもりなんてないけど、俺の影響も少なからずあるんだと思いたい。
前世と、こっちの世界での幼少期と、昔を思えば、信じられないほど恵まれた環境だ。しかもまだまだこれから続く。というよりも原作のスタートは、主人公の円堂が中学2年生、今年の俺も中学2年生。むしろメインストーリーはこれから始まっていくのである。
考えただけでわくわくする。
超次元とか無関係にサッカーは楽しい。もっともっと楽しみたいと思ってる。
大所帯になって、毎日能動的に活動する雷門サッカー部を見ると感慨深いものがある。
俺もその一員なのがとても誇らしい。
「今年の目標は帝国にリベンジ! フットボールフロンティア出場! そして優勝だ! みんな、頑張っていくぞー‼」
部を一つにするために円堂が腕を突き上げて叫んだ。
人が集まった今、やる気のある新入生が多くて、去年とは全然違う。大きな声でおー! って叫んで応えていた。その光景を見ているだけですでに嬉しくなっている。まだこれから頑張らなきゃいけないのにすでに満足しているところがあるのは否めなかった。
今年はきっと去年よりも楽しくなる。本気でそう思っていた。
このまま平穏に毎日が続いてくれたらと、心からそう思っていたんだ。