つなげ!マルチバース・イレブン‼   作:ヘビとマングース

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バウンサーラビット

 俺はこの世界のことをよく知っている。

 だけど厳密に言えば、俺は今のこの世界のことはよく知らない。

 要するに、前世の記憶があるからここが“イナズマイレブン”の世界だってことは物心ついた頃から理解している上で、原作とは何かが違う世界だってことがわかってるんだ。

 

 忘れてしまったことは多分あるんだろうけど、確認なんかしなくてもこれは間違いなく違うって思うことはたくさんある。

 メインキャラの豪炎寺が、妹の入院とか関係なく普通に引っ越してきたり。

 俺が居ることで原作開始前から、原作とは違うストーリーの流れになっていたり。

 多分、色んな事件を起こすはずの影山零治が悪いことをしてなさそうだったり。

 この世界の全てを知っているわけじゃなくても、何かが違っていることは明らかだった。

 

 俺がこの世界に来た影響なのか。それとも別の要因なのか。

 詳しいことは何もわからない。教えてくれる人だって居ない。

 それでも俺自身は今居る場所を現実として受け止めていて、今の生活を楽しんでいる。

 

 思えばここまで嘘みたいに順調に物事が進んでいた。原作とは全然違うストーリーになるのも当たり前だと思うくらい、これまでに色んなイベントがあって一年が過ぎ去った。

 少なからず俺が関わったことで変わってしまったこともあると思う。それは、雷門サッカー部が当たり前に活動できるように努力した結果だ。

 

 自分でもまさかとは思いながら雷門中に入学して。

 なんの苦労もなく円堂と出会って、仲良くなって、サッカー部を作って。

 部員が必要だからたくさんの生徒に声をかけて、協力してくれる人が結構見つかって。

 一年生だった俺と円堂、マネージャーの木野さんの三人で作ったサッカー部は、すぐに試合にフルメンバーで挑める11人以上が集まって、去年の公式戦にだって出られた。

 

 俺のせいで変わってしまった流れがあるのは自覚している。

 そもそも、中学入学の前に原作キャラに会うことがあったわけだし、画面の中で見たことがある人と顔見知りになっただけでなく、アフロディとは連絡先を交換した。独特のあだ名をつけられそうになったけどなんとか回避して、今は上手く付き合えてると思う。

 

 一年目から部員が集まって、公式戦に出場した。結果は出せなかったけど話題になって、組み合わせの妙で実現した帝国学園との試合は、今では伝説みたいに語られている。特にサッカーが全世界で異様な人気を誇るこの世界では結構な衝撃事件として知られてしまったらしい。

 来年度はどうなるのか。再戦の結果は。わくわくしてる人はきっと多い。

 俺たちも二年生になってからの公式戦を、俺は原作が始められるはずの時期を、楽しみに待ち望んでいた。

 

 その前に大きな異変が起こる。

 原作通りに進むはずがないっていつからか理解できてたはずだ。だけど衝撃的で、あり得るはずがない展開を見て、本当にいよいよ俺の手に負えない展開になったんだってわかる。

 

「君が中間渉? ねぇ、僕と一緒にサッカーやろうよ」

 

 俺が居るのは一番最初の“イナズマイレブン”の世界のはず。

 彼は続編に登場する人間だったのだ。

 

 

 

 

 フェイ・ルーン。

 “イナズマイレブンGO”の2に登場する未来から来た少年。

 水色の髪をツインテールみたいにしていて、出会った瞬間に雰囲気がパッと明るくなるような、朗らかで笑顔が似合う人だった。

 

 彼は未来人だ。

 前に居た世界なら「あり得ない」って思うかもしれない。でもこの世界では疑問にも思わない。

 超次元世界のここなら常人の理解を超える展開なんていくらでもあるからだ。

 

 事実、俺は別として、この世界で何年も流行っているサッカーはただのサッカーではなく、超常的な必殺技がバンバン飛び交う“超次元サッカー”なのだ。

 豪炎寺のシュートはボールを燃やすし、鬼道さんはボールを分裂させるし、円堂はオーラで出来た巨大な手でボールを掴み取る。動画で送られてきて確認したのだけど、アフロディはすでに背中に翼を生やして光り輝くシュートを撃てるようになったらしい。

 

 この世界では未来人に出会ったくらい、それほど驚くことじゃない。

 それとも驚かないのは前世から知っていた俺だけなのだろうか?

 

「ちょっと一緒にやってみない? 君の実力を見せてよ」

 

 フェイって呼んで、と言われたから素直にフェイと呼ぶ。

 

 フェイは俺が自主練で使っていたボールでリフティングをしながら言ってくる。

 はっきり言って上手い。原作におけるメインキャラの一人なんだから当たり前と言えば当たり前なんだろうけど、ミスすることなくポンポンって軽快なタッチで一度も落とさなかった。

 

 前世の記憶、つまり原作で起こるイベントというか、ストーリーの内容を漠然と覚えているから何をしに来たかは完全に同じかは別としてもうすでにわかってる。

 とりあえず俺の腕試しがしたいのか、フェイは笑顔で誘ってきた。

 どう反応すればいいのかわからないとはいえ、サッカー自体は好きだし断る理由はない。頷いて了承するとフェイとの1on1を始めようとする。

 

「君は上手なんだよね? 僕からボールを奪ってみて」

 

 俺の返事なんて待ってないみたいに、すぐにフェイが始めてしまう。

 大きく距離は開けないけど一目見ればわかる戦闘態勢。ボールを奪われまいと姿勢を変えた。

 きっと大事な話をしに来たんだろうと思うのに、このサッカーバトルは絶対にやらなきゃいけないみたいだ。そんな暇あるのかな、なんて思いながらフェイに近付く。

 

 大胆な足捌きと繊細なボールタッチ。かなり体幹が強いみたいで軸がブレない。しかも動きが素早くて、まるで彼の周りだけ重力がないみたいに軽さを感じる。

 俺が足を出しても全く怯むことなく、むしろ強気でこっちに踏み込んできた。

 

「ほら、こっちだよ」

 

 ボールを軽く蹴って飛ばし、ぴょんって跳んで追いついて、一分のミスもなく着地する。

 そうだ、いつか画面の中で見た光景を思い出す。

 飛び跳ねる度にぴょこぴょこ動くツインテールみたいな髪型。明るくて天真爛漫で、元気に動き回るウサギみたいだ。

 ちょっと印象は違うけど、間違いなくあのフェイが目の前に居るんだって実感する。

 

「おっとっと。結構速いね」

 

 必死に追いかけるけどスピードが違った。追いつけても小技が上手い。足先で扱うボールが吸い付くみたいに体から離れなくて、体を寄せても簡単には奪えず、俺の動きに合わせて逃げるように離れていく。

 敢えてポンって遠くへ蹴って、ボールが離れた途端にスピード勝負。でもフェイは速いだけでなくジャンプ力がある。ボールが落ちる前に飛び跳ねて接近すると、胸でトラップして勢いを殺し、華麗にキープする。

 

 自分の強みをわかっていて、自信があって、逃げるのが得意なプレイヤーだ。

 スピードはもちろん、ボールを弾ませて自分も飛び跳ね、上機嫌なウサギを連想させる特徴的なドリブル。右へ左へ、動きに制限がないみたいに忙しなく駆け回る。

 

 捕まえるのは一苦労どころじゃない。

 追いつけたとしてもボールを奪わせずに、勝負が長引く。

 体をぶつけて体勢を崩そうにも、少し触れる程度ならまだしも、力を加えるほどの時間は触れさせなかった。やっぱり逃げるのが得意みたいだ。

 

 優秀だって言ってくれる人は居る。でもこういう時に、自分の無力さを感じずにはいられない。本気で向き合っていいところまでは迫れてもボールはギリギリのところで奪えないままだ。

 フェイの動きはまさに超次元的。弾むように跳んで、逃げるためなら俺の頭上すら越えていく。

 俺の身体能力は、前の世界に比べれば十分に常人以上のものだろうと思う。でもこの世界じゃ俺のレベルなんて下の方。身体能力だけじゃどうにもならない場面はある。

 

「あははははっ! すごいね君! 面白いよ!」

 

 でもなぜかフェイには気に入られてるみたいだった。

 純粋に楽しそうで、なぜかとても嬉しそうで、こうしてる今もどんどん動きが良くなっている。

 必要な話はされないまま、不思議と俺まで楽しくなってしまっていた。

 

 

 

 

「えっと、何の用事だったの?」

「あ、そっか。まだ何も言ってなかったっけ」

 

 時間を忘れてひたすら一対一のサッカーをした後、ふとした瞬間に終わって、なんだかすごく上機嫌なフェイに聞いてみた。

 いい汗を掻いてしまったけどまだ何もわかっていない。俺は一応前世の記憶がある。でも本人から聞かされてないのにこっちから「未来人でしょ?」と言うのは明らかにおかしいことだ。だからきちんと本人から説明してもらわなきゃいけない。

 

 偶然、ではないだろう出会い。河川敷で二人きりのサッカー。

 空はすでにオレンジ色になっていた。

 フェイは俺が渡したドリンクを美味しそうに飲んで、もちろんお礼も言ってくれて、ぷはーって息を吐いてから答えてくれる。

 

「君に会いに来たんだ。えーっと、どこから説明したらいいかな」

「どこからでもいいよ。覚悟はできてる」

「本当? 僕が別の世界から来たって言っても驚かない? 受け入れられる?」

「うん、平気……別の世界?」

 

 驚かないつもりだったのに、意外な言葉に驚いてしまう。

 えっと、確かフェイは、未来から来たっていう設定じゃなかったかな? そもそもイナズマイレブンの円堂世代のところに来ること自体がおかしいはずで、イナズマイレブンGOの主人公も一緒に居ないみたいだし、原作の流れとは違うように思う。

 なんとなく不穏な感じがしないでもない。今はまず聞いてみるしかなかった。

 

「僕は君を守るために来たんだよ。腕試しみたいなことしてごめんね? そうしろって言われたのも確かなんだけど、ただ単に僕が君とサッカーしてみたかっただけなんだ」

「あぁ、そう……」

「僕は今、全次元のサッカーを支配しようとしている“エルドラド”に立ち向かうために、レジスタンスの一員として色んな次元から味方になってくれる人を集めているんだ。君もその一人。僕らのリーダーが君の力が必要だって言って、スカウトに来たんだよ」

「……えーっと」

 

 ちょっと、俺の理解を超えることを言われた気がする。

 大抵のことは“超次元だから”で片付けられるこの世界。ただ、その世界をあらかじめ知っていたからこそ、前の世界で得た知識とは違う情報を言われると理解に苦しんでしまうことがある。これまでにも確実に何度かあった状況だ。

 

 多分、というより間違いなく、俺が知らないストーリーが展開されている。

 フェイというキャラクターについては知っているけど、今ここに居る彼が俺の知っている通りの人なのかはわからない。

 

 考えてみればこの世界の人たちもそうだ。意外と素直で天然な豪炎寺、予想より結構自分から話しかけてくる影野、ただ覇気がないだけでそんなに悪くなさそうな冬海先生。

 俺と円堂が積極的に関わったから生じた変化もきっと多い。でもそれだけじゃなく、俺たちの関わりなんて関係なく原作と違うところがあった。

 別の世界から来たって言ってたし、多分これは未来がどうこうってだけの話じゃないんだろう。

 

「違う世界から来たって言ってたのは、ひょっとして」

「パラレルワールドって知ってる? 世界は色んな可能性から分岐して無限に増え続けてる。その中のいくつかから人が集まって次元をコントロールしようとしている組織が“エルドラド”。僕らの敵だよ」

 

 あっさり言うけど敵って。

 エルドラド。その名前に聞き覚えがある気はするけど、確か目的はサッカーを世界から消すことじゃなかったかな。

 

 まあ、ちょっと違いがあるとしてもエルドラドって組織がサッカーをどうにかしようとしてることは変わらないはず。

 イナズマイレブンの世界に来たと思ったけど、進行するのはイナズマイレブンGOのストーリーみたいだった。そう理解しただけでも少しだけ安堵できる。

 

「それで、つまり俺は、君に協力すればいいわけだね?」

「うん! 話が早いね。手伝ってくれる?」

「まあ、好奇心があるのも本当だし、これで嫌だって言っても全く関わらずに過ごすっていうのは無理な気がするし……それにするのはサッカーなんでしょ?」

「もちろん! 強いチームを作るためにサッカー選手を集めてるんだ。もちろん僕も参加する! みんなでサッカーするのって楽しいよね!」

「うん。それはもちろんそう思う、けど」

 

 けど、という言葉に反応してフェイが首をかしげる。

 今はなんとなく話の流れに乗ろうとしているけど不安がないわけじゃない。

 今まで一応、俺はこの世界で生きるための努力をしてきたつもりだし、部員を集めてみんなで優勝を目指してきたつもりだ。そっちのストーリーはどうなるんだろう。

 フェイを責めるつもりはなくて、むしろなんとなく状況を理解してるから協力しないわけにはいかないんだけど、本来の流れと自分たちの生活が気になるのは間違いない。

 

「どうして俺だったの? 俺よりすごい選手はたくさん居ると思うよ」

「それはね、君一人だったからだよ。色んな次元を見回しても、他の人とは違って、君はこの世界にしか居ない。すごく特別な存在なんだ」

 

 どういうことだろう? よくわからない。

 

「それは、円堂や鬼道さんは他の世界にも居るってこと?」

「そうだよ」

「……そうなんだ」

「それでね、円堂や鬼道はエルドラドが最優先で狙う重要人物なんだ。エルドラドにとってはどの世界でもサッカーを活性化させる力を持ってる重罪人だよ」

 

 ああ、確かに、円堂は「サッカーやろうぜ!」なんて名ゼリフがあるくらいだし、サッカー好きをたくさん増やしていてもおかしくない。鬼道さんだって原作の重要人物。この世界でもすごく強くて注目されるのは当たり前になっている。

 自分のこととは別にそっちは簡単に受け入れられた。

 それだけに、重罪人っていう言葉が引っ掛かる。

 

「重罪人、っていうのは」

「エルドラドはまず最初に彼らを消しに来るよ。放っておけばサッカーを心から楽しむような反乱分子が生まれちゃうから」

「それじゃあ、この世界の円堂と鬼道さんは……」

 

 嫌な予感がした。フェイは何も答えない。

 重罪人と称される二人は、俺が生まれ育ったこの世界にだって存在しているわけで。

 すごく遠く、だけど同じ町。雷門中がある方角から大きな音が聞こえた気がした。

 

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