うさぎがいた部屋 【TS文学が書きたい】   作:鮎彦

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第7節 車に乗せられてどこに連れて行かれるのかと思えば……

 車に乗せられてどこに連れて行かれるのかと思えば着いたのは郊外にある大型のショッピングモールだった。

 美々面は初めて来たのだろう、モールの大きいことに驚いて建物の前でぴょんぴょん飛び跳ねていた。

 しかし圭太にとってはこれまで何度も友達と遊びに来たことのある場所で、少々拍子抜けした。

 圭太がリアクションに困ってその場に突っ立っていると、先生はこう言った。

 

「その子を着のみ着のままでお前に預けたから色々不便もあっただろう。

 今からここで服から何から見繕ってきなさい。お代はちゃんと私が出すから」

 

 そして最後に小声で「悪かったな」と付け加えた。

 また無理難題でも吹っかけられるのではないかと不安に思っていた圭太は先生の言葉に虚を付かれた。

 そして思わず、子犬のように素直に喜びを顔に表して「ありがとうございます」と言ってしまった。

 先生がこちらに対して少しでも悪いと思う気持ち、罪滅ぼしの気持ちを持っていたことが嬉しかったのだ。

 

「遠慮しないでいいぞ」

 

 圭太の反応に満足したのか先生は得意気だった。

 そんな相手の様子を見て圭太はハッと我に返る。

 これくらいで懐柔されてはいけない。

 これくらいのことで美々面を預かることを正式に引き受けたと思われてはいけないのだ。

 圭太は慌てて緩んだ表情筋を収縮させると、努めて仏頂面を作った。

 

「買うものが決まったら教えてくれ」

 

 先生が自分たちを残してどこかへ歩き出したので圭太は慌てて呼び止める。

 

「ちょっと待ってください。

 女の子の服なんて何を買ったらいいかさっぱり分からないですよ。

 先生も一緒に選んでください」

 

 すると先生は心底嫌そうな顔をして、

 

「そんな恥ずかしいことできるわけ無いだろう」

 

 そう言い捨て一人で喫茶店に入っていってしまった。

 

 

 

 圭太は美々面の手を引いて同じフロアをぐるぐると何週も歩き回っていた。

 目的地は既に決まっていた。

 さっきこのフロアで見つけた女児用の服を扱っている専門店だ。

 しかしピンク色の内装に鮮やかな原色の服が並ぶ、ああいった店に特有のファンシーな雰囲気にしり込みしてしまいどうにも入店できずにいたのだ。

 

「結界があるんだよな。

 男子の入店を拒む結界が」

 

 圭太は独りごちた。

 その隣では歩き疲れた美々面がしゃがみ込んでしまっていた。

 

「どうしようか……」

 

 圭太は途方に暮れてその場に立ち尽くす。

 店に入る覚悟もつかず、そのまま暫し無為に時間が流れた。

 やがて遠巻きに店の方を睨みながらぶつぶつ言っている圭太が店員から不審者扱いされ始めた頃、突然二人に声をかける者があった。

 

「何してるの圭太くん。美々面ちゃんも」

 

 委員長だった。

 どうやら彼女もたまたまモールに買い物に来ていたらしかった。

 圭太は地獄で仏に会ったような気分だった。

 委員長に事情を説明すると、

 

「じゃあ私が服選び手伝ってあげる」

 

 彼女は快く手助けを買って出てくれた。

 

「美々面ちゃん、おいで」

 

 彼女は美々面の手を引くとさっそくお店に入っていった。

 圭太もその背中に隠れるようにして入店に成功した。

 

 

 

 委員長はまるで着せ替え人形みたいに次から次へと美々面に服を試着させていく。

 

「美々面ちゃんは美人さんだから何着ても似合うねー」

 

 満面の笑みを浮かべる委員長、楽しくて仕方ないといった風だった。

 美々面は最初のうちは着替えるのを面倒くさがってイヤイヤしていた。

 しかしやたらと高い委員長のテンションに抗しきれず、やがてはマネキンのようにされるがままになっていった。

 圭太もはじめは委員長のテンションに気圧されてぼけっと突っ立ていたが、やがて自分の役目を思い出すと女の子の服のことなどさっぱり分からないながらも口出しし始めた。

 

「あっ委員長、あっちの服もいいんじゃない? えーっと、何ていうのかな、ああいうの……」

 

「チェニック」

 

「そう、それ」

 

 圭太は自分なりに頑張って論評したり提案したりしてみた。

 しかし委員長は圭太の意見をやんわりと、しかしことごとく却下していく。言外に圭太のセンスの悪いことを匂わせて。

 やがて圭太が口を出しても委員長は「うん」と答えるだけでまともに取り合わなくなった。

 すっかり自分のセンスに自信を無くした圭太、買い物は委員長に任せてしまおうと思った。

 

「僕は喫茶店で待ってるから」

 

 圭太がそう言って店を出ようとすると、

 

「ま、待って、わたしも……」

 

 助けを求めるような美々面の声が聞こえたが、圭太は気付かないフリをしてその場を後にした。

 

 

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