東方空狐道   作:くろたま

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ここおかしくね?みたいなところがあれば、御一報ください。


畜生道なめんな おや…?狐の様子が…

 

 

昔々大昔に狐に生まれて早七百年。正直もう生物として長生きってレベルじゃないぜ。二尾の白狐の母を見て仰天したのも今では懐かしい。

そもそも母含めて兄弟達とともにいたのは生まれて一年程度だった。みな早々に巣立ちをすませ散り散りにどこぞへと去っていったのだ。母狐ですら『夫捜す』的な事を言って巣から出て行ったのだからこの時代の狐はまぁずいぶんとアグレッシブだと思ったものだ。

 

実際、俺の知る現代と比べると狐に限らずこの時代に生きる生き物はどれも強かった。俺とて別に肉球パンチで戦うわけではないが、生体エネルギー?的なものを丸めてぽんぽん外敵に放り投げそのうちに逃げ出すといった風に生き延びてきたぐらいだ。

 

それに異形の者を見ることもままあった。巨大な蜘蛛であったり、ぬめぬめした蛇なようなものだったり、足がいっぱい生えているのに胴体がどこにあるか分からない謎生物だったりと正直俺の知っていた世界とはまるで違う。

 

まぁとはいっても俺もその化け物連中とある意味同類なわけでして。

 

母狐が二尾だったので、俺は母狐がいわゆる妖狐ではないかと考えていた。ちなみに生まれた当初の俺の尻尾は一本である。あたりまえだが。それはともかく、妖狐ならばもしかして人間に化けられるんじゃないかと俺は考えたわけだ。何せ獣の前足でできることなどたかが知れている。俺は以前のような便利な両手が欲しかったのだ。

 

が、この世界で百年を過ぎたあたりで俺はほとんど諦めていた。狐の身でありながらこれだけ長生きするのも驚くべきことであったが、しかし百歳になっても俺は一尾のままだったのだ。その上身体は1m足らずで、大して成長もしていない。母狐は少なくとも全長2mはあったのに。そもそも尻尾が増える事はともかく人型になれることには微塵の保証がないのだ。長らく生きてきたが、人型の生き物は今のところうほうほ言ってるけどとりあえず二足歩行はしている猿八割人二割のものしか見た事はない。案の定意思疎通ははかれなかった。というか食べられそうになったし。原始人(?)こわい。

 

そんなこんなでさらに数百年は各地を転々としながら細々と生きながらえていたのだが、転機が来たのは五百年目のことだった。

その日は、朝起きてからとにかく違和感しかなかった。風景がいつもと違って見えたり、動きにくかったりとそんな感覚を意識しながらとりあえず俺は四肢に力を込めた。

そこでようやく気づいたのだ。自分に手足があることに。

五百年ごしの人間の身体だったために違和感を感じるとは、ずいぶんと狐の身体に慣れてしまったものだ。

 

ぷるぷると生まれたての小鹿のように足をふるわせながら立ち上がり、俺は自分の身体をよく観察してみると、身長140cmほどの少女、幼女?になっていた。…今更女になっていることは驚かない。そもそも狐に生まれたときから雌というカテゴリだったのだから。そして雌であることに違和感を感じる前に狐であることに違和感を感じていたため、いつの間にか自身が雌であることには慣れてしまっていた。まぁついてるかついてないか程度の差だったわけで。人型になった後もそれはあまり変わらない。

 

人型になった俺の身体は狐状態だったとき同様非常に小さい。狐だったときよりも大きいは大きいが人間の中で言えば小さい部類に入るだろう。

狐状態の俺の体毛は白だ。別にキタキツネだとかそういうわけじゃない。森の中でまるでカモフラージュできないその身体に頭を抱えたのは一度や二度ではなかったが。それはともかく人型になった今もそれは変わらず、真っ白な髪に真っ白な肌となっていた。また頭には真っ白な狐耳があり、腰には二本の尻尾があった。二尾になるまで五百年かかるとかどんだけーとか思った俺は悪くない。

 

ところであまりの衝撃にスルーしていたが、人型になった俺はなぜか服を着ていた。今まで狐として裸一貫で過ごしてはいたもののこうして体毛のないすべすべの身体になった今では服がある事は非常に助かる。しかしなんでこうなったのかが全く分からない。結局突然人型になったこと以上に不毛だったので考える事は止めてしまったが。

袖や裾で広がっているずいぶんとゆったりとした単純なつくりの白い着物、といったふうなデザインなのだが、妙に身体には馴染んでいた。それこそ狐だった頃のあることがもはや自然だった体毛のようにだ。つまるところ、これはそれの代わりのようなものなのだろう。

 

その後二本足では歩きなれない、というか歩き方を忘れてしまった俺はふらふらしながら近くにあった泉へと向かった。逃走手段として生存本能の賜物かいつのまにか空を飛べるようになっていたが、今回は徒歩を選んだ。早いうちに身体に慣れる必要があったのだ。さもなければミミズやらアリやらに食べられてしまう。無論魔改造的なミミズやアリだが。五百年と比べてずいぶんと力の増した俺だったが、この身体がどれほど使えるか分からないような状態ではどうにもならないのがこの世界の法則だ。

 

水面を覗きこんでみると、表情に乏しいが、狐の時とは違う丸い瞳孔の金色の瞳を持つ掛け値なしの真っ白な美少女がこちらを見ていた。ぺたぺたと顔を触ってみると、水面に映った少女も華奢な手を顔に当てていた。どうやらこれが俺らしい。

ちなみに表情を変えてみようとぐにぐに口やら頬やらをいじってみたが、ほとんど無表情なままだった。どうやら俺は表情筋の使い方も忘れてしまったらしい。

 

さて話は戻るが、人型になったことを契機に俺はこれまで定住地を捜していた。人型になった俺の身体が相当ハイスペックである事を知ったためだ。ここ二百年は逃げる事を止め負け知らずである。もう住まいを転々とする必要はない。

五百歳になってから二百年、いい場所を見つけたのはそんな時だった。

俺は人型になったことをいいことに、行く先々で畑を作っていた。食は暇を潰す重要なファクターのひとつだったためこれは外せなかった。そしてそれに最適な場所をようやく見つけたのだ。

 

俺は畑のそばに小さな小屋を建ててそこに住む事にした。

畑には今まで集めてきた様々な植物が植わってある。にんじんみたいな大根だったり、植木みたいなブロッコリーだったり、毒のあるピーマンだったりもどきの類がかなり多いが、それでも俺は満足だった。

 

さて、ようやく安定した生活に入った俺は太古に生まれてほとんど諦めていたことに着手することにした。

 

そう、『Sake』だ。

 

俺は人間だった頃酒が好きだった。

未成年ではあったが、隠れてよく飲んだものだ。初めての出会いは、酔拳を試みたときだった。いやいや、あの頃の俺はまだまだ若かった。無論酔ったところで酔拳が出来るわけではないのでそちらは失敗したものの、俺にはそれ以上の収穫というか出会いがあったわけだが。

 

幸い、以前各地を放浪していたときに稲を見つけていたので、原料は何とかなる。…そういえば日本に野生の稲なんてあっただろうか。いや、元の世界を基準に考えても仕方ないか。そもそも諸説はあっても事実なんて現代には残っていないし。

 

稲の量産に二十五年、とりあえず飲めるものができるまで八十年。あくまで『飲めるモノ』→『液状のナニカ』であり、正直言って不味い、不味すぎる代物だった。むしろほとんど何も知らずにここまで来れた俺を褒めてやりたいぐらいだったが。時間がいくらでもあることは幸いだった。酵母菌の用意に特に苦労したのもいい思い出だ。

その手法を主軸に、結局妥協できるものが造れるようになったのは三百年後のことだった。その頃には俺の尻尾は三本になっていたが、それもおまけのようなものだ。俺の知る時代のものには未だまるで敵わないものの、長い時をかけてようやく作り上げたという達成感はたまらないものだった。

 

 

ところで、さりげなく毒ピーマンとやらがあったが、俺には毒は効かなかったりする。それは俺自身の持つ能力のせいだ。

 

『式を司る程度の能力』

 

生まれた時から、俺はこの能力の存在には気づいていた。が、俺は大して役に立たないものだと考えていた。能力の特性か数字の類には滅法強く、円周率など億単位で小数点以下が出せるが、正直野生に生きる俺には意味がない。他に冠婚葬祭司ってどうすんねん、神職でもするんかいなとかやさぐれていたが、この能力の便利さに気づいたのは落ちていた木の実を広い食いしてしまった時だった。

小さい林檎のようなその木の実は実のところ非常に毒性の高いもので、特定の動物しか食べられないようになっていた。しかし、俺はそれをうかつにも口にしてしまったのだ。が、俺が毒に苦しむ事はなかった。食べた途端その毒の化学式が頭に浮かび、同時にそれを無害なようにばらばらにしてしまったのだ。なんらかの化学反応を生じたわけではなく、超上的な力で無理やりにだ。

 

それからは、今までは大して調べようとはしなかった能力頻繁に試してみるようになった。基本的には数式を解く時などに自動的に発動しているようになっているが、化学式を操ったように意識的に使うこともできる。

空気中の分子式がいじれる事を知った時は特に驚いたものだ。同時に反則すぎる能力にも呆れたが。これで地球温暖化も解決だぁとか思ってみたが、今はまだ手元の式しか操れないのでやってみたところで焼け石に水だ。そもそもそんな世界的問題もずいぶんと先の事のことだ。

 

今は爪の先ほどのフラーレンを作ってみたり、石を放り投げてあらゆる障害に至るまで計算しつくし落ちてくるまでの時間を誤差なく割り出してみるとか地味な使い方しかしていないが、未来ではとてつもなく使える能力となるだろう。特にネットワークでも発達すれば俺の独壇場だ。定められている一定の方式でつくられた世界は俺にとって鴨もいいところだろう。

 

 

そんな事を考えながら、また何年も酒造りや農業、能力開発にいそしむのだった。

俺の知らないことはまだまだいくらでもある。能力同様幼い頃から知覚していた生体エネルギーのことも未だによく分からない。

結局俺だけでは解明させることはできなかった。俺が俺にとっての武器であり生命線であるこれの正体を知ったのは、それから千年ほど経った頃。狐になってできた初めての友人に教えられたのだった。

 

 


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