東方空狐道   作:くろたま

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禍々しき白狐

 

 

「…ふぅん。場末の弱っちぃ土地神かと思えば、結構やるみたいねぇ」

 

地へと無様に落ちていった柱を、どうやってか跡形もなく消した神がそう言った。

 

俺は…正直状況がよく分からない。

近くで力がぶつかり合っていてうるさいから目を覚ましてみたら、片方が紅花だったので急行して来ただけ。来てみたら、なんか危なくなってたので間に割り込んだ。で、紅花の相手をしていたのはこの神様と。

 

目の前にいる女神は一応俺のお客らしいが、言葉から察するにどうやら俺と戦いに来たらしい。つまりだ。俺達に喧嘩を吹っ掛けてきたということなのだ。俺や紅花より若いが、それでもその身から感じる神力は相当なもの。俺も詳しくは知らないが、この時代の神は信仰から神力を得るらしい。ということは、さぞや人々から畏れられる存在なのだろう。

 

で、結局何しに来たんだコイツは。

 

「あんたが俺に喧嘩を吹っ掛けてんのは分かったが…俺に勝って何か得があんのか? 何も無いってんなら…何しに来たんだあんた」

 

女神は偉そうに腕を組んで、示威行為か神力みなぎる柱を再びいくつも出現させながらのたまう。

 

「お前の信仰を、力で奪いに来たのよ。あぁ…降伏は受け付けてるわ、さっさと私の軍門に降りなさい」

 

お前の神力よこせ。

非常に分かりやすい。こうしてまっすぐに向かってくる輩は好感を覚える。しかし、彼女は彼女なりの礼儀があるようだが、とりあえずアポぐらい入れて欲しかった。急に来られたら、びっくりするじゃないか。

 

「分かりやすいな。そういうのは結構好きだ。だが、俺が信仰から得てる神力はあんたのと比べれば、まぁ小さいものだぞ?」

 

「景気づけよ。これから大物を喰らいに行くところだったの。お前は、その、ついで」

 

「そうかい。寄り道せずに真っ直ぐ行きなよ。世の中には怖いヒトだって沢山いるんだぞ。それに、迷子になったら困るだろう? お嬢ちゃん」

 

「…交渉決裂ね。予定通り、力尽くで叩き潰して奪ってやるわよ」

 

がしがしがしと、女神の周りを浮いているだけだった柱が俺の方へと一斉に向いた。今までただ無秩序に垂れ流されていた神力も、全てが俺に敵意をもって向けられている。なるほど、どうやら彼女は戦闘が専門の神のようだ。俺とは違うな。…俺って一応食べ物の神様だよな、そうだよな。

 

「お母さん…」

 

「紅花、こいつを、休ませといてくれ。紅花も下がっとけよ?」

 

不安そうな声を俺にかける紅花に、俺は背負っていた瓢箪を投げ渡した。

 

「え、でもこれ、お母さんの、武器じゃないの?」

 

「違うよ…。そいつはあくまで酒器だ。激戦にも耐えうる至高の一品だが、本職は断じて武器じゃない」

 

「…よく分かんないけど、分かったの。私は、下がってるの」

 

「気をつけてな。出来れば屋敷に戻っといて欲しいんだが…まぁ戻らないよなぁ。流れ弾が当たっても危ないだろうし、遠くにな」

 

「うん。…お母さん」

 

「ん?」

 

「頑張るの!」

 

「…あぁ。ありがとな」

 

俺の渡した瓢箪を抱き締めると、紅花は尻尾を振りながら俺達から離れて行った。この女神の力を考えると、余波も大きなものになりそうだ。だが、こうして誰かとがちんこするのも久々だ。昔はイザナギとかマガラゴとかスサノオとかとやりあったんだけどな。となると、数億年ぶりか。そりゃすごい。

 

「話は終わったの」

 

神力をばしばしぶつけながら今にも攻撃しそうな状態で、しかし待っていたらしい女神が俺に言った。

 

「あぁ、悪い。待たせたな」

 

律儀な女神に軽く謝罪すると、女神は上から目線のままに続ける。確かに、俺は信仰から得ている神力しか出していないので向こうの方が格上に感じられるのだろう。ところがどっこい、どれほど格下であろうと警戒は怠るべきではない。

 

「いいわよ。それより、遺言は済ませたの? さっきのが末期の会話かもしれないわよ? 何せ、今日が、今が、お前の命日なのだからね!」

 

「遺言は伝えてないが、昼の献立は伝えておきたいな。どうせすぐに終わるんだ、あんたも食ってくかい? あぁ、それとも、立つ鳥跡を濁さず、負けた後はさっさと尻尾巻いて逃げてくれるのか?」

 

「…ほざけ土地神風情が。軍神の力、思い知るがいいわ!」

 

「舐めるなよ軍神。億年重ねた禍物の重み、その身に叩きこんでくれる!」

 

 

 

 

 

ゴゴン!

 

高速で投げつけられた柱を、ウカノは素手で殴り飛ばす。

 

言葉の応酬が終われば、あとは力の応酬である。双方の濃密な神力が広い空の上で惜しみなくぶつけられた。

 

次々と迫り来る弾幕をいくつもの式紙で撃墜し、紛れて走る柱を避ける弾く止めると様々な手管でかわしてゆく。

その空は、紛れもない戦場だった。二人以外の何かが混じれば、場に満ちる力だけで擂り潰されてしまうだろう。それほどに二人の力は、攻守は苛烈だった。

一つで人一人を殺せそうな塊が間を飛び交い、神同士の戦いをただただ強く印象付ける。

 

ただ、ウカノが激しく動いているのに対し、軍神は一寸も移動していない。ただ目を細めウカノを上から見下ろしている。

 

「おいおい。そのままじゃぁ面白くないだろう?」

 

それを見て、ウカノはそう小さく呟き、言い終わると同時に手の先も見えない袖を軍神へと掲げた。手を止めたウカノへと、容赦のない攻撃が降り注ぐが、しかしそれらは全て袖の奥から堰を切って溢れだした無数の式紙に阻まれる。

 

まるで重厚な壁のように式紙は広がり、軍神の視界からウカノを覆い隠し、さらに勢いを増す攻撃すら一寸も通さない。さらに壁だけには留まらず、壁の一部から細長いものが飛び出したかと思うと、それは一気に龍のような炎に変わり軍神へと顎を開いた。

そして、軍神に向かうのはその一つではない。壁を形成していた膨大な数の式紙が次から次へと炎龍へと変じ、その全てが軍神に牙を剥く。

 

「つまらない手品だわ。その程度で、私が倒せると思っているの?」

 

だが軍神は数十匹の炎龍を前に一歩も退かない。一際太い柱を出現させると、それを片手で軽々と、しかし凄まじい勢いで振り回した。ごうとかき乱された空気が叫び、巻き起こされる風はさながら局地的な台風である。その様は、まさに荒ぶる神だった。柱に接触した炎龍はなすすべなく吹き散らされてゆく。これでは龍というよりはむしろただの蛇だ。

 

「――そいつは俺の台詞だ」

 

しかし、もっとも軍神に近づいていた炎龍が散らされた時、その中から白い少女が飛び出した。先にいる軍神に腕を振り上げ無表情に続ける。

 

「あんなちまちました攻撃で、俺を落とせると思っていたのか? いつ……がっ!?」

 

が、軍神に届く前にさらにもう片方の手に現れた柱に、呆気なくその身を捉えられる。横振りの長大な柱が胴に直撃し、細い身体の上半身と下半身がくっつきそうなほど折れ曲がった。

 

「そんな手が通じると思う? しょぼいのよ、お前。さっさと落ち」

 

「いつまで俺を見下ろしてんだ?」

 

その声が後ろで聞こえると同時に、柱にぼろ雑巾のようにひっかかっていた白い少女は紙に変わり、ちりぢりになっていった。軍神はそれを目で見、理解する。そして、振り向くと同時に柱を引き戻そうとするが、しかし時既に遅く式紙で作られ固められた巌のような鎚を、半透明になったウカノが軍神の真後ろで振り下ろした。

 

ドゴッ

 

壮絶な音とともに、今まで最初の位置から動かなかった軍神の身体が大きく吹き飛んだ。紙で出来ているなどと到底思えない硬さ。一枚では到底神を傷つけることなど出来ない。しかし、それが十枚なら、百枚なら。もしもそれが千枚でできた塊ならどうだろう?

 

軍神は噛み締めていた。一匹の、自分よりはるかに脆弱なはずの狐神に入れられた痛烈な一撃を。まるで天から降ってきた星石のごとき、重き一撃。それは今槌の形を崩し、再び一枚一枚の貧弱な式紙へと戻ってゆく。そして、それを振り下ろし自分を天から叩き落とした、白い小さな少女が自分を見下ろしている。

 

「――ぉぉおおおあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

叫び声にも等しき苛声が、軍神の口から迸る。ギシギシと体が軋むのも無視し、軍神は慣性に従って飛んでいた身体を空に固定し、渾身の神力をもって四本の柱を呼び出した。それは今まで弾として使われていたものとは違い、まるで発射寸前の砲門だった。そして、その見かけに違うことなく膨大な神力がその柱からレーザーのごとくウカノに向けて四本発射された。

 

ウカノは、軍神への意趣返しか腕を組み不動の態勢で、尻尾を三本ゆらりと揺らめかせると、その三本から対抗するかのように三本のレーザーもどきを発射する。

 

四-三、単純な引き算だ。軍神の発したもので止められたのは三本の光線。残った一本はウカノに直進する。

しかしウカノは不動の態勢を崩すことなく、前方に複雑な結界を幾枚も張った。光線はその結界にあたると何度も反射し、一秒も経たないうちに見えないほどに細くなり消えていった。

 

が、軍神もいつまでものんびりとはしていない。再び長大な柱を二本手にすると、今度は直接それを振り上げウカノへと攻撃した。

 

「はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ごがっ

 

確かに、柱はウカノに接触する。しかし、直撃はしていなかった。

またも幾枚もの式紙が、今度はウカノの腕に取り巻き巨大な一つの腕を形成していたのだ。その、ウカノの身体すら包みこんでしまいそうな巨大な腕は、渾身の力で振られた柱を易々とその一本だけで受け止めていた。

 

そして、残ったウカノのもう片方の腕に高速で式紙が取り巻いてゆき、さらにもう一本の巨大な手を作り上げる。

 

「おらあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

「くあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

ごおぉぉっん!!

 

ウカノのその手と、軍神の柱が、凄絶な衝撃波を撒き散らしながら激突する。さらにそれだけでは終わらない。ウカノの巨大な腕は二本、軍神の長大な柱も二本。周囲の空間を巻き込み、先とは比べものにならない強大な力と力の応酬が始まる。

 

 

 

「も、もっと離れるの」

 

随分と離れた場所で、さらに結界まで幾重も張って観戦していた紅花はそう呟いた。遠くのはずのぶつかりあいの余波で、結界はぎしりぎしりと、その精密な構成に歪みを生じ始める。ゆっくり後ずさりしながら、紅花は巨大な腕を振りかぶるウカノを見上げ預けられた瓢箪を抱きしめた。

 

 

 

右へ左へ上へ下へ奥へ手前へ、最初のぶつかり合いなど児戯に思えるほどの激突が、草原の上空で繰り返されていた。

腕と柱の衝突も、既に高速という表現すら軽い生ぬるい。双方は豪速で武器を振り回し、打ちあわされる度にその余波は草原を荒地へと変えていく。

 

ウカノにとって、これほどの激戦はスサノオ以来だった。イザナギ相手では力差がありすぎて、これほどの戦闘にならなかった。そしてマガラゴとはこれほど激烈な遊戯をすることはなかった。

いや、スサノオですらこれほど激しくはならなかったかもしれない。それはスサノオが劣るというわけではなく、ただ場所がなかったということだが、それでも今の相手である軍神は強かった。

 

ただのぶつかり合いでは攻めきれないほどに。

 

一方軍神の顔は、空を飛びまわりウカノとぶつかる毎に歪んでいった。対するウカノの顔が未だに涼しげであることが、さらにそれに拍車をかける。今の戦いは、紛れもなく軍神の全力である。それでも届かない、削れない。自分よりも小さな少女に少しずつ疲労させられていくことに、軍神は焦りを覚えていた。

 

最初は、本命とやりあう前の準備運動程度に、そこらの土地神を引っ掛ける程度に考えていた。だが開けてみればどうだ? ちっぽけな存在を瞬殺するどころか、圧倒されている。

 

彼女は、大和の神々の中でも、とりわけ強力な一柱である。ましてやそれが戦いの分野となれば、仮にも軍神なのだ、数いる神の中でも彼女は最高の一柱だった。それゆえ、こうして自分の領分で押される事は今までなかった。…だからだろうか。彼女の中には、苛立ち怒り戸惑いの他に、おかしな高揚感が確かにあった。

 

ガァン!

 

一際大きな音ともに腕と柱がぶつかり、二人の距離が必然的に離れる。

 

「……」

 

「はぁ…はぁ…」

 

どちらが押されているかなど、一目瞭然だった。ウカノが汗一つ掻いていないのに対し、軍神は呼吸が乱れ大きく息をついている。疲労度が両者の間でまるで違っていた。

 

と、肩を動かす軍神の目の前で、ウカノが巨大な両腕を元の式紙にばらしてゆく。

 

「…何を、してるの」

 

疲労のためか、それとも怒気のためか絞り出すように軍神が言った。

ウカノはばらした式紙を、手を上に掲げて頭上に集めながら答える。

 

「名のある軍神と、蜜月のごとく拳で語り合うのも心躍るが、いつまでも紅花を待たせるわけにもいかなくてな。あんたを普通に落としても、駄目そうだし、どうせなら最後に今の最高の一撃で落とそうかと」

 

それを聞き、軍神はにやりと笑い、息を整えて腕を組んで宙に仁王立ちになった。そして自身の神力を高めてゆく。彼女にとっても、正真正銘最後である。

 

「面白いわね。受けてたつわ……何をしてるの」

 

と、再び軍神が聞く。それもそのはず、ウカノは自分の神力を小さくし始めたのだ。それとともに、頭上の数多の式紙は光り輝く光点となり、いくつもの線をつくり複雑怪奇な図形のようなものへと変わってゆく。

 

「準備だ。……折角だ、少し話をしよう。なぁ、柱の。『禍気』って知ってるか?」

 

「…知らないわね。それと、私は『柱の』じゃなくて“八坂神奈子”よ。覚えときなさい、狐の」

 

「そうか。『禍気』ってのは――まぁ詳しい説明はどうでもいい、今世界に満ちている、霊力や神力、妖力みたいな力のことだ。で、俺はウカノな。覚えとけよ、“神奈子”」

 

言葉には言葉を返し、二人は正しく会話をする。しかし、その間にも軍神は、神奈子は少しずつ疲労から回復してゆき、さらに神力を高めてゆく。それと反対に、ウカノの神力はどんどん小さくなっていった。頭上の図形は相変わらず怪しく瞬いているが。

 

「…あぁ、分かったわ。自然の力のことね。『禍気』と言うとは知らなかったわ」

 

「自然の力…。あんたからすれば、その認識なのか。いや、今じゃそれが正しいんだろうな。かなり世界に馴染んでいるし、それにずいぶんと薄くなってしまった…」

 

「何を言ってるの…?」

 

「あぁ、本題はこれじゃない、さっきのは忘れていい。…実はな、『禍気』にはとあるものと引き合うという特性があるのさ。ずいぶんと昔に出来た、『自然の摂理』だ。俺もな、それそのものを作り出すことはできないんだ。『感情』なんて代物、デジタルな頭で物質化できるはずがない。

 

だがな。

俺でもその特性を再現することぐらいは、出来るのさ。

 

 

とびっきり強力にしてなぁ!」

 

途端、ウカノの頭上にあった複雑な図形が一際激しく瞬いた。そして、それと同時に凄まじい速度で二人の周囲、辺り一帯から力が図形へと吸い取られてゆく。物理的な質量を持たないはずの『禍気』が、まるで強風のように、ウカノの頭上へと集結してゆくのだ。

 

「なっ……」

 

神奈子は、言葉を失う。辺り一帯の『禍気』を吸い取る、だけではなかった。

彼女の見ている前で、神力を収めたウカノの身体から今度は『禍気』が噴出したのだ。確かに、『禍気』は世界に満ちているだけあって生きとし生けるもの、誰もが持っている。それぐらいのことは彼女も知っていた。

だが、それを神力や霊力同様に使うことができるのは、自然の体現とされる妖精ぐらいのものだ。

しかし、ウカノは妖精のように『禍気』を我がもののように扱い、さらにはウカノから放出されるその『禍気』は妖精や世界のものとは桁違いの濃度を持っていた。

 

「お前は、なんなのよ…!」

 

ウカノの放出した『禍気』すら吸収した頭上の術式は巨大な球体を形成し、その空間の景色すら歪めそこに不気味に静かに座していた。既に、その総量は神奈子の神力を大きく上回っている。質は確かに神力の方が上だ。だが、広大な空間から丸ごと吸い取り、ウカノの高濃度の『禍気』を加えたそれは、格上の神力を圧倒的な物量で押し潰している。

 

「今は、神をやっているし、ある意味妖怪でもある。だが俺の原点は『禍物』。太古の地上を支配していた“化け物”さ」

 

その『禍気』の球体にいくつもの円環が巻きつく。さらに、神奈子に向けて円環が道を作る。それは、まさに砲台だった。果てしない強大さを持った力が、砲弾の。

 

ウカノは既に『禍気』の運用法を確立していた。ヒントは、ウカノの人間時代の記憶にあったのだ。

あの時代の空想学である、『魔法』。その、魔法陣。無論、ほとんどはウカノのオリジナルだが、ウカノは魔法から円陣やその他いくつかを模倣した。結果は作用としてかっちり合致、ウカノはそのままそれを術式として昇華させた。

 

『禍気』とは、世界の歪みから生まれた力である。ならば、その使い方がもっともはまるのは当たり前のこと。

起こすべき事象を特有の技術でプログラムし組み立て、起動することで既存法則、自然摂理を一時的に歪める、あるいは手順に逆らい別プロセスでそれらを人為的に起こす。

 

それが、ウカノの見つけた式だった。

 

「これはそれほど複雑なものじゃなく、本質は弾幕と同じものだがな。…さぁ、俺の準備は整ったぞ。最後のがちんこだ、あんたの神力も完了か?」

 

「………っ」

 

全力の神力、一本に集中し、御柱を出現させる。消耗しているとはいえ、軍神の全力。そこいらの神なら一撃で落とせるほどの力があった。だが、それでもウカノの頭上に出来上がった巨大な砲台から放たれるものが止められる気はしなかった。

 

それでも神奈子は退かない。自分で売った喧嘩から途中で逃げ出すなど、卑怯者にすら劣る行為だった。そしてそれ以上に、彼女の誇りは戦いから背を向けることを許さない。

 

片や清純かつ濃密な神力、片や純粋かつ超弩級の禍気。双方の覇気が間の空気を圧迫する中、

二人は同時に叫んだ。

 

「っ発射()ぇっ!!!」

「禍々式『大禍鬨』!!」

 

神奈子の御柱から、四本の時の数倍の極太の光線が放たれる。軍神の名に恥じない一撃、数多の人間だろうと妖怪だろうと神だろうとこれの前には地に臥すことになるだろう。…が、相手が悪かったと言うべきか、ウカノの砲台から撃たれたのは線ではなく、それはまさしく壁だった。その光壁は神奈子の光線を軽々と飲み込み、彼女の視界を禍気の光で埋め尽くす。端など、この光を前にしては見ることなどできはしない。

 

そして、神奈子の身体も光壁に飲み込まれ、意識も同時に光の中で呆気なく弾けて飛んでしまった。

 

 


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