東方空狐道   作:くろたま

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聖地を荒らしてはいけません

 

 

未来からの来訪者、紫は、結局俺の地に留まっている。なにやら色々と思うところがあったようだが、さすがに心中までは読めない。ただ、やはり元いた時代のことは捨てられないでいることは分かった。どうやら大切なものを置いてきたらしい。

それに関連してか、紫はタクリに術を学び始めた。が、紫はいわゆる鬼才だった。タクリに学び、わずか数ヶ月で全ての行程を終えてしまったのだ。しかもタクリの知識は霊力関連のものだったにもかかわらず、紫は自力でそれを自身の妖力で扱えるようにしてしまった。俺のように能力の恩恵を受けているわけでもないのに、末恐ろしい。紫曰く、人間だった時はこれほど頭はよくなかったらしいが、元々妖怪の因子のみに特定して優秀だったのだろうか。

 

タクリから全てを教わった後は俺のところにやって来た。タクリに俺がタクリ以上の術者であることを聞いたとか。別に断る理由もなかったので教えることにしたのだが、そうして分かったことがいくつかある。特に結界関連の術には正直かなり目を見張るものがあった。既にタクリのものよりも強固なものを張り、紅花の張るものすら追い越している。おそらく能力による後押しも受けながら、それでいて頭の優秀さがそれに拍車をかけているのだろう。

 

ただ式神に関しては憑依までしか使えていない。紫が言うには、自律式神はまともな者が使う術じゃないというのだが…それは俺や紅花がまともじゃないと受け取ってもいいのだろうか。

 

そういえば紫は俺のところに居候しているのだが、何故か紅花と仲が悪い。というより紅花が紫を敵視しているような。紫自身も何故あんなに睨まれるのか分かっていないようだった。

埒が明かないので紅花に直接聞いてみたが、それでもよく分からない。『アイツを見てると、なんだかざわざわするの』っていったいなんだろう。

 

ただ、その言葉のヒントは紫と話している時に見つけることが出来た。どうやら紫はこの地に来るまで、人間と妖怪に追いかけられていたらしい。人間に追いかけられたのは分かるが、妖怪は何故だろう? そう考えてみて上げられたのは霊力の残り香だが、それ以外にも思いあたることはあった。妖怪は、紫の姿を見てすぐに襲い掛かってきたわけではなく、少し間をおいて襲ってきたらしい。推測だが、彼らは本能的に紫の能力に気付いたのだろう。だからこそ力の弱いうちに潰そうとした。

 

紅花も似たようなものだろう。紫に対して潜在的な畏怖を覚えているのだ。なにぶん、紫の能力は一妖怪が持つものとしては強力に過ぎる。論理的な創造と破壊の能力、神にすら匹敵するであろうその能力は、生き物という存在からしてみれば恐怖でしかない。

 

ただ強力とはいえ、紫もまだそこまで十全に扱えているわけではないらしい。ああいうタイプの能力は概念に干渉してからが本番だが、まだまだそれも遠いようだ…。百年か二百年か、複雑な能力はそれだけで修めるのに時間がかかる。純粋に難易度が高いとでも言えばいいか。紫ならそう遠くないうちに極めてしまいそうだが。

 

 

 

俺はといえば、以前と変わらず自由奔放に生きている。気の向くままに諏訪に遊びに行ったり各地を飛び回ったり、時には海を越えたりしている。土地神としてそれはいいのかとか思われるかも知れないが、一応屋敷に“俺”は常駐しているので問題ない。俺が九人もいるってホントに便利だな。

 

さて、そんな日常に変動があったのは諏訪の地に遊びに行った時だった。諏訪子はいつも通りだったが、神奈子はどこかそわそわしており様子がおかしかったのだ。諏訪子いわく数日前からあの様子だという。

 

「あぁウカノ、いいところに来たわね」

 

「嫌な予感がするからさっさと帰るわ」

 

「ちょ、待ちなさいよ、あなたにも関係ある話だと思うんだけど」

 

その言葉に引きとめられて結局神奈子の話を聞くことになったのだが、俺に関係のある話かどうかは微妙だった。…ただその内容には大いに興味は引かれた。

 

“アマテラス様の祭壇のある辺りがどうもおかしい”

 

神奈子の話を要約すればつまりこういうことになる。アマテラスの祭壇、つまり聖地は、あくまで地上における重要ポイントであり、そこがどうにかなったところで天界にいるアマテラスには何の影響もない。ただ、俺が気になったのはアマテラスの聖地の辺りで何か起きた、ということそれ自体だ。

 

地上で最大の信仰を集める太陽神、アマテラス。その最も強い影響下にある聖地で、そう簡単に異常があるとは思えなかった。むしろ天界で何かあったのか、とか思わざるをえないが、地上からではそれも確かめにくい。

 

諏訪を離れられない神奈子に代わり、そして俺自身も気になったということもあり、俺はアマテラスの聖地がある出雲に向かうことにしたのだった。

 

 

 

 

 

俺の屋敷から、西へ西へと飛べば出雲につく。アマテラスの聖地はその出雲の端っこだ。その辺りには元々大和の神々の本拠地もあったが、今は大和の神々でも有力な神だった大国主とやらが封印されてあやふやな状態になってしまっている。各々の神が各地の土地神に喧嘩を売りに行ったのも一因だが。さて大国主の封印の原因は色恋沙汰という話だ。内々でもめて暗殺とかもされたらしいが、『滅びぬぅ』とか言って何度も蘇ってきたあげく自重もしなかったらしいので、最終的に封印という手段がとられたとか。

俺にはどうでもいい話だが。風の噂では封印されても元気にやっているらしい。歪みねぇなオオクニヌシ。

 

閑話休題。

 

出雲に入って俺が感じたのは、違和感だった。外と内の空気が違う。具体的には、大気に満ちる禍気の質だ。現在世界に広がっている禍気は、昔と比べればそれこそ空気のようなもので、基本的には無害の代物だ。時折生態に変化を生じさせることもあるが、それらは自然の成り行きと見過ごせる程度のもので済んでいる。

 

が、今出雲に漂う禍気には何か混ざっていた。というより、何か汚染されているような、そんな気さえする。それこそ、『あれ? なんかガス臭くないか?』程度の違和感なのだが、俺の嗅覚にはどうも気に触る。

しかも聖地に近づくにつれ濃くなっているのだから、始末に負えない。本来は清浄な地であるはずの聖地がこの有様とは、今回の異変は性質が悪そうだ。

 

 

 

「……? 何だ、これは」

 

飛び続けて一時間ほど、俺が聖地ではじめに見つけたのは真っ二つに折れた石柱だった。奥へ奥へ進む度に、破壊されている石柱が増えてゆく。むしろ、無事なものの方が少ないほどだ。断面は粗く、ただただ純粋な力で壊されているらしい。

 

「神、妖怪、人間……ありえるとすれば、神ぐらいのものだが…」

 

人間は論外、妖怪も、並みの者では聖地に入ることすらおぼつかない。仮に大妖怪クラスのものだとしても、アマテラスの影響下にあるはずの石柱をこうもやすやすと壊せるだろうか。一本や二本ならまだありえるかも、と思えるが、しかしこれは多すぎる。ぶっちゃけ大妖怪が押し寄せたとしか言い用がない有様だ。そして神という選択肢もこれまたありえない。壊すという行為のみならば神が適任だろうが、その壊す対象がアマテラスの聖地の要たる石柱群なのだ。神が太陽神たるアマテラスに喧嘩を売るような真似をするわけがない。

 

辺りをよく見てみると、ところどころの地面は弾け、雑に穿り返されていた。また何か重いものを引きずったような跡が各所にあり、巨大な何かが蹂躙していったかのような光景である。

どちらにしろこの状況では、もうここを聖地として扱うことはできないだろう。出雲に入った時から感じているおかしな違和感も、ここが一番顕著だ。不幸中の幸いなのは、辺りに悪影響を及ぼすほど濃くもないし強くもないというところか。時が経てば浄化されていくだろう。

 

ただこれの元凶は無視できるものではない。潰すか見なかったことにするかは、対象を確認してからだが。あわよくば話し合いでも出来ればいいのだが、アマテラスに喧嘩を売るようなやつにそれを期待しても無駄だろうか。

結局可能性が一番高いのは妖怪だ。今までにない巨体かつそこいらの大妖怪を凌駕する力を持つ望外の妖怪。少なくとも人間や神よりも元凶としては考えやすい。

 

犯人像をシュミレートしながら、俺はふと今の尻尾を見た。

 

「万が一を考えると、三本じゃ少なかったかな…」

 

俺の背では変わらず三本の白い尻尾が揺れている。

確かに霊尾三本で神奈子を圧倒したこともあるが、それでも上には上がいるものだ。例えば、地上に顕現していた本体より格段に弱いアマテラスでも、神奈子より力は大きい。そのアマテラスに敵対するようなやつだ、もしかしたら…ということもあるかも知れない。

 

「…まぁ、大丈夫だろ。上には上がいるとは言っても、むしろ神奈子の上にいるようなやつの方が極稀だしな…」

 

荒れ果てた聖地から点々と地面が抉れた跡が道のように続いている。まず間違いなく、元凶の足跡だろう。まるで蛇行するように滅茶苦茶な軌跡を描くそれを、俺はひとまず追いかけることにした。

 

 


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