天使の兄で、魔王の弟   作:神谷九十九

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ひとりロック

 

 打ち上げ。あるいは、結束バンド初ライブお疲れ様会。…長いな。

 まぁとにかく、廣井さんおすすめの店にやってきた。姉さん含め俺の奢りである。…廣井さん?もちろん自腹ですけど?

 各々飲み物を頼んで乾杯する。俺はまた梅酒だ。今日は飲みたい気分なので、いつもよりはペースを速めて飲むことにする。二杯目はレモンサワーにしよう。

 

「今日はよく頑張った。弟の奢りだから飲め」

「お兄ちゃんありがと~!あたしたち飲めないけど」

「俺の奢りだから微妙にかっこつけれない姉さん可愛い…」

「うるせぇな。もう酔ってんのか?…覚ましてやろうか」

 

 怖いから手鳴らしながら言わないでください。いや、ほんとに。やめて!近づいてくる!怖い!……ほんとに殴られるかと思った。まだ酔ってないけど酔い覚めた気分だ…

 

「後輩くん好き~」

「冗談でもそういうこと言わないでください。吐き気がします。あと廣井さんは自腹です」

「えぇ~いいじゃん別に~」

 

 やめて!近づいてくる!怖い!姉さんこの人の酔い覚まして!

 という感じで、開始早々遊んで(?)いるところに喜多さんから疑問の声が。

 

「ていうかこの人誰ですか?」

「誰よりもベースを愛する、天才ベーシスト廣井で~す。ベースは昨日飲み屋に忘れました~どこの飲み屋かもわかんな~い」

「一瞬で矛盾したんですけど…」

 

 またベース忘れたのかこの人……もっと大事にしてあげてください。最近ようやくもう一度だけ弾いた俺が言うことじゃないけど。

 

「私よくライブ行ってました…」

「え?ほんと?君見る目あるね」

 

 ここでリョウから意外なセリフが。観客に酒ぶっかけるようなライブに高校生が来るもんじゃない。飲んだらどうする。流石に警察沙汰はロックで済ませられん。

 まぁ演奏だけはいいから聞きたくなるのはわかる。俺もたまに行くし。CDでもいいけどやっぱり生は違うんだよな。

 

「観客に酒吹きかけたり、泥酔しながらのライブ最高です。顔面踏んでもらったのもよい思い出です」

「あれリョウだったのかよ」

「あれ?後輩くんライブ来てたの?言ってよ~」

「やべ、バレた」

 

 驚いてつい口に出してしまった。バレると面倒だからこっそり行ってたのに。

 っていうかリョウはあのパフォーマンス込みでファンなのか。しかも踏まれてるってことは最前列にいたのか。酒飲まされてないよな?ちょっと本気で心配になってきた。

 

「実力あるのに売れないの残念。バカテクバンドなのに…」

「こんなん大衆にうけたら世も末だわ」

 

 喜多さんが理解できないって顔してるが、一生理解しなくていいぞこんなもの。結束バンドは健全なバンドでいてくれ。頼むから。

 

「でも最後は大盛り上がりでよかったね」

「お客六人くらいでしたけど~」

「でもそいつ等は全員満足してくれたじゃん」

 

 廣井さんもたまには良いこと言うな。本当にたまにだが。

 確かにみんな満足してた。最初こそちょっと躓いたが、それを忘れるくらいの大盛況だ。もちろん俺も満足したし、後方腕組みが止まらなかった。

 

「私なんて、最初のライブの時二人しかいなかったし~そのうえパフォーマンスが怖かったのか逃げ出したし」

「今やお前のバンドは、洗練されたファンしかいないヘンタイバンドだもんな」

「姉さん、それ俺とリョウに刺さってる」

 

 あ、でもリョウ喜んでる。流石ベーシストだな。俺はベースを使ってはいるが、健全だから喜ぶことはない。シスコンだって?健全だろ。

 

「まぁ続けてけばどんどんファン増えてくよ。次のライブでも頑張れよ。ちゃんとノルマ代は払ってな」

「最後のセリフさえなければ感動したのに…」

 

 キメてる姉さんはかっこいいし、キメきれないところは可愛い。この二つを両立できる姉さん天才では?ちなみに虹夏は存在が可愛い。

 

「ぼっちちゃんも今日はすごい頑張った……真っ白に燃え尽きてる!?」

 

 すごい、本当に真っ白になってる。どうやってるんだこれ。ちょっとやってみたいんだが。あ、色戻ってきた。怖……

 

「ほら、料理どんどん頼んで」

「じゃあ私、アボカドのクリームチーズで」

「俺の金だよね?いいけどさ。レモンサワーと唐揚げ」

「ふふふ、イソスタにあげちゃお!」

「それって何が楽しいの?」

 

 無視ですかそうですか。いいけどね。全然傷ついてないからね。本当に。

 後姉さんはさっきから刺しすぎ。ロックがすぎるよ。

 

「まっマチュピチュ遺跡のミシシッピ川グランドキャニオンサンディエゴ盛り合わせで…」

「どこだ!?どこに書いてある!?」

「そんなメニューあってたまるか」

 

 ぼっちちゃん発想がぶっ飛びすぎてて面白い。どういう思考回路してんだ。これもまたロックなのか……ことあるごとにロックって言うの良くないな。やめよう。

 それと姉さんは真面目に探すのやめてね。学の無さ出てるから。

 

「あっフライドポテト……」

「私は酒盗」

「君いくつだよ……」

 

 虹夏と同い年だよな?虹夏が酒盗食ってるとこ想像出来ないんだが。

 いや、酒盗食べたけどあんま美味しくなくて、微妙な顔で舌出してる虹夏なら容易に想像できる。めっちゃ可愛い。もはや想像じゃなくて妄想だけど。

 

「廣井さんは何頼みます?」

「あれぇ~私は自腹じゃなかったの~?」

「あ、……あ~もういいですよ。会計分けるの面倒だし」

「やっぱり後輩くん好き~」

「あぁもうこっち来んな酔っ払い!」

 

 くそ、虹夏の妄想で油断して廣井さんに話しかけてしまった。しかも結局奢ることになったし。なんで俺はこうも甘いんだ。誰か俺を甘やかしてくれ。虹夏とか虹夏とか姉さんとか。…姉さんには甘えてるわ。ベース関係で。

 

「ああああぁニートくぁwせdrftgyふじこlp」

「ぼっちちゃんまたいつもの発作が…」

 

 うお、びっくりした。これいつもやってんの?俺あんま遭遇したことないけど。

 ニートだけ聞き取れたが、一体どんな想像をしてたのやら。是非とも結束バンドとして頑張ってくれ。

 

「もー!後藤さん顔!怖いのよねこの顔!」

「紙やすり頂戴」

「毎回この作業大変ですよね…」

 

 ごめん、ツッコミどころ多すぎて無理。なんでそんな冷静なの?目の前の光景を脳が受け付けてないんだけど。なんだこれ。飲みすぎた?水飲も水。

 

「後藤さんごめん。やっぱりもう少し修正していい?」

「郁代」

「!?」

 

 なんか歪んでるぼっちちゃんに話しかける喜多さん。その喜多さんに知らない名前で話しかけるリョウ。反応的に喜多さんの下の名前か。そういや聞いたことなかったな。

 

「今日のライブ、ギター初めて四ヶ月でよく頑張った」

「え?郁代って誰?」

「へへへ…だっ誰でしょうねぇ…そんなしわしわネーム……だっ誰の事かな?郁代ちゃーん出ておいで…」

「喜多ちゃんだ!!その顔伝染するの!?」

 

 突然ギターを褒め出すリョウ。メンバーの名前を知らない虹夏。ぼっちちゃん化する喜多さん。うーん、カオス。君たち酒飲んでないよな?空気で酔った?

 

「あ~あ!ずっと隠してたのに!!この名前嫌なんですよ!それにダジャレみたいでしょう!?きた~!行くよ~!ってあはは、あほか~~い!!」

「喜多ちゃんがぶっ壊れた…」

「本当に酒飲んでないよな?廣井さん??」

「私そこまで非常識じゃないよ~!」

「非常識な自覚はあるのか……」

 

 いやまぁ、理由は違うが俺も自分の名前嫌いだし、気持ちはわからんでもない。

 俺の名前知ってるのは家族と廣井さんくらい……なんで廣井さん知ってんだよ。いやまぁ俺が言ったからだけど。まるで廣井さんが特別みたいじゃないか。やめてください。

 

「私のフルネームは喜多喜多です…」

「なんか弱ってるの新鮮で面白い」

「お前性格悪いな」

「俺は郁代って名前も可愛いと思うぞー」

 

 喜多喜多……北来た?やめとこ。名字まで嫌いになったら困る。

 喜多さんを適当に励ましてると、ぼっちちゃんと話す廣井さんの声が聞こえてきた。

 

「まぁ気楽に楽しく活動しなよ。漠然と成功することばっか考えてると辛くなるよ」

「そうそう。夢をかなえてくプロセスを楽しんでくのが大事だからな」

「辛くなって酒に逃げた悪い例がここに」

「うるさいやい」

 

 珍しく廣井さんがまともなこと言ってたので茶化しておく。この人に良い印象持たれたら駄目だ。ちゃんと反面教師にしないと。

 

「ていうか、どうして先輩はバンド急にやめちゃったんですか?レーベルからも声かけられてたんでしょ。もったいね~」

「え?店長バンドしてたんですか?」

「そうだよ。凄い人気だったんだから」

 

 確かに凄い人気だった。俺がベース始めたきっかけでもあるし。そういえば、虹夏がドラム始めたのも姉さんのライブがきっかけか。本当に凄いよなぁ…自慢の姉です。

 

「…バンドに飽きたんだよ」

「ならライブハウスの店長してるの矛盾してるじゃん」

「うるせーな死ね」

 

 本当の理由知ってる身としてはニヤニヤが止まりません。流石世界一仲良い姉妹。

 あ、やめて姉さん痛い!ごめんって!痛いから!!

 

 

 

──────

 

 

 

 喜多さんがおかしくなったあたりから虹夏ちゃんを見なくなって、トイレに行くなんて言いながら外に出てみた。虹夏ちゃんはそこで一人でぼーっとしてた。

 

「あっ虹夏ちゃん…何してたんですか」

「ぼっちちゃんか。ちょっと外で涼んでたんだ」

 

 良し…!まだあっとか言っちゃうけど話しかけられた…!私も成長してるんだ!お兄さんとお姉さんはまだ怖いけど……

 

「さっ最近はもう夜は涼しいですね……」

「そうだね~あ~あと一週間で夏休みも終わりか~」

「何も聞こえない何も知らない夏休みは終わらない私は学生なんかじゃない木…水…惑星…銀河…」

「ぼっちちゃん現実を見て!!」

 

 はっ!いけない。ライブの反動でいつもより発作がおきてる。いやでも本当に夏休みは終わらないし課題も……私課題やったっけ?ああああ

 

「あのさ、今日の演奏みて気付いたんだけど、ぼっちちゃんが“ギターヒーロー“なんでしょ」

「えっうっあの……ちがちが……」

「あのキレのあるストロークを聴いたら分かったよ。今更だけどギターも一緒だし」

 

 あ、あれぇ?そんな分かりやすかったかな。それともお兄さんが?でも言わないって言ってたしでもでも虹夏ちゃんのお兄さんだし…

 ごまかすのは無理か……

 

「えっと……そうです…でもわざと隠してたんじゃなくて…いっ今の私なんてまだ全然ヒーローなんかじゃないし…この性格を直してから話したかったんです…とっ特に虹夏ちゃんには…お兄さんにはバレましたけど」

「えっお兄ちゃん気付いてたの!?」

「はい…オーディションのときに……」

「あのときか~確かになんか呼び出されてたね~」

 

 お兄さんが言った訳じゃないのかな。ちゃんと秘密にしてくれたんだ…ってことは虹夏ちゃんは自分で気付いたんだよね。やっぱり分かりやすいのかな。それともそれだけたくさん動画見てくれてるってことだったり…えへへ……

 

「わっ私だと知ってショックですか…?」

「ううん。むしろぼっちちゃんでよかったと思った」

 

 へへ…私でよかったなんて……虹夏ちゃん優しいなぁ……

 

「あのさ。あたし、本当の夢があるってオーディションの前に言ったよね?」

「あっはい」

「あたし、小さい頃に母が亡くなって、父親はいつも家に居ないし、お姉ちゃんとお兄ちゃんだけが家族だったんだ」

 

 そっか…お母さんが……私は家族みんな元気だから、虹夏ちゃんの気持ちがわかってあげられないけど……今お母さんがいなくなったらって思うと苦しくなるし、それが小さい頃だったなら尚更……

 

「お姉ちゃんがバンド始めてからは、お兄ちゃんと一緒にライブハウスまで見に行って、あの頃のあたしには全部がキラキラして見えて、凄く幸せな空間だったんだ。そんなあたしを見てたから、お姉ちゃんはバンドを辞めて、ライブハウスを始めたんだ。そしたらお兄ちゃんが、バイト辞めてスターリーで働くなんて言い出して。スターリーはね、二人があたしの為に作ってくれた場所なんだよ」

 

 そうだったんだ……二人だって辛かったはずなのに、虹夏ちゃんの為に…みんな優しい人ばっかりだ……

 

「だからあたしの本当の夢はね、お姉ちゃんの分まで人気のあるバンドになること!そしてお姉ちゃんのライブハウスを、もっともっと有名にすること!あと…お兄ちゃんに音楽を取り戻してもらうこと」

「お兄さん?」

「うん、お兄ちゃんも昔バンドやってたんだって。あたしは聞いたことないんだけどね。だから結束バンドの音楽で、お兄ちゃんに音楽をやりたいって思ってもらうの」

 

 二人が虹夏ちゃんを思ってて、虹夏ちゃんも二人を思ってる。すごく輝いてて…眩しいほどに仲良しな家族だ。

 

「でもバンド始めてみたら、あたしの夢って無謀なんじゃないかって思う時もあって…今日だってみんな自信なくしちゃったし…でも、そんな状況をいつも壊してくれたのが、ぼっちちゃんだったよね。今日のぼっちちゃん、あたしには本当にヒーローに見えたよ」

 

 私が…ヒーロー……?私、ヒーローになれたんだ。ちゃんとギターヒーローを名乗れるような…誰かのヒーローに……

 

「リョウは、今度こそこのバンドで自分たちの音楽をやる事。喜多ちゃんは、皆で何かをする事に憧れてる。みんな大事な想いをバンドに託してるんだ。そういえば、ぼっちちゃんが今何のためにバンドしてるか、結局聞いてなかったよね」

「あっ私は……」

 

 私は何のためにバンドをするのか。最初は自分のためだった。人気になってちやほやされたいから。

 でも、今は自分だけじゃない。この四人がいい。この四人で人気になりたい、バンドがしたい。だから──

 

「ギタリストとして、皆の大切な結束バンドを、最高のバンドにすることです……星に届く程輝くバンドに」

「星に…届く……」

 

 見せるって、お兄さんと約束したから。

 

「あっそれで全員で人気バンドになって…うっ売れて学校中退したい……」

「そんな重いのはバンドに託さないで…」

 

 いやでも、どっちも本心だし…学校嫌だし……

 

「ぼっちちゃんの演奏が動画の時みたいに、毎回ライブで発揮できたらいいんだけどな~精進してくれたまへ」

「あっ頑張ります……」

 

 頑張りはするけどもうちょっと待って欲しいかなぁ…なんて……

 

「でもあたし、確信したの!ぼっちちゃんがいたら、夢をかなえられるって!だから、これからもたくさん見せてね。ぼっちちゃんのロック……」

 

 

───ぼっちざろっくを!

 

 

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