天使の兄で、魔王の弟   作:神谷九十九

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ひとりプロローグ

 

 私、後藤ひとりはダメ人間だ。

 バカだし運動オンチだし人の目見れないし、会話の頭に絶対「あっ」って付けちゃうし…高校生になったのにひきこもり一歩手前の陰キャぼっちだ。

 心の拠り所は中学から始めたギターだけ。バンドなら陰キャでも輝ける!と、毎日六時間練習を続けていたら、いつの間にか中学が終わっていた。

 動画サイトでは再生数けっこうあるし、中学校ではCDやバンドグッズを持って行ってメンバー集めしてみたけど、メンバーどころか友達一人もできなかった。

 というか、お昼のリクエストソングで当時ハマってたデスメタル流してから誰も目を合わせてくれなく…

 

「うぐっ!フラッシュバックが…!あー!忘れろ忘れろ忘れろッ!」

 

 床に頭を打ちつけ悶えていると、つけっぱなしのテレビの音声が聞こえた。どうやら軽音部が高校生に人気らしい。最近じゃバンドアニメの影響でオタクっぽい人もいるとか…やややっぱりもう一度勇気出してみようか…

 

 

 

 

 次の日。私は超かっこいいバンド女子になっていた。

 両腕にはいくつものラバーバンド。鞄には缶バッジをつけれるだけつけた。ジャージの下には悪魔みたいなのが描かれたTシャツ着てチャックを全開に。ギターを背負えば明らかにタダ者ではない感がある。

 こんな目立つんだもん、注目の的だよ!声をかけられずにはいられないね!今年の文化祭は忙しくなるぞ!

 

 

 

 

 放課後。私は公園で一人、ブランコをキィと鳴らしていた。

 あれぇ?誰からも話しかけられなかった…わかんなかったのかな?でもギターほどわかりやすいものもないよね?

 あっあえて話しかけられなかったという可能性は…ないないない精神崩壊する。

 もう学校行きたくない。きっと公園のベンチで一人座っているあの人も、私と同じで孤独を抱えて…いや家族が迎えにきてる。

 やはり私の居場所はネットだけ──

 

「あ!ギターッッ!!それギターだよね?弾けるの!?」

 

 突然、金髪の女の子に話しかけられた。左側のサイドテールでアホ毛がちょこんと生えている。

 やっと話しかけられた!…けど、喋るの久しぶりすぎて…こっ声が…

 

「あ!いきなりごめんね。あたし、下北沢高校二年の伊地知虹夏」

「あっ後藤ひとりです」

「あたしバンド組んでドラムやってるんだ。ひとりちゃんはギターどのくらい弾けるの?」

「あっそこそこ…」

「ちょっと今困ってて、無理だったら大丈夫なんだけど…大丈夫なんだけど困ってて…」

 

 絶対だいじょばないやつ…!バンドやってるしいきなり名前呼びできるし、こんな私と正反対の人のために私ができることなんて…

 

「お願い!今日だけサポートギターしてくれないかな!ギターの子が突然やめちゃって…ある程度弾ける人ならすぐできる曲だから!」

 

 ギター!ギターなら…えっでも今日?ライブハウスで演奏するの!?むっ無理だ…いっいや私ずっとバンドしたかったのに、なんで怖気づいて…

 

「ありがとう!早速ライブハウスへGO!」

 

 まだ何も言ってない!!!

 

 

 

 

 結局押し切られてしまった…ほっ本当に私が今日ライブを…?

 よよっ弱気になっちゃダメだ…思い出せ、妄想で毎日した文化祭ライブを。初のワンマン…ZIPPER…スーパーアリーナ…

 

「私は武道館をも埋めた女…」

「!?」

(ちょっとやばい子なのかな…)

「出演するライブハウスあたしの家だから、そんな緊張しないで!」

「あっはい」

「うちのお姉ちゃんが店長してるんだ~お兄ちゃんも働いてて~」

「あっはい」

 

 話ながら目を合わせようとしてきたので、反射的にサッと顔を逸らす。

 

「最近オープンした下北沢スターリーってとこなんだけど!『サッ』あたしは普段ドリンクバイトしてて~『サッ』…ひとりちゃんって実は運動できる?」

「いえ…あっでもドッジボールだけは何故かいつも最後まで残ってました…」

 

 周りを見ると、下北沢はおしゃれな人ばっか…虹夏ちゃんも派手でオシャレだな…バンドしてるって感じ。

 それに比べて私はジャージだし、くま凄いし猫背だし、いつも押し入れにいるからカビ臭いんだろうなぁ…

 あっ虹夏ちゃんはいい匂いする。これが本来あるべき女子高生の香り…スンスン

 

(頼む相手間違えたかなぁ?)

「そういえばひとりちゃんはバンド組んでないの?」

「へうっ…あっバンドはずっと組みたいと思ってるんですけど、なかなかメンバーが集まらなくて。普段はバンドのカバーをネットにあげたり…」

「へー何弾くの?」

「結成した時すぐ対応出来るようにこの数年の売れ線バンドの曲は全部弾けます…うへへ…」

「執念凄まじいね…あっカバーといえば一人凄い気になってる人がいるんだよね。ギターヒーローって言うんだけど、滅茶苦茶上手いって一部で話題だよ!ネーミングセンスはちょっと痛いけど、一緒に演奏してみたいな~」

 

 ギターヒーロー…?私だ!!!話題になってるんだ!えっでも…あっあれ痛いの!?

 

「あたし、ギターヒーローさんが動画あげるのいつも待ってるんだ~お兄ちゃんも楽しみにしててね~」

 

 現実世界の人たちはだれも私なんか興味ないと思ってたけど、ずっと見てくれてる人がこんな近くにいた…

 

「あっありがとうございますぅ…」

「えっ?なに?なにが!?」

(情緒が不安定すぎるんだけど~!!)

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、ライブハウス“STARRY“に着いた。マンションの地下にある、いかにもアングラって感じのところだ。

 

「やっと帰ってきた」

「リョウ~」

 

 階段を降りていると、スターリーから青い髪の女の子が出てきた。肩にかからない短い髪に、中性的な顔立ち。虹夏ちゃんと親しそうだ。

 

「この子はベースの山田リョウだよ」

「こんにちは」

「リョウは表情が出にくいの!変人って言ったら喜ぶよ。これで大体のベーシストはおちる」

「嬉しくないし」

 

 言葉と違って、目を細めて頬をかいている。少し顔も赤い。うっ…うれしそう…若干引いた。

 

「まだ時間あるからスタジオ入って練習しよう。あと勝手に抜け出して店長が怒ってたよ」

「ひぃ!も~早く言ってよ~ばかばか…あほ~」

「語彙力なさすぎる」

「…あれ?お兄ちゃんは?」

「店長に言われて虹夏を探しに行った」

「え~なら電話してくれれば…あっ!不在着信が凄いことになってる!ごめんお兄ちゃん~」

 

 二人と一緒に私もライブハウスへ入る。

 現実は怖い。でも、これからとっても楽しいことが待ってそうな気がする──

 

 

 

──────

 

 

 

 虹夏から帰ってきたことと謝罪の連絡が来て、ライブに間に合うように急いで帰って来たんだが…

 

「きょっ今日のところはおかえりくださいっ!」

「ここあたしの家なんだけど!?」

「なんだこれは」

 

 知らない女の子がゴミ箱の中から帰宅を促してきた。ありのまま今起こったことを話したが、何を言っているか自分でもわからない。

 とりあえず虹夏にいろいろ聞かなければ…

 

「虹夏…状況を説明してくれ…」

「あっお兄ちゃんおかえり!この子は──」

 

 虹夏の話を簡単にまとめると、帰宅を促してきたゴミ箱の子──後藤さんは、虹夏が拾ってきたギターらしい。時間があったので一度合わせてみると、一人で突っ走るド下手な演奏をし、ミジンコの真似をしながらプランクトン後藤と名乗ったそうだ。…最後のいらないな。

 そして現在は、ゴミ箱の中で泣いている後藤さんを説得しているとのこと。それにしても何故ゴミ箱に入ることを選んだのか。いやまぁライブ前だから空だったけども。

 

「しょうがないよ!即席バンドなんだし」

「へへへへ」

「あたしだってそんなにうまくないし!」

「私はうまい」

 

 リョウは説得する気ゼロか…というか後藤さん目がグルグルしてるけど大丈夫か?

 

「あっえっ演奏もですけど、MCも全くお役に立てないですし。あははは私の命をもってハラキリショーでも…ばっバンド名くらい覚えて帰ってもらえるはず…」

「ロックすぎる!!」

 

 それでいいのか女子高生。それにロックすぎるというツッコミは合っているのか?

 

「ひとりちゃんが野次られたら、私がベースで『ぽむっ』ってするから」

「流血沙汰もロックだからね!」

「ロックだからしょうがない」

 

 ベースってそんなファンシーな音するか?…いやでもリョウがぽむってしてる姿が容易に想像できるな。

 それよりも二人ともロックを免罪符にするな。虹夏はいつからこんな子に…俺の影響か?否定できないな…

 

「それにうちのバンド見に来るの、多分私の友達だけだし!安心せい!普通の女子高生に演奏の良し悪しとかわかんないって~」

「私はわかる」

 

 いや俺のせいじゃないな。うん。俺はここまでじゃない。うちの妹がロックすぎる件について。

 

「お兄ちゃんもニヤニヤ見てないでなんか言ってよ~」

「あぁすまん。おもしろくてつい…」

「ついじゃないよ!こっちは真剣なんだから!」

「悪かったって…怖いなら顔隠せばいいんじゃないか?」

「こんなところにダンボールが」

 

 “完熟マンゴー“と書かれたダンボール二つをガムテープで雑にくっつける。後藤さんがすっぽりと収まった。

 

「いっいつも弾いてる環境と同じです!」

「どんな所に住んでんの?」

「みっ皆さん下北盛り上げてきましょう!」

(少し気が大きくなった…)

「そういえばひとりちゃんってあだ名とかないの?本名でライブ出る?」

 

 後藤さんが上段のダンボールをぱかっと開いて顔を出す。会話がしやすいように開閉式の簡易窓を作っておいた。結構楽しかった。

 

「ちゅっ中学では『あの~』とか『おい』とか…おいちゃんです…」

「それあだ名じゃなくない!?」

「ひとり…ぼっち。ぼっちちゃんは?」

(デリケートな所を!)

「ぼぼぼぼぼっちです!」

 

 正直どうかと思うが本人がすごく嬉しそうだ。初対面だから“後藤さん“にしてたけど、これ“ぼっちちゃん“って呼んだ方が喜びそうだな…

 

「あっまだバンド名聞いてなかったです」

「うっ」

「結束バンド」

「ギャーッ!!」

「傑作…ププ…」

「ダジャレ寒いし絶対変えるから!」

(仲よさそうな感じがして好きかも…)

 

 バンド名を聞かれて呻く虹夏の代わりにリョウが答えて、虹夏の絶叫が響く。俺はいいと思うんだがなぁ…

 

「結束バンドさん。そろそろ出番ですけど~」

「あ゛ーっ!!」

「かわいいよね?」

 

 確かに顔を真っ赤にして恥ずかしがる虹夏は可愛い。えっシスコンだって?知ってる。世界中の兄は妹が好きなんだ。

 

「とっとにかく、下手でも怖くても楽しく弾くことだけは心がけてっ!音ってものすごく感情が表れやすいから!演奏技術を求めていくのはこれからでいいよ!次頑張ろっ!」

(次って──)

「よし行こう!」

 

 我が妹ながらなかなかいい事を言う。楽しく弾く…か。俺もそれができたら…いや、余計なことを考えるのはよそう。

 今は客席から結束バンドの初ライブを見なければ。

 

「初めまして!結束バンドでーす!」

 

 ステージに現れたダンボールに客が引いてる。頑張って作ったのに。次はロボみたいな人型にするか。

 ほどなくして演奏が始まった。話に聞いていたとおり上手い演奏とはとても言えないが、虹夏たちの顔と動き…そして何よりも音が、“楽しい“って感情を届けている。約一名顔は見えないが…

 

 

 

 

 ライブ終了後。タオルや飲み物を持って虹夏たちのところへ向かう。

 

「ミスりまくった~!」

「MC滑ったね」

 

 反省点はそりゃいろいろあるが、本人たちが楽しかったようでなによりだ。

 すると、後藤さん──ぼっちちゃんがにじりよってきた。

 

「あっあの!つつつつつ…つっつつつつつ…」

「何!何!?怖いんだけどっ」

 

 怖いというよりは面白い。あと怖がる虹夏可愛い。

 

「次のライブまでにはクラスメイトに挨拶できるくらいになっておきます!!」

「なんの宣言!?」

 

 俺もなんの宣言かわからないが、とりあえずリョウと一緒にホロリとしておいた。

 “次のライブ“って言ってくれたし、良かったな。

 

「よーし!ぼっちちゃん歓迎会兼反省会するぞ~!」

「ごめん眠い」

「あっきょっ今日は人と話しすぎて疲れたので帰ります…」

「結束力全然ない!!」

 

 哀れ、結束力ゼロの結束バンド。虹夏を残して二人はそそくさと帰ってしまった。

 しかたない。ここは俺が──

 

「虹夏。それなら俺が一緒に」

「おい」

「あっ姉さん…」

「仕事サボって何やってたんだ。さっさと掃除してこい。今日はお前一人でやれ」

「はい!今すぐ行きます!」

 

 人を哀れんでいる場合ではなかった。哀れ、世界中の弟は姉に逆らえないのだ。特に俺の姉は思わず敬語になるくらい怖い。手がでるし。

 虹夏の冷たい視線を感じながら、俺は掃除に向かうのだった。

 

 

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