ぼっちちゃんが結束バンドに加入した翌日。スターリーにて。
リョウが仕事をサボって何か作っていた。リョウがサボってる分は俺がやらされてるから、そろそろ仕事してほしい。
「何してるんだ?」
「サイコロ作ってる。話すことがないときのために」
「へぇ、おもしろそうだな。俺も作っていいか?」
「じゃあこれも作っておいて。内容はそこにメモしてあるから」
そういってリョウはベースを弾き始めた。嘘だろ…いや頼まれた以上やるけどさ。作らないなら仕事しろよ。
流石に俺まで仕事をサボるわけにはいかないので、とりあえず作りかけのサイコロとメモは邪魔だから隅の方に置いて、仕事を再開した。
仕事とは言っても、掃除とかメンテナンスとか買い出しとか簡単なやつばかりだけど。そんなことすら面倒くさがるとかどういうつもりだ…それでリョウの分も働いてる俺も俺だが。
そんな調子で掃除が終わった。サイコロ作るか…とりあえず作りかけの方を完成させよう。
えっとメモは…バンジージャンプってなんだ。いらないだろ。
完成したやつと俺のオリジナルのサイコロを渡して、買い出しに行ってその帰り、スターリーの扉の前でウロウロする不審者がいた。というかぼっちちゃんだった。
何してるんだ。鍵かかってたかな?リョウがいるからかけてないはずだけど。まさか一人じゃ入れないってことはないだろうし。
「ぼっちちゃんどうした?鍵かかってたか?」
「ひょえ!?あっちが……あの…あ……」
あれ、何か怯えてる?あぁそっか、昨日は眺めてただけでまともに話してないもんな。
俺は心の中で後藤さん呼びからぼっちちゃん呼びに変えたつもりだけど、ぼっちちゃんからすれば第一声からあだ名で呼んでくるやばいやつだ。
そもそも会話してないから覚えられてないかもしれない。傍から見れば不審者なぼっちちゃんだけど、ぼっちちゃんからすれば俺の方が不審者だ。
「悪い。あんまり話したことなかったな。俺は虹夏の兄だ。改めてよろしく」
「あっ…いやその…えっと……」
う~ん。虹夏の名前を出せば安心してくれると思ったんだが。もしかして顔怖いか?うまく笑える自信はないんだけど。
なんて考えてたら、スターリーから虹夏が出てきた。鍵あいてるじゃん。
「早く入ってよ!!…あ、お兄ちゃん?」
「すまん。引き止めてたみたいだな。さっさと入ろう」
そして、ぼっちちゃんの背中を物理的に押しながらスターリーに入った。多分この子にはちょっと強引なくらいがいいんだろう。
それにしても俺、謝ってばっかだな。
三人が机やら椅子やらを用意している間に、俺は三人分のドリンクを注いで持っていく。金は俺の財布から出した。
「思えば全然仲良くないから、何話せばいいかわかんない…」
「そんな時のためにこんなものを作らせておいた」
ドリンクを机に置いていると、リョウがサイコロを二つ取り出した。え、それ今使うの?
「お、なになに…“虹夏を褒める、虹夏を十回褒める、虹夏が照れるまで褒める、虹夏を褒め倒す、虹夏に褒めてもらう、虹夏が姉さんを褒める“……ちょっと!これ作ったのお兄ちゃんでしょ!!」
「俺、裏の掃除してくるわ」
「こら~!逃げるな~!!」
失礼な。戦略的撤退である。
あとバンジージャンプよりはましだと思う。疲れてたから虹夏のことしか思いつかなかったんだ…
──────
まったくお兄ちゃんめ。どうしてあんなシスコンになっちゃったんだろう…昔はあんなのじゃなかったのに。いつからだっけ。あたしが中学に上がったくらいかな?恥ずかしいからやめてほしいんだけどなぁ。
あ、今はそんなことよりぼっちちゃんと仲良くならなきゃ。
「とりあえずこの意味わかんないサイコロは置いといて…もうひとつの方は?」
「私が考えたやつ。一押しはバンジージャンプ」
「…その面が出たらお兄ちゃんにやらせようか」
ちょっと痛い目を見て反省してもらわないと。でもお兄ちゃんバンジー普通に楽しみそうだな…
お兄ちゃんのことはほっといてサイコロ振ろう。
「何が出るかな♪何が出るかな♪学校の話~!」
「あっそういえば二人とも同じ学校…」
「そう!下高。お兄ちゃんも行ってたとこ」
「二人とも下北沢に住んでるから近いところ選んだ」
お兄ちゃんのことは言わなくてもよかったな…ほっとこうとしたばっかなのに。気をつけなきゃ。あたしがお兄ちゃんのことばかり考えてるブラコンだと思われたら心外だ。
「ぼっちちゃん秀華高って事は家ここらへんなの?」
「あっいや県外で片道二時間です」
「二時間!?何で!?」
「高校は誰も過去の自分を知らない所にしたくて…」
「学校の話終了~!」
いけないいけない。地雷踏んじゃった。なんとかフォローしないと…そうだ!
「りょ…リョウもね、あんまり友達いないんだよ!」
「虹夏だけ」
(リョウさんは私と同類なんだ!)
「休日は廃墟探索したり一人で古着屋さん巡ったり」
(あっ違う!一人でいるのが好きな人だ!コミュ症は一人で洋服屋さん入れないし…危うくトラップに引っかかるところだった…!)
「ぼっちちゃん会話を楽しもうよ…?」
百面相してるし何かは思ってるんだろうけど…言葉にしないとわかんないよ。
よし。さっさと次にいこう。
「つっ次は好きな音楽の話~!あたしはメロコアとかジャパニーズパンクかな?」
「私はテクノ歌謡とかサウジアラビアのヒットチャートを…」
「絶対嘘!!」
「ほんとだもん」
「私は青春コンプレックスを刺激しない歌ならなんでも…」
「青春コンプレックスって何?」
あたしもうぼっちちゃんがわかんないよ。四コマ漫画なら四コマ目に使われるようなことばっかり言ってるよ…
(夏とか青い海とか花火みたいな歌詞聞くと鬱々としてくる…)
「おーい!」
(逆に青春時代の鬱憤を歌詞にたたきつけてるバンドは好きだなぁ…)
「ぼっちちゃん!」
(好きなバンドが学生時代から人気者だったなんて知ったら急に遠い存在に思えてくるし…)
「お願い~!一人の世界に入らないで~!」
「ロックとは負け犬が歌うから心に響くのであって成功者が歌えばそれはもうロックとは言わな…」
「皆結束してよ~!!」
ぼっちちゃんは言葉が届かないしリョウはずっと飲み物飲んでるし、お兄ちゃんどうにかして…
───閑話休題
「昨日はインストだったけど、次はボーカル入れたいんだよね。ほんとは逃げたギターの子が歌うはずだったんだけど。あの子どこに行ったんだろう。」
合わせの練習も頑なに避けてたし、あれから音信不通だし、心配だな…
「ボーカルもまた探さなきゃ…あたしは歌下手だし…ぼっちちゃんは?」
首振ってる。喋らなくなっちゃったよ…ここで喋れないならステージで歌うのはもっと無理か。
「リョウは?」
「フロントマンまでしたら私のワンマンバンドになってバンドを潰してしまう」
「その湧き出る自信の源は何?」
その自信を少しでもいいからぼっちちゃんに分けてあげて…あとわざとらしい嘘泣きはやめて。
「ボーカル見つかったら曲も作っていこうよ!リョウ作曲できるし。歌詞に禁句多いならぼっちちゃんが書けばいいじゃん!」
(私!?小中九年間休み時間を図書室で過ごし続けたのはこのための布石…!?)
「虹夏は何するの?」
「…どっドラムはバンド内の潤滑油としての役割がありまして~!」
「就活生か」
あたし作詞も作曲もしたことないもん。しょうがないじゃん。潤滑油も大事なんだよ!大事!
もうこの話やめよう…
「次はノルマの話~」
「のっノルマ?」
あ、喋った。やっと真面目に話せるよ…
「昨日出たライブはブッキングライブって言うんだけど…バンド側には動員を保証する為のチケットノルマが課せられてて、集客できなかったら自腹なんだ。ノルマ以上売れた分はバンド側に半分入ってくるよ!もう半分はライブハウスね」
「つまり売れるまでは滅茶苦茶お金いる」
「ざっくりしすぎ!!」
でも実際そうなんだよね。いくらお兄ちゃんがシスコンでなんでもしてくれるとは言っても、お金のことは頼めないし頼みたくない。
「昨日のライブはあたしの友達が来てくれたから、チケット結構はけたんだけど…二回目は来てくれないだろうし。リョウは友達いないから集客あてにできないし。ファンが増えるまでは当分ライブの度に数万いるね~」
数万…多いなぁ。お金は無理でも、集客ならお兄ちゃん頼ってもいいかな…でもお兄ちゃん友達いるのかな?いなさそうだなぁ。
「ぼっちちゃんも集客は…ね?」
「あっすみません」
(イマジナリーフレンドならたくさんいるのになぁ…)
「というわけで、ライブのノルマ代稼ぐためにバイトしよう!」
(バイト!?絶対いやだ!働きたくない!!怖い!社会が怖い!!)
ぼっちちゃんが豚の貯金箱を差し出してきた。どうして突然?ていうかなんでこんなの持ち歩いてるの?
「なにこれ?」
「あっお母さんが私の結婚費用にと貯めてくれてるお金…どうせ使わないし…」
「あたし達を鬼にする気!?」
「大事に使わせてもらいます。本当にありがとう」
「返すの!!」
鬼がいた。思い切りひっぱたいて退治した。使えるわけないでしょうが!
「こんな大切なお金使えないからバイトするの!」
「う…あぁ…嫌だぁ働きたくない」
(だって絶対キョドってネットに晒し上げられるし…最悪“お客様に不快感を与えたで賞“で死刑に…)
「いやいやいや!ぼっちちゃんもここでバイトすればいいじゃん!」
「えっあっえ…?」
なんかすごく困惑してる。最初からそのつもりで言ったのに…何を想像してたんだろう?…考えてもわかんないや。
「あたしもリョウも居るから怖くないよ!」
「アットホームで和気あいあいとした職場です」
「内容もドリンクスタッフとか掃除だし!いろんなバンド見れるよ~!」
(働きたくない働きたくない!断れ自分!!)
「いっ……………………がんばりましゅ……」
(断る勇気があるならコミュ症してない…)
良し!説得成功!でもずっと嫌がってたし、フォローはしてあげないとね。お兄ちゃんにも何かしてもらおう。
「それとバンドの経費はあたしが管理するね」
「えっ…あっリョウさんに預けた方がいいんじゃ…」
「どういう意味じゃ」
あたし馬鹿だと思われてるの?思わず机叩いちゃったよ。…お兄ちゃんのせいか。お兄ちゃんがシスコンで馬鹿なのが悪い。勉強できるけど。
「リョウはこうみえて滅茶苦茶お金遣い荒いの!お金持ちでお小遣いたくさん貰ってるけど、楽器に注ぎ込むから常に金欠だよ……どこが褒め言葉に聞こえた!?」
なんで照れてるの…これだからベーシストは。変人だからベースをやるのか、ベースをやるから変人になるのか…鶏が先か卵が先か。ちょっと違うな。
「じゃあ近いうちにまたライブできるように頑張ろう!そして高校生でメジャーデビュ~!バンド来週からね~学校終わったらうちに直行ね」
「ぼっちばいばい」
「あっはい…」
(……“宝くじ 当たる確率“で検索検索ぅ…)
次の日。ぼっちちゃんのバイト初日だし、応援のメッセージを送ってあげよう。
『おはよう(*´∀`)
今日はバイト初日だね!
不安だろうけどちゃんとフォローするからね
一緒にがんばろう!』
これでよし。ちょっとは前向きな気持ちできてくれるといいんだけど…大丈夫かな?
あ、返信きた。
『自分がいかに愚かな事をしていたか気づきました。
気づかせてくれて私を全うな人間にしてくれて
本当にありがとうございます』
…何の話?なにかあったのかな…まさかバンド休むために風邪引こうとしたとか?って流石にないか。
「姉さんはとても強くてかっこいいです。キリッとした目付きがとてもクールです。ぬいぐるみ抱かないと眠れないギャップも可愛くて最高です。俺は姉さんのためにこれからも誠心誠意スターリーで働くことを誓います」
「なんだ急に。きもいんだけど。あとなんで正座で敬語なの?」
お兄ちゃんはふざけたサイコロの罰としてお姉ちゃんを褒めさせている。正座で。敬語はお兄ちゃんが勝手にやってる。
「お兄ちゃん最後のは褒めじゃないから朝ごはん抜きね」
「そんな!?」
「お前今度は何やらかしたんだよ…」