天使の兄で、魔王の弟   作:神谷九十九

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虹夏オープニング

 

 今日は休みだ。俺は別に毎日働いてもいいのだが、常識的に考えて働けない。常識に縛られてるのロックじゃないよな。…俺バンドやってないしロックじゃなくていいや。

 それはさておき、休みだからといってスターリーに来てはいけない理由などない。虹夏に頼まれたこともあって、持ってきた物を弄りながら待っていた。

 待っているのはぼっちちゃんと喜多さんだ。俺は覚えていないが、あの後リョウが喜多さんにギターを貸すことになったらしい。そして、ぼっちちゃんが喜多さんの先生となりギターを教えている。

 あの喜多さんと二人きりになって意識を失わないとなると、ぼっちちゃんは俺より上かもしれない。それ以前にバンド組んでるから俺より上か。

 

「二人とも~!」

 

 虹夏が二人を呼びに行った。そろそろか。

 今日は結束バンドの活動の手伝いになるから頑張らないとな。

 

 

 

 

「え~皆さんに今日集まってもらったのは理由があります!アー写を撮ろう!」

 

 アーティスト写真、略してアー写。簡単に言えば宣材写真の音楽アーティスト版である。バンドの場合は、一枚のフライヤーに複数のバンドのアー写が載せられることがあるので、目立つものや目を引くものがいい。

 ちなみにこの前のライブでは喜多さんが逃げたため、虹夏とリョウのツーショットに、学校の集合写真に欠席した人みたいに喜多さんが載せられている酷いアー写になった。ある意味目立つしロックではある。多分。

 

「スタジオで撮るのはお金がないから無理なので、今日は屋外に出てアー写を撮ろうと思います!撮影はお兄ちゃんがしてくれます!」

「よろしく」

 

 そう、俺は今日結束バンド専属のカメラマンになるのだ。さっき弄っていたのはカメラである。使わない故にお金が貯まっているので、少し高めのやつを買った。どのカメラがいいのかなんてわからないので、高ければいいだろうという安直な考えだ。

 スタジオ代くらい俺が出しても良かったのだが、虹夏はお金関係では頼ってこないので屋外で撮ることになった。某ベーシストにこの素晴らしい人間性を見習ってほしいものだ。流石虹夏、略してさすにじ。

 

「今ここでぱぱっと撮っちゃダメなんですか?」

「アー写ってのは、バンドの方向性とかメンバーの特徴を一枚で伝える大切なものなんだよ!そして!ライブハウスのサイト告知やフライヤーや雑誌…どんな媒体で使われても他のバンドに埋もれないような、インパクトがある事が大事!」

 

 俺の浅い知識よりしっかりした現役バンドマンの知識が語られた。好きなもので饒舌になる虹夏可愛い。怒られるので写真を撮ろうとする気持ちを抑える。

 もし撮るならもっとこうバレない距離から…だめだ、いつの間にか盗撮計画を立てている。盗撮はしてはいけない、お兄ちゃんとの約束です。

 

「今日の為にバンドグッズだって作ってきたよ!皆でつけよう!」

「ただ結束バンド巻いてるだけですよね!?」

「物販では五百円で売るよ!」

「ぼったくり!!」

 

 グッズか。貯まるだけのお金の使い道を見つけた。お金をただ渡すのは虹夏が嫌がるけど、グッズを買うのであれば問題なくお金を渡せる。

 今なら喜多さんの貢ぎたいって気持ちが理解できる。虹夏に貢ぎたい。自分がお金を消費することで好きな人が笑顔になるって素晴らしい。これが世のファンの心理か。

 

「屋外となると、定番どころはこんな感じだね!」

 

 虹夏がホワイトボードに『金欠バンドマン、アー写のすすめ!!』という題と、撮影場所の候補を書き出した。ついでに吹き出しで『二十億欲しい!』って書いてある。可愛い。流石に俺も二十億は持ってないので渡せない。残念。

 撮影場所の候補は階段や森、草木前に海、公園、フェンスとまぁ見たことあるなって感じの場所だ。そういう場所を選んでなお個性を出すというのは難しい。カメラマンも頑張らなければ。

 

「あとは何かよさげな壁」

「なんですか…そのふわふわしたやつは」

 

 俺もよくわからない。グラフィティとかがある壁ってことだろうか。虹夏のためならいくらでも描いてやるが、残念ながら俺に絵のセンスはない。

 なんて考えていると、虹夏が何かをリョウの後ろに持ってきた。例を見せてくれるのだろうか。

 

「普通の壁だと、お兄ちゃんに貰った五万をもう使い切っちゃって焦ってるリョウにしか見えないけど…」

「な、なんで言うの」

「おいお前もう使い切ったのか」

「はいはい、それは後にしてね~で、こうゆう退廃的なよさげな壁の前だと、一気にしびれるベースライン弾いちゃいそうなベーシストに見えるでしょ!?」

「そうですか!?」

 

 確かに印象は変わるがベースラインがどうのってのは感じないので、勢いよくツッコんだ喜多さんに同意である。

 それはそれとして五万使い切ったってどういうことだ。絶対飯以外に使っただろ。目合わせないし。

 

「よーし!じゃあアー写撮影にれっつごー!」

「えっ楽器持って行かないんですか?楽器持ってた方が更にかっこよくなりそうですけど…」

「君たちはね…」

 

 虹夏はそこで言葉を切り、ボードに絵を描き始めた。速い、上手い、可愛い!思わず牛丼の宣伝みたいになってしまった。高値で買います。

 喜多さんの言いたいことはわかるが、虹夏がこれから言うであろうことも同時に察した。俺が手伝ってやりたいが、時間もかかるし大変なのでこればかりは仕方ないのである。

 

「でも絵になるのはギターとベースだけで、ドラムは可哀想な事になるんだよ!手に持つのはドラムスティックだけだよ!!」

「可愛いじゃん」

「じゃあ今日だけ楽器交換しよ!」

「カッコ悪いからやだ」

 

 虹夏の絵には、キラキラした三人と暗い顔の虹夏が描かれている。さらに『つらい』とか『なんで私だけ…』とか『ドラマーを大切にしろ』と、文字が付け足されている。虹夏のこういうところ本当に可愛いと思う。ドラム持って行けなくてごめんな。流石に重い。

 あとリョウは上げて落とすのやめなさい。虹夏が可哀想だ。でも可哀想な虹夏も可愛い。

 そんなわけで、ようやく俺たちはアー写撮影にスターリーを出るのであった。

 

 

 

 

「うーん…メンバーのキャラは出てるけどいまいちバンド感が……バンドっぽさを感じる要素が欲しいなぁ」

 

 既に何枚か撮り、今はどこかのシャッターの前で撮っているところだ。悪くはないのだが、かと言って良いと断言できるものでもない。何にしても虹夏が写っているだけで価値があるので永久保存である。

 

「『バンドマンのお手本たる存在』こと私の表情をマネしてみて」

「どこからくるのその自信!!」

「でも先輩の言う通りにすれば間違いなんてないわよね!ねっ後藤さん!」

「あっはい」

「まぁ時間あるし何でも試してみよう」

「イエスマンが三人も…わかったよ~」

 

 構図はあまり変えず、虹夏がリョウと肩組むのをやめたくらい。全員が目を開いているタイミングで撮る。

 この表情の虹夏は新鮮でいいな……喜多さん怖っ!めちゃくちゃ病んでる雰囲気がある。普段は眩しすぎるくらい陽キャだけど、絶対心に何か抱えてる。じゃないとこんな顔できない。

 ヤンデレたら一番怖いタイプだ。無言でも圧があるのに、言葉を尽くしてさらに圧をかけてくるやつ。肯定しても否定しても自分の世界に入ってて喋り続けそう。…俺はなんの妄想をしているんだ。

 ちなみにぼっちちゃんは何一つ変わっていなかった。というか最初の写真から全部この感じだ。俯いていて顔が前髪に隠れている。気持ちはわかるしキャラも立っているので何も言わないが。

 

「なんか惜しいのばっかだなー…それにしても喜多ちゃんはどの写真も可愛いねぇ」

「そんな事ないですよー…でも私、写真慣れてるんです!よくイソスタに写真あげるので!ほらっ」

 

 そう言って喜多さんがイソスタに投稿した写真を見せてくる。くっ眩しい…目がやられるっ!急に陽キャの部分を強くするのやめてほしい。

 成人してる身で情けないが、複数人だと喋らなくなる程度には陰キャなので陽のオーラは基本的に毒なのだ。だからロインで写真送ってくるのやめてください。本当に。なんのつもりだ。

 

「ヴっ」

「ぼっちちゃんが瀕死状態に…!」

「青春コンプレックス発動…」

 

 そして俺が陰を感じる度にぼっちちゃんが俺以上の陰を見せる。それが『俺はここまで酷くない』と思わせてくれる。申し訳ないけどいつも助かってます。そのままの君でいてください。南無。

 

「後藤さんどうしたの!死なないで!!」

「やばい!!顔がやばい!!」

「私が…私が下北沢のツチノコです……」

「キャーッ!後藤さんが変な事言ってるわ!」

「いつもこんなんだよ」

「ツチノコって美味しいのかな…」

 

 ぼっちちゃんが倒れ込み、顔面が崩壊し、全身が痙攣している。それに喜多さんが涙を流して声をかけている。そんなことしなくても死にはしないよ。

 虹夏は冷静にぼっちちゃんを切り捨てた。いつも明るく振る舞っている分こういうギャップがとてもいい。やはり虹夏は最高だ。あなたも虹夏最高と叫びなさい。

 それとリョウは食べようとするな。ツチノコは食べれないし、そもそもあれはぼっちちゃんだ。

 

「ぼっちちゃんもイソスタ始めてみたら?最近トゥイッターよりイソスタやってる子の方が多いし!友達なろーよ」

 

 虹夏がぼっちちゃんをイソスタに勧誘している。最近ってイソスタが主流なのか…知らなかった。虹夏の友達とかめちゃくちゃなりたいがイソスタはちょっと…まぁ勧誘されてるの俺じゃないし、ここで俺がイソスタ始めるとか言い出しても変な空気になりそうだからやめておこう。

 

「バンド活動していくならメンバー個人のSNSあった方がいいと思うし、 バンドのSNSも作りなきゃ!」

「……あっ大丈夫です」

「え~残念だなぁ」

 

 確かにバンドの宣伝にSNSは必須か。もしイソスタで宣伝するなら、見るためにイソスタ始めないとな。始めるっていうかROM専でもいいのか。今思えばトゥイッターもROM専だし。帰ったらインストールしよう。

 

「それにしてもアー写どうしようかなぁ」

「あっジャンプとかどうですか?絵になるし、皆の素の感じ出そうですけど」

「確かにそれいいかも!喜多ちゃんてんさーい!」

 

 俺もいいと思う。けど撮るの大変な気がする。めっちゃブレそう。このカメラ補正とかあるのか?適当に買ったせいでよくわからん。説明書読んでも意味わからない言葉の羅列だったしな。

 

「有識者が言っていた…OPでジャンプするアニメは神アニメ…と。つまり、アー写でジャンプすれば神バンドになるのでは…!?」

「何がつまり!?」

 

 リョウが何か言っているが、恐らく有識者というのは俺のことなのでツッコミ辛い。聞かれたからと言って余計なことを喋りすぎたな。ちなみに詐欺って鬱にさせてくるアニメもあるので注意だ。神アニメには違いないけど。とりあえずこの場では深く頷くのに留めておいた。

 

「全然意味わかんないんだけど…とりあえず撮るよ~」

 

 全員画角の下にくるように高めの位置で固定する。掛け声に合わせてジャンプし画角に入ったところでシャッターを切る。早速写真を確認して……あ。

 写真を見て"それ"に気付いた瞬間、俺はその場で土下座した。変に隠したり誤魔化したりするより、できるだけ早く誠意を持って謝罪することが一番であると知っているからだ。そこに故意か事故かなど関係ない。

 公共の場で現役女子高生バンドマン四人に土下座する成人男性の姿がそこにはあった。

 

「えっ!?なになにお兄ちゃんどうしたの!?」

 

 突然の奇行に虹夏が驚いて駆け寄ってきたので、頭を下げたままそっとカメラを指さした。

 虹夏がカメラを拾って写真を確認する。気分は断頭台に登る死刑囚である。

 

「あっ!ぼっちちゃんパンツ見えてるじゃん!」

「あ…無価値なものを映してすみません…消してください」

「女子高生なんだからもっとかわいい反応をしなよ…恥じらいとかさ…」

 

 なんか本人の反応的に許されそうな雰囲気である。本人以外も特に俺を攻めようとはしていない。

 最近の女子高生って思ったよりドライなのだろうか。それとも俺の土下座の効果があったのか。なんだか肩透かしを食らった気分だ。

 …いやこれ眼中に無いだけだな。俺に対して異性っていう認識がない。なんなら俺を認識してないまである。もうさっきの場所に戻って写真撮ろうとしてるし。

 今まで俺が陰キャだから会話に入れてないと思ってたけど、まさか俺を写真撮るだけの機械か何かだと思ってる?機械と会話なんかしないってことか?…なんか悲しくなってきた。さっさと写真撮って帰ろう……

 今度はちゃんと撮れた。ぼっちちゃんの顔も見えてるし、手を繋いだり腕を掴んだりと結束感もある。

 

「バンド感に青春っぽさがプラスされたね!」

「写真のデータ貰っていいですか!」

「あっ私も…」

 

 カメラからのデータ移行は調べておいたのですぐにできる。虹夏に送っておけば全員に共有してくれるだろう。

 

「人気バンドへの夢にまた一歩近づいた!結束バンド、これから本格始動だよ!夏までに曲作って(未定)ライブ!(未定)デモCD配布(未定)今冬ファーストミニアルバムリリース(未定)下北沢発祥のエモエモなエモロックバンドになる予定!」

「確定情報が何一つないですね!」

 

 確定はしていないが、なんだか結束バンドならできそうな気がする。なんとなくそう思わせるような何かを結束バンドからは感じる。

 虹夏が夢に向かって進んでいる。その光景は、俺にあの日失ったものを思い出させた。

 喜多さんとは違う意味で眩しい。でもその光景を眺めていたい。目を焼かれても、脳が焦げても、彼女たちの方を向いていたい。

 これは仮面ではなく、本心から告げてくる。まだ四人では一曲も披露していない彼女たちに、俺は間違いなく焦がれていた。

 

 

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