突然だが俺は転生している・・・犬に。
人間から犬、体の動かし方や人間自体との色々なギャップ。転生初期はとても大変な数週間を過ごしたが俺は転生したことに凄く感謝している。なぜなら
「トパーズご飯だよ~」
「ワン!(はーい)」
人間時代推しだったアイドルのペットになれたのだから。
□
犬になった俺が目を覚ました時最初に居たのは「拾ってください」と書かれた段ボールの中だ。しかも雨の中
「ワオーン!(何でこんな事にー!?)」
ある男に殺されたかと思ったら子犬で雨の中。何がどうなっているのか
「ワン・・・(さ、さむい)」
あのままだったら俺は死んでいたかもしれない。力が入らずダンボールから出て何処かに行くことも出来ずまた死ぬのかよ。笑えねぇと考えていると雨が止み誰かに持ち上げられた。帽子を深くかぶって顔が良く見えないが女の子の様だ
「大丈夫?まだ生きてる?」
「・・・ワン(何とかね)」
「よしよし、生きてるね」
「おい、突然車を止めろって言うから何かと思えば。子犬か?この雨の中良く見えたな」
「フッフッフ。私レベルになると楽勝だよ」
「そいつ結構雨の中居たんじゃないか?動物病院に連れてってやるか。ったく、捨てたやつは命を何だと思ってるのか」
「子犬か・・・」
「どうした?」
「良し決めた!この子飼う」
「はあ!?」
俺が覚えているのはここまで、次に目が覚めたのは動物病院だった。検査やら何やらで数日が経つとあの雨の日女の子と俺について話していた男がやってきた。本当に俺を飼うことにしたらしい。
「まったく、あいつの急な行動には毎度振り回される。まだ何かやらかさねえだろうな」
あの女の子とこの人は親子なのだろうか。カゴの中でそんな事を思いながらあの時の女の子について思い出してみる
(あの時意識があいまいだったせいで顔とかよく見れてないけど。だれか知ってる人な気がするんだよな。誰だろう)
考えてみたが結局答えが出せずにいると目的地と思われるマンションに到着して運ばれる俺。
「俺だ」
『はーい』
男の人が目的の部屋のインターホンを押すと女性の声が聞こえその数秒後。扉が開き男の人は中に入ると奥へと進んでいく
「いらっしゃい!待ってたよ。ごめんね、本当は私が迎えに行きたかったんだけ用事が終わらなくて」
「おいおい、そんな急に近づいたらびっくりするだろ。見ろ、驚いて固まってる」
「う~ん?私の可愛さにびっくりしたのかな。流石私」
(知ってる人だった。忘れるはずもない・・・)
彼女は俺が推していたアイドル。まだテレビにバンバン出て人気のアイドルというわけではないけど俺は彼女を心から好きになって、愛して。そして・・・
「グルル・・・(裏切者・・・!)」
憎い相手だ
「あれ?」
「いきなり近づいて警戒してんだろ。しばらくは遠くから見守るんだな」
□
俺を拾ったのは『アイ』B小町というアイドルグループでセンターをしている
彼女を知ったのは何かのイベントでB小町が呼ばれそこで目にしたのがきっかけだったか。俺は彼女に一目ぼれをした。勿論恋人になれるなどとは思っていない。たとえ名前さえ知られていなくても、彼女を推し好きだと叫んでいる一人だと認識されていても彼女を応援し続けるつもりだった
ある日一つの電話が俺の所に来た内容は
『アイは子供を妊娠している。詳細が知りたければ指定する場所へ来い』
それだけを言って電話は切れた。こんなのただのイタズラだ、からかわれたのだろうと無視をしておけばよかったのだ。
「はあ、はあ。ここか」
しかし俺は指定された場所、人がいない山奥に行ってしまった。どうやら俺はこの時好きなアイドルが妊娠しているという突然の話にとても混乱していたらしい
着いた先に居たのは顔を隠した一人の男、そいつは数々の証拠を俺に見せた
今考えれば間違いなく関係者。もしかしたらアイを妊娠させた張本人だったのかもしれない
(今更考えた所で手遅れだが、もしあいつが考えている通りの奴ならば何故あんなことを)
証拠を見てアイが妊娠していることを確信しアイへの憎悪から泣いて怒る俺にあの男アイを殺そうと言い出した
流石の俺も殺そうという気持ちまでにはいかずその提案を拒否した。後は胸の内に燻る憎悪からアイのアンチとして生きるか推し活を卒業。またはこの情報をどこかの週刊誌に売ることもあったかもしれない。しかしそうはならなかった
「見込み違いだったか」
後ろからそう聞こえたかと思うと背中に衝撃、男に背中を強く押された。体は前に押し出され崖から落とされた
(あいつ、さりげなく俺をあそこに・・・ッ!)
突然の事に何もできず頭から落ちた俺はそのまま意識を失い気が付いたら子犬になっていた
(犬になったことも驚きだがまさか俺を拾ったのが死ぬ直前に恨んだアイドルだとはな)
正直どうすれば良いのか俺には分からなかった。憎いが殺したいほどでは無く、むしろ死んだショックによる影響か死ぬ前ほどの怒りと憎しみは持っていない。それでも憎いことに変わりはないが
(?)
犬になった影響で色々と感覚が鋭くなり後ろから何かが来ている事が分かった俺は後ろから伸びてきた手を避けた俺は走りここまで俺を連れてきた男の元まで行き盾にする
「ありゃ、逃げられちゃった」
「だから余計に警戒させるんじゃねえっての。それじゃあ俺は帰るからな」
「は~い、また明日」
そういって男は帰り部屋には俺とアイだけになった。
その後アイはちょっかいは掛けるが俺が嫌な反応をすると直ぐに止める。一応あの男が言った事もあり積極的に触りに来ないようにしたらしい
□
俺がアイの家に来て一週間ほどが経った。その間に俺を連れてきた男、B小町が所属する事務所の社長だったらしい。社長がよく様子を見に来ている。前に俺があまりアイに懐かないので自分の所で引き取ろうかとアイに話していたことがある。しかしアイは
「私が飼うって言ったんだもん。それにもう少しで仲良くなれそうなんだよね」
俺はアイの家に来てから一度もアイに心を開いていない。基本家具の影に隠れているしエサもアイが近くにいる状況では絶対に食べていない。そんな状況でどう考えたら仲良くなれると思うのだろうか。
(俺としては憎いアイドルに飼われるよりも犬好きっぽい社長に飼われた方が良いんだけどな。奥さん美人だったし)
まだ約一週間だが最初にここに来た時よりもアイのお腹が大きくなってきている気がする
(何で俺は好きだったアイドルのお腹が大きくなっていくのを見せられてんだよ。一種の拷問だろ)
そんな日々を過ごしていたある日アイがいつもより遅く帰ってきた日があった
「ただいま・・・」
いつも通りの無視。アイも慣れているので俺に近づくようなことはしないだろう
しかしその日はいつもと違った
(!?)
アイは帰ってくると直ぐに俺を抱き上げる、今までに無い予想外の事に逃げられず離せという気持ちを込めて吠えるがアイは全く放そうととしない。軽く噛もうかとアイの顔を見てみると
(・・・落ち込んでる?)
それは生前のライブ時は勿論俺がこの家に来てから一度もしたことが無い顔だった
そこからアイは俺に向けて話しているのかそれとも独り言を言っているのかポツリポツリと話し始めた
(・・・なんとまあ変なタイミングで)
話を聞いてみるとどうやらアイが夜に男と歩いていたと炎上したらしい。まあそれは事実だが男というのが社長で炎上の原因となった画像には映っていないだけで近くに他の知り合いもいたようでデマという事で直ぐに消火された。しかし消火されるまでの間に色々とアンチやら熱心なファンやらが大騒ぎしていたらしい
(俺みたいなのも結構いるんだな)
この時は話を聞き流しているだけだった。今回は誤解と言うだけで似たような、しかも今回よりもファンを裏切っているともいえる事をしたことを俺は知っているから。しかしアイから出たある言葉は俺の考えていたものとは全く違う言葉だった
(・・・何だよそれ、自分なりのやり方で愛を伝えてきた?本当になる事を願って、愛したいと思って愛の歌を歌っていた?お前はファンを裏切って、バカにして何処かの男と子供を作ってたんじゃないのかよ)
今まで抱えていたアイへの憎悪、それの根本を崩す話に頭が追い付かない
「ワン・・・(あれは・・・)」
「どうしたの?」
アイに抱き上げられたことで見えるようになった棚に置かれている置物、その中に一つだけ見覚えがある物が
「これが気になるの?これは昔ファンに貰った星の砂だよ。私の目に似てるって買ってきてくれたの」
(・・・知ってる。俺が買ってアイに渡したものだ)
「確かリョースケ君・・・だったはず、私名前覚えるの苦手だから間違えてるかもしれないけどよくライブや握手会にも来てくれた子なんだ。最近来てくれてないみたいだけど、私が何かしちゃって嫌われちゃったのかも」
「・・・」
「ふぁ~、ちょっと横になろ。私の事が嫌いなのに静かに聞いてくれてありがとうね」
そう言うとアイは俺を離すとソファに横になり直ぐに寝てしまった
「・・・ワン(寝室まで行くの大変なんだよな)」
□
「・・・?」
(あ~、私朝まで寝ちゃったのか)
起き上がろうとして、そこで自分にブランケットが掛けられていることに気づく
(いったい誰が)
自分で取りに行ったのかと思ったアイだが自分と同じようにソファで寝ている子犬を見つけた。アイが起きたのに気付いたのか子犬も眠たそうに欠伸をしながらアイをじっと見ていた
「これ君が掛けてくれたの?」
「ワン!」
そうだ、というように子犬は大きく吠えた。今までこちらを警戒しどこかに隠れていたのに今はこうして堂々と自分の目の前に座ってこちらを見続けている
「・・・フフッ。そっか、ありがとうね!」
そう言ってアイは子犬を抱き上げるが昨日抱き上げたの様に子犬は暴れなかった
(一日足らずで何で態度が変わったのかは分からない。でもそんなのどうでも良い。この子が心を開いてくれたことが今はとても嬉しい)
アイが子犬と出会ったのは大雨の中だった。車の中、道の端に置かれているダンボールに目が行き車を止めてもらってダンボールを確認しに行くと中には一匹の子犬が寒さに震えていた。生まれてそれほど経っていなさそうな子犬は自分のお腹の中に居るであろう子供と重なり咄嗟に
(最初はどうなる事かと思ったけど。これからよろしくね)
「あ、そうだ。君に名前と首輪付けなくちゃね、この日の為に準備しておいたんだ」
アイは閉まっていた首輪を取り出すと子犬に付ける、その間も子犬は動かずに首輪が付けられるのを待っていた
「これで良し・・・あれ、社長から電話だもしもし?・・・え、時間って・・・あ!ごめんごめん直ぐ行くから」
アイは急いで準備を済ませると外に出る、そして部屋の中からこちらを見ている子犬に笑顔を作り
「行ってきます、トパーズ」
「ワン(いってらっしゃい)」
□
アイが出かけた後、トパーズはソファに横になり昨夜アイがしまい忘れてテーブルに置かれている星の砂を見つめる
(・・・昨夜の話で俺の中の黒い感情が消えた訳ではない。しかし)
しかし、アイの事を知ることで昨日と今日でアイへの考え方が違うようにアイと過ごしていく内にこの感情も無くなるかもしれない
(・・・ああ、何だそういう事か)
その考えに至った時、俺は自分でも自覚していなかった自身の願いに気が付いた
(アイへの黒い感情を無くしたい。そうすれば変な感情に惑わされること無くアイを見ることが出来るから)
正直妊娠しているという事はまだ受け入れられないが、いつかは納得してまた純粋にアイを推すことが出来るかもしれない。そうなれば良いなと願った
(しかし・・・トパーズ?犬に宝石の名前つける人初めて聞いたんだけど)
数ヶ月後、アイに双子が生まれ、その双子の名前からアイのネーミングセンスがユニークな事をトパーズは知ることになるのだった。
どうすればアイを生存させられるか?原因(リョースケ)を排除すれば良いんじゃよ。