「もういい!このやろう!」
「ひぃぃ!」
「きゃぁぁ!」
髭面の男は小松を投げ飛ばしティナごと段差から落としやがった。
くそ!あの髭面やろう!後でぜってぇ殺す!
「ヒシャァァ!」
クソ!事態はさらに悪化。
デーモンデビル大蛇は落ち着きを取り戻し、近くにいる小松とティナに狙いを定めていた。
しかも、少し……いや、かなりお怒りのようで今にも食い殺そうとしている。
「ひやぁぁぁ!」
「うわぁぁぁ!」
ティナ、小松は悲鳴を上げながらデーモンデビル大蛇を背に向け逃げ出す。
小松は何か巨大な銀色クラッカーのようなものを持っていた。
……あれは確かアニメでトリコが小松に渡した特製のクラッカー。火薬の量を多くしたもの。
耳栓をしていれば問題ないのだが……していない。
「いや!」
「ティナさん!」
だが、逃げるもティナは転んでしまい小松が駆け寄る。
小松はそのまま何か決意したように叫ぶ。
「ティナさん耳を塞いでください!」
「やめろ!」
俺は走るも、間に合わない。
声をかけるもデーモンデビル大蛇の鳴き声で掻き消されてしまう。
……あともう少しというところで間に合わない。
俺に力があればこんなことには。
慢心したつもりはない、油断もしていなかったはずだ。
──ドカーン!
後悔するも間に合わず、小松はクラッカーの紐を強く引き、爆音が発生した。
その音と一瞬の反応の遅れで、耳の保護を忘れてしまう。
……瞬間俺の視界は暗転した。
「……タイミング悪過ぎだろ」
気がつくとその空間にいた。
周囲を見渡すと真っ白な空間、目の前に黒いモヤが見える。
猛獣に跨り、背中から大きな羽が生えており、全身痩せ細っている。
右手には糸状の生物を携えている。
「もう少し、早く出てきてほしいねぇ」
グルメ細胞の悪魔はグルメ細胞の食欲エネルギーが具現化した存在だ。宿主が死ねば食霊となり復活の時を待ち、時代を超えて何度も蘇り、永遠に旨い食材を求め続ける。
グルメ細胞を持つ人間全員にこの悪魔が宿っているというわけではない。ごく少数のみである。
俺にもグルメ細胞の悪魔は存在していた。
だが、厄介なことに少し特殊なのだ。
宿主である俺が死ぬ寸前か力を渇望した時でないと現れない。
よっぽどピンチに陥らないと力を発揮しない特殊な悪魔。
怠惰、気まぐれと言う言葉が一番しっくりくる。
俺が死ねば復活できると思うのだが、こいつは必ず精神世界に現れる。
『10秒ねぇ……あと美味しいものぉ』
「随分と短いな……いや、充分だ。いいだろう」
随分と雑だ。やる気のない声。
俺はこいつに関してはわからない。
一つわかることは少なくとも俺を死なせる気はないということ。
どうせこのままだと俺を含めティナと小松は死ぬことになる。後先考えていられない。
俺はそいつに手を伸ばす。
黒いモヤに触れた瞬間、視界が再び暗転した。
「……ふはははは」
……力が込み上げてくる。
だが、10秒と時間がない。
一先ずこいつを仕留めなくては。
デーモンデビル大蛇は俺に反応し、威嚇してくる。
「すぅぅぅ」
俺はデーモンデビル大蛇に接近しながら空気を吸い込む。
活性化したグルメ細胞により俺の体の器官の働きは通常の倍以上。
今の状態だからできる体内操作。
体内に貯蓄していた食材の腐敗を意図的に速めてメタンガスを生成しながらデーモンデビル大蛇に接近する。
「めん棒ラリアット!」
「ヒシャァァ!」
胴体に威力のある一撃を。
パワーもスピードも上がっているので、いくらデーモンデビル大蛇が皮膚を伸縮させようがダメージは通る。
だが、それだけでは仕留められない。
だからこそこの手段を選んだ。
そのままデーモンデビル大蛇に向かって溜めていたガスを放出する。
「フゥゥ!」
体内生成した空気を吹きかける。
本来ならこの技は放つまでに時間がかかる。
本来ならこの技は体内でメタンガスを作るため、放つまでに時間がかかる。実戦では使い物にならない。
だが、グルメ細胞が活性化している今なら出来る。
「フシャァァ!」
ブレス技の対策を取る隙を与えない様に攻撃を喰らわせる。
デーモンデビル大蛇は俺の放った特殊ガスを吸い込み苦しみだす。
しかも、この技はただ臭いだけではない。
「スティンキーボム!」
──ドカン!
俺はメタンガスをデーモンデビル大蛇の体内で……引火爆発させる。
「ヒシャァァアア!」
結果は言うまでもない、デーモンデビル大蛇を体内爆発により仕留める。
「……ゔ」
急に身体中の力が抜ける。
やはり、反動が大きい。
体内のカロリーを全て使い切ったことで俺は体に力が入らず倒れてしまう。
これはグルメ細胞保持者が絶食時に生命の危機を回避するため、グルメ細胞が保持者自らを食すことで、一時的に超人的なパワーを発揮させるオートファジー(自食作用)とは違う。
名付けるとしたら「過食作用」とつけるべきだろう。
エンドサイトーシス(食作用)と呼ばれる、すべての細胞にもとから備わる機能。細胞が外部から栄養物質や、細胞機能を維持するための情報分子を取り込む、基本的な生命現象を応用した俺だけの奥の手。
俺の体内にあるカロリーを全てグルメ細胞に取り込ませ、実力以上の力を引き出すことができる、グルメ細胞の悪魔が応えたときだけの限定技。
悪魔の気まぐれで使える火事場の馬鹿力みたいなものだ。
しかも能力のオンオフはカロリーが空っぽにならないと解けない。
「……何か」
体が全く動かせない。
使い勝手が悪い。使った後は指一つ動かせない。
これで襲われたら終わるな。
「急いで……口に」
何か栄養を取らないと死んでしまう。
意識が朦朧としてきた。
ここで倒れるわけにはいかない。この場には小松とティナがいるのに。
やばい……このままなら俺、死んでしまう。
「ゾンゲしっかり!…早くこれ飲んでよ!……お願い!ねぇ!」
意識が途切れる寸前であった。
最後にうつったのは必死に叫ぶティナの姿。
──ゴクリ
口から暖かい温もりと共に全身に甘みが広がり、意識が完全に途切れた。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
主人公の悪魔はアスタロトという悪魔をモデルにしてます。
スティンキーボムは鯨の死体爆発を想像していただければイメージしやすいかと思います
「過食作用」というのはグルメ細胞にカロリーを一気に取り込ませて発動する状態で、体内器官全てを活性化させる。
ただ、身体を無理やり酷使するので数時間動けなくなる(無理をすれば多少は動ける)
リミッターが外れている状態、エネルギーを使い果たさないと能力解除されない使い勝手の悪い力。
また、生命エネルギーもほとんど使い切るので能力が切れた後、すぐに栄養を取らないと死んでしまう。
オートファジーは体内のあらゆる器官が活動限界を超えてたため、最低限しか生命維持活動しない。
一種の餓死状態となる。
オリジナル設定です。
そう言うもんだな、と思ってください。
最後になりますが、感想欄にティナの交渉能力、本編にないのに二次創作で捏造するのは……というご意見あったのですが、どう思いますか?
一応、テレビキャスターとしての新鮮な情報が手に入ること、ゾンゲという美食屋(採取、食材確保)を交渉材料に出来ることの二点で可能かなと思いその設定を加えました。
ティナの交渉能力について
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無理がある
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大丈夫だと思う。