洞窟の砂浜に着くと皆それぞれの行動を開始した。
「何て美しいところだろう」
「さぁ!捕獲するぜ!深海の珍味!」
小松は水着に着替え、トリコは上半身を脱ぎ捨て、海へ飛び込む。
ココはそんな二人に微笑みながら後を追うように海に入っていく。
「皆さん、見てください。テレビとしては洞窟の砂浜は初公開となります。何て綺麗なところなのでしょう。ここに10年に一度の産卵のためフグクジラが今目の前に……では、今からその正体に迫っていきたいと思います」
流石というべきか、ティナはカメラを映していた。俺は次々に行動を開始する面々を眺めていたら……ティナから話しかけられる。
「……ちょっと、あんたも行きなさいよ」
「断る」
「は?何言ってんのよ、あんた何のためにここまで来たの。フグ鯨は目の前なのよ」
こいつは鬼かよ。
まともに動けない俺が、神経すり減らすような繊細なこと出来るわけないだろうに。
「フグ鯨捕獲には繊細な技術が必要なんだ。ほんの僅かでも刺激を与えるとすぐに毒化するほど……グルメリポーターのくせにそんなことも知らんのか?」
「んなもん知ってるわよ!馬鹿にしてんの!」
「なら、今の俺を見りゃわかるだろ!疲労困憊なんだよ」
「ああ!重要なところでほんっとに使えないわね!」
「連れてきてやっただけありがたいと思え」
「ここまで来れたのトリコたちのおかげじゃない!途中リタイアしてんじゃない!偉そうにしないで!」
「ちょっとちょっとお二人とも喧嘩はやめて下さいよ」
いつもの癖で喧嘩をしてしまっていたら、海に潜ったはずの小松が声をかけてきた。
多分、トリコたちの足手纏いだと判断したんだな。
とにかく一先ず言い合いを止める。
恥を晒したしとりあえず謝っておくか。まずは笑顔で……。
「すまなかったな……って!いてぇな!何すんだごらぁ?」
「その大盛り不気味な笑顔やめなさいよ!小松くん怖がってるじゃない!」
心外だ。
何で頭叩かれなきゃいけないんだ。
疲れてるのに。
そうだ、こう言う時は本人に聞いてみるのが一番いいだろう。
「なぁ、怖がってないよなぁ?」
「ひぃぃ!ごめんなさい!怖がってましたぁ!」
「んだと?」
「だから、それをやめなさいって言ってんのよ!」
「あ?」
マジか……笑顔結構練習したつもりだったんだけどなぁ。
それにしても、小松は嘘つかない、いやつけないのか思ったことをそのまま言ってくるらしい。
正直すぎるのもどうかと思うが、この性格だから人を惹きつける魅力でもあるのだろう。
「……ふふ」
「あ?おい何笑ってんだよ」
「ひ!いや違うんです。面白かったとかじゃなくて……いや、お二人のやりとりが面白くて笑ってしまったんですけど……微笑ましかったと言いますか」
小松に笑われたから理由を聞いただけなのに、涙流さなくてもいいのに。
それにしても、微笑ましいか。
こんなやりとりでそう思えるとは。
「そう怯えるな。別に取って食おうってわけじゃないんだから」
「あ……はい」
少し警戒してる雰囲気はあるが、まぁいいだろう。世間話でもすれば落ち着くだろうな。
「俺とティナは……2年くらいか?」
「だいたいそのくらいよね。なんだかんだ未だに付き合いが続いてるわね。こいつが一緒にいれば危険地域行っても安心だし、珍しい食材も撮れるしね」
「腐れ縁ってやつだ。こいつといれば情報が手に入る。交渉も任せれば大概うまく行く」
交渉終わった後のティナはほとんど謹慎処分と始末書を書かせられているが。
それでもティナのおかげで上手くいったことの方が多い。
感謝する部分は多い。
「そ……そうなんだ。…へぇ。私のことそう思ってたんだ」
すぐ調子に乗るので本人には伝えないが。
「お互いに信頼してるんですね……お似合いです」
「……は?ち…ち、違うわよ!一ミリグラムもそんなんじゃないわ!ただ……そう!私は視聴者にてんこ盛りの情報を届けるために仕方なく一緒にいるのであって──」
小松の言葉にティナは顔を真っ赤にしながら何故か力説を始めている。
何をそんなに焦っているのやら。
小松も疑問符をあげている。
「おい、落ち着け」
「お…落ち着いているわよ。そもそも小松くんが変なことを言うのが悪いんでしょ?!」
「へ?…僕何か変なこと言いました?良いコンビ関係だなと思ったのですが」
「……あ、そう言うこと」
今の小松の言葉のどこに焦る要素があるのかわからないが……この分なら大丈夫だろう。
すると小松は姿勢を正すと真剣な顔をしてくる。
「あの」
「なんだ?」
「改めてお礼を言わせてください。助けていただき本当にありがとうございました」
「別にいい。お前は料理を用意してくれたしな。気にするな」
「そ…そういうわけには」
「律儀だな。……なら、今度何か食わせてくれ。確かホテルグルメに勤めてるんだよな」
「わかりました!……いつでもきてください!腕によりをかけて作らせていただきます!」
「ああ、楽しみにしている」
小松は律儀だ。一度受けた恩は一生忘れないタイプか。
ホテルグルメは本来予約が必要なほど人気のホテル。そこの料理長直々に飯を作ってもらえるのはありがたい。
「ね!私もいいわよね?!」
「はい!お二人でぜひお越しください!」
「やった!特盛ラッキー!」
……別にいいか。
ティナも活躍したし。俺の過食作用についてじいさんに話したのはティナ。過食作用に備えて特別な栄養ゼリーも用意してくれたらしいしな。
小松はタダで用意してくれるって言うし、別にいいだろう。
一人で自己解決をしていると、小松が話しかけてきた。
「それにしても僕、初めはすごく怖い人かと思ってたんですよ」
「……お前は俺をどう思っていたんだ?黙ってるといいことはないぞ?」
「え…えと……トリコさんから聞いた話なのですがーー」
小松は心を開いてくれたらしい。
怖い人と直接言われたので、少し反応に困った。
だが、俺が周りにどう思われているのか気になり聞いてみる。
「……魔臭」
「ぶ……ははは!何よその異名、カッコ悪!」
何だよその異名。
臭い奴って意味じゃん。俺、美食屋に陰でそう言われてたのか。
今思えばトラブル避けるために気絶させてた美食屋って俺を見るなり逃げるように去っていったような。
あと。戦闘が終わった時に、フォールブレスの巻き添いで気絶した美食屋もいたな。
てか、絶対根に持ってる奴がつけただろ。悪意しか感じない。
一応誤解だと小松に伝えると。
「……なるほど。噂に尾鰭がついて悪い方に広がってしまったんですね」
「一ミリも間違ってないわよ!アンタの毒ガス破壊力てんこ盛りじゃない!ぶ……ははは!」
小松……いい奴だ。ティナのやろう、爆笑さっさとやめろよ。
今度、高級店奢ってやろうかと思ったが、やっぱりやめよう。
「笑うな。気絶させるぞ?」
「ごめんなさい。笑いすぎたわ」
いや、真顔で反応すな。ちょっと脅し程度だったのになんだよその笑み一つない真顔は。
わかった、やらねぇよ。
「取れたぞ!」
話している間に時間が経ったらしい。
海面からトリコとココが顔を出していた。
どうやらフグ鯨の捕獲が終わったようだ。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
次回最終話になります。