自分の計画性が無さすぎる。
これを最初にやるべきだったかもしれん。
寒い、中学3年の冬。
高校受験も目前の季節。
多くの中学3年生が受験勉強に神経を注ぐ時期。
士道もまたその一人である。
それも成績はとても良い方ではないため、塾へ通う。
そんな平凡で誰とも違わず普通な生活を送っていた。
あの夜を迎えるまでは…
「はぁ…さっむ。」
息をかけて手を温める。
「何で成績上がらないんだろうなぁ…」
士道の成績は低くはないが、高くもない。
そのため確実に高校が受かる保証がない。
「にしてもこのままだとギリギリ合格ラインか…」
ギリギリ合格点ラインでは心臓に悪い。
現在。彼は妹の琴里と2人暮らし。
五河家は4人家族。
その内、父と母は海外で仕事していて滅多に帰ってくる事はない。
3年前からより帰ってくる頻度は少なくなっている。それだけ仕事を頑張っているのだろう。
なら自分は自分にできる事を最大限にしないといけない。
士道は本当の五河家の人間ではない。
彼は幼い頃、五河家にやってきたのだ。
当時彼は顔の覚えのない親に捨てられ、その後に五河家に引き取られた。
親に捨てられた場合、怒りや憎しみ、恨みといった負の感情を抱くのが多く見られるが…そういった感情はなかった。
士道はその辺から異常だった。
彼は親に対して一切の負の感情を向けずそれどころか思わなかった。
『ごめんなさい。』
何故かその想いで一杯だった…
そして琴里、血のつながっていない義妹。
五河家に来た時最初は警戒されたが、今では俺を頼ってくれる可愛い妹だ。
可愛い妹のためにも自分がしっかりしないといけない。
俺はしっかり者でなければならない。
士道は常にそう感じながら生きている。
これからもそうだろう。
それは異常な責任感であり使命感だ
呪いに近い
だからこそせめて高校受験は合格したいのだ。
都立来禅高校。
士道の希望している学校。
希望理由は家から最も近い場所だからである。
近くの高校なら早く家に帰ってご飯を作る事ができるため意地でも受かりたい。
とはいえまだ15歳の少年。
15歳にしては色々抱えすぎているのが五河士道であった。
「早く帰って勉強の続きを--」
背後に何かを感じた。
咄嗟に振り向くも何もなかった。
士道は少し怖くなり急いで家に帰る。
…士道が見ていない所で気味の悪い物体がいた。
-----
翌日。
士道はいつも通り、自分と琴里の分の朝ごはんを作る。
リビングに来た琴里がテレビを点ける。
「--町にて32歳の男性が路上にて死体で発見されました。
警察は--」
「なーんか、最近物騒になってきたねー。」
朝食前からチュッパチャプスを舐めるなよ。
けど、ちゃんと朝ごはんを食べてくれるから内心だけに留めていた。
「怖いよな。」
「お兄ちゃん、もうすぐ受験だからって遅くまで塾にいないでよねー。」
「おう。わかった。」
「お兄ちゃん? 無理はしちゃダメだよー?」
琴里が涙を少し浮かべながら俺の顔を見て言う…
「そうだな。わかった。」
真剣に心配してくれる琴里の言う事は聞いておかないとな。
-----
「しかし結局、今日も遅くまで残っちゃったな。」
今日も最低限、納得するまで残って勉強していたら11時近くになっていた。
家に帰ったら琴里に怒られるな…家に着く前にお菓子でも買って帰るか。
そんな事を考えていた瞬間。
空気が重くなる。
夜が更に暗くなる。
突然前に変な物体が立っていた。
ドクドク…ドクトク…
ジュクジュ…ジュクトク…
変な音を立てながら人の形になり、次第に人になる。
しかし当然普通の人とは異なる。
目が紫色に光っている。
よく見たら目だけではなく体からも変なオーラが出ている。
普通ではないと瞬時に判断し、俺は急いで後ろの方に逃げる。
しかし男は異常な速さで俺を追いかける。
捕まるのは時間の問題だった。
俺は男に首絞められる。
グググッッッ
「う…あぁ…ぁぁぁっっ」
苦しい。
首を絞められる。
ググッッ
抵抗しても…
自分の力では相手はビクともしない…
ググッッ
更に力が込められてくる
意識が飛びかけてきた…
ここで終わるのか…
こんな所で…
まだ…やりたいことも…
しなくてはならない事があるのに…
俺は…まだ…
ーーー 死にたくない ーーー
<ほう、死にたくないか。>
だ…誰…?
た…たすけて…
<自ら抗わなければ死ぬぞ。>
死ぬのは嫌だ
やりたい事がある。
<よかろう…覚悟、聞き届けたり。 >
体から力が溢れる。
首を絞めてきた男を吹き飛ばす。
<契約だ。我は汝、汝は我… >
先程の苦しみが嘘みたいに感じない。
<たとえ地獄に繋がれようと全てを己で見定める、 強き意志の力を! >
「うおおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」
俺は青黒い炎を纏い。
男を焼き払う。
「うわぁぁぁーー!!!???」
男は炎を浴びて倒れる。
男は奇妙な声をあげながら塵となり消えた。
俺はその現象に理解できず、呆然とする。
先程まで首を絞められ、男が塵となって消え、現実か夢か苦悩しているが、思った事があった。
俺から出現した者を見る。
シルクハットと一体化した仮面のような顔
タキシードのような赤い衣装
大きな翼を広げ男は語る。
<ようやくご対面する我が半身。>
俺はコイツを初めて見るはずなのに…
どこかで会った気がする。
<…>
仮面の男は黙って俺を見続ける。
<覚えていないのなら抗え。
その先にお前の答えがある。>
それだけ言って、仮面の男は姿を消した。
そして、空気が重くなる前に戻る。
夜も元の暗さに戻る。
瞬間、力も消え首の痛みがじわじわとやってくる。
「あが…はぁはぁはぁ…」
俺は周りを見る。
さっきいた男は元々居なかったかのように、自分一人だけの雰囲気だった。
しかし先程体験したのは紛れもなく現実だ。
体がそう告げる。
俺はフラフラとしながらも家に帰る。
-----
「た、ただいま…」
玄関に着くと、倒れ込む。
音に気付いてか、琴里がやって来る。
「お兄ちゃん、おかえ--大丈夫!?」
俺の体勢と顔色を見て琴里はビックリする。
「すまん。ちょっと苦しいだけ…」
俺は琴里に心配されながら、少しずつ体を起こす。
フラフラとしながら、服を脱がしながら脱衣所へ向かう。
「お兄ちゃん--」
琴里の声が聞こえる。
聞こえるだけで正直何を言っているのか分からなくなっていた。
風呂な入っている時もヘロヘロ状態だった。
一体何だったんだあの変な生き物は…
人型になって人になり…もしあれが一般の人だったら…
でも俺は首を絞められて正当防衛で守っただけだ…
俺は悪くないよな…
でも塵になってたし…ホントなんだったんだアレは…
夢だ夢に違いない。
勉強しすぎたんだ…
琴里の言う事をちゃんと聞いていなかったから罰がきたんだ…
そう思いながら風呂からあがり、階段の手すりを掴む。
「お兄ちゃん、本当に大丈夫?
何かあったの?」
琴里が心配して言う。
「大丈夫だ。琴里。
勉強しすぎたのと、道中変な人に追いかけられて逃げてきたんだ…
何とか撒いたから大丈夫。」
「ほ、本当に?」
「あぁ…だから大丈夫だよ。」
琴里に全て説明したかったが、体がほぼ限界を迎えていた。
-----
「ん…んん…」
体が痛い。
ベットで寝ていたはずなのに、ベットとは違う感じである。
目を覚ますと知らない空間にいた。
俺は咄嗟にフラフラな体を立たせる。
目の前に広がるのは檻だった。
俺は収監されているのだと気づいた。
俺が目が覚めた事に気づいて人が現れる。
一人は真ん中に机と共に現れ、一人は大きめの本を携える。
机と共に現れた男は黒のスーツに鼻がとんがっており、体が大きめの男だった。
こんな鼻は初めて見る。
…いやそれ以前に誰だ?
もう一人は女の子。
金色の瞳とプラチナブロンドを持つ少女。
青いワンピースに黒のドロワーズ
頭には蝶を模したカチューシャを付けている
それもかなり美形で琴里と同年代か少し上に見える。
「ようこそ、我がベルベットルームへ。」
男が喋る。
「お初に、お目にかかります。
私はイゴール。
以外お見知りおきを。」
おお、声が思ってたより高かった…いやそんな事はどうでも良い。
「だ、誰だあんた達!?」
俺が問うと女の子が口を開く。
「我々はあなたを助力し、導く者。
申し遅れました。
私は『ラヴェツァ』と申します。
以後お見知り置きを。」
ラヴェンツァを名乗る女の子は、淑女の様にスカートの裾を軽く持ち上げ挨拶する。
「…ここはどこだ? 刑務所なのか…?
お、俺は! 俺はただ!
…自分の身を守るために…仕方なく…あの!」
自分は人を殺めてしまったのか…
だとしても自己防衛のためであって…
「落ち着いてください。
ここは刑務所ではありません。」
ラヴェンツァが語る。
「左様。ここは、『ベルベットルーム』。
夢と現実、精神と物質の狭間の場所。
私はこのベルベットルームの主を致しております。」
べ、ベルベットルーム?
どうやら、この青い部屋の名前らしい。
まぁ刑務所じゃないなら良いが…
ていうか何で檻の中にいるの?
しかも俺の格好、囚人服だし。
「あなたがその格好であるのと、この場所が牢獄なのは…
あなたの心のあり方を模して表現されたのがこの部屋です。」
なんだそれは…
もっと良い部屋であって欲しかった…
俺、こんな趣味もないし…
縛られるの別に好きではないのだが…
ラヴェンツァはその様子を見て淡々と語る。
「あなたは『何か』に縛られているのは間違いありません。
…いいえ、アナタはいずれ【破滅】を迎える運命にある。
我々はそんなあなたをサポートする者です。」
サポート…?
「そしてご安心を。昨夜あなたが葬ったのは、“シャドウ”と呼ばれるもの。
人ではございません。」
シャ…シャドウ?
「民衆一人一人の負の感情、心の歪みが具現化したもの。
本来は表側であるあなた達の生活に現れる事はないのですが…
今は、何者かにより現実により出現しています。」
「出現した際人間を乗っ取ろうとし、乗っ取られた者は我を忘れ暴走します。
乗っ取られる者の多くが、心の奥底に歪んだ感情を持っておりそれを利用され騒動を起こします。」
情報量が多すぎる。
まるで子供が夢見る設定じゃないか…
「今回のあなたの場合、そのシャドウはどこかの負の感情、心の歪みが大元となった人物になりすましたシャドウです。」
「あの危機の中、あなたが開花させたのは“ペルソナ”と呼ばれるもの。
我々はその『ペルソナ使い』を導く者です。
そしてあなたはこの世界で最初に開花させた者です。」
な、なるほど?
「そのペルソナとは神話・伝説・童話の人物や生物の名前や性質を持つ力を己の心として実体化させるもの。
それを開花する者はごく稀でございます。」
なんか凝った設定を言ってるように聞こえる…
勉強しすぎて幻覚を見ているのか…?
「先ほども申し上げたように。
ここは夢であり、現実の狭間。
今語った全ては事実であり、現実です。」
心の中を読んでくる。
「…そろそろ時間です。
あなたにはこれからあなたには様々な試練が待ち伏せています。
それをお忘れなきよう。
そして、目覚めたばかりのあなたにこれを」
そう言って俺に“メガネ”を見せる。
「これはあなたがペルソナを使えるよう、あなたのペルソナを一部具現化した物です。」
め、メガネが…?
…ってここ夢じゃ!?
「またいずれ…シャドウはまた騒動を起こすでしょう。
そしてそれを対処するのはあなたしかできない事です。」
!?
またあんなのが…!?
「…あなたならきっと困難を乗り越えられると信じています。
ーーでは、ごきげんよう。」
-----
チャンチュン
朝、鳥の声で目覚める。
寝る前の具合の悪さは無くなっていた。
良かった。
しかしかなり凝った夢だったような--
ん?
手に何か当たってる?
当たったモノを見ると…
そこには夢でラヴェンツァが見せたメガネがあったのだ。
「え!?」
夢ではなかったと認識する。
…色々な考えている中、ふと時間を見ると学校へ行く時間が迫っていた。
俺は直ぐ着替えてメガネをポケットに入れ、朝食を作りに下は降りる。
-----
「お兄ちゃん、具合どう?」
琴里が心配しながら俺に聞く。
「うん。大丈夫。心配かけたな。」
「今日からは早く帰ってくるのだぞー、もう家で勉強するのだぞー。」
「はいはい。」
俺は返事を返し食器を洗う。
そして学校へ行く。
-----
学校が終わり、今日は塾へ行かずに早めに帰る。
しかし帰る途中に
--気配を感じる。
気配を探り、人通りのない道を歩く。
そこに不気味で、奇妙な生き物がいた。
居た。シャドウだ、間違いない。
キョロキョロと人がいない事を確認し、俺は昨日の事が嘘でないか確かめる。
「ペルソナ。」
瞬間、俺の服装が炎に包まれ変わっていく
そして炎から解放される
その姿はまさしく怪盗であった。
この姿になった自分を近くにあったガラスを見て、妙な自信に満ち溢れる。
それは--特別感というモノだろう。
俺は、本能のままにシャドウを倒す
消滅するシャドウを見届け、自分の手を見て思う。
…俺にしかできない事か
ふと、口元が変わっていくのを感じた。
ガラスに映るその自分は、ニヒルな笑みを浮かべていた。
-----
「お兄ちゃん、おかえりー。」
「ああ。ただいま。」
「ん?」
琴里は士道に疑問を抱く。
なぜなら、雰囲気が変わっていたからだ。
妹の琴里には直ぐわかった。
「お兄ちゃん?」
「ん、どうした? 琴里。」
「…んんー。何でもなーい。」
そう言って琴里はテレビを見る。
今思えば、この日から琴里は俺の事を注意深く観察していたのかも知れない。
そして俺も琴里の違和感には気付いていた気がする。
どこかーーカワイイ妹を演じているように。
違和感自体は…いつからだっけ?
-----
そして時は過ぎ。2年後。
時刻は夕方。
突然叫びだして大暴れしていた男性がいた。
まるで急に人が変わったかのように公園で人に暴力を振るい、パトカーの音を聞きその場から直ぐ逃げ出したようだ。
…俺は気配をたどり来たものの犯人は既に逃走していた。
夜中。
俺はシャドウの気配を感じ、ペルソナを使い気配のする所へ急いで移動する。
その男はまた動きだした。
今度はゴミ捨て場で火をつけようとしていた。
その男はシャドウに取り憑かれていた。
今回のシャドウは人に取り憑いたタイプのようだ、いずれ何かを起こす気だったのだろう。
事態が大事になる前に早く対処しよう。
-----
あれから2年…あっという間だった。
俺はあの後自信がついて高校受験を乗り越えた。
狙いだった来禅高校に通っている。
あれからペルソナの力を使ってシャドウを対処しているが…
気配を感じとっても遅れている場合が多い。
今は運が良く大きな問題になっていないけど…
もし…
もし大事になってしまったら…
自分には背負いきれるのか。
俺にこんな力があっていいのか。
最近はそう思えるようになってしまった。
最初は正義の味方を気取っていた。
この力で何でも出来ると思っていた。
でもそうではないと知った。
被害は多くなっている。
気配を感じても間に合わない事がある。
…けど諦めたくはない。
その思いでこれからも自分に出来ることをしよう。
俺は正義の味方にはなれない。
全ての人を助けられない。
ならせめて自分の助けたいって、思った人は助けられるよう…
そう思いながら日常を迎える。
だんだん書いてって暗い感じに進んだ。
それに合わせて過去の投稿した話も修正しまくった。
今後はもっとちゃんと設定を組むようにしていきたい。
あ、今作の士道くんが紳士的だったり、急に素が出たりするのはペルソナの力の影響です。
士道くんは、ペルソナを使うたびに人格が変わったという設定です。
因みにこの設定の改善の可能性あり。