デート・ア・ペルソナ   作:黒ソニア

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八舞編ラストです、どうぞ。





第十話:旅行閉幕

 

ドクンッ!

 

士道の体に異変が生じる。何かが流れ込む、それは温かい様なモノだった。

 

停まっていた細胞が蘇り始める。

 

途切れていた意識も戻り始める。

 

「………ん…っ。んん?」

 

ゆっくりと瞼が開き始め、意識もハッキリしていく。

 

(アレ…俺は…?)

 

何があったのか、どうなったのか、疑問に思う事が溢れ出すが…その前に何やら声が聞こえる。

 

それは、悲鳴の様だった気がした。

 

「…何だ?」

 

ゆっくりと体を起こすと、近くで耶倶矢と夕弦が泣いていた。

 

「うぅ…うぅ…」

 

「ぐすっ…」

 

「…っ!2人ともどうし--な、何で全裸になってるんだ!?」

 

そう、2人は素っ裸になっていた。

 

…この現象にどこか見覚えがあったが、それどころでは無かった。

 

「士道に服を剥ぎ取られたぁ…」

 

「落涙。もうお嫁に行けません。」

 

「えっ!?俺はそんな事!」

 

自分は何もしていないと表現する。すると、コチラへ歩いてくる者がいる。

 

「…それが、霊力を封印された証拠だ。服が無くなってしまったのも、霊力の一部であるからだ、理解してあげてほしい。」

 

解説しながら歩み寄るのは令音だった。

 

「あ、令音さん!…っ!?あ、いや、これは!」

 

「…あぁ、分かっているさ、キミは何もしていない。そうだろう?」

 

「そりゃ、勿論俺は--ん?そもそも何で俺は寝ていたんだ?」

 

そう、士道は怪物へ向けて全力全霊で立ち向かったのは覚えている。だが、鏖殺公(サンダルフォン)による渾身の斬撃を放った後の事が覚えていなかった。

 

「…キミは2人を守るために無茶をしたのさ。それ故に危険な状態だった。」

 

令音は2人に浴衣を渡しながら士道へ近づき、頭を撫でる。

 

「ひとまず、キミが助かって良かったよ。シン。」

 

「…すみません。ご迷惑おかけしました。」

 

「…そうだね、色々と言いたい事、聞きたい事あるだろうが。」

 

令音は浴衣を着ようとする2人を見る。それに釣られて士道も向けてしまう。

 

「ちょっ!?士道、コッチ見んなし!」

 

「赤面。恥ずかしいので、見ないで下さい。」

 

耶倶矢と夕弦は着る途中で、裸体を隠そうとする。

 

「あ!ご、ごめん。」

 

そう言って、直ぐに顔を晒す。

 

状況が状況なため、紳士な士道はチラチラともせず2人が着替え終えるのを待つ。

 

…全裸になってしまう原因主が何を言っているのかと思うが、仕方ない。

 

とはいえ…こうして戦いは終結する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ある人物が誰かに連絡を入れる。

 

『やぁ、エレン。連絡が遅かったじゃないか、大丈夫かい?』

 

そう、その人物はボロボロのエレンだった。

落とし穴から何とか抜け出したものの、戦いは幕を閉じていた。加えて、自分は惨めに負けてしまっていた。

 

プライドの高い彼女だったが、相手がウェストコットのため、正直に話し始める。

 

「…はい、私自身に問題ありません。しかし…プリンセスの捕獲には失敗しました。」

 

エレンの言葉に通信越しからでも分かる通り、ウェストコットは驚いていた。

 

『何と…それはそれで興味深い話だね。--何があったんだい?』

 

ウェストコットは特に叱ったりせずに経緯を聞き出す。

 

「はい。まず、夜刀神十香は精霊(プリンセス)で間違いありません。彼女の天使をこの目で確認しました。」

 

『何だ、目的は遂行しているじゃないか。』

 

そう、あくもでも目的は十香がプリンセスかどうかを知るためにエレンは士道達の旅行に同席したのだ。

 

「はい、ですが…あの“ルパン”に遭遇し、不意打ちを…受けて…無様に…っ!」

 

拳を握りしめながらそう呟くエレン。エレンは、あの落とし穴も士道の罠であると誤認しているのだ。

 

エレンが悔しそうにしていたが、報告を聞いたウェストコットは--

 

『フフ、フハハハハッ!』

 

笑っていた。

 

『そうか、やはり現れたか。その様な気はしていたよ。』

 

ウェストコットは愉快そうに、()()()()()

 

「…アイク。」

 

『ああ、すまないエレン。そう気を悪くしないでくれ。』

 

「…他にも、“ベルセルク”にも遭遇しました。ベルセルクはルパン…いえ、『五河士道』という人物の元に下った様子です。」

 

『ほう?』

 

ウェストコットは瞼を大きく広げていた。あのベルセルクが現れた事による事なのか、はたまたルパンの元に下った事からか…否、そのどちらでもない。

 

『--イツカ、シドウ。』

 

そう、彼はルパンの真名に心躍っていたのだ。

 

『フフフ、素晴らしい成果じゃないか、エレン。大収穫だよ。』

 

「…そう言っていただけるなら幸いです。他にも報告したいのですが、後は後ほど…」

 

『あぁ、ご苦労だったね、エレン。帰還してくれたまえ。

--帰りの便の手筈はこちらで済ませてある。ハイスクールには、エレンは急遽帰宅したと連絡を通しておく。』

 

「ありがとうございます。」

 

エレンはホテルの方に向かわず、何処かへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ここは…?」

 

ふと目を覚ました少女、鳶一折紙だった。

 

「お、お目覚めだな。折紙ちゃん。」

 

相手にするのは夢界だった。それを見てか、体を起こそうするも、痛みによってベットへ再び倒れる。

 

「そ、そんなに俺嫌いかい、折紙ちゃん?」

 

「…別に、そんな事はない。」

 

「なら、良いんだけどさ。」

 

そんなたわいのない会話をしていたが、折紙は夢界に問いかける。

 

「…あの後は?」

 

「士道が全部片付けたよ。」

 

「…そう。」

 

それを聞いて、安心すると、次第に顔を隠して…人がいる前で泣き始める。

 

「強く…なりたい…」

 

「…」

 

その様子を静かに見ていた夢界は

 

「焦る事はないんじゃない?今回のは--」

 

答える中、折紙の横及び、夢界の後ろで寝ている人物の声が聞こえだす。

 

「…シドー…ムニャムニャ…きな粉パンを一緒に…食べるのだ…ムニャムニャ…」

 

十香は既に痛み引いており、そのまま熟睡していた。

 

「…何故、夜刀神十香が一緒の部屋に?」

 

「十香ちゃんも共に負傷してたからだよ。」

 

「…士道の部屋に--ッ!」

 

十香と同じ部屋なのが嫌なのか、はたまた本来の目的である士道の部屋に行こうとするも、痛みによって起きれないでいた。

 

「安静にな?」

 

そう答えるしかなかった夢界であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…シン、着いたよ。」

 

令音は士道に肩を貸す状態で、士道の部屋まで連れて来た。

 

耶倶矢と夕弦は既に、フラクシナスへと連絡をし、回収してもらった。

 

2人の事は大丈夫だろうと判断し、士道も疲労が激しいため、回収して貰おうかと考えたが

 

『…大丈夫です。急にいなくなったら、それこそ面倒な事になりますので。』

 

と告げて、ヨロヨロとホテルまで歩き出したのだ。今にでも倒れそうな彼を令音は直様手助けに入り、部屋まで連れてきたという訳である。

 

「…」

 

士道は意識を失っている状態だった。無理もない。

あれ程の戦闘を繰り返す中、封印してきた精霊達の天使を使ったのだ。

翌日、酷い筋肉痛が襲い、歩くのに苦戦する士道の姿が目に見えていた。

 

令音はベットへと寝かせようとするも、体制を崩し、士道に襲われる様な形でベットに横たわる。

 

「…っ。」

 

特に支障はないが…

 

「…あぁ、相当疲れているんだね。酷いものだ。」

 

服の上からでも分かる通り、汗まみれだった。

 

普通というのか、一般的と言うべきか、この年齢の男子の体臭は9割以上は臭うものである。

 

いかに清潔にしている人物であろうと、駆け回り、汗まみれになっていれば、離れて欲しいと突き放すものであろう。

 

だが、令音は特に苦もなく、メガネを外し、そのまま士道を抱き寄せて、頭を撫で始めた。

 

「…よしよし、シン。いい子いい子。」

 

愛おしい。

 

ただ今は、その思いで一杯だった。それは、士道自身に向けてのものなのか、はたまた()に向けてのことだったのか…

 

令音(本人)にさえ、分かっていない。

 

「…キミの匂いも寝顔も変わらないね。」

 

たが今は、ただ…ただ、士道を愛おしく思い、疲れが取れるように頭を撫でていた。

 

彼女の顔は、普段の仏頂面というべきか、いつもの変わらない表情ではなく。愛する者と一緒にいられる事に幸せを感じている。それが側からでも分かるような感じで…微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「凄かったなぁ。」

 

戦いが終わり、穏やかな表情で海を眺めている女性がいた。

 

「何年経っても、キミはキミのままで良かったよ。

…でも、キスするのだけは容認出来ないけどね。」

 

途端に可愛らしくプクーっとした顔になっていた。

 

そんな事をしていると--

 

「ご苦労様。大活躍だったね。」

 

物音を立てずに彼女の近くにいた男が女性へ語りかける。

 

「い、いきなり現れないで下さいよ。」

 

女性は驚いた顔をして慌てていた。

 

男は「すまない。」と告げると海を観ながら、語りかける。

 

「…本当なら彼ともっと話たかっただろう?正体を隠したままでなく、ありのままの自分の姿で」

 

「…はい。」

 

「だが、それは今では無い。分かってもらえるね?」

 

「…今回よりも、壮絶な戦いが待っているんですね?」

 

女性は男に問いかける。

 

「あぁ…今回はあくまで、彼らは確認程度で接触して来ただけさ。

--本番は次からだ。」

 

真剣な顔になる男。

 

「次の戦いでは、彼らの素性や本性、実態が全て明らかになる。それを知ればキミ達は冷静でいられないだろう。」

 

その言葉に反応する女性。

 

「事態が悪化する前に叩くのは正しい事だが、今は、迂闊に手を出すと悪い方向へと流れて行く。それは回避しなければならない。受け入れて欲しい。」

 

男は女性に向き合い、杖を出しながら語る。

 

「そのためにもキミ達には個別で強くなってもらいたい。なぁに、危ない所へは行かせないから安心して、己を磨いて欲しい。」

 

女性は渋々頷く。確認を終えると、杖を地面へ強く叩く。すると女性がヒカリに包まれ、この場から消える。

 

男は今を見通す眼で彼女が無事に帰宅するのを見終えると、そのまま自身もその場から後にする。

 

男が立っていた場所には、美しい花が咲いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ザー ザー

 

一面には美しい水色の海が広がっていた。

 

そんな美しい海に負けない…どころか、海よりも美しい人物が楽しそうにパシャパシャと海を堪能していた。

 

見ていて、自分はその子に『見惚れて』いた。姿も顔も認識できていないのにだ。

 

だが、わかる事がある。その子はとても

 

--笑顔の似合う子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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目の前には、広大な海が広がっている。

 

その光景を一人じっと見つめている人物がいた。

 

「…」

 

それは、頬を物理的に赤くさせられ、瞳に光が灯っていない士道だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨夜の戦いを終え、途中意識が無くなってから、次に意識を取り戻すと、士道は令音に胸の中に抱き寄せられている状態であった。

 

突然の事で、テンパっていたのだが、ムッツリな士道は次第に満更でもない表情になりつつあった。

 

だが、廊下から令音を探し呼び続けるタマちゃんの声が聞こえ始め、令音に問いかけるも、令音はウトウトと眠っていたのだ。

 

その姿はとても美しく、可愛らしさのある女性の顔だった。珍しいのを見た士道は令音の顔を見ているのに夢中になっていると、部屋に誰かが入って来る事に気づかなかった。

 

『な、ななな、何をしているのだシドー、令音!』

 

士道の事が気になって、士道の部屋に入ると、令音に抱き寄せられている現象を見た十香は、最初は顔を赤くしていたが、次第に嫉妬のオーラを出し始めて、拳を強く握りしめ始めた。

 

『お、落ち着いてくれ、十香!』

 

士道は訳を話そうとするも、聞く耳を持たない十香は

 

『シドー!!』

 

と、士道に鉄拳制裁をお見舞いしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…痛ぇ。」

 

今朝の事を思い出しながら、痛む頬を触っていた士道だった。

 

士道がホテル前にある海を眺めていたのは、夢のせいで海が気になったのである。だが、見ていても何も分からないし、感じなかった。

 

「はぁ…」

 

不幸だと、内心で思いながら溜め息を漏らすと、後ろから足跡が聞こえてきた。

 

「…ここにいたのかい。」

 

令音だった。

 

「はい…ちょっと気になる事があって…」

 

「…そうか。」

 

令音はそう聞くと、士道の横にまで近づく。

 

「…筋肉痛などはあるかい?」

 

「あー…実の所、凄く怠い感じです。」

 

素直な意見である。あれだけ戦場を駆け巡ったのである。いかに琴里の霊力(加護)があっても、疲れまでは癒せないのである。

 

「…そうか…頬の方はどうだね?」

 

「滅茶苦茶痛いです。海を見ていても、全く癒されないです。」

 

頬をさすりながら士道は答える。

 

「…それは、大変だね。」

 

と、他人事の様に語っていた令音である。そして、一拍おいて令音は士道に語る。

 

「…昨日はありがとう、シン。キミのお陰で助かったよ。」

 

それは、バンダースナッチによって襲われそうな時に士道が駆けつけて、助けてくれたからである。

 

「いえ、令音さんに怪我が無くて良かったです。」

 

と笑顔で答えるも、何処か納得のいかない顔になる。

 

「…鳶一折紙の事かい?」

 

「…俺、分かりやすいですかね?それとも…実はエスパーだったりします?」

 

それを聞いて、令音は面白かったのか、クスッと微笑み出す。

 

「…両方かな。」

 

「マジですか。」

 

自分の事はともかく、エスパーである事に士道は真に受ける。

 

「…まぁ、キミだけに向けての限定的なモノだけどね。」

 

「…」

 

士道は微笑む令音を見て、頬を赤らめる。

 

そんな、士道に気づかずに話を戻し始める令音。

 

「…彼女に関してはキミに責任はない。寧ろ、早く来てくれたからこそ、我々はこうして生きている。」

 

「…早く無いですよ。遅い方だ。」

 

士道は暗くなる。彼は、もっと早くに来ていれば、気がついていれば、折紙が怪我を負う事はなかったんじゃ無いかと考えていた。

 

因みに折紙に関しては、今朝にはすっかり回復しており、朝の出来事に駆けつけて令音に嫉妬していた。

 

「…そんな事はないさ。キミは良くやっている。いや、寧ろ頑張りすぎているのではないかと、心配するくらいさ。」

 

令音は士道の頬を優しく撫でる。

 

「…」

 

優しく撫でてくれる令音の優しさにより、頬の痛みが引いていく。

 

「…さぁ、朝食の時間だ遅れる前に戻ろう。」

 

令音はそう言って士道をホテルへ誘導して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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空港にて、士道達学生はお土産を買いに来ていた。

 

「シドー!これ全部買いたいぞ!」

 

「流石に全部はなぁ…」

 

十香は手元に沢山のお土産(食べ物)を持って来ていた。

 

「…むう。」

 

「えぇと…こういうのは、ある程度絞って買うからこそ味があるというか…」

 

士道は口ごもる。理由は、十香がぷくーっとしており、涙目になっていたからだ。

 

「どうしたー?なんかあったのか?」

 

その様子を見ていた夢界が来る。

 

「あぁ、流石にこの量はなぁ…って。」

 

「ん?…あ、あぁ…うん、この量はな…うん、凄い量だな。」

 

こればかりは士道に同意見だった。

それにより、十香の機嫌が悪くなっていく。不味いと思った2人は互いの財布を確認しようかとした途端に救済の手が差し伸べられる。

 

「…大丈夫だ、コレがあるから問題ない。」

 

令音だった。そして、差し出されたのは--

 

(これ、ブラックカードじゃん…)

 

士道は頬を引きつらせていた。一般の家庭では基本見る事ないだろう代物であったからだ。

 

「…ん?買えるのか?」

 

っと、士道にねだる十香。

 

「あぁ…コレがあれば…な。」

 

「おお!流石、シドーだな!」

 

と、さっきとは一変してはしゃぎ始めた十香だった。

 

「いや、俺じゃなくて--」

 

「…まぁまぁ。」

 

と令音は士道の肩を持った。

 

「ちょっ!?これ良いんですか!?」

 

「…あぁ、問題ない。ラタトスクが全て負担する。十香達が不機嫌にならないのなら安いものだ。」

 

(本当に…ラタトスクって、何なんだ?)

 

と疑問に思っていたが、夢界がケラケラと笑いながら親指を立て始める。

 

「スゲェな!これで欲しいもん買いたい放題じゃん!」

 

「…キミの分は自己負担だ。」

 

「何で!?」

 

相変わらず、夢界には謎の冷たさを見せる令音。その光景を見ていて、どこか微笑ましく感じる士道だった。

 

「全然、微笑ましくないからな!?ていうか…何で、俺には冷たいんだよー!」

 

士道の心中を読んだ夢界。

 

「…」

 

しかし、令音は相手にしてなかった。

 

「ははは…」

 

軽く笑い流していると、ふと士道はあるモノに目が映る。

 

それは、ハートのキーホルダー。2種の猫を用いた何処でもある様な物。しかし、何故かそれが異様に目に入ってしまった。

 

それを手に取り始めた。

 

(2つで揃うタイプ…)

 

裏を見ると、そこには『気になる人に片方をあげてみよう!』と記述されていた。

 

…特に意識をしていた訳ではないが、ふと十香を見ている令音を自然に見てしまった士道。

 

それをこっそり見ていた夢界が、ニヤっとしながら士道に小声で告げる。

 

「ボソッ。(それ、令音ちゃんに片方やれよ。)」

 

「は、はぁ!?」

 

「ケッケッケッ!」

 

夢界は士道からカードを取り上げて、まだ追加しようとする十香の元へと向かった。

 

「…」

 

士道は頬を赤ながらも、再度見つめ直し、レジへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「令音さん。」

 

士道は令音を呼びかける。

 

「…どうしたのかね?シン。」

 

「…あのですね。」

 

士道はメガネを曇らせ、恥ずかしそうに頬をかきながら先程購入したキーホルダーを取り出す。

 

「えぇと…実は、キーホルダーを買ったんですけど…片方を受け取ってくれませんか?」

 

「…」

 

令音は少し驚いた表情をする。

 

「…十香にあげれば、良かったんじゃないかな?」

 

「それだと…何か後々からありそうって言うか、何て言うか…」

 

士道は十香にあげた場合、折紙に向けて自慢する姿を想像し、後先の事を考えていた。

 

「…それに、普段からお世話になってるというか、令音さんはもう、俺にとって()()()()()()()、受け取って欲しいなって思いまして…」

 

「…!」

 

眠たげにしている瞼が大きく開く。『大切な人』に認知されている事に嬉しかったのか、令音はそれを受け取る。

 

「…ありがとう。大切にしよう。」

 

「はいっ!」

 

嬉しかったのか、つい元気な声をあげてしまう。

 

「…あっ、つい声が。」

 

「…フフ。」

 

可愛かったのか、小さく微笑む令音。

 

「…」

 

恥ずかしそうに目を逸らしながら、頭を軽く掻き始める士道。

 

そうしていると、十香がいるロビーまで足を運んでいた。

 

「シドー!帰りは一緒に窓から見るのだ!」

 

っと元気よく語りかける十香。

 

「あぁ、わか--」

 

「--それは、認められない。」

 

いつの間にか士道にくっつく折紙。

 

「鳶一折紙!貴様ぁ!」

 

「士道と一緒に海を眺めるのは、私。邪魔をしないで。」

 

「うがー!」

 

十香も士道にくっつき、渡さんとしていた。

 

「え、えぇっと…ジャ、ジャンケンで決めよう?」

 

士道の意見に2人は負けないと、睨み合う。そして、2人が同時に手を前に出した。

共に『グー』を出しており、あいこになる筈が--『パー』を出す手が二つあった。

 

「む?」

 

「?」

 

当然、2人は疑問を抱く。無論、士道も疑問に思っていると--

 

「呵呵、我らの勝利だな。」

 

「宣告。夕弦達の勝利です。士道との相席は八舞姉妹がいただきます。」

 

と、士道のそれぞれの腕をがっしりと絡みつく。

 

「え?」

 

士道は驚く。フラクシナスに回収された筈の2人がいつの間にかここにいた。

 

「何!?」

 

「勝手な事を言わないで…!」

 

突然現れた2人に闘志を向ける十香と折紙。

 

「ま、待ってくれ。2人ともどうしてここに?」

 

士道の疑問に、浮かれていた令音が語り始める。

 

「…2人がどうしてもと聞かなくてね。許可を出したんだ。」

 

「…え?」

 

「くくく…光栄に思うが良いぞ、士道よ。御主は既に我ら八舞姉妹の共有財産となったのだ!」

 

「同意。ですので、これから思う存分愛してあげます。士道。」

 

「…へ?」

 

情報の多さにツッコミが出来ない士道。

 

「シドーは渡さん!」

 

「士道は渡さない…!」

 

十香と折紙はそれぞれ、士道を奪われない様に手に絡みつき合う。今の士道は4人の美少女に手を引っ張られていた。

 

「ぐぅぅわぁぁ!!」

 

ギリギリと地味に痛い。

 

[コロス…五河、コロス!]

 

その光景を見ていた、男子達が殺気を向けていた。

 

「あーらら〜」

 

その光景を面白そうに見ている夢界。

 

「あん?何か、五河に取り合ってる女子増えてんな?」

 

特に羨ましくもなさそうに見ている天宮翔太。

 

そして

 

「…」

 

それを静かに見ていながらも、何処か不機嫌にしている令音だった。

だが、士道から貰ったキーホルダーを見て、微笑む。

 

「…フフ。」

 

色々あったが…こうして、大変だった修学旅行の幕は閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスク本部

 

そこでは、上層部である最高幹部達による円卓(ラウンズ)の会議が行われていた。

 

「--以上です。」

 

琴里がこれまでの経緯を説明した。今の琴里は真紅の軍服をキチンと着用し、口にキャンディも咥えていない姿であった。

 

「やれやれ…」

 

幹部の1人、意地の悪い男は溜め息を吐きながら語る。

 

「今の今まで、こんな重大な事を把握してないとは…司令官としての自覚はあるのかね?」

 

「全くですな…」

 

それに同意するのは、同じく幹部の1人、片眼鏡の痩男である。

 

「ふん、それも肝心なキミは【シャドウ】と呼ばれる紛いモノに捕まったそうじゃないか…お陰で後処理が面倒だった。」

 

更に琴里に文句を言いつけるのは、幹部の1人、吠える様に語る初老の男である。

 

「…っ。申し訳ありません。」

 

琴里は奥歯を噛み締めながら、頭を下げ、謝罪する琴里。

 

司令官とはいえ、琴里はまだ13歳の女子中学生。子供相手にこの様な冷たい言葉を言うとは…人間性を疑うモノである。

 

…ラタトスク機関の最高幹部であるこの3人自体は大した事がない。

だが、金銭面およびメディア関連に顔が効く者達である。

精霊を守る為にも、こういった者達の力が必要であるのは仕方ないと納得出来るが…実の所、この3人は、精霊の力をどうにか独占出来ないかと考えているどうしようもない人材である。

 

ハッキリ言ってしまえば琴里は、この3人(老害)が嫌いである。寧ろ好きになる要素が欠片もない。

だが、十香達といった彼女達を守る為にも、我慢しなければならない。

 

琴里が頭を下げ、悔しそうな表情をしていると

 

「--顔を上げて欲しい、五河司令。」

 

琴里が顔を上げて見る。その人物は、琴里が唯一ラタトスクの上層部で信用できる人物。

 

--エリオット・ボールドウィン・ウッドマン

 

ラタトスクの創始者にして、議長であり、琴里の恩人である。

 

「…議長。」

 

「彼女はまだ、13歳の少女だ。野暮な事はよしたまえ。」

 

そう言われて黙る幹部達。琴里は、エリオットに対して、優しい顔になる。それに応えるかの様に優しい顔になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…すまないね、五河司令。キミには、苦労をかけさせてしまって。」

 

会議は終わり、豪華な部屋である議長の部屋で謝罪するエリオット。

 

「いえ、慣れています。こちらこそ、ご心配をおかけして申し訳ありません。」

 

「大丈夫だ。ここでは、気を楽にして欲しい。」

 

紳士に対応する、エリオット。

 

「はい。」

 

琴里も彼の前では気が楽になる。

 

「…それにしても、彼らには困ったものだ。」

 

「そうですね…ですが、彼らは彼らでラタトスクに必要な人材ですから。」

 

「そ言ってもらえると、コチラとしても助かるよ。」

 

やれやれとした表情になる2人である。

 

するとそこに一本の通知が入る。その内容を見て、エリオットは琴里に語りかける。

 

「…報告が入ったよ。どうやら…キミの兄君が『天使』を顕現させたそうだ。」

 

「…!? それは、本当ですか?」

 

「あぁ…恐らく。」

 

「…私ですね。」

 

顔を暗くする琴里。

 

「…もしもの時は、【対処】を迫られるかもしれない。でなければ…封印を施した精霊達に、また災いが降りかかってしまう。」

 

唸りながら語る、エリオット。

 

「分かっています。その時は

--()()()()()()()()()()。」

 

と、瞳を強く閉じ、拳を握りしめながら琴里は告げる。

 

「…五河司令。」

 

そんな琴里に優しく答える。

 

「嫌な役を押し付けてすまいとは思っている。

…だがそれは、あくまでも【最後の手段】だ。そうならないよう、我々は尽力を尽くすのみだ。」

 

「…!」

 

琴里はその言葉に正気になり

 

「はっ!」

 

綺麗な敬礼で応える、琴里であった。

 

 

 





はい。八舞姉妹編が終わりました。
次は…これまでの『まとめ・総集編』みたいなのを書こうかなって思います。書いててこんがらがってる事が多いのでこの機にやろうって思ってます。それによって今後と過去のお話とか改善するかもしれないです。

後、キャラ設定も更新しなきゃ。

それと、美九編の前にちょっとした夏休み編【6.5章】に入ります。


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