帝国のエースストライカー   作:カンナセン

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エースストライカー

 フットボールフロンティアを優勝した帝国は、例年よりも慌ただしい生活を送っていた。

 帝国学園は、絶対王者として君臨し続けた実績があるため、普段であれば、せいぜいがアメリカへの遠征メンバーを決めるための紅白戦がある程度で、大きな混乱があるわけではない。

 しかし、今年はそうもいかない理由が、一年生に存在していた。

 

 影山零治秘蔵のゲームメイカー、鬼道有人。

 地方よりその才能を見出され、やってきたストライカー九鬼夏樹。

 

 両者の存在は、中学サッカー界に広く名を轟かせた。

 他にも、『キング・オブ・ゴールキーパー』『源王』こと、源田幸次郎や、練習試合などで参謀として有名になりつつある佐久間次郎など、すでに黄金世代と名高い一年生世代のために、取材などの申し込みが来ており、帝国の事務は忙しいのだ。

 

 そして何より、事務方だけでなく、選手たちも慌ただしくならざるを得ない状況であるのが、この男のせいである。

 

「ふぃ〜。……ま、こんなもんすかね、先輩方」

 

 目を爛々と輝かせ、乱れた息を整えながら眼下に広がる座り込んだり、倒れている二、三年生のサッカー部員に声をかける。

 『強い奴と戦う』ことを目的にやってきた九鬼は、全国区のトッププレイヤーの集まりである帝国学園のプレイヤーたちに次々と声をかけ、サッカーバトルを敢行していた。

 恵まれた身体能力とボールへの執念で、不利な戦いを一人で勝ち抜き続けていたのだ。

 九鬼は視界の端に映った男の方へ向かいながら、この蛮行に至った過去を回想する。

 

 思い返すのはアメリカ遠征。

 フットボールフロンティアの優勝商品であるアメリカ遠征に、帝国学園は旅立った。

 アメリカに行った時も源田、佐久間、そして一年生の寺門大貴を連れて当然のようにサッカーバトルを仕掛けまくり、鬼道にこっぴどく叱られた。

 が、アメリカでの練習試合では帝国は敗北。

 

「君はもう少しチームメイトを信じた方がいい。エースなんだろ?」

「ユーはとても強いけどね! ゴーグルの彼以外にも頼れる仲間はいると思うよ!」

 

 あの二人を思い出して苦虫を噛み潰したような顔になる九鬼。

 鬼道と九鬼の奮闘によって得点こそ取れた。九鬼の必殺技は通じたし、攻撃面では拮抗していたように思う。しかし、アメリカの二人のストライカーの前に帝国ディフェンス陣は崩壊。鬼道と佐久間が指揮をとり、九鬼もディフェンスに参加したが、アメリカ遠征は苦いものとなった。

 

 九鬼は日本に戻ってから、二人のストライカーから言われた言葉を反芻し、自分なりに消化していた。

 エースとして、チームを信じる。

 それで果たして勝てるのだろうか。

 

 彼らにとってエースストライカーはその形でも、果たして自分のエースストライカー像は合っているのだろうか。

 

 その時より九鬼はエースストライカーという言葉を考えるようになっていた。

 

 九鬼は影山零治という男について、あまり好印象を抱いていない。目の前の男について歩きながら、九鬼は改めて考える。

 自身を地方のサッカーチームから拾い上げてくれた恩、才能や適性から自由なプレイをすることを許していることなど、感謝するべきことは多いだろう。しかし、それはそれとして、強者と正面から正々堂々と戦いたい九鬼にとって偵察などならまだしも、スパイといった裏工作を行うことについて納得できていなかった。

 

 しかし、帝国を選んだのは自分自身。そして、組織だった帝国で我を通すと決めたからには、突き通さなければ、何十年も帝国を勝たせ続けている影山に負けたような気がして合腹である。

 

「なので、とりあえず俺は誰にも負けねぇように帝国のてっぺん取ろうかなって思ったんすよ!」

「…………」

 

 眉毛ひとつ動かしていないが、目の前のバカ相手に、影山はため息の一つでもつきたくなった。

 

「九鬼」

「っす」

「エースストライカーとはなんだ」

「得点とって、いっちゃん目立つストライカーっす」

「それは帝国が求めるエースストライカーではない」

 

 見るからにむっとした表情の九鬼に、影山は続ける。

 

「帝国のエースストライカーに求められるのは、勝利をもたらすことだ。それが可能であるならば、寺門だろうと、貴様だろうと構わない」

 

「私は誰よりも勝利を求める。九鬼、貴様はエースストライカーを帝国で目指すならば、勝て」

 

「私はそれ以上、貴様には何も求めない」

「総帥……」

 

 九鬼は、影山の言葉を聞いて、

 

「んなの、当たり前だろ」

 

 一蹴した。

 

「帝国にきたんだから、そんくらいはスタートラインでしょ」

 

「俺は、それ以上を求める。アメリカにも勝って、誰よりもカッコ良いストライカーになる」

 

「俺もあんたに俺の考えを無理強いしない。だから邪魔するなよ、総帥」

 

 影山は黙る。

 九鬼はふっと笑って、

 

「じゃ、三年の先輩いる間に片っ端から倒してくるわ! あざした!」

「…………」

 

 すったかたと逃走した九鬼に、影山はそばで控えていた鬼道に止めておけと指示を出した。

 

 ***

 

 見事お縄についた九鬼は、練習がてらに鬼道と一対一することになった。

 

 九鬼はフェイントを織り交ぜながらどうにか抜きにかかるが、鬼道には通じず、止められるも、持ち前の身体能力でボールを確保し、突破する。

 

「九鬼、そんな無理な突破だといつか怪我をするぞ」

「うるせー。技術面だとどうしても一歩劣る相手には、フィジカルでゴリ押ししかないんだよ」

 

 それができてしまうからいつか怪我をすると言いたいのだが、と鬼道は釘を刺しながら、先ほど聞いた九鬼の言葉を、影山総帥に真っ向から向かい合い、意見する姿を思い返す。

 育ての親も同然の影山は、鬼道にとって人生の指針であり、勝つことよりも大切なことなど、鬼道のサッカー人生では想像すらしなかった。

 

 鬼道は受け取ったボールでドリブルを開始し、即座に必殺技で抜きにかかる。

 

「おい!? 必殺技はなしだろ!?」

「そう言われた覚えはないな。勝つのがお前の、そして帝国の責務だろう?」

「ぐぬぬ……」

 

 まぁ、気持ちのいいやつではあるから帝国の気質に合わなくとも問題はない。

 きっともう会えないであろう妹も、こいつのことは気にいるだろう。

 

 まだ影山から独り立ちすることなくとも、帝国のゲームメイカーとして、鬼道有人としてそんなことを思う鬼道であった。

 

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