帝国が失踪したバカを探して大騒ぎになっている中、当の本人は呑気に歩いていた。
「普通に考えて、本人に会わずしてそいつの対策を開発しようとするのはバカのすることだと思うんだよね」
誰に言い訳するでもなくつぶやいた九鬼夏樹は、ひとり目的地の河川敷へついた。
理由は簡単で、円堂守に会いにきたのである。最初は雷門中に乗り込んだのだが、サッカー部の姿がどこにもなく、歩いていた他の部活の生徒に軽く聞いてみると、なんとサッカー部はグラウンドを使わせてもらえないというのだ。
あの豪炎寺が所属する上、デスゾーンすら止めるキーパーがいるサッカー部に対する所業とは思えず憤懣としながらもおそらくここだろうと目をつけて河川敷に訪れていたのだが。
「……うちに棄権されたとはいえ、勝ったってのにほんとにグラウンド貸してもらえないんか」
そこには元気に練習を行っている雷門中サッカー部がいた。
見たところ、実力はまだまだ。正直、円堂守以外はあまり高い実力とはいえない。坊主頭のフォワードと思われる少年や、体の大きいディフェンダーと言った近い将来開花しそうな原石はあるが、基礎体力がないのだろうか。他にも、妙にブランクがあったかのような動きもみせる。
また、髪の長い足の速い少年や、被り物をした少年もセンスはいいが、サッカーに関する理解度が低いように思える。
何より豪炎寺がいないのが気になる。去年のマネージャーたちが集めた事前情報で得た性格から考えて、サボりをするような性格ではない。急に失踪したことを含めて考えると、何か病気だったりするのだろうか。
さらさらと、とりあえず戻った時に怒られないように所感をメモに残しながら、九鬼が出したこのチームの総評は、
「いびつなチーム」
弱小チームの前評判通り、助っ人でも募ったのだろう。それでいて即席にしてはなかなかいいチームが出来上がっているのは、集めた人間の目がよっぽど肥えているか、運命というものに愛されているのか。
九鬼はもうこの時点で、もう少し練度を高めればそこらの地区予選クラスのチームともそれなりに戦えそうだと感じていたが、必殺技はないのか、と疑問に思っていた。
と、その時。
坊主頭の少年が叫び声を上げながらシュートを放った。
そのシュートには竜が見えた。盛り上がりを見せる雷門中の面々を見る限り、初めて成功したのか、楽しそうに必殺技の命名なども行なっている。
帝国では見られない光景に少し羨ましくも思いながら、九鬼は本来の目的を果たすために河川敷へ向かって一歩踏み出す。
九鬼は今から、円堂守に喧嘩を売るのだ。
***
雷門中サッカー部が、今度行われる尾刈斗中学校との練習試合に向けて練習をしている際、ついに雷門中のフォワード、染岡が自身の必殺技を成功させた。
前回の帝国学園との練習試合で活躍した豪炎寺のようになろうと焦っていた染岡は、キャプテンである円堂守のアドバイスもあり、自分なりの必殺技を完成させた。
チームメイトの目金によってドラゴンクラッシュと名付けられたそれをもって次の試合に向けてさらに努力しよう、と決めたその時、その男は拍手をしながら河川敷グラウンドに現れた。
「ナイスシュート」
銀髪に、整っているがどこか野生味を感じさせる顔立ちに笑みを浮かべて、その少年は染岡のことを祝福した。
「……誰だよ、お前」
ひたすら警戒した様子で染岡が返すが、少年はどこ吹く風。笑いながら近づいてくる。
「や、俺もこのタイミングで出るのもどうかと思ったんだけどさ。あんなシュート見せられちゃ、おめでとう言わにゃいけねぇだろ?」
「お、おう……ありがとうよ……?」
答えになっていないが、染岡の背中を叩きながら祝福する少年の表情と言葉からは嘘が感じられず、雷門中も少し安堵したその時、大きな叫び声にまた身をすくませる。
「あ、あなたは⁉︎」
「な、なんだよ! 急に大きい声出すな!」
雷門の新しいマネージャー、音無の声だった。驚いた染岡が咄嗟に怒鳴り返したが、音無はそんなことを意にも介さず、少し怯えたように続けた。
「て、てて帝国学園の最強エースストライカー、九鬼夏樹⁉︎」
先日練習試合を行い、棄権されなければぼろ負けしていたであろう超強豪、帝国学園。
しかも、そのエースストライカー。
「ええええええええええええええええっっっっ!?!?!?」
平和な河川敷に、悲鳴が響き渡った。
***
「ご紹介に預かった、九鬼夏樹だ。帝国のエースストライカーやらせてもらってる。ちょいとばかしうちの連中が世話んなったな」
九鬼は朗らかに挨拶する。雷門中は自分のことを知らなかった様子だったのが少しばかり気になったが、非常にいいリアクションをとってくれたことに九鬼は非常に満足していた。
「て、帝国のエースストライカーって……?」
「確か小学生の頃から将来の日本代表確実な超有望株って言われてた天才だよな?」
「でも、この前の試合、いなかったでやんすよね……?」
「……あー……ちょっと……チームメイトが鈍ってたからきつく当たりすぎたというか……有り体に言うとサッカーでボコボコにしたというか……」
その質問に九鬼は思いっきり渋いものを飲み込んだかのような顔で気まずそうに答える。
「ボ……!?」
「しゃーないじゃん、お前らも戦って鈍ってるのわかった……とは、思わんけど。ともかく、それを正そうとしたら『余計なことをした』って謹慎させられたんだよ」
雷門中サッカー部の脳裏に少し前の練習試合のことが蘇る。自分たちが手も足も出なかったあの試合だ。あれで目の前の少年曰く『鈍っていた』という。
誰かがごくりと生唾を飲み込んだ。
「ま、つってもよ。いくら豪炎寺がいるらしいとはいえ」
そんな様子に気づいているのかいないのか、九鬼は話を進める。
「俺自身も弱小校なら試合に参加しなくてもいいか、って思ってたんだけどさ」
九鬼の目がぎらりと光る。
「うちの自慢のデスゾーンが止められたって話じゃん?」
視線の先にいるのは、円堂守。円堂は急に話題に上がったことにやや驚いた様子ながら、九鬼の視線をまっすぐに受け止めていた。
「てなわけで、だ。円堂、サッカーしようぜ?」
ちょっと短いんですけどキリがいいので。
次回はすぐ投稿します。マジで!