円堂守という最高の素材を見つけて満面の笑みで帝国に戻った九鬼。待っていたのは普段の近寄り難いオーラが5割増の影山と鬼道の師弟コンビだった。
それに対して何か思ったことがあったわけではない。
ないが、九鬼は素直に地面に正座した。
「言い訳を聞こう」
「円堂とタイマンしてきた。あれは相当いい筋してるよ。源田もそのうち越えるんじゃないか?」
うんうん。と頷く九鬼にこめかみをピクリとさせる鬼道。
なるほど対応を間違えたか。と一人頷く九鬼にさらに苛立ちを募らせる鬼道をよそに、影山は問いかける。
「それで、成果は出せるのか?」
出せないと答えることは許さないと言外に匂わせながら問いかけてくる影山に九鬼は一つ頷く。
「あー……デスバレットで破れたとはいえ、確かにあのゴッドハンドはかなり良いもんじゃないかなっと」
九鬼が思い出すのはあの迫力。
無名校のキーパーが出していい威力の必殺技を大きく超えた、全国区の必殺技だ。あれで先日の試合で初めて出したということは、練度を高めればおそらくフットボールフロンティア本番でも全然通用するだろう。
しかし、それだけであれば九鬼が高く評価するほどのパワーを持った技というわけでもない。おそらく万人が使えば、パワーシールドの方が多くのシュートを防げるだろう。しかし、そうではない凄みを、円堂守は持っていた。
「パワーシールドほど強力ではないかもしれねぇんすけど、多分、円堂自身のガッツとか、重心の安定性とかが影響してんのかな。デスバレとちょっと拮抗してた」
まさに根性の耐え。弱小校、帝国に大量失点を許すようなキーパーが、今この段階でデスバレットにわずかながら拮抗したことは驚嘆に値する。影山も鬼道もその情報にはわずかな驚きを覚えた。
「あと、予測してたのかもしれないけど。デスバレはシュートのスピードがかなり速いのに必殺技を間に合わせるあたり、目と勘もいいね。素質だけ見りゃ源田、あと去年の木戸川のキーパーも超えてるよ、確実に。あとは本人の努力量が物を言ってるって感じ」
つらつらと分析した上での考察を述べていく九鬼の言葉を黙って聞く影山と鬼道。
続いて九鬼は雷門のチームについての所感を述べていく。かつて圧倒していたチームの現状に、鬼道は感心するとともに自分たちのところまで上がってくるのではないか、という期待すら持った。
影山もそれを感じたようで、眉を顰めながら九鬼に問う。
「雷門中が順当に成長し、帝国と当たった場合。客観的に見て、お前たちが負ける要素はあるか?」
「少なくとも、今はなさそうだな。豪炎寺いなかったし、他にもかなりいい素質のはいたけどまだ芽吹いてない。
御影専農あたりと当たったらデータ取られすぎてキツそう。河川敷でやってたし。
と、さらっとサッカーエリートの鬼道が耳を疑う発言をしながら、九鬼はそこで少し言葉を切って、そして影山を一瞥し、唸る。
「……ただ、どうだろうなぁ。万が一、パワーシールドが破られたとして……けど今源田が新しい必殺技考えてるだろ? ……うーん、順当にいけばまぁ勝つだろ」
「歯切れが悪いな」
「そりゃそうだろうよ。あそこまでサッカー楽しんでてかつ才能にも恵まれてるとなりゃ、応援の一つや二つくらいしたくはなるわ」
影山は不満そうに鼻を鳴らすと、
「……雷門には土門をスパイとして転校させる予定だ。土門が浮かない程度の実力はあるか」
「ありゃ、もったいねぇ。土門は相当いい選手だぜ? ……けど雷門くらいの雰囲気の方が伸びそうか」
まぁそれは置いといて。と質問に対して答える。
「雷門は伸びはじめくらいの実力ではあるけど、浮かないくらいの実力はすぐつくと思う……っす」
鬼道が敬語が抜けていることにやっと気がついたと言わんばかりのため息をこぼすが、九鬼は意図的にそれを無視して、それに、と続ける。
「それに、俺のことも知らん様子だったし、バレないすね。全国行ってる豪炎寺あたりには、キラースライドとかで疑われるかもしれんすけど」
「問題ない」
影山はその言葉に頷くと、踵を返して九鬼たちの元から去っていく。土門にこれから正式に命令を下すのだろう。すぐに戻る、と言う影山の言葉からそう判断し、説教も終わりかと立ち上がる九鬼。
呑気に伸びなどをしている九鬼に鬼道はため息をつき、準備体操をしているその背中に問いかける。
「それで、新必殺技だが。できそうか?」
「おん、大体イメージはできてる。総帥戻ってきたらやってみるわ」
「……ペンギンイメージか?」
「『帝国』だからな。『皇帝』ペンギンだよ」
へらり、と笑う九鬼。軽いアップと言わんばかりに、リフティングをしながら必殺技のイメージについて独り言を呟くその姿に、頼もしさを感じながら、ふと鬼道が先ほどの会話を思い返して気になったことを口にする。
「そういえば九鬼。お前はスパイというものにあまり忌避感はないのだな。真正面から打ち砕くのが好きなタイプだと思っていたが」
九鬼夏樹という男はより強い相手と戦うためにレベルの高い帝国にやってきた過去をもつ。そのため鬼道は、九鬼は正々堂々と戦うことを好む性格なのだろうをあたりをつけていた。
鬼道の言葉に九鬼はリフティングを中断すると、一発シュートを打ち込んだあと、もちろん気に食わないが。と少し苦笑いしながら答える。
「いやなに、総帥には地元でアレだったとこを拾い上げてくれた恩があるんだよ。それに、あの人は勝利至上主義者ってだけで、スパイってのも、どんな相手にも手を抜かずに全力で事にあたってるってことだろ、多分。なら、俺は否定しねぇよ」
九鬼は影山という男を決して嫌ってはいない。確かに王道は行っていないが、それでも勝利を確実に重ね、常勝無敗伝説を作り上げた男に対して、九鬼は尊敬すらしていた。
ただ強者と戦いたいと言う一心でここまでやってきた自分とは違っていろんな苦労を背負ってこの場所にいるのだろう。もちろん、過去の記録を見れば何やらきな臭いところがあるような気もしなくもないが、明確にこちらの邪魔をしてこない今の状態で身内を疑って得することも少ないだろう。と言うのが九鬼の論である。
「何より、俺は帝国のエースストライカーだ。好き勝手してるツケくらいは払わないと……っと」
グラウンドに源田を伴った影山の姿が見えた。どうして源田を、と九鬼が聞いてみると、土門のいる練習グラウンドにたまたまいたのだと言う。
「どうせ貴様のことだ。大体できているのだろう。せっかくであれば威力も確認したほうがいい」
九鬼は軽く返事したあと、シュートで打ち込んだボールを回収しに行く。その間に鬼道が現状説明を行うと、影山はそばにいた源田に目をやり、九鬼に向き合った。
「源田。お前は練習中のパワーシールドの強化版を試せ。九鬼、まずは説明した後にやってみせろ」
「はい!」
「うす。じゃあまず、軽く説明だけ。とりあえず仮称で、『皇帝ペンギン』って名前の必殺技っすね。完成系っつーか、ちょい弱体化版の三人技の方は、一人が打ち出して、それを二人がチェインする形になる。けど、俺が今からやる一人技は皇帝ペンギンの初代バージョンなんで、言うなれば……」
と、そこまでで言葉を切り、九鬼はゴールに構える源田と向き合う。気合い十分な源田に頷くと、一息置いたのちボールを足元にセットし、指笛を吹く。
地面から赤いペンギンが飛び出してくる。九鬼は確かな手応えにニヤリと笑う。
足を振り上げると、体にペンギンたちが攻撃を加えてきながら、振り上げた足にペンギンたちが噛み付く。思った以上のダメージに驚き、声が漏れそうになるのを抑え、思い切り振り抜く。
「皇帝ペンギン……1号っ!!」
自身をも貫くような衝撃が足から体を走り、九鬼は源田の新必殺技を自身の皇帝ペンギン1号が打ち破ったことをどうにか確認したあと、おそらく鬼道がこちらに駆け寄ってくる気配をよそに、意識を失った。