暗君ネロリウスのやり直し!〜史上最悪と蔑まれ歴史から抹消されたが三百年後に転生して皇帝の養子となったので思うがままに善政()を尽くしていたら何故か史上最高の賢帝と呼ばれるようになりました 作:ぱんまつり
前提として本書はエンターテインメントに寄せた翻訳版であり、尚且つ現代においての意訳が多分に含まれている旨を了承して欲しい。
第一項 金配りの君
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ネロリウスの歴史を残そうと決めてから早一ヶ月。
つい昨日まで紙面は白紙であった。
理由は単純、彼が特筆すべき何かを起こさなかったからだ。
それでも私はこうして筆を走らせている。
彼が
悪戯に時間が経過する。
アトリエには、彼と私が筆を走らせ続ける音だけが響き続けていた。
「あー、届かない。それ取って」
「……自分で取りなさいよ」
「嫌だ。動きたくない」
「皇帝になるんでしょ。自分から動かないでどうすんのよ」
「皇帝になるからだよ。動かなくていいの」
「はぁ、意味わかんない」
こいつは銅像のように動かない。
ならば国中に銅像でも作って羞恥死させてやるのも一興だ。十分伝説足り得るだろう。
──と、思いつつ私はネロリウスの言うことを聞いて赤い絵の具を取ってあげていた。
「ありがとう!」
「いらないわよ、礼なんて。いつも取ってるでしょ」
この男はいつも新鮮な喜びを見せる。
毎日記憶を失っているのだ。
「何言ってるんだい。ありがとうなんて言えば言うだけ相手が喜ぶんだから最強の魔法でしょ」
「……あっそ」
訂正。
打算らしい。
後世まで残してくれ、ネロリウスは愚図である。
「ツンとしてるシュガーは絵になるね」
「死ね」
記述は止めだ。
お稽古にでも行くとしよう。
♧♧♧♧♧♧
お稽古の休憩中、木陰で休んでいると珍しく訓練場にネロリウスがやってきた。
私は深く幹にもたれかかり膝を抱いて小さくなり、動向をこっそり観察することにする。
木剣を持った彼が私の指南役にして第六軍団長のヴェルダに賄賂を渡している。
ああ、いつもの光景である。
奴は初めて会う人間に媚を売るのだ。
「金配りの君──と。ふふ……皇帝としては不名誉な二つ名を付けてやったわ」
名誉毀損上等。
呑気な顔してるのも今のうち。
あいつは私の手腕で名君暗君どちらにも転び得るということを理解していないのだ。
ほくそ笑み、筆をがんがん走らせていると丁度よくヴェルダとネロリウスの手合わせが始まった。
いつかの宴会での決闘とは違い、運や小細工では覆りようのない程の力量差がありネロリウスはなす術もなくあしらわれている。
周りの兵からは本人から見えない程度に嘲られ、ヴェルダ本人からも中止を求められた。
「馬鹿ね。せっかく決闘に勝って良い噂が広まってたのに、これじゃ台無し」
仕方ないから名誉回復に動いてやる。
立ちあがろうと力が入った私の足が止まり、再び体重を幹に預けた。
私は彼に対して思い違いをしていたのかもしれない。
細身の男が己を奮い立たせ、遥か格上の強者に向かって果敢に挑みかかっているのだ。
中止しようとしたヴェルダをして慄き後退してしまうほどの気迫は生半なものではない。
全身に痛打を受けながらも前進するネロリウスへの嘲笑はいつしか無くなり、彼が倒れ伏すと心底心配そうな声が上がった。
「何よそれ……」
両脇を兵に抱えられた彼がこちらにやってくる。
近くで見ると全身青痣だらけで痛々しい。
ネロリウスの右体重を支えているヴェルダは凛とした表情を苦渋に歪ませている。
「シュガー殿下。申し訳ない、必要以上に攻撃を加えてしまった……こうでもせねば止まらないと思ってしまったのだ」
唯一の女性軍団長たるヴェルダは私にとって尊敬に値する人物である。
彼女は鉄仮面と呼ばれるくらいには表情を変えないことで有名であり、それが事実である私は知っている。
だからこそ不思議に思う。
「……二人とも熱くなりすぎよ、たかが稽古でしょうが」
「面目ない」
「謝らなくていいわ。悪いのはネロリウスよ。媚び売り野郎な癖に、宴会の時もそうなんだけど変なタイミングで熱くなるのほんと意味わかんないわ」
正直に言ってやった。
事実を書きたいのだから本音を引き出してやらなければ意味がない。
ネロリウスはへらりと笑ってみせる。
知っている。
本心を語らず逃げる時の顔である。
「変な時に熱くなっちゃダメなのかい?」
ここで理由については打ち止め。
案の定語らない。
しかし、彼はここから先に繋げてくる。
「それに媚び、ねぇ。どうだいヴェルダ、
押し売りだし。
買った方が金貰ってるし。
何言ってるのって感じだが──
「はい、ネロリウスさま。いくらでも買いたいと思ったくらいですよ」
「ふ……っ、それなら身体張った甲斐があったよ」
なんか良い話風に纏まった。
その上何故かヴェルダがやけにへりくだっている。
ヴィラン帝にのみ忠を尽くすと宣言した彼女が──
「ええ実際、私は貴方様のような腕力以外の力を持つ人間を待ち望──」
この項はここまで。
嫉妬で続きを書けそうにない。
事実を書かなければならないのは辛いことだ。
次に筆を取ることがあるとすれば、彼が大きな失敗をする時だろう。