天才異能Vtuber少女、受験間近で親友を誘拐されてしまう。   作:ボカロ厨

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「誰も信じられなかったんです」

取調室にて、とある女子高生Hの証言


1日目 侵食される日常

『僕は身代金も何も要求しない、通報するなり人質を探すなりご自由に。僕はただ愛を教授し享受するだけさ」

 

「おい待っ────」

 

 その言葉を最後に通話は途切れた、正体不明の誘拐犯は身代金も何も要求せずに日時だけ伝えて去ってしまった。

 

 「あークソッ!ええと……カエデの家まで自転車で10分、今から行ってもどうせ犯人はいなくなってる。だけど、行く意味はある」

 

 異能を使用しながら状況を整理していく、かつてないほどに頭を回転させながら脳の髄まで働かせて。

 

 今の私は『スマホの画面を整理する』という名目の元、消失時間を使用しているのだ。

 

 つまり私がスマホの画面を整理し終わるまでの時間、どれだけ思考を重ねても実際には1秒と経っていないことになる。

 

「幸い私は警察の犯罪調査マニュアルを読み解いた本も読了している、早めに指紋や髪の毛を採取しておけば──」

 

 いや、そもそも相手は異能持ち。それも私とは違って戦闘系の異能を持っていることだろう。

 

 しかも『消失時間』の名前を知ってることから長い間私たちをつけ回してたのは確実、短絡的犯行ではない。

 

「そんな相手が指紋を残すのか?それに下手に現場を荒らして私の方が警察に疑われてしまっては元も子もないし」

 

 ならばどうする、思考はぐるぐるまわる。されどここからの最善策は見出せない。

 

 「落ち着け、落ち着け、敵の目的は私。そしてカエデは人質。すぐに殺されるなんてことはないはず」

 

 実はもう殺されているなんてことになったらどうしようもないが、今は生きている可能性だけを考えよう。

 

「私の受験を潰して将来設計を崩すのが目的か?だけどそれにしては腑に落ちないこともある」

 

 兎にも角にも今この場にいたままではどうしようもない、とりあえず警察に通報するべきだ。

 

「通話の内容は適当に伏せて警察に通報か」

 

 それこそ相手がドラゴンボールの世界でも通用するような力を持っていたら警察では太刀打ち出来ないだろう、でもその場合私も無力だ。

 

 反対に私でもどうにかできる相手の場合、そんなもの警察にだって対処可能、むしろプロに任せた方がいい。

 

 どちらにせよ警察を巻き込まない手はない。

 

 「私が出しゃばって犯人を刺激するよりは、大人しくしておいた方が賢明な……筈」

 

 カエデの無事を祈ることしかできないと言うのは歯痒いが、一介の女子高校生に出来ることなど有りはしないのだ。

 

 「さっきの犯人の言葉からして、通報されるのも織り込み済み。この行動もあっちの考え通り……いいよ掌の上で踊ってやる」

 

 最後にカエデが助かれば後はなんでもいい、そしてカエデを助けるためには人の手が必要だ。

 

 消失時間を終了し、ドタドタと階段を駆け降りる。その最中、スマホで警察に通報する。

 

「はい……そうです、友人が誘拐され犯人から電話がかかってきました。はい、決してイタズラ電話じゃありません」

 

 少し前に読んだ本によると、年間の悪戯電話は全体の三割にも及ぶという。

 

 今回の通報もそうと捉えられてしまわないために、自分の住所と名前を開示するのが賢明だろう。やましい事など何もないのだから。

 

「えぇ……先程友人の安西楓───」

 

 淡々と状況を説明していく、異能のことと人質の受け渡し時間だけ話さずに言葉を吐いていく。

 

 それと同時進行で外に出る用意を整える、メイクなんてしている暇は全くない。

 

 消失時間を使えば時間自体は確保できるのだが、友人の危機におめかしして警察と会う程の余裕は私にはないのだ。

 

「はい、それでは……はい。では」

 

 本気であることは理解して貰えたらしい、色々話した結果警察の人がカエデの家に来てくれることになった。

 

「後は………」

 

 ふと、玄関にいる母の姿が目に入った。たった今、帰宅したのだろう。

 

 それ自体は違和感のある光景ではない、仕事がない日曜日に母が家にいるのは当然だ。

 

 ───違和感

 

 汗が、額から垂れる。なんだ、何かが起こっている。誘拐以外で何かが。だがそれが何かがわからない。

 

 そうしている間にも、母さんは脱いだ靴を整えてリビングへと足を進めている。

 

 ヒタヒタと、スタスタと、一歩一歩進んでくる。

 

 我が家は一軒家であるがそこまで広くはない、ほんの少しの時間で母は台所の側にある私の目の前へと辿り着いた。

 

「……おかえり母さん」

 

 それは普段通りの挨拶、なんら変哲もない言葉。

 

 言の葉は私の口から滑り出る、しかしそれが相手の耳に届くかどうかは別問題。

 

「ただいま、消失時間の使い手よ」

 

 ───刹那、異能を起動する。

 

 驚き、恐怖、ありとあらゆる感情を押し殺してすぐ横のシンクの中にあった包丁を手に取った。

 

 マズイどころの話じゃない、相手の異能は私なんかとは比べ物にならない程のモノだ。

 

 姿を自由に変える異能?それとも洗脳?はたまた幻覚?なんであろうと少々武術を齧った程度の女子高生に太刀打ちできる相手ではない。

 

 消失時間はそこまで使い勝手のいいものじゃない。遠距離移動はできないし、他者に干渉したいならその人も消失時間に巻き込まなくてはいけない。

 

 言ってしまえば戦闘手段を持たない異能、現代社会では今まで困ることはなかった。

 

 だが、こうも規格外の相手を前にすると能力漫画の主人公のように便利で強い力が欲しかったとも思ってしまう。

 

 しかしうだうだ考えていても仕方がない、遠距離は移動できないがここから玄関の前までくらいなら異能で動ける。

 

 時を止めて居るような感覚だ、消失時間なんて捻らずに素直に時止めとでも名付けておけばよかったか、なんて現実逃避の思考。

 

 玄関までたどり着いて包丁を構える。消失時間が解除される。

 

「おや?いなくなった?……いや、後ろか。成る程これは消失時間か、実際に目にするには初めてだが……随分と使い勝手が良さそうだ」

 

「……アンタの目的はなんだ。人質の受け渡しは一週間後、しかも警察への通報はご自由にって話だっただろ?」

 

 誘拐犯相手のマニュアルを記した本も当然私は読んでいる。だが、この瞬間それらの知識は脳裏の片隅にも浮かび上がってこなかった。

 

 訓練と実践が違うように、パッと本で読んだ知識は出てこなかった。私の頭のリソースはは目の前の母の姿をした何かに全て使われていたのだ。

 

「おやおや、僕はただ君に伝えに来ただけだよ。これから始まるゲームの詳細をね」

 

「ゲーム?」

 

 いつもカリカリしてて不機嫌な母、それに似合わぬ不適な笑みを浮かべながらそれは語る。

 

「そう、本当なら一週間君が右往左往しているのを缶ビール開けながら眺めて居るつもりだったんだけどね。少し事情が変わったのさ」

 

 まるでおもちゃを与えられた子供のように、身振り手振りで歓喜を表現しながらそれの口から言葉が放たれる。

 

「さて、まどろっこしいことは辞めて直球でヒントをあげよう。流石にノーヒントでは僕のところまで辿り着けなさそうだからね」

 

 言葉が、続く。

 

「ダンマリか、まあいいよ。ヒントというのは僕の正体だ、安西楓を誘拐した犯人である僕の正体だ」

 

 玄関の鍵の位置まで手を持っていく、いつでも外に逃げられるように。

 

「僕は、()()()()()()()()()()()()V()t()u()b()e()r()()()()()()()

 

「Vtuber……だと⁉︎」

 

「そう!あぁ、企業勢か個人勢かは教えないよ?ここから先は自分の頭で推理してくれ天才少女鬼神ゆうゆう!」

 

 張りに張った伏線を一気に回収する漫画家のような爽快感を身に纏いながら、母の姿のそれは声を上げた。

 

「しばしさらばだ消失の少女よ!場所は教えないと言っただろ⁉︎人質の引き渡し場所は君自身が突き止めなければならない!」

 

 そう言い残して、それはいなくなった。ドタッという音がして母は倒れた。後に残された私はただただ怒りに震えていた。

 

「ははっ、いいよ名も知らぬ誰か。今のを見るに異能の正体は憑依か洗脳だろ?つまりいつでもアンタは私を殺せるし、私に限らずともなんでもできる」

 

 なら、この誘いを受けるしかない。

 

「カエデは絶対に助け出す。たとえそれがアンタの思惑通りでも、なんでもいい。どうでもいい」

 

 拳を握りしめる。

 

「乗ってやるよこの馬鹿げたゲームに」

 

 これは決意だ、途方もなく巨大な敵に対する反撃だ。カエデという親友と再びなんでもないような日常を過ごすために、私は場所を突き止める。

 

 そしてあわよくば、このふざけたゲームの仕掛け人を後悔させてやる。

 

 覚悟は、固まった。

 

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