喫茶『八本脚』は今日も営業中   作:八ッ橋すみれ

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あらすじを少し変更しました。
誤字報告、お気に入り、感想、評価ありがとうございます。

…3日以内更新を目標にしてたのですが、日付間違えてました。


10.煮込みハンバーグ

合宿が終わり、一段と大きくなったトレセン学生が再び喫茶店に顔を出す今日この頃。

やはり生徒達の話題もG1レースであり、クラシック路線の菊花賞、ティアラ路線の秋華賞、秋シニアの天皇賞・秋、ジャパンカップ、有マ記念などがあげられていた。

 

俺としてもアヤベちゃんが出る菊花賞は見ようかなぁと思ってる。

でもアヤベちゃん、多分長距離が得意ってわけじゃ無さそうなんだよなぁ。

それこそライバル関係にあるトップロードちゃんが一歩優勢かな、と。

 

ーカランッ

 

「ん、いらっしゃい。

空いてるところにどうぞ」

 

「ごきげんよう、マスターさん」

 

入ってきたのはラーメン大好き殿下ことファインモーション。

前髪中央に太く白いメッシュの入った鹿毛を後ろで紅白のリボンでまとめてお団子にしており、両耳付近にはアイルランドの国花シャムロックを模した赤に緑の縁取りが入った髪留めを2つずつ付けている。

アイルランドからやってきた留学生であり、なんと王族だとか。

何事にも興味津々で自由奔放。

庶民の味に感動したとかでラーメンが好物に。

ウチにもその庶民的な料理を求めてやってくる。

ラーメンは無いですって何回も言ってるんだけどな。

 

「へいマスター!ラーメン一丁!」

 

「無いって。

作る予定も、ね」

 

「むー…なんでラーメンのリクエストは答えてくれないの?」

 

「単純に機材がないからだよ。

それに作るならスープとかこだわりたいでしょ?

でも1人で切り盛りできるキャパ超えちゃうからね」

 

これもいつも通りのやりとり。

多分だけど、その注文で提供してくれるのはゴルシちゃんだけだからね。

そういえばいつだったか、ファインちゃんがゴルシちゃんと同じような屋台を引いて学園内でラーメン屋を開いていたって聞いたんだけど本当なのか。

 

「それで、今日の注文はどうする?」

 

「んー…日替わりメニューで」

 

「あいよ。

すぐに出るから待ってね」

 

今日の日替わりメニューは煮込みハンバーグ。

ハンバーグを煮込む事で肉が生焼けになる心配もなく、半熟の目玉焼きやチーズをトッピングしても美味しいハンバーグだ。

 

ーーー

 

材料。

合い挽き肉300g、玉ねぎ2分の1、卵1個、塩コショウ少々、にんじん1本、じゃがいも2つ、しめじ2分の1株、トマト缶1つ、赤ワイン50cc、ウスターソース大さじ3、コンソメキューブ1個、はちみつ大さじ1、バター10g

 

玉ねぎをみじん切りにしてボウルにいれたら、合い挽き肉、卵、塩コショウをふりかけて手でよく混ぜる。

片方の手に軽く叩きつけるようにして中の空気をしっかりと抜く。

ラップをかけて冷蔵庫で休ませる。

 

にんじんとじゃがいもは皮を剥いて、にんじんは乱切りに、じゃがいもは一口大に切る。

切ったにんじんとじゃがいもを耐熱容器にいれたら、ラップをかけて600wの電子レンジで2分加熱する。

しめじは石づきを切り落としてほぐしておく。

 

温めたフライパンに油を大さじ2分の1を引き、ハンバーグのタネを並べる。

中火で焦げ色がついたらひっくり返して両面を焼く。

 

トマト缶、赤ワイン、ウスターソース、コンソメキューブ、はちみつ、バターを入れ、煮立ったらにんじん、じゃがいも、しめじを加えて弱火で煮込む。

にんじんとじゃがいもに火が通ったら完成だ。

 

ーーー

 

なお今回は作り置きのため、煮汁と一緒に密閉袋に入れ空気を抜いて冷凍しており、湯煎で解凍する。

十分に解凍できたら皿に盛り付け、生クリームとパセリのみじん切りを振りかけ差し出す。

 

「本日の日替わり、煮込みハンバーグ。

いっちょ上がりってな」

 

「わぁっ、いただきます」

 

「火傷には気をつけてね」

 

「んーっ、ハンバーグにナイフを入れると吹き出る肉汁。

濃厚なソースをからめれば複雑な旨みのハーモニーが広がって美味しいね」

 

「口にあったようで何よりだよ」

 

なに分ロイヤリティウマ娘だから、口に合わないものがあっても不思議じゃない。

でもまぁ、今まで残された事ないんだけど。

一口食べて、ごちそうさまと言われるんじゃないかと思っていた時もあったなぁ。

 

「そういえばファインちゃん、学園内でラーメン屋台を引いてたって聞いたんだけどホント?」

 

「うん!まろやか味噌ラーメンを作ってたよ。

秋のファン感謝祭でも屋台を出すつもりだよ」

 

「マジ?クラスの出し物ラーメンにして反対されなかったの?」

 

「ん?これは私個人で出すものだよ?」

 

「Oh…」

 

流石です殿下。

きっと同室のエアグルーヴちゃんに普段からラーメンを布教してる甲斐あって許可がおりたんだろうな。

まぁ、コンプラ的によほどの問題がなければ自主性を尊重する学園だし、要望は通るとおもうけど。

王族たるファイン殿下の手作りのラーメンが食べられる学園祭。

文面にするとパワーワード感があるね。

 

ん?現役無敗の伝説のウマ娘も手作り料理を提供してるって?

そういえばそうだったわ。

まぁ伝説ってほどじゃないけど。

いまだ超えてくれる子がいないってだけで。

それにただの喫茶店だからね、ここは。

 

「マスターさんは感謝祭に何出すの?」

 

「ん?別に俺は呼ばれてないし、行ったとしても客側だよ。

多分だけど感謝祭の日は普通にここで営業してると思うよ?」

 

「えー、もったいない!

デジタルちゃんと一緒に何かやればいいのに」

 

「デジたんと?んー」

 

あの子は営業側よりファン目線で回りたいと思うんだけど。

絶対ライブ席の1番前でペンライトもってコールしてるだろうし。

それか保健室に運ばれてるんじゃないかな。

あぁ、勇者よ死んでしまうとはなさけない。

 

「考えてみたけど、あの子と一緒に何かをやるっていうのは考えられないかな。

なんか結局保健室で介抱するハメになりそうだし」

 

「よく鼻出血してるし、保健室に運ばれてるよね」

 

「デジたんだからねぇ。

マチタンちゃんみたいな鼻出血なら心配になるけど、あの子だし。

ファインちゃんもデジたんが廊下とかに転がってるのを見たら保健室に運んであげて。

勇者は保健室で復活するから」

 

「教会じゃないの?」

 

「多分教会って書いて保健室って読むんだよ、知らないけど」

 

雑談しつつファインちゃんの皿を見れば半分ぐらい減っている。

なので冷凍パックをもう一個取り出し解凍しつつ、チーズと卵を取り出す。

 

「おかわりを作っていこうと思うけど、トッピングはチーズか卵どっちが良い?」

 

「んー…チーズかな」

 

「ん、了解」

 

 

ーーー

 

 

「ご馳走様でした!」

 

「ん、お粗末様」

 

おかわりのハンバーグも完食し、手を合わせるファインちゃん。

水の代わりにアイスオーレを注文され、差し出すと同時に皿を下げる。

 

「あ、そういえばマスターさん。

グルーヴさんから渡してくれって預かってるものがあるんだ」

 

「ん、手紙かな…?ちょっと失礼」

 

便箋を渡され中を出してみれば、キチッとした綺麗な字で書かれた手紙が。

内容はこの前の模擬レースのお礼のようだ。

律儀だねぇエアグルーヴちゃん。

 

合宿最終日、エアグルーヴちゃんのトレーナーさんが山中にある練習コースを貸し切ってくれて、芝2000メートルの模擬レースを行った。

脚質バラバラで5回走るとは言ったものの、流石に数が多いからという事で大逃げと先行と追込の3回になった。

結果は言わずもがな。

でも3回ともくらいついてきていたのは流石だったかな。

 

「それが感謝祭の招待だとおもってたんだけど違うみたいだね?」

 

「そうだねぇ。

この前の合宿の事で感謝してますってところかな」

 

「あぁ、あの海辺の屋台!

あれがあったから私も屋台やりたいって意見が通ったんだよね」

 

「そうなの?ならゴルシちゃんにお礼を言うべきかな。

俺がやってたのはあの子の誘いがあったからだからね」

 

「ゴルシさん?確か隣で焼きそばの屋台やるって聞いたような…」

 

「あの子、自分を焼きそば職人と勘違いしてないかなぁ?」

 

なんかいつも焼きそば焼いてない?

海や山で素材を採ってきては混ぜて焼いてるし。

でも美味しいんだよね…。

 

「味噌ラーメンやるって言ってたけど、もし海鮮とか塩ラーメンやるんだったらゴルシちゃんに相談しても良いかもよ?」

 

「もしかして、水とか素材に伝手を持ってるの?」

 

「伝手というか、何処かから採ってくるというか。

時々ウチで海鮮出す時があるけど、大半がゴルシちゃんの持ち込みだったりするからね」

 

ほんといつもお世話になってます。

でも、何を持ってくるか分からないのが唯一の心配点だろうか。

本マグロ丸々一本持ってきた時は流石にどう捌いたものかと悩んだし。

結局、学園カフェテリアの厨房に持ち込んで調理主任と解体したっけな。

その日のカフェテリアにマグロの刺身が並んで浮いてたらしいって、当の本人たるゴルシちゃんから聞いたし。

 

「うーん、その時は相談させてもらおうかなー」

 

「美味しいのが出来たら食べに行くよ。

良かったらウチの横で屋台やってくれてもいいし」

 

「ほんと!?やった、これでラーメンの研究ができるね!」

 

「ラーメンの研究て」

 

使命よりラーメンにかける情熱が大きくないかい?

ファインちゃんは日本とアイルランドを繋ぐ日本親善大使の役職についてたはずだけど。

まぁ、そこは学生としての勉強って事で良いのかな。

殿下としての公務も大変だろうし、息抜きには良いのかもしれない。

 

「それに、この前バザーで買ったTシャツも着れそうかな」

 

「ん、バザーとか行くんだ?」

 

「ええ、トレーナーとお出かけに出かけた際に教会でやってたので。

そこでお会いしたアイネスさんとタマモさんには、隊長に変わって護衛をしてもらったんだ」

 

「へぇ、あの2人に。

バザーと言わず、買い物に関しては一言ある子だから勉強になったでしょ」

 

「はい、とても。

ああいったところでしか会うことの出来ない職人がいるという事も初めて知りました」

 

職人…?

あれ、バザーって要らなくなったものとか手作りのものを売る所だった気がするけど。

まぁ、刃物を扱う市場とかだと現地で銘を入れる鍛冶屋とか居るから、不思議じゃないのかな。

俺の使ってる包丁もそういったところで買ったものだし。

 

「なかなかそういったところでしか会えない人とか居るからね。

本当に気に入ったなら押さえておくことをお勧めするよ」

 

「あはは、私が押さえちゃうと国際問題とか言われちゃうから」

 

「おっと、そうだった」

 

優秀な人材の流出とか、ね。

ただでさえトレセンのトレーナー不足なのに、何処かの一般ラーメン好きトレーナーがアイルランドから熱烈ラブコールされてるとか聞くし。

なおその本人も悩んでいる割に、行くことに否定的ではないので相当脳が焼かれてる模様。

ただまぁその場合ファインちゃんのトレーナーではなくて、パートナーだろうけど。

うーん、青春だなぁ。

 

「ん…?」

 

ふと外を見れば、真夏日にも関わらずきちっとスーツ姿のウマ娘の姿が。

おそらくファインちゃんのSPだろう。

暑いのに外で待機してたのか、お疲れ様です。

 

「ファインちゃん、SPの人たちが迎えに来たみたい」

 

「あら、もうそんな時間。

マスター、ご馳走様でした」

 

中に入ってきたSPさんと入れ替わるように、出て行くファインちゃん。

代わりに会計を済ませるSPさんにお疲れ様ですと、アイスコーヒーを差し入れておいた。

これはお気持ちなのでお代は結構です。

 

「…ラーメンかぁ」

 

うん、どう考えても喫茶店で出るメニューじゃないよなぁ。

流石にリクエストとはいえ簡単に作れるものじゃないし。

とりあえず感謝祭になったら、休憩時間を設けて食べに行こうかね。

 

ーカランッ

 

「ん、いらっしゃい。

空いてるところにどうぞ」

 

本日の営業はまだまだ続く。

 




評価に色が付きました。
実はちょっとした目標でした。
ありがとうございます。

ハンバーグよりラーメンな気がする…?
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