喫茶『八本脚』は今日も営業中   作:八ッ橋すみれ

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突然増えて驚きましたが、変わらずぼちぼち更新していきます。


11.食パンのプチフルーツタルト

秋の感謝祭が近づいてきたこともあって、学生たちは準備に勤しんでいる。

忙しそうだなぁとは思うけど、それも学校行事の一環だからね。

生徒諸君には是非とも頑張ってほしいところ。

ただまぁ。

 

「うーん、困った」

 

俺の手元にあるのはそんな学生たちからの依頼書。

内容だが、大体は学生の感謝祭でも作れるようなレシピの伝授及び調理の指導。

まぁ、授業で家庭科はあるものの調理実習はなかった気がするしわからなくもないけど。

俺はトレセン学園にただ隣接してるだけの喫茶店の店長で、調理の教えを乞われても困るんだよな。

それこそ教えを乞うならカフェテリアの調理主任さんとかに相談すべきだと思うんだけど。

それに提供する物は自分たちで考えるべきだと思うんだよな。

 

けれどとりあえずレシピは考えちゃう。

料理人だもの、ぷにお。

可愛くないな。

 

そしてもう一つは感謝祭の日に出店を出してほしいと。

こっちはありがたいけど、流石に学生主体のイベントに出張るほど野暮じゃない。

それに本格的に出店依頼なら生徒会から話が来るからね。

生徒たちには悪いけどこっちは断らせてもらおう。

 

「学生でも調理できて、なおかつ簡単に提供できるもの、ね」

 

事前に作り置きでいいならそれこそカレンちゃんからレシピを教わったようなキューブチューリップサンドとかで良いと思うけど。

けどまぁ、それはカレンちゃんに許可取ってもらいたいし、別のものの方がいいよなぁ?

あとは焼き菓子系かな。

簡単なものだとクッキーとかだろうか。

けど流石にクッキーを出すだけなのは味気ないし、見栄え的も面白くないよね。

 

「……ん。あっ」

 

フルーツサンドじゃなくて、タルトにすれば面白いか。

クリームならびにカスタードは冷蔵庫に入れておけるし、パンで作るタルト台も作り置きできるし。

クリーム絞ってフルーツを飾りつけるだけなら生徒にもできるよな。

 

「うし、作るか」

 

材料をテーブルの上に並べていく。

 

ーーー

 

食パンもしくはサンドイッチ用のパン6枚、卵1個、薄力粉大さじ2、砂糖大さじ3、牛乳250cc、あれば香り付け用にバニラエッセンスもしくはバニラオイル、盛り付け用に好きなフルーツ。

 

まずはカスタードクリーム。

耐熱容器に卵、薄力粉、砂糖を入れ、ダマがなくなるまでよく混ぜる。

牛乳を加えてよく混ぜる。

ラップをかけずに600wの電子レンジで2分加熱。

一度取り出して、よく混ぜ合わせたら再度電子レンジで1分加熱。

再び取り出して混ぜ合わせ、今度は30秒加熱。

混ぜる、30秒加熱をもったりと固まってくるまで数回繰り返す。

あれば香り付けのバニラエッセンスもしくはバニラオイルを数滴加えて混ぜる。

表面が乾燥すると膜が張ってしまうため、ピッタリと貼り付けるようにラップをして冷蔵庫で冷やす。

 

続いてパンのタルト生地。

まずオーブンを200度で予熱しておく。

オーブン加熱が可能な容器に溶かしバターやオリーブオイルを薄く塗っておく。

食パンの耳を全部切り落とす。

麺棒で1〜2ミリくらいの薄さになるまで伸ばす。

底や側面に貼り付けるようにしっかりと押し付けるように、型に伸ばしたパンを敷き詰める。

200度のオーブンで10分焼く。

縁に焦げ目がついてカリカリになってれば大丈夫。

取り出したら冷ましておく。

 

最後に好きなフルーツを適当なサイズにカットし、冷ましたパンのタルト台にカスタードを詰めて盛り付ければ完成だ。

 

ーーー

 

「うん、出来た。

んー、タルトというには柔らかいけど、焼きフルーツサンドと思えばまぁうん。

悪くないんじゃないかな?」

 

ーカランッ

 

「ん、いらっしゃい。

空いてるところにどうぞ」

 

「こんにちは、店長さん」

 

入ってきたのは長髪の栗毛のウマ娘。

機械パーツのようなものが付いたメタリックなヘアバンドを付けており、耳元には蛍光色のリングを付けている。

ヘアバンドを押し除けるように伸びたアホ毛はチャームポイント。

 

彼女はミホノブルボン。

無敗二冠のサイボーグと呼ばれるウマ娘だ。

レースで機械の如く正確なペースで逃げを打つことからついたあだ名だと思うのだが、普段の喋り方というか佇まいもサイボーグの様で一部からは本当にロボットなのではないかと疑われている。

友人に誕生日プレゼントに電池渡されたり、後輩の前でゼリーを飲んでいたらオイルの可能性があると言われたり、誕生日を製造年月日と聞かれていたりと。

本人は気にしてない模様だけど。

電池に至っては喜んでるからツッコミをいれるのは野暮というものだろう。

 

そんなブルボンちゃんだが、1人でここにくるのはなかなか珍しかったりする。

それこそ毎年ブルボンちゃんに電池をプレゼントするバクシンオーちゃんだったり、菊花賞後の事件はあったものの今では親友と呼べるほど仲を深めたライスちゃんといった友人達に連れられてくる印象がある。

 

「今日は1人なんだね」

 

「はい。

オペレーション『指導のお願い』で参りました」

 

「んー…?もしかして依頼書の中にあったやつかな」

 

コクリと頷くブルボンちゃん。

なるほど確かにブルボンちゃんなら記憶力とか優れてる上ポーカーフェイスが得意だし、使者としては良いのかもしれない。

けど、人選ミスってるんじゃないかなと思わなくもない。

だって、この子微妙なニュアンスが通じなかったり他人の感情の変化に疎かったり他者へのアプローチが不得意だから。

 

良くも悪くもかなりの天然なんだよね。

サイボーグなのに天然とは。

 

「バクシンオーさんから既に依頼書が届いていると聞いていますが、他のクラスメイトから確認してきてほしいと言われまして。

店長さん、依頼の方は引き受けてもらえますでしょうか」

 

「そうだね…まず初めに。

俺としても店の営業があるから毎日教えに行くなんて事はできない。

その上ブルボンちゃんのクラス以外からも依頼が来ているって事を知っておいて欲しいかな」

 

「では、引き受けは出来ないということでしょうか?」

 

「んー…正直厳しいかなぁとは思ってるよ。

確かだけどブルボンちゃんのところって……ん、やっぱりレシピも一緒に考えてほしいって書いてあるんだよね」

 

模擬店で喫茶店をやるから知恵を借りたいと、懇切丁寧に書いてはあるけど。レシピ込みで教えるとなると、ここのクラスだけ時間を多めに取ることになるし他の依頼と差が出ちゃうんだよな。

それは流石にあんまり良い気がしないし。

 

…あ、そうだ。

ここでブルボンちゃんにレシピ教えて、先にクラスで伝えておいて貰えば良いのか。

そうすれば調理の指導だけという体になるし。

レシピ提供は…まぁブルボンちゃんが直々に来たからオマケということで。

その他提供物は自分たちで考えてもらおう。

 

「とりあえずブルボンちゃん。

話の腰を折るようで悪いけどコレ食べてみてよ。

一応、レシピ提供用のつもりで作った試作品なんだけど」

 

「では、ありがたく。

ミッション『試食』、いただきます」

 

無表情でパクリと一口。

もくもくと頬張るが、その無表情とは裏腹にぴこぴこ動く耳。

これはお気に召したようかな?

 

「…ステータス『美味』!

これは、タルト生地かと思いましたが食パンでしょうか。

フルーツサンド…フルーツタルト…?」

 

「喫茶店のメインにはならずともデザートとしての一品ならどうかな?

飲み物との付け合わせでもちょうどいいと思うんだよね」

 

「なるほど、たしかにこれは良いかもしれません。

食パンで作るタルト台にカスタードクリーム共々保存しやすく、その上のフルーツも冷蔵可能。

学生が調理するのも難しくなく、適したものだと思われます」

 

「現役学生のブルボンちゃんが言うなら間違いないかな?

それじゃ話を戻すんだけど、レシピを一緒に考えつつ調理の指導をしてたら他の依頼とどうしても差ができちゃう。

だからレシピの伝授か調理の指導、どちらか一方だけなら受けようと思っていてね。

コレのレシピはブルボンちゃんにプレゼントするから、指導の方だけにしてもらえないかな?」

 

「理解しました。

店長さんは、私からレシピを提出すれば問題にならないのではと思っていると解析。

オーダーを受理、クラスで『レシピの提出』を行います。

そして、オペレーション『指導のお願い』のタスク達成を確認しました」

 

「ん、そういう事。

他のメニューは自分たちで考えてほしいかなって」

 

コクリと頷くブルボンちゃん。

さて、レシピを提供と思ったけど文字に起こしただけでしっかりと伝わるのだろうか?

せっかくだしブルボンちゃんにも作ってもらってみようかな。

 

「ほい、これがレシピねブルボンちゃん。

それでよかったらなんだけど、この後時間はあるかな?」

 

「オペレーション完了の報告がありますがこちらは後日でも可能。

よって、回答としてはありますと」

 

「じゃあせっかくだから、ここでそのレシピ見ながら一度作ってみてほしいな。

俺としても他の子に調理を教えたことがなくてね。

どこでつまづくとかわからないんだ」

 

「ミッション『調理』、受注しました。

材料は足りてますか?」

 

「ん、足りてるはずだよ。

それじゃ、お手並み拝見させてもらうね」

 

「はい。

目標設定『レシピ通りの調理』…開始します」

 

コクリと頷きポーズを決めるブルボンちゃん。

やる気はバッチリだし、これは期待ができるかな?

 

 

 

ーーー

 

ピィーーーッ!…プツン

 

「……エマージェンシーの発生を確認」

 

「えっ…あれ、故障……?」

 

音を立てて止まった電子レンジを確認してみる。

ボタンを押しても反応がない、扉を開閉しても電気がつかない。

念のためコンセントを抜いて差し直してみたら復活した。

 

ーーー

 

ピィーーーッ!…プツン

 

「……エマージェンシーの発生を確認」

 

「また!?……ん?あれ今度はすぐ治ったな?」

 

混ぜ合わせてまた加熱したら電子レンジが止まった。

うーん、経年劣化かな…?

一応開店当時から使ってるし、もう年かなぁ。

 

ーーー

 

ピィーーーッ!…バコンッ!

 

「……エマージェンシーの発生を確認」

 

「いや、そうはならないでしょ!?

そんな事より怪我はない!?大丈夫?」

 

「ステータス『異常なし』。

問題ありません」

 

今度は電子レンジが勢いよく開いたと思えば、黒煙を上げた。

流石に間違いなくこれは故障だろう。

勢いよく開いた事で中のカスタードが弾けて外に飛んだが、運良くブルボンちゃんにはかからなかったようだ。

 

にしてもブルボンちゃん、こんな時にもポーカーフェイスを崩さないのは流石だね。

まさかこんな状況慣れてる?

ライスちゃんの不幸呼び寄せ体質のおかげだったりする?

 

「これ以上の調理は不可能と判断。

…謝罪の許可を願います。

私が電子機器に触れると壊れてしまうのです」

 

「そうなの?…いやぁ、そうなの…??」

 

たしかに急に壊れたもんなぁ…?

電子レンジが急に爆発したし。

しゅんと耳と目を伏せ謝るブルボンちゃんにはとりあえず大丈夫とは言ったものの、これはどうしようかと悩む。

まぁ電子レンジは買い替え確定だな。

 

「流石に電子機器に触れられないのはブルボンちゃんだけだよね…?」

 

「はい。

他の方が触っても壊れるといった事象は確認されていません」

 

「それは良かった。

みんなも触れたら壊れますとか言われたら流石に教えるのは諦めてたよ。

うーん…ゴメンだけどブルボンちゃんには調理の指導は出来ないかもしれないかな…」

 

調理中に怪我をするのは包丁で指を切るとか熱いものを触ってのやけどだと思っていたけど、器具の爆発も懸念しなきゃ行けなくなるのは流石にね。

調理失敗の理由も材料の混ぜが少ないとかであればまだリカバリーは効くけど、器具の故障はどうしようも出来ないからなぁ。

とりあえずブルボンちゃんは、喫茶店をやるならウェイトレスをやってもらった方が色々と安全だと思う。

 

「ミッション『調理』の失敗を確認。

ステータス『残念』…」

 

「ま、まぁ。

想定外の事が起こってレシピ通りとはいかなかったけど、一応レシピ通りには出来てたから問題はないよ。

クラスでの提出は頼んだよ」

 

「はい、そちらはお任せください」

 

「んじゃ、片付けはしとくから今日は帰りな。

壊れた電子レンジの事も気にしなくていいからね」

 

コクリと頷くブルボンちゃん。

明らかにしょんぼりしているがこればかりは仕方ないと思う。

外まで見送って、爆発して四散したカスタードクリームを拭いておく。

 

「…お疲れ様。

急な別れだけど今までありがとう」

 

コンセントを抜いて扉を閉める。

明日は商店街で電子レンジの発注だなぁ。

とりあえず今日の営業は電子レンジが使えないし、飲み物ぐらいしか出せないな。

 

「…本日は都合により飲み物のみの提供になります、と」

 

紙に書いて入り口に貼り付ける。

 

 

 

本日の営業はまだまだ続く。

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