な、何があったんです…?
とりあえずのんびりと書いていきますので、これからもよろしくお願いします。
亡くなった電子レンジ君は商店街の家電屋さんに引き取ってもらい、代わりに新しい子が導入された。
前の子はずいぶん年をいっていたけど、新入り君と対して変わらない力だったんだなぁと使ってみて思う。
利便性も変わってないしこれからは宜しく頼むよ、新入り君。
そんな事がありつつも、最近は学園とお店を交互に通っている。
今まで調理を他の子に教えるなんてしてこなかったから、これはこれでなかなか新鮮な日々である。
ブルボンちゃんみたいに電子機器を触ったら爆発するなんて子は流石に居らず、それこそ焦がしすぎないように注意するとか、フルーツのカットの時に指を切らないように注意するといった簡単なものばかりで思ったより楽かな。
独特の感性でアレンジを加えようとする子とかいなくて助かる。
あとは、ブルボンちゃんに渡したレシピ『食パンのプチフルーツタルト』は無事に採用されている。
他のメニューに関してはホットサンドだったり、スパゲッティだったりと意外にしっかりしていて驚いた。
果たして当日にこれらがスムーズに作れるのかと言われれば疑問なのだが。
まぁ、学生の模擬店だし多少提供までに時間がかかっても許されると願おう。
ーカランッ。
「おや、いらっしゃい。
空いてるところにどうぞ」
「邪魔するわ、店長。
申し訳ないのだけど、今日は相談があってきたの」
入ってきたのは鹿毛のウマ娘。
ウェーブのかかったセミロングヘアーで、前髪は一房を残して大部分を左へ流した抜け感のあるスタイル。
両耳をシンプルな青色のカバーで覆っており、右耳の直下には緑色のリボンとサイドテールが揺れている。
彼女はキングヘイロー。
黄金世代の一角を担うウマ娘であり、クラシック級では惜しくもG1の冠は取れなかったもののシニア級に上がってから高松宮記念で初のG1勝利を飾った。
いきなりの短距離路線進出で黄金世代との対決から逃げたなんて声が上がったが、そんな声はすぐに消えることなる。
なんと俺以外にまだ誰も成し遂げていない全距離G1制覇を狙うようで、高松宮記念はそのための布石であると宣言したのだ。
その宣言通り、続いて出走したマイルG1の安田記念では後方から見事な撫で切りを見せて勝利している。
そしてこの秋のローテーションが発表され、天皇賞・秋、ジャパンカップ、有マ記念に出走するという。
黄金世代との対決もそこで行われ、今世間的には偉大な記録への挑戦者として注目を集めている。
俺としてもその挑戦は非常に好ましく、個人的に応援していたり。
キングちゃんの幅広い適性に、常に一流を目指して上を向く不屈の精神があればきっと成し遂げられるだろうと思う。
さてそんなキングちゃんだが、この店には黄金世代の友人達や彼女を慕う後輩の子を率いて来ることが多い。
世話が焼ける友人や後輩が多いこともあってか、キングちゃんの印象は面倒見のいい子だ。
同室のウララちゃんとか天真爛漫の体現者だし。
まったくもうと苦言を言いつつも寝坊しそうなウララちゃんを起こしていたり、そのまま流れで寝癖を直してあげたり、おやつの食べ過ぎを注意したとかキングちゃんから聞くけどその顔は笑顔である。
ウララちゃんのお母さんかな?ずいぶんと若々しいね。
そんなキングちゃんだが今日は珍しく1人だし、相談があって来たとなれば乗ってあげたくなるというものだろう。
とりあえず俺の前のカウンター席に座ってもらい、水を差し出す。
「それで、相談って言うのは?」
「実は私のトレーナーが調子を崩しているの。
休むように伝えても私の見えないところで仕事しているようで、これじゃ回復するように思えなくって。
だから無理にでも休ませようかと思ったけど、良い方法が思い浮かばなかったのだけど。
その…料理があんまり得意じゃない私でも作れるようなレシピってあるかしら…?」
「んー…体調を崩してる人向けの献立ってことだよね?
それに料理があんまり得意じゃない人でも作れるものねぇ……」
相談事の内容にいろんな意味でほっとしつつ、考えてみる。
ぱっと浮かんだのはお粥やリゾット。
あとは茹でるだけのうどんだろうか。
「というか、キングちゃんが手作りするの?」
「えぇ、普段のお礼も兼ねてよ。
それにキングの手作りともなれば、流石にトレーナーも仕事を止めて食べてくれるだろうと、グラスさんから言われたもの」
「なるほど、キングちゃんが手作りしようと思ったのはグラスちゃんの影響だったんだね。
ところであんまり得意じゃないとの事だけど、どのくらいのものなら作れるとかある?」
「…卵焼きよ」
プイッとそっぽむくキングちゃん。
なんだ、あんまり得意じゃないって言葉を濁してたから壊滅的だと思ってたよ。
卵料理はシンプルに見えてなかなか難しいからね、誇って良いと思う。
「なんだ、卵焼きができるなら十分だよ。
なら茹でるだけとか炊くだけじゃなくて少しレベルアップしてみようか」
「む、難しいのは無理よ?
卵焼きだって何回も焦がしてダメにしちゃってるんだから」
「最初からできる人なんて少数だから気にしないの。
それにつくるものは俺が先に手本を見せてあげるから。
たしか材料はあったよなぁ…」
冷蔵庫から材料を取り出していく。
作っていくのはリゾット。
体調を崩しているとのことなので栄養に気を使って野菜、とりわけほうれん草をつかっていこうと思う。
それにちょうど昨日、ご飯が余ったから冷やしていたんだよね。
ーーー
材料。
冷やご飯お茶碗一杯、ベーコン30g、舞茸半パック、玉ねぎ2分の1個、ほうれん草2束、にんにく1欠片、牛乳150cc、バター10g、オリーブオイル小さじ1、コンソメキューブ1個、粉チーズ大さじ1、塩少々、黒コショウ少々。
にんにくと玉ねぎをみじん切り、ベーコンと舞茸を粗めのみじん切りにし、ほうれん草は根っこを切り落として1センチ幅に切る。
冷やご飯を流水で洗い、ほぐしたらザルで水を切っておく。
フライパンを温めたら弱火にしてバターとオリーブオイルを入れ、みじん切りのニンニクを入れ、香りが出るくらいに軽く炒める。
玉ねぎを加え、少ししんなりするまで中火で炒める。
舞茸とベーコンを加えてさっと炒めたら、ほうれん草を入れて、色が鮮やかになるまで炒める。
ご飯を入れて炒め、余計な水分を飛ばす。
牛乳とコンソメキューブを加え、コンソメをよく溶かす。
コンソメが溶けてよく混ざったら、粉チーズを入れて塩で味を整える。
お皿に盛り付け、好みで黒胡椒を振ったら完成だ。
ーーー
「ほい、これでほうれん草のリゾットの完成。
じゃあ試食どうぞ」
「えっ…あ、いただきます?」
小皿にキングちゃんの分を取り分け差し出しつつ、俺も出来立てを一口。
初めにチーズ、その後少しの苦味があって最後にミルクの風味がする。
んー…ほうれん草は普通に切るだけじゃなくて、ミキサーでピューレ状にしてもいいかも?
それに醤油も加えても良いかな。
食感を加えるならナッツを砕いて入れても良いか。
「うん、まぁ悪くないんじゃないかな?」
「…これを作れる自信はないのだけど?」
「ん?キングちゃんともあろう子が挑戦する前から諦めるのかい?」
「…いいわ、やってみせるわよ!
キングにレシピの指導をする権利をあげるわ!」
「ふふっ、仰せのままにってね。
それじゃ、エプロンは貸してあげるから厨房へおいで」
キングちゃんを招き入れ、貸し出し用のエプロンを手渡す。
電子レンジ爆発事件の時にブルボンちゃんにはかからなかったけど、あれは運が良かっただけだからと一応用意したものだ。
早々に使われることになって何よりだね。
ーーー
再び材料をテーブルの上に並べて、俺はレシピを読み上げながらキングちゃんが調理するのを見ている。
材料を切る手つきは料理に慣れていないためゆっくりではあるが、しっかりと言う通りに調理はできている。
まぁキングちゃんは勉強も出来るってスペちゃんから聞いてるし、しっかりと教えられたらすぐに吸収できるのだろう。
料理があんまり得意じゃないとは言うが、おそらくそういった機会がなかっただけなんだろうとみてて思う。
「冷やご飯はそのまま炒めちゃダメなのかしら?
後から炒めて水分を飛ばすのに、洗うのは理由があったりするの?」
「ん、良い質問だね。
冷やご飯を洗う理由だけど、お米同士の粘り気が取れて完成した時にべちゃっとしなくなるためだよ。
べちゃっとした食感が好きなら洗う必要はないかな」
こう言った質問とか普通は出ないと思うし。
きっと料理をするようになったらかなり上達すると思う。
なんだかキングちゃんの世話焼き能力がさらに磨きがかかりそうな気がするな?
「ん、バターは焦げやすいから注意ね」
「わかったわ。
…しんなりって言うのはこれくらいなのかしら?
ベーコンに舞茸を入れて、ほうれん草は鮮やかになるまで…鮮やかに?」
「…ふふっ」
まぁ、それはそれで面白いか。
やはり、こうして誰かに教えるのも悪くはないね。
デジたん、今からでも料理に目覚めてくれないかな。
いやあの子は絶対器用に作るだろうし教え甲斐がなさそうだなぁ。
「おっと、牛乳は水と違って焦げ付きやすいから注意。
弱火にしてコンソメが溶けるまでかき混ぜてね」
「ん、ここまで来たらもう見覚えがあるわ。
…ここまでできるとちょっと自信がつくわね」
そうして粉チーズ、塩が加えられお皿に盛り付けられる。
キングちゃんが作るほうれん草のリゾットは無事完成した。
見た目も丁寧に材料を切っているし、火加減も気をつけていたから焦げもなく綺麗。
レシピ通り作ってるから本来ならこれで良いのだろうけど、ひとつだけ。
「味を整える時に目分量、多分俺が入れてたのをしっかりみていて同じぐらい入れてたと思うけど、味見はしておくべきだったかな?」
「むっ……それはそうね」
「まぁ、みてた感じ多分大丈夫だと思うけど。
さて、じゃあ完成したし試食といこうか」
スプーンを差し出す。
初めに食べるのは調理した本人の特権だからね。
俺はキングちゃんが取り分けてくれた分を持って待機する。
「…美味しいわ。
これを、キングが…」
「これを機に料理に目覚めてもいいんだよ?
…うん美味しい、合格だね」
ちょっとだけチーズが多いかなと思ったけど誤差だろうし、これはこれでキングちゃんの味付けと思えば悪くない。
これならキングちゃんのトレーナーも満足するだろう。
…というか自分の担当、年頃の少女から手料理を振る舞われるってなかなかインパクトない?
むしろ頑張っちゃわないだろうか?
まぁ…その時はその時でキングちゃんが叱りつけるかな。
「とりあえずコレ、トレーナーさんに持っていくならラップしてカゴを貸すけどどうする?」
「…そうね、本来なら一流のキングたるもの完璧に作ったものをトレーナーに出したいのだけど。
今は早く休んでほしいし、これをもっていくわ」
「了解、じゃあ少し待っててね」
キングちゃんにエプロンを元のところに戻してもらってる間に、皿にラップをしてカゴにいれる。
さらにスプーンもいれて、メモを書いてそっと皿の下に隠すように入れる。
これは俺から挑戦者への期待を込めて。
呼ばれるかはわからないけど、俺との模擬レースの招待状だ。
使用コースについては、生徒会役員達が内密に手引きしてくれることになっている。
きっとおそらくあの子達も走る気だろうが、まぁいいだろう。
実力も最高位の生徒会メンバーが一緒なら尚更やる気も乗るだろうし。
「はい、それじゃコレね。
わかってると思うけど振り回さないようにね?」
「ウララさんじゃあるまいし心配無用よ。
…えっと、今更だけどこれってお代とかってどうすればいいのかしら?」
「ん?あぁ、別にお客として来たわけじゃないしいいよ。
一応今は臨時の外部講師ってことになっているから、それの一環ってことで」
トレセン学園で調理を教える関係で、一応ではあるものの肩書きとして外部講師となっているし、これは生徒からの相談だからね。
別に料金が考えるのがめんどくさかったとか、そういう訳じゃないんだからねっ。
「…そう。
なら感謝するわ、店長」
なぜか苦笑いして礼を言うキングちゃん。
何故苦笑いなのか。
心を読んでキッツとか思われた?傷つくわぁ。
「とりあえずトレーナーさんには、俺からも体調には気をつけるように言ってたって伝えておいてよ」
「ええ、伝えるわ」
一礼して去っていくキングちゃん。
後ろ姿を見送って、すでに冷めてしまったリゾットを温め直して食べる。
「…ふぅ。
外部講師、ねぇ?」
どう考えてもこれ、たづなさんからのアプローチなんだよなぁ。
トレーナーライセンスを取らせてあわよくばトレセンに勤めてもらおうって方針から、調理の先生として呼ぼうと方針を変えたな。
賢いというべきか、諦めが悪いというべきか。
「ま、俺としてもトレーナーなんかよりもそっちの方が良いけど。
…いや、ここの店長を辞めるつもりはないけどね」
ごちそうさまでした、と。
本日の営業はまだまだ続く。
クッキングヘイロー、いいですよね。
趣味全開でした。