並びに誤字報告も多く、助かります。
助かるんじゃなくて減らせという話なんですけどね?
推敲の重要性がよくわかりますね…。
「あいたたた…。
やっぱり全力はダメだな」
歩くと微量なれど電流が流れる脚に、思わず苦笑いが溢れる。
例の招待状の約束を果たしてきたわけだが、今までの模擬レースとは違い文字通り全力で走った。
おかげで生徒会メンバーからは一緒に走った時は全力じゃなかったのかと詰められたけど。
まぁその結果として、全盛期とは違い軽い筋肉痛になっているわけで。
脚に湿布を貼って、歳だなぁと思う今日この頃。
日頃からの運動は大事だね。
そんなことでキングちゃんどころか生徒会役員諸共ぶっちぎったわけだが、キングちゃんには非常に刺激になったと思う。
全員見事に脚質が差しだったし、ルドルフちゃんの序盤からの牽制並びにゴールへ向けての計算されたレース運び、ブライアンちゃんの中盤の喰らい付きと終盤に引き離すような力強い走り、エアグルーヴちゃんのコーナーの加速と終盤の最適なコース取り。
俺から見ても全員が見事なものを持っており、どれか一つでも自分のものにできればさらに伸びるだろう。
まぁ、それでも俺には届かないんですけどね。
若いものにはまだまだ負けんよ。
大人気ない?知らんな。
俺が負けるとしたら、バフが盛られた勇者デジタル状態になっているデジたんとマイルで走る時だろうよ。
あの子、覚醒状態になるとライスちゃんもびっくりの『ついてくついてく』して最終直線でぶっちぎろうとしてくるし。
現役最強と言われている生徒会役員ですら俺の本気には影も踏まなかったのに、あの子は少しとは言え横に並んだからね。
引退レースのマイルチャンピオンシップの後じゃなかったら、もしかしたら負けてたかもしれないと今でも思うよ。
「…せっかくだし、デジたんも呼べばよかったかな?
あ、ダメだな、今絶賛デスマーチ中だわ」
毎年恒例の年末の祭典に向けて忙しいはずだし。
先生、進捗どうですか?あ、今年もダメそうですね。
そういえば菊花賞、アヤベちゃんは残念だったね。
人気こそ1番だったけど、やっぱり長距離は走れるものの得意ではないようで。
トップロードちゃんがオペラオーちゃんにクビ差で勝利し、三冠を分けることになった。
にしてもオペラオーちゃん、これからなんか強くなりそうな感じがするね。
「さて…昼飯の代わりに〜♪」
テーブルの上に白い粉が入った袋を並べていく。
これは決して怪しいものではありません、不思議な気持ちになったり楽しくなるものです。
そうですね、ホットケーキミックスですね。
なんであんなに膨らむんだろうと、幼心に一度は思うものだろう。
しかしいざ自分で作ってみると思ったより膨らまないどころか、ペラペラになってがっかりした経験すらあるだろう。
ということでホットケーキをふんわりと焼き上げ、ご機嫌な昼ごはんにしようと思う。
ーーー
材料は、ホットケーキミックス1袋、牛乳100ml、卵Mサイズ1個。
牛乳と卵は常温に戻しておく事。
卵と牛乳は先に混ぜる。
そうする事でホットケーキミックスを入れた時に混ぜすぎなくて済む。
ホットケーキミックスを入れたら軽く混ぜる。
どろっとしていてダマが少し残っているぐらい。
混ぜすぎると膨らみが悪くなるのだ。
フライパンを中火で温めてたら、濡れ布巾の上で少し冷ます。
中火から弱火に変えたら生地は高いところ、だいたい30センチぐらい上から流し入れる。
生地を高めから一気に落とす事で綺麗な円に広がる。
焼き加減は弱火で3分。
表面のプツプツがひっくり返す合図。
泡が出過ぎたら膨らみが悪くなる。
ひっくり返す時は躊躇なく一気にひっくり返すこと。
そうする事でまっすぐ上に膨らみまんまると綺麗なホットケーキになる。
そして弱火で2分も焼けば火も通り、ふっくらとしたホットケーキの完成だ。
ーーー
「バターは…この前作ったパンケーキの時のやつでいいか。
はちみつもかけちゃって…うーん、あったかふっくらふわふわ」
ーカランッ
「おいひ…んんっ、いらっしゃい。
空いてるところにどうぞ」
「ごきげんよう、マスターさま」
入ってきたのは、ボリューム感のある長髪の鹿毛が特徴のウマ娘。
彼女はメジロブライト。
かなりおっとりとしたマイペースな性格で、ウチにも何度か来店したことがあるがだいたいホットのものは冷めるし、アイスは溶ける。
彼女のプロフィールにある苦手な事に、溶ける前にアイスを食べる、とあるがそれはここでのエピソードだったり。
あの時もそういえば俺がホットケーキ食べてたっけな。
それで来店したブライトちゃんも食べると言ったから、アイスを添えて出したんだけど、まさかホットケーキを食べ切る前にアイスが溶けるとは思わなかった。
それでもちゃんとホットケーキは食べ切ってたんだけど。
なんならしっかり、おかわりしてたね。
気に入ってくれたのか山のように食べてて、じいやさんの迎えが来るまでずっと焼かされていたっけな。
「ほわぁ〜?この匂いは、ホットケーキ、ですわね?」
「ごめんね、ちょうど俺の昼ごはんの代わりで作っててさ。
ブライトちゃんは昼ごはんかい?それともおやつかな?」
「そうですわね〜、先ほどまではゆっくりとお茶でもいただこうかと思っていたのですけど〜。
ちょっとばかり、おやつもいいかなと思いますわぁ〜」
カウンター席に座ったので水を差し出し、ついでにサービスとして手をつけていないホットケーキを差し出しておく。
多分これでしばらくは注文が来ないだろうから、さっさと俺のホットケーキを食べておこう。
む…先に作ってたやつが冷め始めてる…。
「ふわふわで美味しいですわね〜」
「ホットケーキも焼き方を変えるだけでふわふわになるんだよ。
ふむ…ブライトちゃん、ティラミスなんてどうだい?」
「ティラミス?…いいですわね〜」
「ん、じゃあパパッと作っちゃうね」
冷めたパンケーキに、飲もうと思って置いておいた結果こちらも冷めてしまったインスタントのコーヒー。
これらを使って簡単なティラミスを作っていこうと思う。
ーーー
材料。
余ったホットケーキ1枚、インスタントコーヒー大さじ1、お湯大さじ4、生クリーム100cc、マスカルポーネ100g、砂糖大さじ3、イチゴ数粒、ココアパウダーもしくは純ココア適量。
ホットケーキを手でちぎり、深めの容器に隙間なく敷き詰める。
インスタントコーヒーをお湯で溶かしたら満遍なくかけて染み込ませる。
そして一旦冷ましたら、スライスしたイチゴもしくはバナナを上に乗せる。
今回はすでにホットケーキもコーヒーも冷めているためそのままやっていく。
ボウルに生クリームを入れて、角が立つまで泡立てる。
泡立てた生クリームにマスカルポーネと砂糖を加え、馴染むまでしっかり混ぜ合わせる。
フルーツを乗せたホットケーキの上にクリームを塗り広げ、隙間が出来ないようにならす。
仕上げにココアパウダーを振りかけたら完成だ。
ーーー
本当ならここで冷蔵庫で数時間冷やしておくと味が染み込んで美味しくなるから、冷やしておきたいところだけど流石に時間がね。
…クリームも余ったし、おやつ用に作って冷やしておこうかな。
「ほい、お待たせ。
ホットケーキで作ったティラミスになります」
「わぁ〜、流石ですわ〜マスターさま。
あのホットケーキがこうなるなんて、まるで魔法ですわね〜」
「ふふっ、じゃあこれからは喫茶店の店長じゃなくて魔法使いって名乗ろうかな?」
もちろん冗談だけど。
魔法使いと名乗った日には、おそらくスイープちゃんが突撃してくるだろう。
とは言っても、魔法使い見習いと英雄見習いのペアでよく来店してくれるけど。
まだ未デビューの2人だけど、その脚は非常に光るものがあるね。
いつか本当に偉大な魔女の英雄になる日を楽しみにしてるよ。
「んんっ〜口の中でクリームがとけますわ〜」
「アイスとは違ってこれなら溶ける心配もないからね」
「あ、そうでしたわ〜。
マックイーンさまからお紅茶もこだわるようになったと聞いていましたので、お願いしてもよろしいでしょうか〜?」
「ん、たしかに飲み物が欲しくなるよね。
了解、すぐに淹れるからちょっと待ってね」
カップとポットを用意し、いつも通り淹れていく。
にしてもマックイーンちゃんか。
果たしてホットケーキのティラミスはスイーツに判定されるのだろうか?
俺のおやつが狙われるとかないよね?
「はい、紅茶ね。
そういえばブライトちゃん、噂でしか聞いてないんだけどトレーナーと婚約したってホント?」
「ほわぁ〜?トレーナーさまと私が婚約…。
…あれは、婚約だったのでしょうか〜?」
「俺の方で聞いた話だとバレンタインに告白して、婚前旅行として2人で温泉旅行に行ったとか聞いたんだけど」
「まぁ、知られていたのですね〜。
バレンタインにはトレーナーさまにカカオの樹を差し上げて、温泉旅行では引退したら温泉旅館のおかみさんをやりたいという話をしたうえで、わたくしと一緒に経営とおもてなしをお願いしたのですわ〜」
「うーん、これは恋愛強者。
色々ツッコミたいけど、とりあえずカカオの樹って確か収穫するまでに4年とかかかるんじゃなかったっけ?
しかも確か長いこと収穫できると思ったんだけど」
確かブルボンちゃんが、カカオ豆からチョコを作ろうとして収穫までに4年かかるから断念したと聞いた覚えがある。
まぁ、その後のコンチングという作業で72時間、手動でかき混ぜ続けるブルボンちゃんもなかなかにクレイジーだけど。
今思えばあれ、機械が使えないからだったんだなぁ。
当初は手作りを文字通りしているものだと思ったけど。
「そうですわね〜。
収穫できるまでに4年かかって、50年もの間、実を成せるらしいんですの〜。
その間は、わたくし自らトレーナーさまにチョコをお作りするつもりですわ。
きっと一年ごとに違う味がするでしょうし、楽しみですわ〜」
「…そうかい。
トレーナーさんも幸せ者だね」
50年、毎年バレンタインデーにチョコを渡すってそれは夫婦なのでは?
これは学園を卒業したら結婚するまで秒読みだろう。
トレーナーさんも、ちゃんと考えて返事してるはずだろうし最悪トレーナー職を辞する覚悟もしてるだろうし。
まぁトレセン中央のトレーナーから、メジロ家専属のトレーナーに変わるだけだろうけど。
でも同じように担当と婚約してるアルダンちゃんのトレーナーは、アルダンちゃんだけしか見ないって公言してたっけな。
もしかしたらブライトちゃんのトレーナーも同じ理屈で、他の子は見ないかもしれないね。
それこそすぐに2人で温泉旅館開業したりしそうだし。
「50年間、手作りのチョコをプレゼントかぁ。
…いいな、なんかそういうの」
「マスターさまはそういうお方はいらっしゃらないので?」
「お?それはなかなか効くぞブライトちゃん。
出会いがあればいいけど多分ないからな」
ここに来る客層も8割トレセン学園生、2割は女性の教員や女性のトレーナーさんとなっている。
別に男性の入店を拒否しているわけじゃないのだが、まるで男性の姿はない。
そんなわけで出会いがあるわけもなく。
まぁ別にパートナーが欲しいかと言われればそうでもないんだけど。
「まぁ、いつかは見つかるでしょうし。
慌てる必要もないかなって」
「そうですわね〜。
短気は損気ともいいますし、ゆっくりと参りましょう」
「ブライトちゃんはゆっくりしすぎな感じはするけどね?」
短気は損気とは言うけど、ブライトちゃんの場合のんきすぎて色々間に合ってないんだよなぁ。
それこそ今年の天皇賞・春とか。
最近のレースは高速化が進んでるらしくて、ブライトちゃんには随分と向かい風が吹いているし。
それでもこの動じない精神力はなかなかに見習うものはある。
芯が強いというべきか、自分の強みをしっかりとわかっているというか。
向かい風も待っていれば、いつかは追い風に変わるだろう。
「ごちそうさまですわ〜」
「ん、お粗末様。
簡単なティラミスだったけど、満足していただけたかな?」
「はい、とっても美味しくいただけましたわ〜」
フォークが置かれ、空になった容器を下げる。
よくよく考えたら本物のお嬢様に出すようなメニューじゃなかった気がするけど、完食されてるしいいか。
次は本格的なティラミスを作ろうかな。
「それではマスターさん、ごきげんようですわ〜」
「ん、またね」
会計を済ませて去っていくブライトちゃんを見送り、コーヒーをカップに注ぐ。
結局、自分のホットケーキを食べてなくて冷めてしまったし、これらもティラミスにしてしまおうと思う。
明日は簡単ティラミスの気まぐれスイーツセットだな。
「それはそれとして…よっと。
ホットケーキは食べるんだけどね」
新たにホットケーキを焼き上げ、今度は一枚ずつ食べる事にする。
作り置きの蜂蜜バターのストックが減るのは嫌だから、はちみつだけをかけて食べようかな。
ーカランッ
「わぁっ、いい匂い。
あ、ホットケーキですか!」
「いらっしゃい。
空いてるところにどうぞ」
本日の営業はまだまだ続く。
子供の頃に初めて作ったホットケーキは、外が真っ黒、中はトロッと半生でした。
なかなか衝撃的な味でしたね…。