喫茶『八本脚』は今日も営業中   作:八ッ橋すみれ

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6.キューブチューリップサンド

そろそろ5月も終わる今日この頃。

クラシック三冠の二戦目である日本ダービーが行われ、アヤベちゃんことアドマイヤベガが勝利を収めた。

どこか影を背負い周りと関わろうとしない子だけど、話を聞く限り同期の面々には深く慕われているらしい。

 

まぁウチには一回しか来たことないし、閉店間際に珈琲を持ち帰りで一杯だけで話をしてないからね。

デジたん曰く、趣味が天体観測らしいので多分その前だったんだろう。

あとよくわからないけど何故か布団乾燥機に詳しいらしい。

実家がメーカーだったりするのだろうか?

 

「元気に育てよー」

 

寂しくなってしまった花壇にタネを撒き水をやる。

時期的に咲いていた花の植え替えであり、選んだのはサルビアだ。

開花時期も6月から11月と長く単純に個人的に好きだからである。

公園とか家庭の花壇とかでも見れるらしいけど、周りでは見ないんだよね。

 

なお元あった花はチューリップ。

エアグルーヴちゃんから貰った球根であり、咲き終わった花を摘み、葉が黄色くなって枯れ始めたため球根を掘り上げた。

掘り出した球根は土を落として水洗いをし、きれいになったらネットの袋に入れて風通しの良い日陰に吊るして乾燥させておく。

球根が傷ついていなければ、また秋になって植えたら綺麗に咲いてくれるだろう。

 

「さて…こっちの仕込みも終わったし、あっちはどうかねぇ」

 

ーーー

 

「おっ、いい感じかな?」

 

冷蔵庫から冷えたフルーツサンドを取り出す。

包丁にクリームがくっつかないよう、お湯で包丁を温めて水分を拭きとり十字にカットする。

断面にチューリップが咲いているフルーツサンドだ。

なんでも萌え断とかいうフルーツサンドらしく、形からかキューブチューリップサンドと言うらしい。

 

ーーー

 

材料だが。

イチゴ4つ、キウイ1つ、バナナ1本、食パン2枚、生クリーム200ミリリットル、マスカルポーネ200g、グラニュー糖16g、はちみつ16g。

 

まずクリームの作り方。

マスカルポーネにはちみつを混ぜ合わせる。

別のボウルで生クリームにグラニュー糖を加えて8分立てにする。

マスカルポーネを3回に分けて、生クリームに足して混ぜ合わせる。

 

次にチューリップになる果物の仕込み。

イチゴのあたまとおしりをカットし、チューリップの花の形になるように三角に切り込みを入れ、水分をしっかりと拭き取る。

キウイも同じようにあたまとおしりをカットし皮を剥き、面取りする様に表面を滑らかに。

葉っぱと茎の部分を4組分作り、水分をしっかりと拭き取る。

バナナは4等分にカット。

 

準備ができたのでサンドを作っていく。

まずは食パンの耳を落として形を整え、食パンに薄めにクリームを塗る。

中心と周り4箇所にクリームを絞り、配置に気をつけながら葉っぱを斜めに立てかけるように配置する。

茎を乗せるクリームを絞り茎を乗せ、茎の上にはクリームを絞らず向きに注意してイチゴを配置。

四隅にクリームを絞ってバナナを配置したら隙間にクリームを絞り、形を整えるように全体にクリームを塗る。

乗せるパンにも薄くクリームを塗って乗せる。

潰しすぎると茎が倒れるので注意。

 

そしてラップで包み2時間ほど冷蔵庫で冷やして切れば完成だ。

 

ーーー

 

「うん、フルーツの酸味にクリームの相性は間違いないね」

 

甘党なら食パンでサンドするんじゃなくて、切れていないカステラでやるのもありかもしれない。

その場合キューブ状じゃなくて横並びチューリップサンドになるが。

まぁ、見た目重視のサンドはもう暫くはいいかな。

アヤベちゃん繋がりで思い出してレシピを調べたけど、普通に作った方が早いし楽だわ。

 

ーカランッ

 

「こんにちは、店長さん。

連絡ありがとうございまーす!」

 

「ん、いらっしゃい。

一応カレンちゃんから教えてもらったものだからね」

 

彼女はカレンちゃん…ではなくてカレンチャン。

芦毛のウマ娘で髪型はやや外ハネ気味のセミショート。

ウマスタグラムやウマッターといったSNSを巧みに使いこなしていて、その道のインフルエンサーとして非常に有名だ。

なんでも自身の「カワイイ」を広めるために活動しており、トレセンにもそれで編入したらしい。

動機が動機なためにレースに人生を懸けているような生真面目な生徒からはトレセン学園をナメていると反感も買っていたらしいけど、スプリンターとしてG1の高松宮記念とスプリンターズステークスを制覇しておりそういった声もすでになくなっている。

 

あとライスちゃんと同じようにトレーナーの事を「お兄ちゃん」呼びしている子である。

こっちは幼い頃に面識があっての事らしい。

名誉お兄ちゃんじゃないんだ…と内心思ったものである。

チームシリウスのトレーナーが名誉お兄様だからね、仕方ない。

 

「それで作ってみたんだけど、こういう事であってる?」

 

「わぁ、カワイイ!店長さん、撮ってもいいですか?」

 

「ん、構わないよ」

 

キューブチューリップサンドを横に添えて写真を撮るカレンちゃん。

…ん?なんかこっちにもカメラ向いてない?

あ、撮ってもいいって俺も含まれてたのか。

あんまりカメラは好きじゃないんだけどねぇ。

まぁいいけど。

 

「店長さんも笑顔でお願いしまーす!

ふふっ、ハッシュタグは#カレン幸せ、#カワイイカレンチャン、#喫茶『八本脚』っと」

 

「…もういいかい?とりあえず紅茶でいいかな?

今日は俺から誘ったし奢りね」

 

この前マックイーンちゃんに出したように、沸騰させたお湯でティーカップとポットを温める。

そして茶葉を入れてお湯を高い位置から注ぐ。

高い位置から注ぐと酸素がより入って茶葉が上にあがり、茶葉の成分がよく抽出されるらしくてジャンピングと言うらしい。

今回は茶葉が細かめだった為蒸らす時間は2分ほどでいいだろう。

カップにフィルターを置いて紅茶を注いだら、カレンちゃんの元へ。

 

「お待たせ、どうぞ」

 

「わーい、ありがとうございます!」

 

「作っといてなんだけど、これ結構甘くない?」

 

「そうですか?カレン的にはちょうどいいかも。

キューブチューリップサンドって言ってもフルーツサンドですし、こんなものだと思いますよ」

 

「…歳かなぁ?」

 

「あはっ、店長さんも若い…ですよね?」

 

「ありがとう、けどノーコメントで。

まぁ、普段から学生相手にしてるから気持ちは若くありたいものだけどね。

それでもSNSとかわからないものはわからないし」

 

「うーん…確かにこのお店のアカウントを見る感じは得意そうには思えないかも」

 

「写真を撮って載せるとそれ目当てに来るひととかいるし困るんだよね。

今日みたいなのはその日限りのものだし」

 

ウマッターは店の宣伝の為にアカウントをつくったもののほとんど稼働しておらず、ウマスタグラムに関してはそもそもインストールすらしていない。

そもそも宣伝するような期間限定メニューとかやってないし。

やってるのは今日みたいに突発的に思い付いたメニューを作って、その日のうちに提供するぐらいだからね。

そのためウマッターに載ってる写真はメニュー表とコーヒーの写真のみ。

面白みのないアカウントだなぁと自分でも思うわ。

 

「じゃあ、カレンも載せない方が良かったですか?」

 

「ん、構わないよ。

もしカレンちゃんの投稿をみて来たって言われても、所詮個人的な趣味でやってるような店だしやってないよと一言言うだけだからね。

まぁ、見たって人が多かったらそれこそ後日作るってアカウントで報告するさ」

 

「んー…一応、今日限りの限定メニューって書いておきますね」

 

「気遣いありがとね」

 

いかにカレンちゃんが有名なインフルエンサーとはいえ、トレセン横の小さな個人店に客が詰め寄せるなんてことにはならないだろうけど。

まぁ、カレンちゃんの友達とかが見て来るぐらいかな?

試作も兼ねて結構な量を作ったから在庫は大丈夫だろう。

 

「あ、マックイーンちゃんが反応した」

 

「あの子なら確実に来るだろうね。

…というか、すごい勢いで通知来てない?気のせい?」

 

「コレぐらいはいつものことですよ?」

 

バイブ音こそ鳴っていないものの、カウンターに置かれたカレンちゃんのウマホのバナーが途切れることはなく常に通知が届いている。

 

そうなの?これがいつものことなの?

こりゃ、ダメかも知れないね。

カレンちゃん恐るべし。

 

「ん〜…まぁ、気まぐれスイーツセットって事にしようかな。

今から値段つけるのも面倒だし」

 

困った時の気まぐれスイーツセット。

フルーツサンドだしスイーツで良いだろう。

ほら、マックイーンちゃんが反応してるし、うん。

 

「にしてもやっぱりウケが良いもんなのかね?

切り方を変えただけのフルーツサンドなんだけど」

 

「んー…やっぱり見てて面白いですし伸びますね」

 

「見た目よりも量が多い方が嬉しいと思うんだけどなぁ。

やっぱりよくわからんね」

 

「量が多くて喜ぶ子もいますけど、見た目を楽しむ子も居ますから。

でもカレンは両方かなぁ」

 

パクリとフルーツサンドを食べて微笑むカレンちゃん。

うーん、いっぱい食べる君が好き。

まぁでも確かに見た目を楽しむのも悪くない、か。

 

花見とかそうだし。

花より団子派の子が若干いるけども。

まぁそういう子は大概カフェテリアで食べてるんだけどね。

どれだけ食べても無料だし制限ないってやべぇよ。

 

「あ、話は変わるけど。

アヤベちゃんって同室だよね?フルーツサンドは好きかな?」

 

「んー…どうだろ。

あんまり自分から食べるイメージはないですけど、ふわふわのパンケーキとかは好きでしたね」

 

「パンケーキかぁ。

んー…ダービー勝利のお祝いって事でお土産をと思ったけど」

 

「カレンが渡してもいいですけど、遊びに誘っても5回中4回は断られますし多分受け取ってもらえないですよ?」

 

「気難しい子なんだねぇ。

まぁ、お店に来たらお祝いしてあげるって事でいっか」

 

フルーツサンドなら持ち帰りも出来るしと思ったけど。

というか5回中4回断られるって。

それでも誘うあたりカレンちゃんなかなか強いね。

 

同期にも慕われてるらしいしアヤベちゃんは気難しくても根はいい子なんだろうけど、もう少し周りに優しくしてあげてもいいと思うんだ。

レースに一生懸命なのはいいんだけど、常に気を張ってるのは疲れるからね。

 

「ダービーも勝ったし次は菊花賞かね」

 

「だと思います。

合宿も参加するみたいですし」

 

「オペラオーちゃんにトプロちゃんみたいなライバルもいるし、この夏は追い込むだろうね。

カレンちゃんも合宿にはいくの?」

 

「もちろん行きますよ。

今年から専属じゃなくなりましたし、お兄ちゃんの手伝いも兼ねてですけど。

それに別のチームの子に並走をお願いされてますし」

 

「あー…そういえば専属じゃなくなったんだっけ。

なんだっけ、スイーピーちゃんだっけ?」

 

去年まで専属だったのだが、カレンちゃんがドリームトロフィーリーグに上がった関係でチームを作ったらしい。

そんな出来立てのチームに魔法少女スイーピーと名乗った魔女っ子ウマ娘ちゃんが加入していたのを思い出す。

まぁなかなかに気性難な子っぽかったけど。

 

「可愛い子ですよ。

気に入らない事があるとイヤイヤ言いますけど、ちょっとお話すればきちんと聞き分けてくれますし」

 

「あ、そうなの?

ただ駄々こねてるだけかと思ってたんだけど」

 

「スイープちゃんもスイープちゃんで考えがあって、それを聞かないで否定されるのが嫌いみたいで。

それを言葉にして話すのが少し苦手でワガママになっちゃうみたいだけど」

 

「なるほどね」

 

自分の意志を簡単に曲げない子なんだろうね。

キングちゃんとかスカーレットちゃんとかと話が合いそうかな。

まぁそういった子は強くなるだろうし、今後が楽しみだ。

 

「ごちそうさまでした」

 

「ん、お粗末様でした。

さっきも言ったけど、今日は俺の奢りでいいよ」

 

「やったー!ありがとうございます」

 

席を立ったカレンちゃんを見送り、空になった皿やカップ、ポットを下げる。

キューブチューリップサンドという、ただ見映えの良いフルーツサンドな訳だけど喜んでもらえて良かったわ。

…ん?

 

ーカランッ!

 

「マスターさん!まだチューリップサンドは残ってまして!?」

 

「ふふっ…急いで来たみたいだね、いらっしゃい。

大丈夫、まだまだあるよ」

 

本日の営業はまだまだ続く。

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