結局、キューブチューリップサンドは来月にもう一度作ることになった。
あの後マックイーンちゃんに続くようにぞろぞろと来て、客足が途絶えることなく先にキューブチューリップサンドの在庫が無くなったのだ。
その為、来月にもう一度作ることを口頭並びにアカウントの方でも告知した次第である。
いやぁ、カレンちゃんの拡散力を侮っていたね。
後から知ったけど、5万人近くが反応を返していたらしい。
レースを走るトレセン学園生といえど年頃の女の子だから、甘い物には目が無いんだろうね。
あと当然のようにみんなウマッターをインストールしていて、ウチのアカウントをフォローしてくれていたのが少しだけ申し訳なく思った。
これからは突発メニューを出す時は告知しておこう。
「ということで…うん、写真映えとかわかんねぇや」
ウマホで一枚パシャりと。
今日の特別メニューはドレスドオムライス。
商店街に買い物に行ったら偶然ウララちゃんと出会い、オムライスが食べたいとリクエストを受けた結果、材料を買いに行く前に材料が揃うというマジックを受けた。
これが地元のアイドル、ウララちゃん効果…!と驚いたものだ。
なお、しっかりと代金は商店街の人には渡している。
タダでもらっていい量じゃなかったからね。
そのせいもあって1人じゃ運べなかった為、ウララちゃんに手伝ってもらったのでこちらからは代金はもらっていない。
にしてもだいたい野菜は段ボールで渡してくるし、肉屋さんもパックを箱詰めして渡してきたし手慣れてない?
鶏卵だけは割れ物だからと後から持ってきてくれたのはサービスが行き届きすぎているまである。
とても助かったしこれからはあの店を贔屓にしよう。
ーカランッ
「いらっしゃい。
おや、この時間に来るのは珍しいね」
「今日は外に出ていたもので」
「なるほど、いつも大変そうだね。
注文はお決まりかな?」
「告知にあった、ドレスドオムライスで。
店長がウマッターで告知するなんて珍しいですね?」
「了解。
まぁ、意外にみんなフォローしてくれてるみたいだからね。
ちょっとした反省も込めてってやつだよ」
入ってきたのはグレーに近い鹿毛をボブカットにしたウマ娘。
切れ長の涼しげな目元に赤のアイシャドウをしているこの子は、トレセン生徒会副会長のエアグルーヴちゃんだ。
普段なら生徒会の休憩時間に一息つきにくるか、業務が忙しくて夜遅くまでかかってしまい寮での食事時間に間に合わなくて来る印象がある。
まぁ、その時はもれなくルドルフちゃんも一緒なんだけど。
なんでも1人で生徒会室に残しておくと休憩しなかったり、1人残って仕事をこなしていたかららしい。
怒られてしょんぼりルドルフになってたのは面白かったな。
そんなことを思いつつ材料をテーブルの上に並べていく。
ーーー
玉ねぎ半分、ピーマン2つ、にんじん4分の1、にんにく1片、鳥もも肉60g、卵2つ、バター15g、ケチャップ、中濃ソース、酒。
ご飯はだいたい茶碗3〜4杯分ぐらい、ヒト基準で3〜4人分だ。
まずはチキンライスだ。
玉ねぎをみじん切り、ピーマンは種をとって細切り、にんじんは皮を剥いてみじん切り、にんにく1片もみじん切りにする。
鶏肉を食べやすい大きさにカット。
フライパンに油を引いてにんにくを投入。
香りが出てきたら鶏肉を入れ、鶏肉が白くなってきたら野菜を入れる。
塩胡椒、ケチャップを気持ち多めにいれて全体に馴染ませたらご飯を入れて混ぜ合わせる。
ご飯を入れる前にケチャップを入れて水分を飛ばしておくと、べちゃっとなりにくくて美味しくできる。
チキンライスが出来たら茶碗に盛ってから平たい皿に移す。
卵を割って溶いたらフライパンにバターを溶かす。
中火で熱して温めたら、卵液を流し入れて全体に広げる。
周りが固まってきたら菜箸を広げて持つ。
上下から卵液を挟みながら菜箸を中央で合わせ、箸先は固定したまま手は反時計回りに90度、フライパンは時計回りに90度同時に回す。
箸先を固定したままフライパンを軽く揺らしながら菜箸を持ち直す。
フライパンを元の向きに戻し、箸先は固定したままにする。
また同じように手とフライパンを回したら、箸先は固定したまま先ほど盛ったチキンライスの上に滑らせるようにして盛り付ける。
ソースとして、ケチャップ大さじ2、中濃ソース大さじ2分の1、酒大さじ1を混ぜたものを600wの電子レンジで30秒温めたものをかければ完成だ。
ーーー
「お待たせ、ドレスドオムライスになりまーす」
「ありがとうございます」
出来立てをエアグルーヴちゃんに差し出して、また卵を焼いておく。
見栄えのためにこういう盛り付けになっている関係で、ウマ娘分量からすれば少ないものとなっているしおかわりはくるだろうからね。
「いただきます」
そんな声を聞きながら焼いていく。
ポイントとしては、一度卵液を挟んだら箸先を抜かないことと90度回すこと。
気泡で卵液に穴が空いたとしても、フライパンを軽く揺らして戻せば穴は塞がりしっかりと渦を巻いてドレス状になるだろう。
というわけでお代わり分を盛り付けてソースをレンジで温める。
「…あ、もう食べ終わる?
おかわりはもう出来るからね」
「んっ…ありがとうございます」
「はい、おかわりね」
ソースをかけるとほぼ同時ぐらいに1皿目が空になったようで、空いた皿と交換するように差し出す。
結構食いつきが良くて嬉しいね。
外に出てたって言ってたし、帰ってきたらカフェテリアが閉まってたんだろうね。
「ところで外っていうのは、来月からの合宿所かな?」
「そうです、最終確認を兼ねて下見に。
毎年行っているところなので大丈夫だとは思いますが、念には念を入れておくべきだと思いまして」
「海辺のところだよね。
あそこは近くに山もあって自然豊かでいいよねぇ」
ふと去年のことを思い出す。
喫茶店を休みにして8月後半に遊びに行ったら、何故かゴルシちゃんから獲りたてのタコをもらったためお返しにたこ焼きを振る舞ったんだよね。
そしたら何故か食材を持ち込んだら調理してもらえると話が広まって、セイちゃんから釣りたての魚を、タイキちゃんからお肉を、オグリちゃんからは箱入りのにんじんを渡されて困ったっけな。
とりあえずバーベキューセットで焼いてたら、横でゴルシちゃんが焼きそばの屋台を開いてたのは目を疑ったね。
話を聞きつけてなのか呼ばれてなのかわからないけど、タマちゃんが来て本場のたこ焼きってもん見せたると意気込んで作り始めたから、お祭りブースでも作るかと思って俺もその横でホットプレートを広げてはし焼きを作って配ってたけど。
なお、無許可でやったため聞きつけたたづなさんに怒られた。
けどその後、部屋で飲むからお供にって一通り貰っていったのは笑ったね。
「あの、今年も来られるのでしょうか?」
「ん?今のところはその予定はないよ」
「そうですか。
来ることになって、もしまた屋台を開くことになったら連絡をお願いします」
「屋台を開いてたのはゴルシちゃんなんだよなぁ。
まぁ、俺も便乗して横ではし焼きやってたんだけどさ」
「一応、今年もあれやるんですかと生徒会まで聞きにくる生徒も居るということだけは伝えておきます。
主によく食べる子たちが、と」
「…もしかしてその中に三銃士が居たり?」
頷くエアグルーヴちゃん。
うーん、そもそも近くにソロキャンするつもりで持ち込んだだけだったからそんなに量ないんだよなぁ。
というか、もしかしてあの子たち食材持参するつもりかな?
オグリちゃんにいたっては去年の実績があるからね。
本人曰くこれはおやつと言い張っていたらしいけど、あの量はおやつって量じゃないと思う。
「そもそも、近くで本当にお祭りやってるんだからそっちでいいと思うんだけど」
「去年のお祭りですけど、食べ物系の屋台は総じて売り切れでした。
そしてその主犯たちはまだ物足りないと言ってたそうです」
おっふ…マジか。
だから海辺でプチお祭りやってたこっちに標的を定めたわけか。
夜ご飯食べて、屋台のもの食べ尽くしてまだ足りないとは。
「ま、考えておくよ。
あの腹ペコ三銃士が満足するとは思えないけどね」
「あとこれは個人的な話になりますが、出来れば私としても来てもらいたいです」
「ん?」
徐にスプーンを置き、畏まって俺を見るエアグルーヴちゃん。
はて、今度は俺に何をやらせようという話かな。
「先日、ブライアンが珍しく仕事を真面目にこなして我々を早く帰らせました。
何やら隠し事があるようでしたが、会長はそれが何か知っているようでして。
問い詰めても頑なに口を割りませんでしたが、独自にいろいろと調べさせてもらいました」
そう言ってカバンから2枚の紙を取り出して見せてくれる。
どうやらトレセンコースの使用者と時間帯が記載されており、それぞれ使用者の名前はシンボリルドルフとナリタブライアン。
時間帯は夜遅くまで俺と走ってた時間と一致している。
「2人とも夜遅くまで走っていたみたいですね。
でも我々も学生、そんな遅くまで1人で走っていたらと思うと心配じゃありませんか?」
「たしかに。
いくら君たちがしっかりしていても怪我とかしないか不安かも?」
「それで心配になって見に行ってくれたお優しい用務員さんが居まして。
話を聞いたんですけど、なんでもその時おかしな事にトレセンコースには2人居たようでして。
片方はブライアン、もう片方は長い灰色の髪をしたジャージ姿のウマ娘と」
「ほーん…それで?」
「あのブライアンがその灰色のウマ娘と5回模擬レースを行って全て負けたそうです。
しかもその相手の灰色の髪のウマ娘は一戦ごとに脚質を変えていたようで。
大逃げ、逃げ、先行、差し、追込。
変幻自在なその脚とブライアンでさえ寄せ付けない圧倒的な速さに、用務員さんはとあるウマ娘じゃないかと」
じっと俺の目を見るエアグルーヴちゃん。
なんか推理で犯人を追い詰めてるみたいだね?
いや、俺は何も悪いことはやってないんだけど。
「その時走っていたのは貴女ですよね、『スレイプニール』さん」
「…ふふっ、その通りだよ。
まさか見られてたとはね。
それで?話の内容からして予想はつくけど、個人的な話って?」
「私も模擬レースをお願いしたい」
まぁ、ですよね。
わざわざ合宿中に模擬レースをしてほしいと頼むのはドリームトロフィーリーグしかりお祭りしかりで人がいなくなるからだろう。
しっかりと人目につかないようにという条件もわかってるみたいだし、エアグルーヴちゃんも口は堅いし受けてもいいだろう。
それにしても用務員さんは善意で様子を見に来てくれたんだろうし、申し訳ない事をしたかな。
後でひっそりと謝った上で秘密にしといて貰わないと。
エアグルーヴちゃんみたいにたどり着いて、模擬レースのお願いに来る子が増えそうな気がするし。
「2人にも言ったんだけど、競った事について口外しない事。
これさえ守れるのなら引き受けよう。
コースの手配もお願いできるかな?」
「私から話しておいて何ですが、本当にいいのですか?」
「俺みたいな老骨でいいのなら構わんよ。
なんならブライアンちゃんみたいに脚質全部かえて5回やろうか」
「ありがとうございます。
トレーナーにも言わない方が良いでしょうか?」
「あー…そういえばあの2人はトレーナーに内緒でやったのか…?
まぁ、エアグルーヴちゃんのトレーナーなら大丈夫でしょ。
呼んでおいで」
2人と模擬レースやった時に2人のトレーナーは来てなかったし、言ってなかったんだろうなぁ。
正直、俺としてもトレーナーの存在を忘れていたわけだが。
すまんな、見知らぬトレーナー君。
「では、合宿の最後に合わせてコースを押さえておきます。
…ご馳走様でした」
「ん、お粗末さまでした」
手を合わせて一礼し、席を立つエアグルーヴちゃん。
会計もパッと済ませて帰っていった。
「…あ。
という事は食材多めに持っていかないといけないのか…?」
1人になってふと思う。
模擬レース引き受けるんだし向こうに行くから、多分ゴルシちゃんには見つかるだろう。
そうなると間違いなく何か作る事になるだろうし、去年と同じことをやるだろう。
今年はあの3人が狙っているんだし、去年と同じ量じゃ絶対に足りない。
お腹空いているってわかっているのに、そのままにしておくのは料理人としてはありえないよなぁ!?
「…屋台メニューでも調べておくかぁ」
スマホに手を伸ばし、手頃に作れるレシピを調べていく昼下がり。
本日の営業はまだまだ続く。