喫茶『八本脚』は今日も営業中   作:八ッ橋すみれ

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8.リコッタチーズ風パンケーキ

春のG1戦線を締めくくる「グランプリ」、宝塚記念がつい先日行われた。

1番人気は日本ダービー、天皇賞・春に勝利したスペちゃん。

2番人気は朝日杯フューチュリティステークス、有馬記念に勝ったグラスちゃん。

レースはこの2人の争いと見られていて、結果はグラスちゃんがスペちゃんに3バ身差で勝利。

スペちゃんも3着の子に7バ身差でゴールを抜けていて、黄金世代の強さを感じる一戦だった。

 

これでグラスちゃんは有馬記念に続き宝塚記念というグランプリ春秋制覇しており、この春秋制覇記録は歴代で5人目らしい。

なおそのうちの1人が俺である。

そのため来店した際にお祝いの言葉と共に、一緒の記録だねグラスちゃん、といったら、恐れ多いですと苦笑いされたのは地味にショックだったけど。

グランプリ制覇なんて簡単じゃないんだし、誇ってもいいと思うんだけど謙虚なものだね。

 

「ん…おぉ、出来てる」

 

冷蔵庫から昨日から寝かせていたモノを取り出して確認してみる。

今日のおやつとして作ろうと思っているパンケーキに使う、リコッタチーズだ。

買おうと思うと結構高価だからね。

簡単に作れるから自作してみようと思った次第である。

 

ーーー

 

材料も少なく。

成分無調整の牛乳500ミリリットル、生クリーム20ミリリットル、レモン汁30ミリリットル。

 

工程も少なく。

成分無調整の牛乳と生クリームを弱火〜中火にかける。

だいたい60度になって表面がふつふつとしてきたら火を止め、レモン汁を入れて軽く混ぜる。

その後10分ほど放置し、不織布、ザル、ボウルを重ねて濾していく。

最低でも2時間は濾して冷めたら冷蔵庫で一晩寝かせる。

冷蔵庫から取り出して水分を切れば完成だ。

 

ーーー

 

だいたいこれで130グラムぐらいできるだろう。

なお、チーズを漉す時に出てきた水分はホエイといって色々と用途があったりする。

今回は使わないので冷蔵庫で眠っておいてもらうけど。

 

「よし、んじゃ作っていこうか」

 

リコッタチーズができていたため、予定通りパンケーキを作っていこうと思う。

 

ーーー

 

トッピングの材料として、バター12g、はちみつ大1、生クリーム100ミリリットル、砂糖10g。

パンケーキの材料として、卵2つ、牛乳90ミリリットル、小麦粉30g、ベーキングパウダー小さじ2分の1、塩少々、リコッタチーズ130g、バター適量、砂糖20g、レモン汁4滴、片栗粉(コーンスターチ)大さじ2。

 

トッピング用のバターは常温に戻してポマード状にし、はちみつを混ぜ合わせたらラップの上に乗せ、円柱状に形を整えたら冷蔵庫で冷やす。

 

生クリームはパンケーキ自体がほんのりと甘くなるため必要がないかも知れないが、甘いは正義という事で作っておく。

 

トッピングの準備が終わったのでパンケーキの生地を作っていく。

卵を割り黄身と白身に分ける。

黄身の方に牛乳を入れて混ぜ、振るっておいた小麦粉とベーキングパウダーを入れ、塩もいれたら混ぜる。

混ぜ合わせたら冷蔵庫で30分冷やしておく。

 

白身はメレンゲにしていく。

泡状になってきたら砂糖を3回に分けて混ぜ合わせる。

5〜6分立てになったらレモン汁を入れ混ぜ合わせる。

メレンゲが完成したら振るった片栗粉を入れて混ぜる。

 

30分経過したら黄身を取り出して、リコッタチーズを入れて混ぜる。

メレンゲを半分だけ黄身の方に入れて、泡立て器でしっかりと混ぜ合わせる。

残りのメレンゲの方に黄身を流し入れ、ヘラでメレンゲを潰さないようにさっくりと混ぜ合わせる。

 

これで生地の準備も完了。

あとは焼くだけであり、弱火のフライパンにバターを溶かしてしっかりと予熱しておく。

レードル一杯分の生地を入れたら中火にして焼いていく。

焼き色がついたら反転させて、裏面を同じように焼き色が付くまで焼く。

お皿に乗せてトッピングに生クリームやバター、フルーツなどを盛り付けたらリコッタチーズ風パンケーキの完成だ。

 

ーーー

 

「いただきます」

 

ーカランッ

 

「んぁ?いらっしゃい。

好きな席にどうぞ」

 

4枚ほど焼いていざと思ったら、お客さんである。

まぁ、営業中だからね、仕方ない。

営業中にもかかわらずおやつを焼いてるのは、ご愛嬌という事で。

 

「やっほー、店長さん!

なんだか美味しそうなの食べてるね?」

 

「俺の今日のおやつだよ。

…食べるかい?マヤちゃん」

 

迷う事なく俺の前であるカウンター席についた彼女はマヤちゃんこと、マヤノトップガン。

天真爛漫でとにかく元気なウマ娘であり、甘えん坊な末っ子気質で飽きっぽく気分屋さん。

驚異的な直感力や超人的なセンスを持ち、よく「わかっちゃった」といって物事の正解を見抜く。

あと大人のオンナに憧れているようで結構言動がおしゃまである。

 

レースの方では俺と同じく脚質が変幻自在。

逃げから追込まで自在に使いこなしていて、それぞれの脚質でG1を勝利している。

あ、あとグランプリ春秋制覇している。

あれ、結構共通点があるね?マヤちゃん。

 

「え、いいの!食べる食べる!」

 

「ん、じゃあ手をつける前だったし、コレあげるよ」

 

パンケーキをそのままマヤちゃんに差し出して、俺は俺用にもう一度焼く事にする。

注文は…まぁ、決まったら呼ばれるでしょ。

 

「いただきまーす!んっ…ふわふわだね」

 

「そ、ふわふわなパンケーキって調べたら出てきたレシピでね。

ちょっと頑張りすぎな子がいるって聞いてね?その子に出そうかなぁって思ってるんだ」

 

某インフルエンサーちゃんの同室ちゃんである。

このままだと壊れちゃいそうだと心配になるほど追い込んでいるようで。

俺が頑張っているその子を止めることはできないけど、少しぐらい休息を取らせる事は出来るだろうか、という相談を受けたのだ。

一介のしがない小さな喫茶店の店長には荷が重い話だが、やれる事はやってみようと引き受けちゃったからね。

合宿前に出せるといいなぁ。

 

「えー、いいなぁ。

マヤも特別メニュー作ってほしいなぁ」

 

「マヤちゃんの?

んー…ハンバーガーとか?」

 

「可愛くなーい」

 

「手厳しいね」

 

流石に急には思いつかないんだよね、ごめん。

マヤちゃんといえばパイロットとか飛行機のイメージがあるし、アメリカンのイメージだったからハンバーガーだったんだけど。

肉厚ビーフにとろけるチーズにトマトにレタス。

あ、食べたくなってきたな、夜ご飯はチーズバーガーにしよ。

 

「マヤもスイーツがいいな」

 

「スイーツかぁ…マヤちゃん、好きなものは?」

 

「パフェとかパンケーキかな。

あ、ケーキも好きだよ」

 

「…もしかして食べたいだけじゃない?」

 

「てへっ」

 

「まぁ、考えておくよ」

 

テヘペロとばかりにちらっと舌を出すマヤちゃん。

大人に憧れてると言うけど、どう見てもお子様なんだよなぁ。

ま、年相応の感性でいいけど。

 

うーん、マヤちゃんといえば明るいオレンジ色がイメージカラーだし、オレンジを使ったものにしたいよね。

飛行機…空…太陽…。

あ、太陽のオレンジタルトとか良さそうかも。

作るのに非常に手間が掛かるから、残念ながら店で出すことはないだろうけど。

 

「ところでマヤちゃん、注文は?」

 

「んー…じゃあ、レモンティーで!

本当はケーキ食べようかなぁって思ってたんだけど、パンケーキ食べてるからいいかなぁって」

 

「そりゃ得したね。

…ん、レモンティーね」

 

俺も飲もうと既に紅茶をポットに淹れていたため、カップに淹れてレモンを添えて差し出す。

 

やっぱりケーキには紅茶だよなぁ。

という事で俺のポットにも紅茶を用意しておく。

パンケーキも焼き終わったし、トッピングを盛り付けておこう。

 

「ねね、店長さん」

 

「ん、なんだい?」

 

「ちょっと前にブライアンさんと走った?」

 

「…ん?どうして?」

 

おっと?いきなりぶっ込んでくるなこの子は。

まぁ、マヤちゃんなら「わかっちゃった」してもおかしくないかぁ。

というか、マヤちゃんが1番初めに察知すると思ってた。

エアグルーヴちゃんが調べてきたのが意外だったんだよな。

 

「んー…ブライアンさんが満足してたから?」

 

「ごめん、ちょっとよくわからないかな?」

 

「んーとね、ブライアンさんが様子がおかしい日があってね。

なんだかそわそわしてるというか、楽しみを待ってるような?

普段生徒会の仕事だってサボってるのに、あの日に限ってはテキパキこなして会長さんたちを先に帰してたって聞いたんだ。

それでね、ちょっと調べちゃった」

 

ちょっと調べるだけでわかっちゃうのか…。

用務員さんには秘密にしといてもらうようにお願いはしたんだけどな。

 

「…ちなみにどうやってわかったの?」

 

「んー?それはナ・イ・ショ。

乙女の秘密だよ、店長さん」

 

「ははっ、じゃあ聞かないでおくよ。

マヤちゃん、俺がブライアンちゃんと走ったことはナイショにしといてね」

 

「アイ・コピー!

誰にも知られないように、わざわざ夜遅くのコースを使ってたんだもんね」

 

うーん、教えてくれないか。

まぁでも、マヤちゃんだからこそ俺がブライアンちゃんと走ったという結論にたどり着いたんだろうし大丈夫だろう。

それに秘密はしっかりと守ってくれるだろうし。

 

「それでマヤちゃんも模擬レースしてほしいって話かい?」

 

「んー?マヤはいいかなぁ」

 

「あ、そうなの?」

 

「店長さんの記録は凄いし尊敬してるけど、マヤの目指してるキラキラとは違うかなぁって。

ブライアンさんみたいに強い人と走ってみたいってわけじゃないし」

 

おや、これは意外。

てっきり模擬レースの依頼だと思ってたんだけど、本当にただ走ったかどうか聞きたかっただけなのね。

 

「マヤとしてはこっちの方がいいかな。

さっき、店長さんなにか閃いたって感じしてたもん。

ってことで秘密にする代わりにその閃いたスイーツを作ってほしいな」

 

「む…仕方ないね。

ちなみに思いついたのはこんなものなんだけど」

 

「わぁっ!なにこれすっごーい!

これ作ってくれるの?」

 

「秘密の代わりだよ?結構手間かかるから、お店にも出さないし」

 

パンケーキを指さしてニコニコと微笑むマヤちゃんに、ウマホで太陽のオレンジタルトを検索して見せてみる。

チョコレートタルトにガナッシュを塗ったら、シロップ漬けにしたオレンジを6〜8等分に切って外側から貼り付けていく。

その後紅茶ゼリーを流し入れて冷やしたら完成というもの。

オレンジのシロップ漬けは市販品を使えば早いだろうけど、硬さや色が気になると思う。

紅茶ゼリーは市販のオレンジティーをゼリーにしてもいいかな。

 

「ふふっ、秘密っていいね。

これで大人のオンナに近づいたかな?」

 

「いや、むしろ遠のいたんじゃない?

今のマヤちゃん、おやつを目の前に目を輝かせてるお子様だよ?」

 

「むぅぅ、店長さんの意地悪!」

 

「ははっ、俺からすればまだまだ君たちはお子様だからね。

むしろそっちの方が可愛げがあっていいよ」

 

その方が作りがいがあるってものだからね。

主にスイーツとか。

気まぐれスイーツセットの時のトレセン学生の来店率は高いし。

なお100%のメジロのお嬢様、流石で御座います。

 

「あ、そうそう。

明日キューブチューリップサンドをやるよ」

 

「え、明日!?いきなりすぎるよ!

明日はカレンちゃんとボーノちゃんと缶バッジ買いに行く予定なんだけど!?」

 

「そりゃ…残念?

まぁ、思ってたより前回来たから多めに作っておくつもりだから、買い物帰りに運が良ければあるかも?」

 

そろそろ合宿だからね。

ここら辺でやっておかないと嘘になっちゃうし。

約束は守るよ、大人だからね。

 

「むーっ、店長さん!マヤの分を残しておいて!」

 

「それは約束できないかなぁ。

取り置きしちゃうと予約で埋まっちゃうからね」

 

「うぅっ…トレンドに乗り遅れるのは大人のオンナじゃないのにぃ…」

 

そうは言ってもこればかりはね。

マックイーンちゃんですらそういうのはなしで来てるわけだし。

というか、取り置き可能にすると三銃士が毎日やってくると思う。

だから取り置きはやらない事にしてるんだよね。

 

「まぁ、取り置きは基本的にしないけど、持ち込みレシピとかあればそれは1番に食べれるよ?

キューブチューリップサンドもカレンちゃんから教えてもらったから、1番に振舞ったし」

 

「そうなの?うーん、でもマヤお料理しないし…」

 

「流行りのスイーツとかでもいいよ。

レシピは最悪、俺が調べるし」

 

まずは知る事だからね。

俺はSNSに疎いから流行りのスイーツとかわからんし。

そういったところではウィンウィンの関係だと思うんだけど。

 

「という事で食べたいのがあれば、教えてくれれば善処するよ。

ユー・コピー?」

 

「アイ・コピー!マヤ、頑張って調べてくるね!」

 

「あっ…いっちゃった。

まぁ、俺の奢りって事でいっか」

 

すでに食べ終わっていたこともあってか、元気に返事して去っていった。

会計…忘れてったなぁ。

けどパンケーキは俺のおやつだし、それに同伴したって事でここは一つ。

多分次回来た時にはレシピをくれるだろうしそれでいっか。

 

ーカランッ

 

「ん、いらっしゃい。

空いてる席にどうぞ」

 

本日の営業はまだまだ続く。

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