喫茶『八本脚』は今日も営業中   作:八ッ橋すみれ

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難産でした。


9.カルボナーラ風スープパスタと缶詰め飯

トレセン学生が合宿に行くため、基本的に暇になる夏。

特に限定メニュー等も作る事なくこの夏はあっという間に過ぎていった。

そして8月も後半に差し掛かり。

キャンプ用品を車に詰め込んで、学生が合宿している近くの山に泊まっている。

 

「…ふぅ。

流石に遊びすぎたなぁ」

 

今年も合宿所に顔を出して挨拶したら、ねじり鉢巻に法被を装備したゴルシちゃんが待ち構えており結局出店をやる事になった。

話を先に聞いていた事もあって材料は用意してあったし、キャンプに行くと決めた時からエアグルーヴちゃんに連絡を入れていたので問題はなかったのだけど。

 

何故か屋台を宿の人から貸し出されたんだよね。

もしかしてゴルシちゃんとグルだったりする?

 

そんなことがありつつも作っていたのは「かくたこ」。

卵焼き用フライパンで作る四角いたこ焼きで、これにはたこ焼きと聞いて駆けつけたタマちゃんも首を傾げていた。

これはいか焼きやないんか…?と。

丸くないし、見た目だけなら卵焼きとかタマちゃんのいう関西のいか焼きに似てるからね。

けど中身はたこだし。

 

そんな不思議な見た目のたこ焼きということもあってか、匂いにつられて腹ペコウマ娘たちが来るわ来るわ。

トレーニングしている子たちの邪魔にならないようにと海水浴ができる方で作っていたのだけど、海から上がってまで食べにくる子まで居た。

結局材料のタコが尽きるまで作り続けたし、なんなら途中でゴルシちゃんが海で巨大なイカと戦い始めて、何故か焼きそばと交換して巨大なゲソをもらってきたからたこ焼き(イカ)を作る事になったけど。

巨大イカよ、お前焼きそば食べるのか…?

 

「…さて、キャンプ飯でも作ってみようか」

 

日も傾いてきたからそろそろ夜ご飯の準備をしていこうと思う。

昼から屋台で調理していたけど、せっかくキャンプに来たんだし夜ご飯はキャンプ飯にしようと決めていた。

今日作るのはカルボナーラ風スープパスタと缶詰め飯。

パスタの方は小鍋でもできるが、せっかくのキャンプなのでメスティンで作る。

 

ーーー

 

まずは簡単にできるが仕掛けが必要な缶詰め飯。

トマト缶を使ったチーズリゾットとつぶ貝のアヒージョ。

 

まずはご飯系、チーズリゾット。

トマト缶をあけ、市販のチーズリゾットの素を入れる。

インスタントご飯を缶詰めに入れ、チューブにんにくを少量入れる。

ブラックペッパーを少量、チーズを大量に入れる。

缶詰めを焚き火にかけ、チーズが溶けてきたら食べごろだ。

 

続いて、つぶ貝のアヒージョ。

中の汁を捨ててオリーブオイルをつぶ貝が浸るまでいれて、チューブにんにく、塩コショウ、鷹の爪をいれたら焚き火にかける。

 

そしてメインのカルボナーラ風スープパスタ。

 

材料は、早湯でパスタ100g、玉ねぎ4分の1、アスパラ2本、ブナシメジ5分の1、ベーコン2枚、オリーブオイル大さじ1、おろしにんにく適量、水250cc、牛乳150cc、コンソメキューブ1個、スライスチーズ2枚、黒胡椒、パセリ。

 

玉ねぎ、アスパラをカットする。

アスパラは根元2センチほどカットして、硬い部分の皮も軽くピーラーで剥く。

ブナシメジも切ってほぐす。

ベーコンも1センチ幅にカット。

 

メスティンを加熱し、オリーブオイル、おろしにんにくを入れる。

ベーコンを炒めたら、野菜も入れる。

 

野菜がしんなりしてきたら水をいれる。

コンソメを入れてよく溶かす。

スープがグツグツしてきたらパスタを半分に折り、メスティンに入れる。

水分が減り、芯がほとんど無くなってきたら牛乳を入れる。

チーズをいれてよく混ぜ合わせ、仕上げにパセリと黒胡椒をふりかければ完成だ。

 

ーー!

 

「んーっ!なかなか豪華だなぁ!」

 

カルボナーラ風スープパスタにトマトチーズリゾット、つぶ貝のアヒージョの付け合わせにバケットを焼けば、ソロキャンプにしてはなかなかに豪勢な夜ご飯ではなかろうか。

まぁ、ヒト目安のレシピだったから物足りないかなとおもって2倍作ったんだけど、足りないと思ってから作るべきだったと反省。

つい、いつもの倍システムで作ってしまったよね。

 

「あっふ、おっ…濃厚クリーミーだ。

んー追い胡椒してもいいかな」

 

カルボナーラ風というだけあって、スープパスタだけどとろっと濃厚。

牛乳とチーズの組み合わせがハズレのわけがないよね。

これはメスティンじゃなくて鍋で作ってもいいかな。

なんならこれは店で出してもいいかも知れない。

 

「リゾットは…んー…トマト感がちょっと強いかな?

トマト缶だけにね」

 

チーズリゾットだし、こっちはチーズが溶けてから追いチーズしていいかな。

でもトマトの酸味とチーズのコクが合わさってスプーンが止まらないね。

 

「あ、これは美味いわ。

不味いわけがないけど」

 

つぶ貝のアヒージョはハズレるわけもなく。

つぶ貝の旨味がオリーブオイルに溶けてて、パリッとしたバケットに非常にあう。

お酒は飲まないけど合いそうだね。

ここにたづなさんがいたら間違いなく飲んでるんじゃないかな。

 

「んーっ!……ん?」

 

ザッ、ザッ、と。

焚き火の音に混ざってヒトの足音がした。

ここは別にキャンプ場というわけではなく、単に登山道から逸れた先にある山中の開けた場所で人が訪れるようなところではないのだが。

 

もしかして迷子だろうか?

合宿所とは近いし、肝試しでもしてたのかな。

もしそうならば送ってあげるのもやぶさかではない。

 

「あれ、アヤベちゃんじゃん」

 

そんなことを思っていたら顔を出したのはアヤベちゃん。

リュックサックを背負いやってきたところを見るに天体観測だろうか。

あれ、合宿中って門限とかなかったっけ?

まぁ流石に許可は取ってるか。

 

「やぁ、今から天体観測かい?」

 

「…どうも。

山からならよく見えるかと思って」

 

「そうかい、気をつけてねって言いたいところだけど。

この先は行き止まりだよ?それに山頂への道は夜間封鎖されてるし」

 

正規の登山道は電灯がないためか危険だからと夕方から封鎖されており、俺が今いるここもこれ以上は進まないようにバリケードが貼ってある。

だからこれ以上は山に入ることは出来ない。

無理に行こうとするなら止めるのが大人の責務って奴だ。

 

「…そう。

なら、ここで見るわ」

 

「ん、ならコーヒーでも淹れてあげようか。

今ならキャンプ飯もついてくるけど、どう?」

 

「別にいい」

 

「そうかい」

 

リュックサックから折りたたみ式の椅子を取り出して、その場に座って星を見始めるアヤベちゃん。

会話は無く、焚き火が焼ける音と虫たちの鳴き声だけが辺りを包む。

 

…おっ、追いチーズしたリゾットがうめぇ。

アヒージョ用にバケット追加で焼くかぁ。

パスタも追加のブラックペッパーだ!くぅっ…サイダー開けちゃお。

 

「ぷはぁっ…幸せだぁ」

 

「………」

 

「…今日は星がよく見えるねぇ」

 

夏の大三角とも呼ばれる一等星、デネブ、アルタイル、そしてアヤベちゃんの名前にもある、ベガ。

それ以外は知らないんだけどね。

なんなら名前しか知らないからどれが一等星なのかわからない。

一際輝いてるのが一等星らしいんだけど、どれも輝いて見えるからなぁ。

 

「そういえば、この間のパンケーキはお気に召したかい?」

 

「…ええ」

 

「それはよかった」

 

「……」

 

ダメだ、会話が続かない。

パンケーキを食べてもらう為に呼んだ時も、黙々と食べて居ただけだったし。

 

「……」

 

「ん、あぁサンドウィッチ持ってきてたんだ」

 

「…ええ。

持ち歩きしやすいから」

 

「…料理は得意なの?」

 

「…サンドウィッチだけよ。

料理全般はそこまで得意じゃないし、お菓子に至っては作り方すら知らないし」

 

アヤベちゃんはリュックからタッパーを取り出して、蓋を開ければ綺麗なサンドウィッチが並んでいた。

見た感じBLTサンドとオレンジサンドだろうか。

キュウリやトマトなどをそのまま挟むと水分がパンに染み込んでしまうのだが、そういった点も見当たらないし相当手慣れているのだろう。

 

「天体観測ならサンドウィッチぐらいが丁度いいもんね。

……おっふ、あっつー」

 

「……店長さんはここで何を?」

 

「んー?見ての通りソロキャンプだよ。

この時期はみんな合宿だから店も暇でね。

こういった時ぐらい、外に出て遊ぼうかなぁって」

 

あとはエアグルーヴちゃんとの約束。

そろそろ合宿も終わりだし、明日の夜に模擬レースを行うつもりだ。

お祭りもあるし、ドリームトロフィーリーグもあるから生徒はそっちに行くだろうから見つかることもないだろうとの事。

既にシニア級の2年目を走っているエアグルーヴちゃんがどれほど走れるのか。

 

「…お昼頃、先輩達と出店やってなかったかしら」

 

「ん、やってたよ。

ゴルシちゃんは焼きそば、俺はかくたこをね。

アヤベちゃんはトレーニングでしょ?」

 

「…ええ、菊花賞があるもの。

オペラオーにトップロードさん、どちらもこの夏に実力をつけてくるでしょうし負けてられないわ」

 

「あんまり無理はしないようにね。

またアヤベちゃんのトレーナー君から、アヤベちゃんを休ませてほしいなんて依頼されても困るし」

 

「…無理はしてないわ。

必要な事だもの」

 

「じゃあ仕方ないね。

簡単な相手じゃないだろうし」

 

「……止めないのね」

 

「止める資格はないからね。

それに無理はしてないんでしょ?」

 

怪我しないかはもちろん心配するけど。

勝ちたい相手がいて、今のままじゃダメだからと努力するのは普通でしょ。

 

「ただ、まぁ。

トレーナー君は信じてもいいんじゃない?」

 

「……」

 

「自主練、増えてるでしょ。

負荷が足りないのならメニューを組み直してくれるだろうし。

あまり1人でやる事に固執し続けると、自分を壊したいのかって思われるよ」

 

「…私は」

 

「まぁ、トレーナー資格を持ってないただの喫茶店の店長の小言だ。

鵜呑みにする必要はないだろうよ」

 

パスタを食べ切り、サイダーで流し込む。

なんか説教くさい会話になっちゃったな。

あーやだやだ、飯食って忘れよ。

 

「…話は変わるんだけどさ、アヤベちゃん。

そのサンドウィッチ1つもらえないかな?こっちのキャンプ飯と交換でもいいんだけど」

 

「……いいわ。

ならかわりにそのパスタを少し貰いたいのだけど」

 

「交換成立だね。

んー…なんならこれ全部食べちゃってもいいけど」

 

「…それだと割に合わないじゃない。

私、これだけしか持ってきてないの。

施されるだけなのは嫌よ」

 

「わかったわかった。

じゃあ、紙皿に移すね」

 

パスタを掬い、アヤベちゃんに差し出す。

代わりにBLTサンドを一切れもらい一口。

 

「うん、美味しいね。

しっかりと余分な水だけを拭き取っていて、野菜のみずみずしさも残ってる。

ベーコンも丁寧に焼かれていて香ばしい。

これなら、お店で出せるんじゃないかな」

 

「…そう。

ならその言葉をドトウにも伝えて。

成り行きとはいえあの子と作ったものだから」

 

「ドトウちゃんと?…よく作れたね」

 

ドトウちゃんといえば天性のドジっ子というか。

厨房に立たせたら鍋とかボウルとかが宙を舞いそうな気がするし、塩と砂糖を間違えたりしそう。

そんな子をフォローしながらここまでのものを作れるのは、ある意味尊敬に値する。

 

「ん、ご馳走様。

ドトウちゃんには後日しっかり伝えておくよ」

 

「…ご馳走」

 

静かに手を合わせた後、再び空を見上げるアヤベちゃん。

うん、これ以上の会話は不要かな。

火にかけっぱなしの缶とメスティンをテーブルにあげ、2周目を食べ始める。

 

本日の営業はお休み。




…喫茶店?
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