生きとし生けるものへ   作:ハクスナ

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こんばんわHAKUSUNAです。
なんとか今日中に完成することが出来ました…制作途中頭痛と睡魔にやられてペンがあまり進みませんでした。かなり時間的遅いけど8000文字になってしまいました。厚み的には2話分ですけど見ていただけると嬉しいです!


第二十三話 暗雲〜時雨〜後編

 

 黒い袋に覆われたものが僕の前にある。僕はその袋を開ける。

 

 そこにいたのは隣にいてくれて、いつも頑張り屋さんで、みんなを引っ張って行ってくれた存在。でも彼女はぐっすりと眠っている。気持ちよさそうに、苦痛から開放されたように。

 

 袋には少しの空きがある。正確に言えば下半身の右足だったものだ。あるべきものが無いからかそこだけ袋は凹んでいる。中がどうなっているかなんて想像もしたくない。

 

 目を開けて欲しくても叶わない。それは二度と目を覚ますことはない。話すことも出来ない。笑ってもくれない。

 

 雨は一層強く降り始める。雷の音まで聞こえてくる。

 

 嘘だと思いたい。これが全部夢で目が覚めたら何時もの日常に戻っている。美味しいご飯と楽しい日々があるんだ。誰も死なない、苦しまない理想の世界を―― 

 

 窓に何かが当たっている。何度も何度も雑音の如く部屋中に鳴り響く。一寸先も見えない暗闇の空間。騒音と闇、光はなかった。

 

 そうだ、あの後部屋に戻ったんだ。僕は夕立のベッドに横になる。冷たく固かったけど温もりは確かにあった。もしここにいれば夕立が起こしてくれるかもしれない。

 

 僕は待つことにした。

 

 聞こえてくる雨音。ザーザーと降ってくるわけではなくゴーゴーとした音だ。風も強くて隙間風が入ってくる。肌寒く感じた。僕は体を丸めて三角座りの様な体制になる。僕は目を閉じる。そして目を開く。結局どっちも真っ暗だった。

 

 どれ程経ったのだろうか。あれ以降部屋から一度も出ていない。多分一日は出てないと思う。今何時なのかわからない。分かりたくもない。

 

 そんな時だった。コツコツと廊下から音がする。誰かが来た。もしかしたら夕立かもしれない。そんな淡い希望が頭を過った。そうであって欲しかったんだ。その音は丁度この部屋で止まった。

 

 数秒経つとドンドンと部屋の扉を力強く叩いている。僕は扉の前に向かった。扉の鍵を開ける。そこにいたのは夕立ではなく人間の男だった。

 

「早く出ろ、提督がお呼びだ」

 

 何も言わずに黙り込む。そうすると男は苛立ちながらこう言った。

 

「返事くらいしたらどうだ?」

 

「はい...」

 

「たくっ――」

 

 呆れたかのように男は言った。そんな事にはもう慣れている。

 

 提督とは会いたくない。何を言われて何をされるのかわからない。彼に対する恐怖心が体を震わせる。執務室に近づく程足がガタガタと震えだす。自分の歩く音がどこか他人事のようだ。

 

 扉の前に立つ。手が震えているのがわかる。でもここで叩かなければもっと恐ろしいことが待っているかもしれない。僕はその恐怖心でしか進むことが出来なかった。

 

「入れ」

 

 体がぴくりとなる。そうして僕は中に入った。

 

「――よくもやってくれたな」

 

 彼が最初に放つ言葉はひどい落胆と軽蔑であった。

 

「なんでお前だけ帰ってきた?」

 

「何故お前は任務を放棄し帰投した?」

 

 尋問のように問われ続ける。僕は何も言えずにいた。後ろめたかった訳では無い。けどもし何か言って酷い仕打ちをされたくなかったんだ。

 

「無言か...」

 

「最近のこいつ等はどの奴も同じだな」

 

「はぁ…まぁいい」

 

 そう言って彼は銃を取り出す。銃口を向けられるのは例えどんなやつであっても怖いと思う。僕は怖い。死にたくないと言う思考が頭を支配してくる。

 

「跪け!」

 

 僕は言う通りに跪いた。すると奴は私の足に向かってその武器を撃った。

 

 激痛と共に現れてくる脱力感。力が出ない。いや、力が出せない。これは普通の銃じゃなかった。

 

「どうだ――少しは懲りたか?」

 

 奴は顔に笑みを浮かべている。そうだ、コイツはどちみちこうやって甚振るやつだ。

 

「そう言えばお前は輸送船にいた仲間を見捨てたな?」

 

「アイツ等がどれ程苦しかったことか」

 

「燃える中どう思ったのだろうか...考えるだけでもお前みたいに帰ってきた奴が憎くて堪らない」

 

 奴は暖炉へと歩み寄る。奴は炎が灯っている中からある物を取り出す。中から取り出された物は先端が赤くなっている。それを持って奴は近づいて来た。もちろん抵抗するさ。僕はなけなしの力を使って尻を引きずりながら後退り抵抗する。

 

「逃げても無駄だ」

 

 奴は強引に僕の手を掴み床に叩きつける。耳鳴りがする、痛い、苦しい。色んな感情が出てくる。すると何か感触がする。自分ではない誰かの手が僕の体に触れられている感覚だ。奴は手馴れているのか服を脱がそうとしてくる。力一杯抵抗した。足をばたつかせ、手を振って。けど奴の力に叶わなかった。

 

「やめて!お願い!」

 

「黙れ!この日和見主義がッ!」

 

 奴はそう言って足を使って蹴り出した。私は体を丸め、頭を守るように腕を覆う。

 

「お前見たいなヤツがいるから負け続けるんだ!」

 

「逃げやがって――あの後俺がどんだけ上に言われたのかわかっているのか!」

 

 虫を踏み潰すように背中をぐりぐりと押し潰してくる。

 

「お前にはあの船にいた奴らの気持ちを分からせてやる」

 

 奴は赤くなった鉄の棒を背中に当てる。

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」

 

「あづい!――いだいいだいい゙だい゙ッ!」

 

 悶え苦しんだ。無限の時間に思えた。熱さが苦痛を生み出して皮膚を焼け焦がせる。

 

「これでわかったかッ!」

 

「ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!」

 

 奴は笑っていた。まるで悪魔だ。僕から見れば奴は悪魔そのものだった。抵抗なんて出来なかった。そもそもここに来た時点で抵抗は無意味だった。

 

 段々と衰弱していってるのがわかった。あ――僕...このまま死ぬんだ。結局何も成し遂げられずに死んじゃうんだ。こんな最後だなんて考えてもいなかった。死んだら白露にも会えるか...な?

 

 僕はそのまま意識が飛んだ。

 

 

 ...

 

 

 

 目が覚める。見知らぬ天井。温かい手の感触。視点が定まらない。なんとか定まらない目で辺りを見回す。

 

 薬の刺激臭が漂っている。背中にずきずきと痛みが走る。そうだ...あの時気絶してそのまま...僕はあの時に当てられた場所を擦る。痛みはあった。けど大きなガーゼが体を一周している。結局死ねなかったんだ。

 

「もう...やだ」

 

 そう言葉を溢す。するとカーテンを開けて白い服の男が現れた。

 

「よかった...意識が戻って」

 

 戻る?そんな言い方をして欲しくない。無理やり戻されたんだ。

 

「背中の怪我...大分マシになってきたかと思います」

 

「...」

 

 コイツはあの時白露を見捨てたあの男。もしかしたらまだ間に合ったかもしれないのに。そんな感情が沸々と湧いてくる。

 

「時期に艦隊にも復帰出来るかと思います」

 

「よかった――」

 

「そんな訳ないよ」

 

「何がよかったんだ?白露も夕立もみんないなくなった」

 

「その気持ちが君にはわかるのかい?」

 

「到底無理だろうね」

 

 言いたいことを言いまくってやった。この男にはわかる筈もない。だって戦った訳じゃないから。どんな思いをして帰ってきたのか。男は表情を変えずに僕を見続けている。

 

「お察しの通り私は戦った事がありません」

 

「でも何時もあなた達の治療をしているとわかるんです」

 

「――戦場の辛さが」

 

 差も当然な事を述べる男。奴はそう言った後にある物を取り出した。

 

「もしこの薬を使いたいのなら言って下さい」

 

「少しでも貴方方艦娘の役に立ちたいのです」

 

 私の手にある物を渡す。注射器だった。

 

「何をする気なんだい?」

 

 そう問いかける。返ってきた答えは至って単純だった。この注射器を僕の体に刺す。ただそれだけだった。何かもわからない薬を体の中に入れる。普通は恐ろしい事なのに今は何故か怖くない。使ってみたいまである。今の僕にとってはもうどうでもいいことなのかもしれない。使うも使わないも。

 

「――やるよ、やって欲しいぐらいだ」

 

 僕はそれを体に入れることを許した。男は早速僕の腕に注射器を刺そうとする。注射針が皮膚を抜け血管に入る。注射器の中に入っている薬品が中に入っていく。中にあった薬が体全体に行き渡る。

 

 体に刺激が入ったかのようにびくりと体が跳ねると同時にとてつもない幸福感と快楽がやって来た。今までここまでくよくよしていた事に驚きを隠せなかった。高揚感に包まれたんだ。

 

 幸せだった。忘れさせてくれた。辛いことも、苦しいことも。その時どんな顔をしていたのだろうか?自分では想像もしたくないけどそれは酷い顔だったんだろうね。

 

 しかし、その幸せの時間はあっと言う間に終わりを知らせた。なんとも呆気ない時間だった。これだけじゃ足りない。その後もその薬を打った。僕にとっては唯一の救いだった。逃げる事ができる場所が出来た。嬉しかったんだ。だから打ち続けた。

 

 現実が分からなくなっていった。この世界が夢であの幸せの中にいるのが現実なんだ。――いや、そうに違いない。だってそこには白露と夕立がいる。話せるんだ、二人と。話せない現実なんてあるもんか。今が一番幸福なんだから。

 

 久しぶりに白露と夕立に会えた気がする。長い眠りから目が覚めた気分だよ。二人と話し合った。話せるだけでも安らぎを与えてくれる。昼食も取ることにした。相変わらず不味い食事には変わりないけど二人と食べればへっちゃらさ。夜も一緒のベッドで寝た。流石に三人はキツかったけどいい夜を過ごせたよ。そんな心地いい日々をして一月が経った。

 

 嫌な夢を見る。この幸せが現実じゃないと言う夢を。白露達にも相談した。疲れているだけだと言われた。そうなのかもしれない。何時も定期的に打っている薬が無くなりかけてる。薬がないと――あれ...なんだっけ?薬がないとどうなるんだったんかな?まずこの薬自体なんの為に打っているんだろう。でもやめられない。習慣付いてしまったんだ。もしこれをやめたらどうなるかわからない。――怖いんだ。皆そこにいるよね?生きているんだよね?抜け殻じゃないよね?

 

 僕は取りに向かう事にした。もし、なくなったらこの幸せが崩壊するような気がした。向かう途中、途轍(とてつ)もない嫌悪感が襲ってくる。誰に対してなのかはわからない。けどこの嫌悪感は並大抵のものじゃなかった。嫌悪感とほぼ同時に倦怠感もやってくる。関節が痛い。呼吸も考えていなければ出来ないくらいだ。歩く事さえままならなくなってきた。

 

 次のときには倒れていた。わからなかった。なんで今なのか。前々からあの薬がないと倦怠感が溢れて来ていた。あれがなしには生きていけなかった。

 

 誰かに担がれているのかな?体が軽くなる。夕立達が来てくれたのかもしれない。声が聞こえる。よく聞こえなかった。でもきっとこれは白露と夕立に違いない。服を脱がされてる。流石に姉妹でも脱がされるのは恥ずかしいな...

 

 手を握られた。温かった。声が聞こえてくる。白露?夕立?それはどちらでもなかった。見知らぬ男の声。誰なのかわからない。そんな事よりもみんなは何処なの?声を振り絞って白露を呼ぶ。しかしその声に答える者はいなかった。白露がまたどこかに行ってしまう。――またどこかに...なんで()()なんて言い方...

 

 ダメだ...息が出来ない。苦しい。何かにまた乗せられた。すると何かを打たれる。段々、眠くなって行く。意識が途切れる寸前にある一言が聞こえた。

 

「なんで――どうして...」

 

 そのまま僕は眠りに着いた。

 

 夢を見た。今度はちゃんと二人がいる。一緒にみかんを食べている夢だ。甘酸っぱくて美味しい。今度は三人で食べれた。――今度は...なんでだろう。何かが頭の中で引っかかる。その後は出撃任務だった。任務は輸送船の護衛。僕達は輸送船の前衛を務める事になった。装備は対潜装備を中心にした艤装。これなら潜水艦にも対抗出来る。なんとか輸送船を目的の港まで護衛出来た。後は帰るだけ。再度物資を満載にした輸送船と共に鎮守府への帰路に着いた。

 

 数時間経って港からも随分離れた。広がるのは大きな大海原。対潜ソナーにも敵影はなかった。大丈夫、これなら帰れる。そう思っていた時だった。

 

 僕達三人に三つのあるものが直撃する。理解が追いつかなかった。なんで――だって敵影は...そうか、元々対潜ソナーなんてなかったんだ。騙されたんだ全部。体が沈み始める。夕立と白露は無事...かな?見えなかった。もう二人の姿はなかった。僕もここで沈むんだ...みんな、さようなら。

 

 水底へ沈む。暗くて冷たかった。憎かった、無念だった。恨んださ。何もかも。そうすると体から煮え滾る憎悪が体を取り囲んだ。――ああ、そう言うことだったんだね。

 

 そこで夢は途切れた。

 

 また別の夢を見た。似たような夢だったけど今度はみかんを食べなかった。ちゃんと元あった場所に返したんだ。この夢の任務は見事に完遂出来た。みんなに褒められた、提督にも。幸せだった。いやこれは夢じゃない。これが現実なんだ。夕立と白露と一生笑っていられる世界。幸せだった。

 

 しかし、それはあっと言う間だった。二人と一緒に任務から帰った時、世界が変形していった。ぐにゃりと世界が潰れていき何もかもが消え去った。

 

 目を覚ますと白い部屋に白いベッド。すぐ横にはあの男と白い白衣の男がいた。けどあの二人がいない。辺りを見回しても二人の姿が見当たらない。前にいる男達に問いかける。返ってきた答えは嘘みたいな現実だった。

 

「白露と夕立は......沈み...ました」

 

 その言葉を疑った。そんな訳ない。僕はそう言った。けどあの男達は淡々と話しきた。

 

 そうだ...これは何かのドッキリで何処かに隠れているに違いない。そう考えて見回す。部屋の下やドアの裏、隅々を見渡しても隠れられそうな場所には二人はいなかった。もしかしたらドアを開けた先にいるかもしれない。そう考えてドアを開けてもらった。そんな筈はなかった。流石に怒りを覚えてくる頃だ。ドッキリだったとしてもこれは(たち)が悪い。僕が怒って言っても返ってくる言葉はなかった。

 

 嘘だ。そんなはず...死んでなんていない。絶対に何処かにいるはずだ。ある事を思い出す。()()()()と言う言葉。何度もそれが出てきた。今になって気づいた。――そう、全てを思い出した。あの時の記憶。嘘だよね...こんな現実。そうだ全部嘘なんだ。これも嘘で全部が嘘なんだ。偽りの世界なんだ。

 

 男達が触れようとしてくる。反射的に手が出てしまった。でも、もうどうだっていいんだ。二人のいない世界なんて必要がないんだから。もう一人の男が僕を押し倒した。男は馬乗りになって針を刺そうとしてくる。抵抗も虚しく男の思い通りに針を刺されて意識が飛んでしまった。

 

 白露、夕立。二人の顔が頭に浮かぶ。何も無い海原をただ走るだけ。敵も味方もいない。何もない無だった。生きてるのか死んでいるのかもわからない。ただ何も無い海を走り続けた。ふとすると艤装の中に妖精さんがいた。

 

「ずいぶんとおちこんでいるなぁ」

 

 そう話す妖精さん。でもなんで妖精さんだけがここに?

 

「いやぁ...それはないしょだ」

 

「それよりもだ」

 

 妖精さんが話題を変えてくる。

 

「あのおとこにはあったか?」

 

 男?一体誰のことかい?

 

「まぁ――そのうちわかるさ」

 

「いうことは一つ!」

 

「あのおとこをしんじろ」

 

 だから誰なんだい?わからないじゃないか。

 

「ヒヒッ...そろそろじかんだ、おきろしぐれ!」

 

 ……

 

 見慣れた天井。また現実に戻されたんだ。点滴の管を外して外に出ようとする。すると二人の兵士が前に現れた。

 

「おい!止まれ!」

 

 兵士は銃口を向けてくる。もう一人の兵士が無線を使おうとしている。僕は無線を使おうとしている方の兵士に接近する。無線繋げようとする兵士を軽く殴る。そいつはそのまま降っばされてた。もう一人の兵士は怖じ気付いたのか一目散に逃げていった。

 

 部屋を見回す。白衣の男がいなかった。例の薬品を探す。手当たり次第探してみたが目当ての物はなかった。ふと目に入る薬品棚。何かがあるかもしれないと思い薬品棚を倒す。硝子に入っていた薬品類が飛び散って割れる。棚を倒したその時だった。

 

 僕を呼ぶ声。あの男だ。前も邪魔された。許せない。僕はドアの裏側に隠れ男のが入るのを待つ。男は警戒はしているものの背後まで行き渡ってはいなかった。後ろから奇襲を掛ける。完璧なはずだった。けど男は僅か数秒で気づき攻撃を回避された。次の攻撃を入れようとする。しかし奴の動きに翻弄され見事に動きを封じられた。

 

 僕は男に聞く。怒りがこみ上げてくる。

 

「夕立と白露を何処へやった?」

 

 男は対話に応じるようにこう答えた。

 

「彼女達はもういない」

 

 ――嘘だ、そんなはずない。さっきまで一緒にいたんだ。ずっと隣にいたんだ。

 

「彼女達はもういないんだよ」

 

「それはもう君の中で分かっている筈だ」

 

 そんなことない!いつも隣に...いた。一つ、また一つと頬を伝う涙。――もうとっくに分かってたんだ。わかっていても怖かったんだ。いないことを信じたくなかったんだ。男の言葉は僕をえぐりとっていった。涙が止まらなかった。苦痛だった。

 

 男は僕に身を委ねた。殺しても殺さなくても変わらない。わかってるんだ。この世界に救いなんてものは存在しない。あるのは絶望と憎しみ。せめて最後くらいは自由になりたい。

 

 そう言えばこの男初めて見る。それに階級も上だ。僕はその男が気になってしまった。名前は聞けなかった。けど新しく来た提督らしい。前の提督は死んだみたいだ。もう今になってはどうでもいい事たけど少し嬉しかったんだ。アイツが死んだ事が。多分顔に出ていたと思う。少し恥ずかしかった。

 

 自由になれる場所に行こう。そう考えた。薬で幻覚を見る訳ではなく本当に自由になれる場所に。僕はそう思っていた。しかし、前にいる男――いや、提督はまだ捨ててはいなかった。()()を。彼の中にはまだ希望の灯火が灯っているんだ。僕と彼とでは蝋の大きさが違うみたいだ。しかし提督はこう言った。

 

「私と君は同じだよ」

 

「見ていたらわかる筈だ」

 

 彼はこう言った。今更になって馬鹿らしいと思ったよ。消えかけていた火にまだ燃えカスが残っていたみたいだ。僕は気になってしまった。何故そこまで希望が絶えないのか。それは何かに縋る事だと思う。僕にはあの薬がないと生きていけない。辛いんだ。会えないのは。

 

 僕は提督に聞いてみることにした。

 

「やっぱりもう一度会いたいなぁーって」

 

 誰かはわかりきっている。二人の間に沈黙が流れる。提督はこう答えた。

 

「それは無理だ」

 

「あの薬に依存したとしても君の思う彼女らは戻ってこない」

 

「本物にすり変わる事が出来ないのは時雨、君が一番わかっている筈だ」

 

 流石提督だ。僕とは違って大人なんだ。でも欲しいのは変わらない。あの白衣の男は薬を何も言わずにくれた。僕にとってあれは存在価値だ。例え本物で無くても癒やしを与えてくれる。縋りを与えてくれる。みんな縋ってなくちゃ生きていけない。辛いんだ、ないと。もちろん提督も縋りがあるらしい。まぁこの真面目な人だし正義感から来る何かだと思うけど。

 

 僕は倒れた棚から薬を探す。提督が話しているうちに目当ての物を見つけた。僕はこの薬で提督を脅す。奴にとってこれは醜いもの。しかし、僕にとっては天使そのもの。提督はどんな風に気に抜けるのかな?僕は提督を試すような事をしていたのかもしれない。本物の提督なのかを。けど提督はやっぱり提督だった。もしかしたら惹かれていたのかもしれない。顔は普通にかっこよかったしね。

 

 やっぱり提督は不思議な人だった。さっきまで死にたくて堪らなかった。死にたいと何度も思って怖くて死ねなかったんだ。僕はあの時の記憶を思い出す。白露を抱え鎮守府へ帰る時。白露は最後に何かを言ってくれた言葉。生きないといけない。けど二人のいない人生なんてあるものか。でも一歩を踏み出したい。一人じゃ怖いんだ。だから僕は提督にこう言った。

 

「僕、提督に縋ってもいいかな?」

 

「嗚呼、いいとも」

 

「二人の――約束だ」

 

「...ありがとう」

 

「提督」

 

 久しぶり笑えた気がする。

 

 二人にはもう会えない。

 

 悲しいけど僕は進み続けるよ。

 

 止まない雨はない。

 

 雨は何時かきっと止んで晴れるから綺麗なんだ。

 

 そう言ってくれる人がいたから。 

  




どうでしか〜?今回の話は
コアな表現は出来るだけ減らして書いています。アンケートでもやっているのでコアな表現の投票が多ければ色々試したい事があるので楽しみです。それではまた来週?再来週かな?では

もう少しコアな表現入れても大丈夫ですか?

  • 大丈夫だ、問題ない
  • いやです!これ以上艦娘をいじめないで!
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