生きとし生けるものへ   作:ハクスナ

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 こんにちは、こんばんは!HAKUSUNAです。
そう言えば今日って七夕なのか…全く気づいてなかったな(´・ω・`)まぁお願い事ならこの小説が上手く完結するように祈ってます、はい



第二十九話 旧友〜提督〜

 

 失いたくなかった。失うのが怖くて考えるのも嫌なくらいに――ただ、逃げてきた。

 

 なのに何故だろうか。もう作らないと決めていたのに仲間を作ってしまった。それ故かまた失った。神は言っている。『お前から何もかもを奪い去ってやる』、『死ぬまで一生苦しめ』と。――いや、そもそも神なんて者がいたとしても、この汚れちまった世界を変えることは出来ない。奴は空の上から微笑んでいるだけの存在。慈悲なんて与えてくれる事があるだろうか。あったとすれば――俺はここに立ってはいない。

 

 差す一筋の光明。次第に光は大きくなり、部屋中を照らし始める。それは朝を告げる囀り。体を機械的に動かす朝の準備。布団を整え、歯を磨き、髪を整える。最後に軍服を着ればいつも通りの日々が始まる。

 

 軍帽を手に取り端を摘む。いつの間にかこれを被る程、階級が上がってしまった。仲間を置いて俺だけ生き残って、のうのうと生きている。どうすればみんなに顔向け出来るのだろうか。深海棲艦を皆殺しにしても許してくれるのだろうか。あとどれだけの命を犠牲にすれば達成出来ると言うのだ。どうすればいいんだ。また、あの時みたいに仲間を失えばいいのか。次はどんな顔をすればいいんだ。

 

 もう仲間を作りたくはなかった。何時かは俺を置いてみんな消えてしまう。それなら情など入れずにいればいい筈だったんだ。しかし、俺は出来なかった。無理だったんだ、一人になるのが。孤独が怖くてひたすら逃げてきた。わかっている、死んでいった仲間を守れなかったのは俺の技量不足。あと一歩を進んでいたら助けられた命。それを見捨てた当然の報い。何もかも俺の力が足りなかったから死んでいったんだ。しかし、今は違う。以前よりも力がある。死にに行くことが当たり前の作戦を考えなくていい。それが軍規に反しても俺は実行する。何処かではまだ人でありたいと思っているんだ。

 

 手に取った軍帽を頭にやる。軍帽の端と後ろ側を持ち、前からのゆっくりと被る。そして海に視点を向ける。太陽が反射した美しい大海。この海の先には奴らが占領する領域がそこにある。敵はすぐそこまで来ているんだ。何時までこの青い海を見られるかはわからない。終いには赤く濁った血のような海が広まるのかもしれない。そうだったとしても俺は戦い続ける。そして俺は敬礼する。守り抜くんだ。仲間とこの海を。忌まわしい深海棲艦から――必ず。

 

 朝も大分終盤に入ってきた頃、コンコンと執務室の扉が叩かれる。

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 入ってきたのは大淀だった。

 

「こんな朝っぱらからどうしたんだ?」

 

「昨日言っていた新たに着任する軍医が間もなく来るようです」

 

 こんな朝っぱらから着任とは大本営も相当焦ってでもいるのだろうか。上の考えてることは全く見当も付かない。ともかく、新たに来る軍医には顔合わせしなくてはいけない。

 

「わかった、では向かうとしよう」

 

「提督が行かれるおつもりですか?ここで待っていても...」

 

「いや、いいんだ」

 

「少し足を動かしたい気分だからな――丁度いいだろう」

 

「了解しました、では案内します」

 

 そう言って彼女が扉を開ける。そして俺は廊下へと足を踏み出す。窓の外では雲雀(ヒバリ)が未だに朝を告げるように鳴いている。

 

 廊下を歩き進む。少しの緊張と好奇心に擽られる。軍医がどんな人間で何をしてきたのか。眉をひそめ、問いかけを響かせた。

 

「着任する軍医について何か聞いてないか?」

 

 俺はその疑問を大淀に投げかけるように話した。一度こちらに視線を向け、言い表す。

 

「いえ...大本営からは来るとしか言われていません」

 

 そうだろうな。俺の時も全く同じだった。それにしても名前ぐらいは事前に知らせて欲しいものだ。

 

「提督、ここです」

 

 薄汚れた鎮守府の玄関口。玄関口を取り囲むようにあるガラスは埃や煤で汚れている。まるでここだけを見れば廃墟と同然だろう。丁度よく汚れたガラスを凝視していると何台かの車両がやってきているのがわかる。

 

「それでは行くとしようか」

 

「了解です」

 

 久々に鎮守府の外へ足を踏み出す。鎮守府の外門を開け破ってくる多数の車両。俺が来た時と違うのは96式装輪装甲車(96WAPC)とLAVが護衛している所だろう。そして護衛対象である黒いセダンからスーツケースを持った男が現れる。軍帽を深く被り、遠くからでは顔がよく認識出来ない。大淀は早速彼の荷物持ちになるためにいち早く駆けつける。しかし、男は大淀に対して「大丈夫」と言うように手を軽く上げる。そして男は俺に近づいてくる。二メートル程近づいた処で彼は止まりスーツケースから手を離す。

 

「本日配属になる坂元と申します」

 

 そして男――いや彼は深く被った軍帽を外す。

 

「お前――」

 

 そう口に零す。彼も俺に気づいたのかあっけらかんとした声を出すしかなかった。

 

「もしかして滝沢か?」

 

「お知り合いで?」

 

 固まっている二人の間に立つ大淀。驚きを隠せないまま話は進んでいく。

 

「士官学校時の同期でな」

 

「怪我をしたら坂元に行けば治してもらえると噂になったぐらいだ」

 

「なるほど...」

 

「そんな昔話はやめてくれよ〜」

 

 彼は言いながらも笑っている。彼の笑っている所を見るのも何年ぶりなのだろう。再会に喜びながらも中に入るように促す。

 

 鎮守府へと戻る。外の広さに比べ鎮守府は狭く息苦しい。俺は坂元を執務室まで案内する。執務室まで着くと大淀が扉を開ける。

 

「何時も助かるよ、大淀」

 

「いえいえ」

 

 唇の端が僅かに上がっている大淀。

 

「それでは、話の邪魔にならないように私はここで失礼します」

 

 大淀はそう言い残して執務室の扉を閉めた。

 

「かなり艦娘に懐かれてるんやな」

 

 坂元は大淀がいなくなると口調を変えた。普段、彼は標準語で喋っている。しかし、プライベートでは関西弁が炸裂する。それが坂元と言う男だ。

 

「しかし、お前が提督やなんて思わんかったわ」

 

「成り行きでなったみたいなものだ、実力じゃない」

 

「謙遜すんなや、お前の実力なんてとっくに知っとる」

 

 言いながら俺と坂元は椅子に座る。久しぶりに彼の関西弁を聞くと慣れないものがある。

 

「そう言えば一緒にいた奴らはどこ行ったん?」

 

「色々話したいことあるでな〜」

 

「――全員死んださ」

 

「――そうか...もう逝っちまったんか...」

 

 やるせない雰囲気が二人を囲む。この戦争でほとんどの同期が戦死した。唯一生き残っていた限りない仲間も死んだ。再会すればする程、過去の懐かしさが蘇る。もう見ることも聞くことも出来ない英霊は記憶の中にしか存在していない。

 

「冷めちったな...」

 

 坂元は持ってきたスーツケースを開け、ある酒瓶を取り出す。

 

「一杯どうや?」

 

「滅多に味わえない本物の芋焼酎や!」

 

「酒は好きじゃないからな、やめておく」

 

「それに酒を進めるなんて軍医としてどうなんだ?」

 

「こんな環境で飲むなって言われる方が健康に悪いわ」

 

 軍医としてあるまじき発言をする坂元。軍医がコイツで本当に大丈夫なのだろうか。彼の実力は本物だ。酔って手術をしない限り、信用はある。

 

「話は変わるが大本営の方はどうだった?」

 

 俺が聞くのを無視するかのように彼は酒瓶を机に置く。そして持ってきたであろうコップに酒を注ぐや否や酒を平らげる。一息つくと彼は語りだす。

 

「死んだほうがマシな奴らが沢山いる所や」

 

「まともな奴ほど地獄を見る」

 

 坂元の言葉には表せない程の重みがあった。

 

「なら、お前はどうしていたんだ?」

 

「助けられる人は治した」

 

「けどな、しらん間にこっちまで可笑しくなっているような気がしてたんや」

 

「あそこにおると頭が可笑しくなる」

 

 彼は何杯か酒を飲み干す。目は淀み、ため息が多くなる。

 

「それに運ばれてくるのは重症か死にかけやし、死んだやつまで来るし――」

 

「上の無理難題も聞き飽きたわ」

 

「大変だったんだな...」

 

 酔が回ったのかすらすらと考えていることを吐露する坂元。だが、次第に顔を上げ始める。

 

「でもよかったわ」

 

「お前のところに左遷されて」

 

 坂元から語られる左遷と言う言葉。俺はその言葉に興味が湧いた。

 

「左遷って――何かしでかしたのか?」

 

「あーな、上官に逆らった」

 

「死にそうな奴がいてな、そいつを無理に助けたらこのザマや」

 

「後悔はしてないのか?」

 

「いやあ?俺はまだ人間でありたいんや――あんな腐ったゴミ共には成り果てたくないやろ」

 

 ゴミ共か。しかし、これを聞いていると強ち俺の予想は間違っていないのかもしれない。戦争でこの国は一変した。いや――元からそう言う国だ。ただそれが表面化しただけであって素は変わっていない。

 

「なんのためにこの国を守ってるんやろな...俺達」

 

「...」

 

「――もうやめようか、この話」

 

「そうだな」

 

 彼は酒瓶に栓をし、スーツケースに閉まった。すると、パチンと自分の頬を叩き、気を入れる。

 

「それでここからどないするん?滝沢」

 

「戦うしかないだろう」

 

「そうやったな――お前は昔からそう言う奴やった」

 

 姿勢を変えて視線を俺に向ける坂元。先程の淀んでいた目はどこかに追いやり、俺を見つめる。

 

「お前は未だにあの約束を守ろうとしてんのか?」

 

「そうだ」

 

「もうやめとけ、復讐は何も生まん」

 

「君には関係ないだろう」

 

 そうだ、これは俺の問題だ。他人に指図される必要なんかない。俺はあの時に決めたんだ、必ず殺すと。許せると思うか?そんな訳ない。深海棲艦を根絶やしにする。それが人生の目標で生きがいなんだ。 

 

「提督」

 

「この命、預けます」

 

「ですから必ずこの戦争を終わらせて楽になってください」

 

 坂元は突然改まって言い始めた。彼は至って真剣で冗漫ではないのが伝わる。

 

「わかっている」

 

「これからよろしくお願いします」

 

 彼は立ち上がると敬礼する。俺もそれに応じて敬礼を返す。

 

「提督、それでは失礼します」

 

「...少し待て」

 

 俺は坂元を呼び留める。呼び止められた彼は振り向かず背を向けたままだ。

 

「前任の軍医が色々問題を起こしてな...恐らく部屋がかなり散らかっているだろう」

 

「片付けはこちらで集めるそれまでは別室を使ってくれ」

 

 それを聞くと少し落胆したようだ。だが、深いたため息をつくと顔を向け笑みを浮かべこう答える。

 

「了解」

 

 俺は同期との再会を終わらせた。出来るなら笑い話でもしたい所だがそんな余裕はない。戦争は末期に突入している。総力戦を行える武器や人も艦娘も足りない。ここから巻き返すには奇跡と同等の事を起こさなくてはならない。

 

 そうして何分か経つとコンコンと扉を叩かれる。それは彼女が来たに違いない。

 

「失礼します」

 

「お話は終わられたようで?」

 

「ああ、色々と迷惑をかけてすまないな」

 

「いえいえ」

 

 何かを感じ取ったのか大淀は鼻をヒクヒクとさせ、部屋の匂いを嗅いでいる。

 

「提督...アルコールの匂いがしませんか?」

 

 何かと察しのいい艦娘なことだ。坂元の野郎、とんでもない置き土産をばら撒いて逃げやがった。だからあいつ最後に...本当にアイツは昔からの変わらないな。

 

「もしかしてお酒とか飲んでいたりしませんよね?」

 

「私は飲まない」

 

「本当ですか?」

 

「本当だ」

 

「そうですか」

 

 何かとてつない感覚を感じたが気の所為だろうか?とりあえず黙って置こう。

 

 しかし、今は同期との再会に心を躍らせたい。旧友との再会に感謝を。

 

 




 何時もこの馬鹿野郎の小説を見てくれてありがとうございます。最近は忙しくてあまり書ける時間がないのが現状です。特に8月以降は冗談抜きで忙しいので更新が遅れると思います…
後、今回はあまり艦娘が出ませんでしたが次の話では恐らく空母の誰かさんが出てきますのでお楽しみにー
それでは〜

もう少しコアな表現入れても大丈夫ですか?

  • 大丈夫だ、問題ない
  • いやです!これ以上艦娘をいじめないで!
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