生きとし生けるものへ   作:ハクスナ

50 / 51
 どうも~こんばんわ!こんにちは!HAKUSUNAどす!
なんか久しぶりの投稿な気もしますけどブルアカのやつで時間掛けちゃったので許してクレメンス…(´・ω・`)
今回はそこまでエグミのあるやつは減らした気がするけどド胸糞なので注意してください!!


第四十三話 暗業〜提督〜

 

 あれから一時間が経った。戦況はこちらが圧倒的優勢。各省庁の制圧に加え、大本営までも手中に収めた。限りなく成功に近い――しかし、彼女達を除いて。

 大本営の地底深くにズラリと並ぶ黒い袋の数々。一つの部屋に留まるどころか、骸は廊下を埋め尽くしていた。その中には、黒い袋から見える少女を見つめる二人の姿があった。少女の胸の上には、そっと重ねられた両の手。まるで祈るように、静かに、穏やかに眠っていた。

 

「よろしいでしょうか?」

 

 ある一人の若い伝令兵がやってくる。見るからに十代半ばといった身なり。普通なら「学校」という場所にいるべきである年齢。だが、彼は大人の命令によって訳もわからないまま、戦わされているように見えた。

 軍というものは、いとも簡単に人の人生を破壊する事が出来る。暴力を正義として執行し、生命を奪うことを肯定する機関。何ものにも代えられないものに我々大人は子供を命令している。「この国を変える」という志の下に集まった人たちが、実際は少年少女を使い捨てるように、平然としかし、確実に子供を殺める。膿を出し切ったとしても、伴うその痛みにこの国は耐え続けられるのだろうか――

 

「国防大臣が大佐にお会いしたいとのことらしいです」

 

 狂った国家で唯一の実権を握る男。そんな奴が、自らの権力を他人に奪わせるような愚行をするとは思えない。――奴は一体何を考えている。

 

「わかった、向かうとしよう」

 

 奴が糸を引いていたのなら、何かしらボロを出すはずだ。俺は奴の真意を確かめるため、向かうことにした。

 伝令兵に連れられ、俺は大本営の廊下を歩く。ネズミ色をした床と壁、数メートルごとに設置されている防爆灯が暗がりを照らしている。廊下には薬莢や壁の破片が転がり、壁にはこびり着く赤い液体があった。

 突き当たりに差し掛かると見えてくる扉。視線を扉の先に向けると、数人の兵士と降伏した下士官や将校が手を頭の後ろで組み、膝を付いていた。下士官の中にはまだ若い顔をした者すらいた。怯える彼らを尻目に味方兵士は罵詈雑言を浴びせている。

 俺はその光景を一瞥(いちべつ)し、視線を戻す。重たい軍靴の音が冷たい廊下に響く。やがて背後の扉が静かに閉じられる。その数歩後、金属を打つような乾いた銃声が、扉の向こうから短く連なって響いた。

 

「大佐、ここです」

 

 何度かそうした音が聞こえ、俺はようやく奴の顔を拝むことに成功する。

 

「数日ぶりだね……滝沢大佐」

 

「やはり、君もあちら側に付いたのだね」

 

 奴の顔には青い(あざ)が出来ており、皮膚が膨れ上がっているようだった。先導していた若い伝令兵は奴に視線を向け、軽蔑した表情を浮かべる。そして彼は、奴に向かってこう罵った。

 

「黙れ!この政治家風情が!」

 

「どれだけの人間を犠牲にすれば満足するだッ!お前らのせいで……お前らのせいで!!」

 

「……」

 

 奴に向かって小銃を向ける若い伝令兵。彼は頬に一筋の涙を流し、震える手で奴の顔を照準に入れている。

 俺は小銃のハンドガードに手を添え、静かに銃口を下に追いやった。緊張した空気の中、冷静さを欠いた彼を落ち着かせなくてはいかない。

 

「全員、席を外してくれ」

 

「私は大臣と二人で話合いたい」

 

「しかし!」

 

「いいか、これは命令だ!」

 

 まだ人を殺したこともない子供に、その(おもちゃ)は早い。出来るのであれば今後も引き金を引かないことを祈ろう。

 

「何かあればその扉を破って入って来て構わない」

 

「失礼します!」

 

 彼と数人の兵士敬礼し、部屋を出ていく。やはりあの年代にはこれが一番効くようだ。良くも悪くもだがな。

 

「政治家風情か……全く」

 

「大臣、質問に答えて貰おうか」 

 

「何故、この反乱を見逃した?」

 

 奴は部屋にある古びた本棚の前に立ち、一つの本を取り出し言い始める。

 

「大佐、民主主義政治についてどう思う?」

 

「国民が主権を持ち、国民の意思に基づいて国家を動かす体制だ。それが一体なんだ?」

 

 その手にあったものは、マックス・ヴェーバーの『職業としての政治』だった。彼はそっと目を閉じ、目を伏せる。

 

今日(こんにち)まで政治は国民によって動かされていたと思っていた。しかし、政治家は自身の保身のために動き、軍人は権力もて遊ぶ。更に国民は政治を政治家に委ね、それすら参加しようとしなかった。我々は民主主義を掲げながら、それを維持することを怠っていた」

 

「だから起きてしまった……起こるべくして起こってしまったのだ」

 

 奴はゆっくりと歩きながら、本のページを何枚かめくり、やがて本を閉じて元の場所にしまった。視線を俺に向け、腫れた顔が露となる。顔は醜く、灰色のスーツは薄汚れていた。

 

「私はこの国を変えるために見逃した。政治家を拘禁し、社会を作り直す他なかったのだ」

 

「国家はやがて形骸化する。だからこそ革命が必要なのだよ……」

 

「大臣、お前は狂っている」

 

 口角を上げ、笑っているように見えた。この光景に俺は奴の心境を疑った。限りなく、国民に忠実な政治家は、腐敗する民主主義政治に嫌気が差し、意図的に軍事クーデターを誘発させた。しかし、国民は喜ぶことなのだろう。クーデターを成功させ、新しい政府に変わることで形骸化した政府を作り直せることに。下には無数の死骸が転がっているのも知らずに。

 

「どう言って貰っても構わない。だが滝沢大佐、君に見せたいものがある」

 

 奴は引き出しの鍵を開け、ごそごそと引き出しを漁っていると、部屋中が振動し始める。それは先ほどの本棚が動く音だった。本棚の奥から灰色の扉が現れる。

 

「さぁさぁ、こちらへ。安心してくれたまえ、罠ではないよ。そうは言っても外にいる勇敢な兵士諸君は聞いてはくれないだろうがね……」

 

 言葉に応じるように外で待機していた彼らがドアを蹴破り入ってくる。奴に照準を向ける若い伝令兵。奴は彼に目を合わせると、不気味に微笑む。

 

「大佐が心配か?まぁ、着いてきて構わないよ。私は殺すつもりなど毛頭ないとは言っておく」

 

 どうやら本当に敵意はなさそうだ。しかし、備えに越したことはない。俺は彼と数人の兵士を連れ、奴が向かう道に向かった。扉の先には地下へと続くエレベーターがあった。それは我々を待ち構えていたかののように、銀色に輝いていた。

 我々が中に入ると、奴が開閉ボタンを押し扉が閉まる。エレベーターが微かに揺れ、音もなく下降を始めた。その瞬間、内臓が胸の奥でふわりと浮いた気がした。足元の確かさがわずかに崩れ、重力が一歩だけ遅れてついてくるような、奇妙な不均衡が体を支配する。

 死臭の残る地下へと向かうその空間は、沈黙という名の重圧で満ちていた。誰も言葉を発せず、ただ体の奥で何かが沈んでいく感覚を噛み締めていた。下へ行くほどに、空気は冷え、重さだけが増していく。 

 

「君はなぜ、我々がここまで生き延びられたと思うかい?」

 

 静まり返ったエレベーターの中、奴は突然そんな問を投げかける。

 

「艦娘による縦深防御ではないのか?」

 

「……そうだな、半分正解で半分不正解だ」

 

 エレベーターは更に地下へと降下して行った。次第に空気は重く、濁ったような鉄の匂いが充満していく。

 

「我々が生き延びられた要因は彼女達『艦娘』だ。艦娘がいなければこんな島国――とっくの昔に滅んでいたところだよ」

 

「しかし大佐、こうは思わないかい?」

 

「『何故日本の(かなめ)であったシーレーンが崩壊し、未だ戦えるのだ』と」

 

 奴はどこか高揚しているように見えた。同行した兵士達は異様な空気に動揺している。

 島国である日本は天然の要塞であり、幾度も外敵からの侵攻を抑えていた。だが、奴等にそれは通用しなかった。シーレーン、海上交通路を徹底的に破壊された日本は徐々に力を失っていった。

 

「何がいいたい?」 

 

「――答えはこの先だよ」

 

 ようやくエレベーターは目的の場所に着く。目の前には五メートルほどの幅がある廊下。先の外壁には一面を覆う大きさの窓が取り付けられていた。我々はその窓から見える光景を確かめるため、足を進める。

 

「これは一体……」

 

 そこにあったのは工場にありそうな生産ライン。しかし、見えてくるものは違った。ガラスの向こうに広がる光景に、誰もが足を止める。金属と腐臭が入り混じる空気の中、鉄骨で組まれた天井からは太いチェーンが何本も吊られ、二〇〇メートル以上にも渡って連なるラインが、沈黙の中でゆっくりと動いていた。

 それは屠殺場のようだった。ただし、吊るされ、裂かれ、刻まれているのは家畜ではない。艦娘だった。

 首に鉄製の拘束具を嵌められたまま、彼女達は逆さに吊るされ、片腕を失い、腹を裂かれ、目を見開いたまま列を成していた。まだ微かに動いている者もいる。

 回転するノコギリが骨を削り、血と脂と髪が床に滲む。無機質な機械の音に、彼女達の断末魔が混じり合い、空間全体が生きた臓腑のように脈打っていた。

 生産ラインではなく、処刑の芸術。効率化された地獄。それが国家の地下に隠されていた()()()()だった。

 

「彼女ら――いや、あれは製品であり食品だ」

 

「私たちはあれを『建造』と『解体』と言っている」

 

「――この技術を作り出すまで多くの時間と労力がかかった。艦娘を建造するために使えなくなった艦娘を解剖し、私たちは艦娘についての知識を深めた。君や私も見える()()と呼ばれるものを知ることが出来た」

 

 ガラス越しからでも聞こえる声に同行した兵士は耳を塞ぐ。しかし、奴はその奏でるメロディーを恍惚げに聞いていた。

 

「艦娘は実に素晴らしい資源だったよ。艤装は工業基盤となり、肉は合成食料の代替となれるほどの栄養量。この国を守れてきたのはこの技術があってこその国家なのだよ。」

 

 奴は手を後ろで組み、その光景を見ながら感傷に浸っていた。奴の考える過去とやらは余程残酷な世界なのだろう――この光景以上に。

 

「シーレーンが崩壊し、我々には全てが不足していた。鋼材やアルミ、弾薬に石油……そして食料。軍人だった君たちは知らないだろうが、我々市民はないものを奪い合い、傷つけ合っていたのさ。優先して渡されていく食べ物を横目にね」

 

「だから……いや我々は作り出したのだ。誰もが食に困ることのない、子どもたちが飢餓に苦しむことがない理想を現実に」

 

 奴の言うことは正しい。実際、食料に関しては不足していたところはあれど、供給はされていた。恐らく奴の言うことも強ち間違っていないのだろう。食うに困る人々から食料を奪い、前線へと分配する。我々が戦っている間、人々は無い物ねだりで彷徨い歩いたのだろう。それが現状の五千万人の国民の実態だ。

 だからといい、人は艦娘を犠牲にする。人ならざる者と蔑み、憎悪する。そして我々は彼女達を犠牲にして生きている――文字通り。

 彼女達を目的の道具だと思っていた。だが……だがどう言えばいいのだ。彼女達を見ていると分かる。生きたいと願う気持ち、喜びたい、笑いたい、泣きたい、怒りたい。彼女達にも感情がある。我々、人間のような列記とした知性と感情が。本来の目的からかけ離れていたとしても、彼女達を守る。――それが俺の使命だ。

 俺は奴に向かい、銃を取り出し狙いを定める。

  

「おやおや、今更になってそれを構えるのかい?心外だなぁ……君たちも同じ()()()なのだよ」

 

 奴は口角を上げ、笑みを浮かべている。戦慄した空気が辺りを漂い、奴の顔が悍ましく映る。

 

「共犯者……それは一体どういうことだ?」

 

「簡単なことだよ、君たちはあれを食べてしまったのだ。ここにいる――いや、今となっては日本人全員が共犯者だ」

 

「では、あの時の肉は……」

 

「そうだよ、そして君の連れてきた艦娘にも配膳したさ。残念なから彼女たちは拒絶したようだがね……まぁ実験の結果として受け取ってくれ」

 

 奴はここの腐りきった屑共とは別だと考えていた節はあった。だが、やっていることはどうもあの死に損ないの准将と同じらしい。

 

「お前は今後のことを考えているのか?」

 

 もし、命乞いでもするのであればこの手で殺すことを約束する。善意であったとしても許されざる過ちをしてしまったのだ。人のためなら犠牲を厭わない。その犠牲の中には艦娘までもが奴の対象なのだろう。

 奴はゆっくりと息を吸い込み、ゆっくりと吐く。やり切ったような顔を浮かべながらこう口に零す。

 

「この国は変わった、もう私の出る幕はない」

 

「君はどうなのかね?」

 

 緊張しているのか奴の低かった声が妙に高くなる。死を直前に怖気づいたのだろうか。まあ、人間などそんなものだろう。

 

 ――俺は決意を出す。

 

 これをこのまま放置するわけにはいかない。たとえ、目の前の彼女達が艦娘の紛い物であったとしても。俺は誰かのために犠牲になるような者達を生み出すようなつもりはない。

 

「こんな場所は見るに堪えん。艦娘を犠牲にしたこのやり方には納得出来ない」

 

「私は、腐りきったこの大本営が嫌いだ。よって、ここも閉鎖させてもらう」

 

 奴はその言葉に明らかに動揺する。奴にとってこれは国家を救済するもののだろう。奴の口にする子供たち。それがどれだけの支えになったのかは想像に付く。

 

 しかし、それでも俺には決めなければならない。

 

「……本当にここを止めるつもりなのか?」

 

「そうだ」

 

 奴は顔に影を落とし、ガラス越しに見える光景を見つめながら言い放つ。

 

「五千万人の国民を犠牲にしてでもか?飢えに苦しむ子供たちを見てきたのではないのか!?」

 

「『英雄』なのだよ!君はこの国にとっての最後の砦だ!君が見捨てたとなれば未来のある子供たちに何を残すと言うのだ!」

 

 未来を思う奴の気持ちは尊重する。だが、そのために艦娘を利用し、犠牲にするのなら、そんな未来に続く世界はない。

 

「私は別に『英雄』など欲しくない。それに見ず知らずの子供を助けれるほど余裕はない」

 

 そう、これは正義と正義のぶつかり合い。どちらも正しくて正しくない。――戦争だ。

 けして消えることのない負の遺産。奴等とは違うもの。互いが守るものを持ち、相手を憎悪する。だから戦争はなくならないのだろう。

 

「そうか、そうか……そこまで言うなら好きにすればいい……」

 

「私の処遇も君に任せるよ、何なりと受け入れるつもりだよ」

 

 俺と奴では馬が合わない。それに奴が行ったことはけして許されるべきではない。それがたとえ五千万人の命と引き換えであったとしても。

 

 ――今守るべきものを、俺は守るしかない。

 

「処遇は追って知らせる」

 

「……」

 

「しかし、貴方にはまだまだ働いてもらう必要がありそうだ」

 

「その覚悟の上、精進しろ」

 

 守るものが違ったとしても何か変えることが出来るはずだ。犠牲の上で成り立っているのは分かっている。だが、犠牲を当たり前かのように消費するのとは別の話だ。 

 

「あはは……そうかそうか……君はそうやつなのか。甘いのか、厳しいのか……はは」

 

 奴は呆れたかのような声でそう口に零した。だが、そんな奴に向けられる視線は冷たいものであった。

 現状の政治家イメージを変えるには奴しかいない。国民を思い真正面から立ち向かうのであれば、必ず誰かはそれを見る。奴が先頭に立つ姿もそのうち見られるのではないだろうか。まあ、それも面白いか。

 

「この事については上層部と話し合いの下、情報規制を引く」

 

 いずれ、問題になることだろう。情報はいつかは漏れる。だが、それまで――

 

 彼女達は知らないことを祈るばかりだ。

 

 

 




 久しぶりにアンケート見たんですけど予想よりもエグい描写が好みな人が多いので今後はもっとエグい描写を増やす予定です♪
逆にどんなエグい描写が見たいかあれば、リクエストください!物語に合うものであれば採用します!!
(もし、主人公が他の話と矛盾してること言ってたら教えてください(^▽^;))
次回はもっと早く出します……はい

もう少しコアな表現入れても大丈夫ですか?

  • 大丈夫だ、問題ない
  • いやです!これ以上艦娘をいじめないで!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。