才能のなさを痛感する。
続きです。
あと主人公は馬鹿です。
あれだけイキリ散らかし勝利を飾った俺氏だが、だからと言って星野アイに対する恐怖は小さくなりはすれど消えてはいなかった。
人間大まっ○ろくろすけがやけに美声で喋っていると想像すると面白いだろう? しかし実際に目の当たりにすると案外怖いもんだ。俺がビビりということもある。
星野アイがなんかピンチだから助けて好感度アップを狙おう! という浅はかな考えの元行われた行動は思ったより効果的だったようで、
「おはよー佐藤くん! ……齋藤くんだっけ?」
「宿題ってなんかあったかなー、覚えてる?」
「ここの……これってどういう意味かわかる?」
など、話しかけられることが多くなっていた。名前も覚えられた。妙に疑問符が多い気もするが。
俺も会話することは出来るし、したいとも思っている。その甲斐があってか、自分ではそれなりに会話は弾んでいると思われた。
あとちょっと懐かれてる?気がする。
本日、席替え。
俺としては星野アイを思う存分観察するべくやつの後方の席に付きたい。
やっぱり後ろに人間大まっくろくろすけが居ると思うと背筋が冷える。あれだ、もやしもんのただやす視点から見た教授みたいな感じ。
俺の後ろの席からガタッと音が聞こえ、黒い煙が舞ってくる。
「また近くの席になれるといいねー」
「そうだなー」
思えばこうして俺が後ろに席を傾け、会話するということも無くなってしまうのか。
なんだが時の流れを感じて感慨深いものがある。
「さて、くじでも引いてくるか」
「どうせなら一緒に引こうよ」
教卓まで近づいていく。
2人で教卓にあるくじ引きの箱に手を突っ込む。なんか、青春してるみたいでちょっと嬉しい。……ごめん嘘、やっぱまっ○ろくろすけとの青春はちょっと……ナオキです……。
「いいけど大して結果は変わらないと思うぞ?」
「いいからいいから」
余り物には福があると言うが、果たして。
「せーの!」
出たくじを確認する。
お、出た席は前の俺の席の後ろ。つまり星野アイが座ってた席だ。窓際だし移動も楽。そこそこいい席なのではないだろうか。
「どうだった?」
「うーん、ちょっとしか席の場所変わんないよー、どうせなら真反対とか行きたかったのになー」
「……もしかして、元の席の隣?」
「お、大正解。よくわかったね。花まるあげちゃおう」
おおう、まさかとは思っていたが、運命は俺とまっ○ろくろすけを離してくれないらしい。
隣かぁ……隣が2番目くらいに困るんだよなぁ。
俺より後ろが1番恐ろしい。俺より前ならそれこそ授業を受けながらでも確認が容易いから1番楽。
隣は見ようと思えば見れるが、見ようと思わなければちらちらと黒い煙がチラつくくらいの微妙な位置関係。俺の成績を下げに来ていると見える。
まぁ流石に小学2年生レベルのしょうもない授業を真面目に受けれなかったところでさして問題もないが。
「佐藤くんのはー? どれどれ、隣の席じゃん! 今後ともよろしくだね」
「こいつナチュラルに人の紙覗いてくるな
……プライバシーの侵害って知ってる?」
隣のト○ロならぬ隣のまっ○ろくろすけになってしまうようだ。
さも当然のように人のくじ覗くあたり、星野アイは人の迷惑を考えないやつに思われそうだが、こいつはこいつなりにラインを引いているように思う。
「だめだった?」
「別にいいけど」
だよねーっと星野は笑っている。
人に迷惑をかけることがコミュニケーションの要だとでも思ってそうだなこいつ。
男らしいことこの上ないやつだ。そしてその考え方も間違ってないように思える。実際俺も仲良くなった気がして嬉しいし。
こう、ジ○リのキャラと仲良くなる非現実感が俺の心を沸き立たせる。
はっ! もしや俺、懐柔されてる? 気をつけねば……危ないところだった。
▼
____いただきまーす!
給食の号令がお昼すぎの日差しが少し差し込んだ教室に響き渡る。
「うんめ。やっぱ給食のカレーが1番美味いと思うんだよ。この誰でも食えるように調節された甘口加減。最高だ」
「私も結構学校の給食好きなんだ。安心して食べられる気がして」
先日の席替えによって俺と星野は隣になった。
これによって起こる出来事は俺が授業に集中出来なくなるくらいだと思っていたが、思わぬところでメリットがあった。
そう、お昼ご飯だ。
席替え前は担任が変な班割りをしたせいで何故か後ろの星野と俺は同じ班にならず、一緒に飯を食うこともなかったが、これからは違う。
人は古来より鍋をつつきあった仲という言葉を生み出している。すなわち、一緒にご飯を食べれば仲良くなれるということだ!
この発想が降りてきた時、俺は天才であることを確信した。
にしても安心して食べられる気がして……か。
こいつはご飯も安心して食えないような環境に居たということか?
もちゃもちゃと白米とカレーを口にかきこみながら思考する。
「星野ってなんか嫌いな食い物とかあんの?」
「特にないけど、んー。白米はちょっと苦手かも」
嘘つけ! バチくそ食っとるやないかい!
なんならお代わりしとるやんけ!
と言いたいところだが……長年(約1ヶ月)見続けてきた俺ならわかる。こいつは白米を相手にした時少しだけ、ほんの少しだけ動きが止まるのだ。
俺からは変わらずまっ○ろくろすけにしか見えないため表情を窺い知ることは出来ないが、一体どんな顔をしているのだろうか。
……多分普段と変わらない気もするな。星野には嘘が染み付いてるし、ポーカーフェイスもお手の物だろう。
にしても米の何が苦手だと言うのか。
「白米が苦手かぁ。特に特徴的な味無いと思うけど」
「味が嫌いなわけじゃないよ。なんていうんだろ、貝物の炊き込みご飯とか食べたことある?」
「ある」
「あれってたまにガリってなることない? あれが怖くて」
なるほど?
チラッと星野を見る。身に纏う黒い煙が目に見えて増えた様子はない。嘘じゃないな。
確かに言いたいことはわかる。俺もそういうガリってなる食べ物嫌いだし。
でも白米でそれが起こることなんてあるのか?
『白』米だぞ? 何か異物が入っていれば一目瞭然というものだろう。
それこそ白や透明で固く、そして小さくなりやすい何かでなければ白米に混入するなんてことは有り得ない。
……ガラスか陶器か、プラスチックではなさそうだな。
あんまり今の俺が触れてもいいところじゃなさそうだ。深く聞くのはやめておこう。
気遣いの出来る俺氏、かっちょいい。
俺は日々成長を重ね、星野アイに対する正解の態度を見つけていた。
それは砕けた態度を取るということである。
というわけで
「白米が苦手ね。そうかそうか、ならそのカレーライスにも恐ろしい何かが混入しているかもしれない!」
「え? 何?」
「早急に俺がチェックしてやろう!」
俺は颯爽と星野のカレーライスが入った入れ物を奪おうとする。
が流石は星野。俺の早すぎる手刀ならぬ略奪にも抵抗してくる。
「ちょ、食べるから! お腹すいてるし!」
「星野も知っているだろう。この学校は愚かなことに1生徒あたりの給食のお代わりは1回までなんだぞぉ!」
10秒ほど争っていると教卓で美味しくも不味くもなさそうな顔で飯を食ってる先生から注意を受けた。
「こら佐藤くん! そんなに食べたいなら先生のあげるから!」
「ちぃっ……泣き寝入りするしかないのか」
「絶対言葉の使い方違うよねそれ」
忌々しい担任め。
俺が上手くいかない現実に中指を立てながら自分のカレーを大人しく貪っていると
「……そんなに食べたいなら、一口だけあげようか?」
「くれ」
「はいあーん」
星野が自分のスプーンにカレーと米を掬い俺に差し出してくる。
「あー……んんんんんん?????」
「どしたの? ほら、食べなよ」
星野は少しニヤついた声音で食べさせようとする。絶対こいつニヤニヤしてるだろ。
何を言ってやがりますかこいつは!?
……そうか。わかったぞ? どうせ食えないとか思ってるんだろう? そして俺が羞恥から差し出されたカレーが食えないと周囲に見せつけ、
『えー?、佐藤くんもしかして女の子にご飯を食べさせてもらったこともないのぉ〜??? 小学二年生にもなって?? うんうん、さっきまで私のご飯を奪おうとしてたけど恥ずかしくてやめちゃうのもわかるよ〜!!』
と俺を辱める気に違いない。
俺もお前も未だに小学二年生だ。効果的ではあるだろう。だがしかしッ! その程度の浅い想定で天才たるこの俺を越えられると思うなよ?
残念だったな。俺はお前の裏を突く。
まずはそのお前の幻想をぶち殺すッ!
「ぁむ」
もぐもぐ、ごくん。
この瞬間、俺の暴走していたテンションは
ビッグ人型まっ○ろくろすけが差し出したスプーンを咥えている俺
という異常な構図を理解することで強制的にストップを掛けられた。
何してんのぉぉぉおおお!? 俺!?
馬鹿じゃねぇのマジで! お前学ばねぇやつだなぁ! バカと天才は紙一重ってか!? やかましいわ!
「え、あ、ほんとに食べちゃったし……」
「ごめん、ちょっと調子乗った」
ほんとうにすいません。
「……別に気にしてないよ」
気にしてないという旨の発言に嘘は……ないな。ということは……セーフだ! あぶねぇぇぇ! 俺って馬鹿なのかもしれないねもはや。
「んー……なんかこう、ペットに餌やりした気分?」
「馬鹿にしてるのかね君は」
「少しだけ」
「てめぇ!」
くすくすと笑って星野はカレーを食べ始めている。
……星野、なんか楽しそう?だな。
相変わらずまっ○ろくろすけではあるけど、1ヶ月この素肌すら見えない女と顔を合わせて、俺の感受性も進化したのか、嘘のヴェールを貫通して、少しだけこいつの心が伝わってきた。
終わりよければすべてよしとは偉大な名言だと強く実感したね。
あーあ! 星野アイの幼少期とか小説で出ないかなぁ!