Doll's FrontLine -Armored Outsiders-   作:天羽々矢

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OP2:HIBANA/感覚ピエロ


#34 WENDY ウェンディ

日本での任務を終え、ヒロを始め私設武装組織 フェンリルの面々はアナトリアへ帰ってきた。

 

アナトリアの住民達はヒロ達全員の帰還を喜んだものの、ヒロ、チカゲ、アイヴィスの3人が重傷だった為に祝う余裕は無く、3人は医療施設へ搬送される事に。

他に道中で保護したアイヴィス達と()()()()()()()()()()()()()()()をした少女エステル、日本から身柄を引き取った件の少女も搬送された。

 

ヒロとアイヴィスは重傷とはいえ怪我のレベルはそこまで重くは無い為2週間後に退院、普通に生活する分には何も不自由は無い。

 

しかし、チカゲはそうはいかなかった。

 

小松基地地下区画にてヒロをARETHA(アレサ)の攻撃から庇った事により、内部パーツの損傷、神経系信号ケーブルの断裂も見られ修復の為に意識はセカンダリレベルにまで落とされているとの事。

そしてエステルと少女は、2人に目立った外傷こそ無いもののエステルは極度の栄養失調状態であり、医療班の見立てではエステルはしばらく安静にする必要があるとの事。少女に関しては日本で点滴薬に繋がれていた事もありそこまで酷い状態ではないとの事だった。

3人の容態は気になるが今はそれよりも優先すべき事がある為、ヒロ達はその件を後回しにする事にした。

 

そして事が動くのは、それから更に1週間後の事だった。

 

「修復できない・・・?」

 

普段通り朝食にトーストとサラダ、牛乳、オムレツを揃え、ベーコンを焼いていた所に来た携帯通信機(スマートフォン)への連絡にヒロは言葉を零した。

連絡してきたのは技術員も兼任する医療班のリーダーであるヨハネス。彼はヒロ達が保護した少女とエステルの治療を担当した医師であり、その彼からの連絡だった。

そしてその内容とは・・・。

 

要約するとこうだ。

チカゲの修復作業を行おうとしたが内部パーツの損傷、神経系信号ケーブル断裂の具合が予想より遥かに深刻な状態であり、修理が困難だとの事だった。

その事実を聞き呆然とするヒロ。しかし、ヨハネスは話を続ける。

 

曰く、チカゲの損傷具合が想像以上だった事により、パーツを自分達で製作するにしても用意出来る物でも最短で半年程かかるそうだ。

しかもパーツは全部自分達の手元にある有り合わせになってしまう為、完全な修復に成功する見込みも無いとの事。

 

チカゲを完全に修復する為には、チカゲの製造元である鉄血工造の製造設備が必要になる。

しかし鉄血工造は胡蝶事件で人類の制御下を離れ暴走状態にある為、設備の発注も修理に必要なパーツも製造が出来ない状態だ。

設備を手に入れるには、鉄血支配下の工場に潜入し盗み出すしかない。

だが、鉄血工造は胡蝶事件以降は人類を敵と見なしており、警備も厳重だ。

潜入した所で無事に盗み出せる保証は無い上、もし見つかればタダでは済まないだろう。しかし、このままではチカゲの修復が不可能となり、いつ目を覚ますか分からない。

そこで、ヒロは決断する。

 

「分かった、準備ができたら俺が行く」

 

その言葉にヨハネスの驚くような息が漏れるがすぐに真剣な声が聞こえてくる。

 

《・・・本気か?》

 

「ああ」

 

《・・・死ぬかもしれないぞ?》

 

「チカゲがあぁなったのは俺が迷ったせいだ。俺の責任だ」

 

《・・・》

 

ヒロの言葉にヨハネスは黙り込む。そして少し考えた後、口を開く。

 

《・・・分かった、そちらの準備ができたら教えて欲しい》

 

そう言うと通信は切れた。通信が切れた事を確認するとヒロは再び朝食の準備を始めるのだったが、話が長くなった事もあってかベーコンが焦げていた。

 

「はぁ・・・」

 

無駄にする訳にも行かず、焦げたベーコンをトーストの上に乗せながらヒロはため息をつく。

 

「・・・何してんだ俺は」

 

そんな独り言が、静かなキッチンに響いたのだった。

そしてヒロは朝食をテーブルに並べると席に着き・・・。

 

「いただきます」

 

ヒロは1人、少し苦い食事を始める。

 

 

 

朝食を食べ終えたヒロは自室で準備を進めている時、再びヒロの携帯(スマホ)が鳴った。

相手は先程まで話していたヨハネス。

 

まだ準備が終わっていないのに連絡を寄こしてきたとは、何かあったのだろうか?

 

ヒロは携帯を手に取り通信に出る。

 

「先生、どうかした?」

 

《あぁ、たった今だが、件の少女の意識が回復した》

 

「!」

 

ヨハネスの言葉にヒロは驚く。同時に、まだ1週間も経っていないのにもう意識が回復した事に安堵する。

 

「それで、どう?話せそう?」

 

《あぁ、先程私の返事にも答えた。まだ多少の混乱は見られるが、会話は可能だ》

 

「そうか・・・良かった」

 

まだ混乱しているという事だが、それでも意識が回復した事にヒロは安堵する。

 

《それで、少女に色々聞きたい事がある。ヒロ君、今から来れるか?》

 

「あぁ」

 

ヨハネスの連絡にヒロは二つ返事で答える。そして通信を切り準備を手早く済ませると家を出たのだった。

 

 

 


 

 

 

家を出てから30分後、ヒロはヨハネスと合流した。場所は小松基地内にある医療施設だ。

2人はまず少女の病室へと向かう。中に入るとそこにはベッドで上体を起こした少女がおり、その隣に医師であるヨハネスが座っていた。少女は入ってきた2人に目を向けると、少し怯えたように身を縮こまらせる。

 

「やぁ、気分はどうだい?」

 

ヨハネスが少女に声をかけると少女は恐る恐るといった様子で口を開く。

 

「あ・・・あの・・・」

 

少女の口から出たのは消え入りそうなか細い声だ。しかしそれでもきちんと言葉は聞き取れる為ヒロは特に問題は無いと判断し話を続ける。

 

「俺達に君をどうこうしようって考えはないよ」

 

「・・・」

 

ヒロの言葉に少女は少し安心したのか、こわばっていた表情が多少和らぐ。しかしまだ緊張しているのか少女の表情からは不安の色が見て取れる。

 

「さて、まずは自己紹介といこうか」

 

ヨハネスがそう言うとヒロはヨハネスの方を向き頷く、少女に顔を向け話し始める。

 

「俺はヒロ・スメラギ、一応ここの代表だ」

 

「・・・」

 

自己紹介をするヒロだが、少女は依然不安そうな表情のまま。しかしそれも無理はない話だ。見知らぬ場所で目覚めてすぐに知らない人間が目の前に居るのだから当然だろう。

そんな少女に助け舟を出すかのようにヨハネスは口を開く。

 

「私はヨハネス・ミラーだ、ここの医者をやっている」

 

「・・・医者?」

 

少女の口から出た言葉には疑問符が付いている。まぁいきなり医者ですと言われてもピンと来ないのも無理は無いだろう。

 

「あぁ、医者だ。まぁ医者と言っても私は医師免許は持っていないがな」

 

「・・・え?」

 

ヨハネスの発言に少女は再び疑問符を浮かべる。しかしそんな少女に構わずヒロとヨハネスの会話は続く。

 

「先生、そんな事言っていいのか?彼女を不安にさせるだけだぞ?」

 

「なに、この位の冗談は言わないとな」

 

「・・・はぁ、まぁいいけどさ」

 

2人の会話に少女は戸惑っている。しかしヒロもヨハネスもそんな少女の様子などお構い無しだ。

 

「次は君の名を聞かせてもらおうか」

 

「えっ?」

 

ヨハネスの言葉に少女は更に困惑する。しかし、ヒロもヨハネスもそんな少女を気にした様子は無い。

 

「名が無いと何かと不便だろう?」

 

「・・・名前・・・」

 

少女は何かを考えているのか、少し俯く。すると・・・。

 

「・・・ウェンディ・・・私はウェンディです」

 

2人に対して自己紹介をする少女ことウェンディ。それを聞いた2人は顔を見合わせる。そして・・・。

 

「そうか、いい名前だ」

 

「あぁ、綺麗な響きだね」

 

ウェンディは2人の言葉を聞いて恥ずかしそうに頬を染める。そんな様子を見てヒロは笑みを浮かべる。そして・・・

 

「・・・じゃあウェンディ、早速で悪いんだけど・・・」

 

そう言うとヒロはベッドのそばにある椅子に腰かける。

 

「君が何でニュージーランドにいたのか、聞かせてくれるか?」

 

「え・・・?」

 

ヒロの言葉にウェンディは首を傾げる。しかし、その反応も無理は無いだろう。何せいきなりそんな事を聞かれれば誰だって戸惑うはずだからだ。

 

「えっと・・・」

 

ウェンディは何かを考え込んでいるのか俯いている。そして少し考えた後・・・。

 

「・・・分かりません」

 

そう言って首を横に振る。どうやら本当に分からないようだ。そんな様子を見てヒロとヨハネスは再び顔を見合わせるが、すぐにヒロが口を開く。

 

「じゃあ質問を変えよう、君は何故あんな場所に倒れていたんだ?それも隕石みたいにクレーターまで作って」

 

2つ目の質問を聞いてウェンディは更に考え込む。しかし、やはり分からないのか首を横に振るだけだ。

 

「・・・」

 

その様子を見てヒロはため息をつくとまたすぐに口を開く。

 

「なら・・・覚えてる範囲で構わない、君の身に何があったかは言えるか?」

 

「・・・はい」

 

ヒロの質問にウェンディは俯きながら答える。そして・・・

 

「私は・・・」

 

そう言って彼女は語り始めるのだった、自分の身に何があったのかを・・・。

 

ウェンディが語った彼女の身に起きた出来事。それは想像していた物より悲惨なものであり、聞かされたヒロもヨハネスも言葉を失う程だった。

 

彼女は本来この世界の人間ではない事。ウェンディがいた世界を襲う”崩壊”と呼ばれる未曾有の大惨劇。そしてその崩壊を司る“律者”と呼ばれる存在。

その律者に対抗すべくウェンディの脚には“デザイアジェム”と呼ばれる崩壊を引き起こせるレベルの超エネルギー結晶体が移植されており、それにより律者に匹敵するレベルの力を得る事が出来、崩壊に対抗する事ができるのではと思われていた。

しかしデザイアジェムのエネルギーはウェンディの身体を蝕み、彼女は下半身不随となってしまう。

その上デザイアジェムが浸食したのは身体だけでなく、ウェンディは自我を失い暴走。

一時は自我を取り返しかけたものの信頼していた人物の裏切りにより、人間不信に陥ったウェンディは感情のままにデザイアジェムの力を解放してしまった。

そして彼女は意識を失い、今に至ると言う訳だ。

 

 

「・・・」

 

ヒロはウェンディの話を静かに聞いている。しかしその表情には困惑の色が見て取れた。

無理もないだろう、いきなりこんな話を聞かされてはいそうですかと納得できる訳が無いのだから・・・。

そんなヒロに対してヨハネスが口を開く。

 

「・・・にわかには信じ難い話だ」

 

「あぁ・・・俺も同じ、だけど・・・」

 

2人は互いに顔を見合わせるが、やはりその表情は困惑している。しかしウェンディの話を聞き終えた2人は何か思うところがあるのか、ヒロはウェンディに向き直る。

 

「話してくれてありがとう」

 

「・・・いえ・・・」

 

感謝の言葉を述べるヒロだが、当のウェンディの表情は暗い。それもそうだろう、自分の事を話したところで信じてもらえるとは限らないのだから・・・。

だがヒロは内心腑に落ちた。北蘭島事件で汚染されたはずのニュージーランドで何故汚染レベルが低かったのか、それは恐らくウェンディの体内にあるデザイアジェムが無意識的に周囲を浄化していたからだろう。

ニュージーランド・テラウィティ岬と日本・小松基地で見た彼女の高い戦闘能力も恐らくそれに起因すると考えられる。

だが、ウェンディはデザイアジェムの力を使ってしまい暴走してしまった。そしてその原因は・・・

 

「・・・ごめん、ウェンディ」

 

「・・・?」

 

突然謝罪するヒロにウェンディは首を傾げる。そんなウェンディにヒロは言葉を続ける。

 

「俺と先生が頼んだとはいえ、辛い事を思い出させて・・・」

 

「・・・」

 

ヒロの言葉を聞き、ウェンディは俯く。だがすぐに顔を上げる。

 

「・・・大丈夫です」

 

そう言って微笑むウェンディ。しかしその表情にはまだ陰りがある。やはりそう簡単に吹っ切れるものでは無いのだろう・・・。

その顔にいたたまれなくなったヒロはウェンディの頭に手、子供をあやすかのように優しく撫でる。

 

「あ・・・」

 

突然頭を撫でられ驚くウェンディだが、ヒロは構わず頭を撫で続ける。すると・・・。

 

「・・・ふふっ」

 

最初は戸惑っていた様子のウェンディだったが、やがて気持ち良さそうに目を細める。どうやら少しは元気が出たようだ。

そんな2人を見てヨハネスは微笑みを浮かべる。

 

「では、私はそろそろ戻らせてもらうよ」

 

そう言うとヨハネスは立ち上がる。それを見てヒロも撫でるのをやめ席を立とうとする。すると・・・、

 

「・・・もう少し・・・」

 

そう言ってウェンディは寂しそうにヒロの手を取ると自分の頭の上に乗せる。そんな様子に苦笑しながらも今度は優しく頭を撫でてやる。するとウェンディの表情が和らぐのを見て、やはりまだ不安が残っているのだろうと判断する。

 

(無理もないか・・・)

 

そんな事を考えつつ暫くの間頭を撫で続けるのだが、その顔がいきなり驚愕に染まる事に。

 

「えっ、ウェンディ!?」

 

いきなりヒロが声を荒げ、ウェンディも吃驚してしまうがそれは彼女が涙を流していたからだ。

 

「えっ!?あっ、いや・・・ごめんなさい・・・」

 

ウェンディは自分が涙を流している事に気付き慌てて涙を拭う。だが涙が止まる様子は無い。それどころか更に勢いを増して流れ出す始末だ。

 

「ごっ、ごめん!嫌だったか?」

 

突然の事にヒロはオロオロしてしまうが、ウェンディは首を横に振る。そして・・・。

 

「・・・違うんです・・・」

 

涙声になりながらも言葉を紡いでいくウェンディ。

 

「ただ・・・嬉しかったんです」

 

「・・・え?」

 

ウェンディの言葉にヒロは首を傾げる。しかしウェンディは涙を拭いながら言葉を続ける。

 

「誰かに頭を撫でられるのって、初めてで・・・」

 

そう言うと再び涙を流し始めるウェンディ。そんな様子を見て2人は顔を見合わせると・・・。

 

「・・・そうか」

 

2人は再びウェンディの頭に手を置き優しく撫で始める。すると今度は涙が止まるどころか更に勢いを増して流れ出す始末だ。

人間不信に陥りながらも、きっと心の奥底では人の温もりを求めていたのだろう。

 

冷静になって思い返してみれば、ここに来たばかりのアイヴィス達もそうだった。皆、最初は不信感を抱いていたものの次第に打ち解けていった。きっと彼女も・・・。

そんな事を考えながらヒロはウェンディが泣き止むまで彼女に寄り添った・・・。




ED2:HORIZON/TEAM SHACHI

彼岸花の方を優先してて、最後の投稿から4ヵ月近くも経っちまった(-_-;)
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