Doll's FrontLine -Armored Outsiders- 作:天羽々矢
その男は今、物凄く苛立っていた。
自分を始めこの作戦の指揮に当たった者の総意で作戦への参加を認めていない者が作戦に参加していたのだ。
その者の名は“フィオナ・A・レイナド”。
切っ掛けは彼女の持つ特殊な人形。彼女自身は“エア”と名乗っていた。
彼女は他の人形とは一線を画した電子戦能力を持っていた。その高い能力は今自分達が戦争している鉄血との電子戦において非常に有用である。
一基地の戦術指揮官風情の足元に置いておいては良い存在ではない。
彼女は自分達が運用してこそ真価を発揮する、男には確信めいた物があった。
幸い自分は彼女より組織内での立場は上だ、自分の権限で彼女を戦術指揮官の任から解く事は容易い。
男はそう考え、エアをフィオナから取り上げようと画策した。
最終的にはエア自身が男のいる本部に移る事を承諾し、条件としてフィオナ指揮官と基地と彼女指揮下の戦術人形達には手を出さない事。
男はこの条件を了承し、エアの身柄はフィオナ指揮官の基地から男のいるグリフィン本社へと移される・・・はずだった。
エアを輸送していた輸送隊が鉄血の襲撃を受け、エアは鉄血の捕虜となってしまったのだ。
今回の作戦はいわばカモフラージュ。寄せ集めとはいえ大規模な部隊を正面から突っ込ませれば鉄血も対応せざるを得ない。
その隙に鉄血の拠点であるサイレントラインからエアを回収する算段であった。この任務さえ成功すれば、自分の地位も安泰なのだ。こんな所で躓いてなどいられない。記録の改竄は後でエアにいくらでもさせればいい。
フィオナを作戦に参加させなかったのは、自分達の失態を告発されないようにするためだ。
作戦が終了し、鉄血の基地からエアを回収できればそれで良かったのだ。
だがしかし、肝心のフィオナ指揮官は作戦に独断で参加。しかも、あろうことか敵の重要拠点に殴り込みをかけるという暴挙に出た。
もし自分達より先にエアを奪還されようものなら、自分達の面子は丸つぶれ。
男はすぐさま電話を手に取り、フィオナ指揮官に抗議しようと通話を繋げる。しかし相手は居留守を決め込み、男は電話越しにフィオナ指揮官に怒鳴りつける。
「通信に答えろ、フィオナ指揮官!貴様、何故ここに居る!作戦参加権限など無い筈だ!」
これは明らかな命令違反だ。しかしフィオナ指揮官は男の声に臆する事無く、男に負けじと怒鳴る。
《安全地帯で怒鳴るだけの無能に話す理由などありません!理由が聞きたくば此処まで出張って来なさい!》
男はフィオナ指揮官の返答に一瞬言葉を詰まらせる。しかしすぐに持ち直し、再び怒鳴り散らす。
「貴様、上官を愚弄する気か!!」
男がそう言い捨てると同時に通信が切れる。
男は怒りに顔を歪ませながら、端末のコンソールを叩く。このままでは自分達の立場が危ない。
エアを奪還され彼女に利用されようものなら、ここまで伸し上がってくる為に手に染めた
男は悪態をつきながら端末から手を離し、椅子にドカッと座り込む。
男を苛立たせている要因はもう1つある、フィオナ指揮官と手を組んだ私設武装組織 フェンリルの存在だ。
フェンリルはたった1人の日本系の若い男によって創設された武装勢力。創設の切っ掛けは彼等が占拠・・・向こうは居住権を主張している旧トルコ・シュルナク県にて石油が見つかった事。この石油はフェンリルが地中の調査で偶々地中から湧出したと主張している物だ。
第3次世界大戦、胡蝶事件と世界規模の大惨事が起きている世の中でも燃料の需要はある。それがどこの馬の骨とも知らない者共に掠め取られるのは男にとって我慢ならない。
だが彼等が自分達に明確に敵意を持っているという証拠が無い以上目立った侵攻は出来ない為、男はシュルナク県にスパイを派遣し頭目の始末を試みた。
・・・しかしそのスパイは呆気なく失敗。それどころかフェンリルはスパイに起用した者の身内を保護し、スパイは身内共々生活の質を保証されそのままフェンリルに懐柔された。
野生動物を狩る為に送った狩人が逆に飼い犬になるとは何という皮肉だろうか。
それから男は何度もフェンリルの燃料事業の乗っ取りを画策しスパイを送ったがそのどれもが悉く失敗し、その間にフェンリルは事業によって収入を獲得し、武器・兵器を得て組織を拡大させていった。
彼らは危害さえ加えなければ害は無いが、今やフェンリルはグリフィンの供給する燃料のシェアの4割を保有する一大勢力に成長している。その事が男にとって我慢ならなかった。
だが彼等を潰す手段が思い付かない。現に自分達の同志だったバーナード・デヴィンターは周辺の暴走族に自分指揮下の戦術人形を貸与しフェンリルを襲わせたが、返り討ちに遭っただけでなくフェンリルからの報復を受け、汚職を暴かれ懲戒解雇の後に逮捕となった。
おまけにこの一件以降はフェンリルにI.O.P.との
男は考える。どうすればフェンリルに一矢報いれるのか、と。
そんな時だ、男の同志である指揮官から連絡が入る。
どうもフィオナ指揮官の率いる部隊の傭兵に1人だけ異色なのが居るらしく、画像も送られてきている。
その画像を見た男は、目を見開いた。画像に映っていたのは背部の大型ブースターが威圧的な赤い鋼の巨人、そしてその周辺にはフェンリルが保有する試作戦術人形部隊がいる。
なるほど、どうやらフェンリルの最高戦力が出張ってきているらしい。男はニヤリと笑みを浮かべ、自分の部下達に命令を下す。
「私だ、至急シュルナクへの進発準備を始めろ」
男はそう言って部下からの返答を聞かずに電話を切り、椅子を回転させ窓の外を眺める。フェンリルの頭目と最高戦力が出払っている間に戦力を纏めシュルナクへ進行。
相手は武器・兵器を有しているとはいえ人間の部隊だ、戦術人形の敵ではない。指揮下の戦術人形達に相手はグリフィンに対し反乱を企てているテロリスト集団と伝えておけばいい。手柄さえ立てれば言い訳はいくらでも出来る。
男はそう考え再び椅子に深く腰掛ける。
シュルナクを占拠すればフェンリルが保有する燃料資源は自分達の物だ、フィオナ指揮官と私設武装組織のメンバーを捕らえて不穏の芽を完全に摘めば良い。そして自分は本社で悠々自適に暮らすのだ・・・これから起きるであろう大捕物とそんな未来図を描きながら男はほくそ笑むのだった・・・。
・・・だが、その予想は大きく裏切られる事になる。
「失礼します!」
声の主である男はノックの音と共に執務室に入って来る。その男の表情には焦りが浮かんでいた。
「どうした?」
指揮官は男に問う。男は未だに息が上がりながらも要件を話す。
しかし、彼の口から語られたのは想像だにしない内容だった。
「やられました・・・私共と同志様方のサーバーが過負荷で機能停止しました・・・」
男の言葉に指揮官は言葉を失う。サーバーが過負荷で機能停止?そんな馬鹿な、と彼は思った。
その頃、アナトリア。
かつてシュルナク県と呼ばれ、私設武装組織 フェンリルが管轄するようになってから独立自治区アナトリアと改名したその土地。
そこにあるフェンリル基地でそれは行われていた。
「OK、ハッキングを仕掛けてきたバカとそいつと繋がりのある連中のサーバーは全部焼いといたよ」
〈回線切断、逆探知の危険を排除〉
「サンキュー、“グルーオン”。これでもう奴等は俺達に手出し出来ない」
そう言ってパソコンの画面に向かう少年は画面に浮かんでいる男性の声を発した黄色い双四角推の結晶体に話かける。
黄色い双四角推はセラフを基にフェンリルの技術班と研究開発班が協力して完成された有期型人工知能の1号機、個体名“グルーオン”。そしてそのグルーオンがいるパソコンに向き合っている少年は技術班の若き天才“キース”。
そして2人の様子をキースのすぐ背後で見守っていたユウゴがキースの方を優しく叩きながら口を開く。
「ご苦労さんキース、そんじゃお礼参りと行くか?」
「心配ないよユウゴ、ハッキングしてきた奴の事は今回の作戦で組んでるグリフィンの指揮官・・・フィオナだっけ?その人にチクっといたから」
〈無論、私の件は秘匿済みです〉
「パーフェクトだキース、グルーオン」
「〈感謝の極み・・・〉」
ユウゴのセリフにキースとグルーオンがまさかのハモリ。
少し沈黙が訪れたかと思いきや、ユウゴとキースが同時に吹き出し大笑いする。
「キース、グルーオン、テメェらよくも合わせられたな!!あぁ笑った笑った!」
「あははは!まさかハモるなんてね、しかもタイミングピッタリ!」
〈私も驚きました〉
大笑いするユウゴとキースに釣られるようにグルーオンを示す黄色の双四角推も笑うかのように震える。
そしてそれを他所にキースとグルーオンが送信した、フェンリルにハッキングを仕掛けようとしたグリフィン高官の位置情報がフィオナ指揮官の下へ届く。
さぁ、他者を貪り食らうケダモノ共よ、良い夢は見れたか?神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする準備はOK?
・・・では、始めよう。ここからは彼等のターンだ。