シロツメクサの咲く丘で   作:よしだひろ

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盗賊を追って王都を出発した三人。
賊の詳細は分からない。うまくウインディーネを取り戻せるのだろうか。


星を観る館

 星の観察に使われていた館は草原の真ん中にあったので直ぐに見つけることが出来た。

「あれですね」

「こっちから見えるって事は向こうからも見えるって事だぞ。陽が沈むのを待とう」

 王都を朝旅立って今は夕方だ。後数時間待てば陽が沈む。

 三人は草原に腰を下ろして時を待つ事にした。

 陽が沈み空が茜色から藍色に変わりつつあった。

「そろそろ動くか」

 三人は目配せして再び歩き出した。

 館の周りは木々や低木に囲まれていた。三人はそんな茂みに隠れつつ死角を選びながら館に近付いた。

 適当な茂みの中から館を観察してみる。館の周りは高い壁で囲まれているようだ。中の様子は分からない。

 三人は茂みを選びつつ壁伝いに移動してみた。壁を右側に見つつ進むとやがて壁は右に折れた。角に張り付きそっと顔を出して見てみると少し行った所に正門が見える。見張りの姿は見えない。

「どう思う? 正門から入れそうだと思うか?」

篝火(かがりび)が焚かれているでしょう。あれは誰かいるって事だと思いますよ」

「ギーガさん、冴えてますね」

「壁伝いに茂みの中を戻って他の面を調べてから決めましょう」

 キコもギーガも、今回の作戦は可能な限り隠密裡に進めたかった。賊に見つかる事はもちろんあり得ない事だが戦闘も最小限に抑えたかった。

 三人は茂みの中を逆方向に向かってみた。

 正門がある正面玄関から丁度反対側に来た時、そこに小さなドアを見つけた。

「裏口?」

「ここにも賊の姿は見えずか。篝火(かがりび)もない」

「しかし内側に賊がいる可能性はありますね」

 それを確かめる手段は無さそうだった。

「取り敢えず更に先に進んでみませんか?」

 三人は更に先に進んでみた。また角を曲がって暫く行くと傍らに大きな木が立っていた。

「あの木を見てみてくれ」

「大きな木ですね」

「ほら、壁の向こう側まで枝が張り出してるだろう。太さも悪くない」

 シュピナが不思議そうに言った。

「枝がどうしたんですか?」

「あれを伝って屋敷内に入れると思うんだ」

 ギーガとシュピナは驚いた。

「あの枝から飛び移ると言うのですか?」

「ああ」

「私、木に登るのも飛び移るのも自信ないですし、壁に飛び移った後はどうするんですか?」

 キコは考えた。館の中に入るには、正門を突破するか裏口から入るしかない。しかしどちらも賊が待ち構えている可能性がある。

 木の枝を伝って飛び移る方法はギーガもシュピナも自信がないと言う。

「ならば俺が先に壁の上に飛び乗り、そこからロープを垂らすのはどうだ?」

 ギーガはそれに納得したがシュピナは難色を示した。

「私、ロープで登るのにも自信がありません」

「上から引っ張ってやるから」

 シュピナは渋々その作戦を受け入れた。

 キコはザックからロープとかなり細い糸を取り出した。

「糸? 何に使うんですか?」

 その糸は細くて夜になった今ではとても見えにくかった。

「俺はこう言う仕事には慣れてるんでね」

 そう言うとキコは地面を探して拳ほどの大きさの石を拾った。その石にロープと糸を結んだ。キコはその石を持って木に登って行った。

 壁の方に張り出した枝の上に跨って、先端の方に移動していく。壁の近くまで来た時、ロープのもう一方の端を枝に結んだ。

「これで良し」

 次にキコは壁の上の部分を見た。壁の厚さが大体一メートル程あった。キコはそこまでの距離を測ると壁の上に向かって跳んだ。

 壁の上部に着地した時少しバランスを崩したがうまく着地できた。壁の内側には賊の姿は見えない。壁から少し行った所に建物が見える。窓はあるが中は暗い。

 キコはギーガとシュピナが待つ側へロープを結びつけた石をゆっくり下ろした。

「シュピナ、登ってこい」

 シュピナは言われるがままにロープに体重を乗せてみた。キコはそれに合わせて上からロープを引いた。

 シュピナは慣れない壁登りで何度か足を滑らせた。その度にキコはバランスを崩して壁から落ちそうになった。

「シュピナ、早くの・ぼ・れ」

 小さな声で叫びながらロープを引く。やっとの思いでシュピナは壁の上に登った。

「はぁ、はぁ……次はギーガだな。シュピナも引くの手伝えよ」

「分かりましたよぉ」

 キコは再びロープを垂らしてギーガに渡した。ギーガはロープを手に取ると身軽に壁を登り始めた。二人で上から引いているせいもありシュピナの時よりも早く上に登れた。

「さて、今度は降りる方だが、これは簡単だろ」

 念の為キコが上からロープを支えておく事にした。シュピナは腕の力が弱いので今にも落ちそうになりながら壁を降りていった。ギーガは比較的簡単にロープを降りていった。

 二人が降りるとキコは手慣れた手つきで壁を降りていった。キコは地面に降りるとロープを結びつけた石を壁の外側に投げてしまった。石と一緒にロープが向こう側へ行ってしまった。

「あ、ロープを投げてしまったら帰りはどうするんですか!」

「正門から帰るしかないかな」

 キコは冗談っぽく言った。

「ははは、落ち着けよ。その為の糸だ」

 キコは石に結びつけた糸を二人に見せた。

「この糸を手繰り寄せれば石と共にロープが付いてくるだろ?」

「しかし何でそんな面倒な事……始めからロープを垂らしておけば良いんじゃないですか?」

「ロープを垂らしておいたら侵入者がいる事がバレるだろ? 糸なら見えにくい」

「なるほど」

 三人は取り敢えず近くの茂みに隠れてこれからどうするのか話し合う事にした。

「目の前に建物があるが、何とかして入れないものかな」

「敷地内をウロウロしては見張りに見つかるのではないでしょうか?」

 しかしただ茂みに隠れていては何も事は進まない。キコはそーっと建物に沿って歩いてみる事を提案した。残りの二人もそれしかないと思い同意した。

「今、建物を見て右の方は、さっき外から見た正門の方だ。だからそれとは逆に左の方から回り込んでみよう」

 三人はなるべく音を出さないようにして建物に沿って歩いた。部屋に灯りが灯っているところもあった。そんな時は地面に這いつくばって窓の下をすり抜けた。

 外から見た時に裏口があった辺りにやってきた。遠くに裏口が見えたが篝火(かがりび)のような物は焚かれていない。

「待て……賊がいるぞ。そこの茂みにそっと入るんだ」

 三人は近くにある大きな木の根元の茂みに入った。茂みの内側には低木が生えておらず、大木の周りに輪のように茂みが生えていた。

「よーく見てみろ。裏口付近に賊が二人潜んでいるぞ」

 ギーガとシュピナは目を凝らして見てみた。するとキコが言うように裏口の近くに賊が二人立っている。

「ん? あれは……プレートメイル?」

 ギーガは賊がプレートメイルを着ていると言い出した。キコとシュピナにはそこまで見えなかった。

「本当にプレートメイルを着ているのか? そんな高価な物」

「メタリックな感じの質感、分かりませんか?」

「それにプレートメイルは視界も悪くなるし音も出る。機動性や隠密性を重視する賊は着ないんじゃないのか?」

 プレートメイルは通常武具の中では最強の防御力を持つ。剣や槍を通す事はなく正に鉄の塊だ。しかしその分視界が悪くなり重さもあって機敏に動けない。そして動くとカチャカチャ音がする。

「もっと近付かないと分からないなあ」

 その時シュピナが近くの建物を指差して言った。

「あ、あそこにドアがあります」

 シュピナが指差した方を見ると建物の側面にドアがあった。建物の壁に窓はない。

「あそこから入ってみてはどうですか?」

 キコは裏口の賊と建物のドアを見比べた。ドアを調べてみないとそのドアが使えるのかどうかは分からない。

「いきなりドアに入るのは危険だ。罠がないか調べないといけない」

「じゃあ調べて入りましょう」

「いや、ドアを調べていたらあっちの裏口の賊に見つかるかもしれんだろ」

 今いる茂みからドアまでは目の前だ。裏口にいる賊までは少し間がある。

「彼らと違って我々は光る物は身につけていないのでそっとドアに近付けば分からないのではないですかね」

「それはそうかも知れないな」

(しかしドアの探索には時間がかかる)

「それにドアに罠が仕掛けられていたり鍵が掛けられていても魔法によりドアを解錠すれば問題ありません」

「そんな都合のいい魔法があるのか?」

「はい」

「ならその手で行こう」

 三人はそっと茂みから出てドアに近付いた。

「魔法で解錠するので裏口に警戒していて下さいね」

 キコとシュピナが裏口の監視を始めるとギーガは何やら意味のわからない言葉を発し始めた。魔法語による呪文の詠唱だ。

「ゴガキンバラ バース 開けドア シカリンド」

 するとドアは一瞬薄ぼんやりと青白く光った。

「さ、これで大丈夫ですよ。あ、でも中に人がいるかも知れませんが」

 キコはドアに耳を当てて聞き耳を立ててみた。物音はしない。

「まず俺が入る」

 キコはそっとドアを開けて中に入った。内側は暗くてよく見えないが、棚がいくつも並んでおり、床には乱雑に木箱などが散らかっている。

「中に人はいない。入ってこい」

 キコが声をかけるとシュピナとギーガが入ってきた。ギーガはそっとドアを閉めた。

「どうやらここは倉庫のようだな」

「暗くてよく見えないですけど、そのようですね」

「て事は、ここにウインディーネがしまってあるんじゃ?」

 シュピナが呑気に言った。ギーガはすかさず反論する。

「ウインディーネはもっと特別な場所に保管されているか、最悪賊の親玉が直接持ってると思います」

 キコもそれに頷いた。

「ともかくこの部屋から出て館の探索だ」

 キコは入ってきたのとは反対側にあったドアに張り付き外の様子を伺った。




なんとか建物に入る事が出来た。しかし建物内の事は何も分からない。ウインディーネは何処にあるのだろうか。
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