シロツメクサの咲く丘で   作:よしだひろ

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館の中の捜索を開始した三人。
キコはある違和感を覚える。


奪還

 館の中をうろついたり部屋に入ったりを繰り返して数時間が経った。三人はとある部屋に入った。

「どうやらここは資料室のようですね」

 シュピナは本棚に並んだ本を見てみた。

「何やら分からない難しそうな本が並んでいますよ」

 キコはギーガに聞いた。

「なあ、どう思う? 館の中をざっと回ってみたが賊の姿が見えない」

 キコ達は一通り館の内部を回ってみた。館は二階建てで部屋もいくつかあって施錠されてない部屋も多かった。

「正面ロビーには何人か賊が詰めていましたね」

 倉庫部屋から回って正面に繋がる角から覗いた時、遠くに玄関が見えて、そこには賊が何人かいた。キコ達は別の道を進んだのだった。

「案外小規模の賊なのでしょうね」

「多分な……それと気になるのが、その賊が皆プレートメイルを着けていただろう」

「プレートメイルが何なのですか?」

「シュピナはこういう事に慣れていないから分からないのかも知れないが、プレートメイルってのは動きにくいし細かい作業には向いてない」

 プレートメイルは防御に特化した装備で戦闘の事しか考えられていない。敏捷性や機動性は悪い。動くと音がするので盗賊などがつける事はまず有り得ない。

「私もそれには違和感を感じていました。一人や二人ではなく全員がプレートメイルを着けているのは何か変ですね」

 そまそもプレートメイルは高価な防具だ。盗賊風情がそんな高価な防具を揃えて使うのかキコは不思議に思っていた。

「そんな事より途中二階の部屋に見張りが二人立ってたじゃないですか。あそこに人質がいるのでは?」

「まあ、人質でしょうね」

「え? 分かってたんですか?」

「何となくですけどね」

「じゃあ何故制圧して奪還しなかったんですか!」

「シュピナ、声が大きい」

 キコは慌ててシュピナの口を手で塞いだ。

 シュピナはその手を払い除けた。

「人質を取り返しましょう」

「しかし我々はウインディーネの奪還が第一目標だからなぁ」

「違います。人質を取り返す事が第一目標です」

(言い出したら聞かなそうだ)

 キコは困り果てた。出来れば危険は避けたい。依頼主が人質は二の次と言ってるのだから危険を冒してまで人質を取り返したくはなかった。

 しかしシュピナはそれでは納得しそうにない。

 ギーガも困り果てて仕方なく提案した。

「ではあそこにいた賊を倒して尋問してみましょう。ウインディーネの在処(ありか)を」

「人質は?」

「賊を倒せばその部屋に入れますから人質がいれば救出できるでしょう」

(やれやれ。危険は避けられんか)

 仕方なく三人は見張りが立っている部屋に戻った。

 廊下の角を曲がった所に見張りが立っている。廊下の陰で三人は相談した。

「さて、どうする?」

 シュピナが呑気に言った。

「ダガーを投げて急所を突くのはどうですか?」

「相手はプレートメイルを着てるんだ。ダガーなんて効果はない」

 するとギーガが言った。

「キコさんが囮で飛び出して行って下さい。その隙に魔法の矢で片方の賊を狙い撃ちします」

「俺が飛び出した所に矢か。俺に当たるだろ」

「いいえ。魔法の矢は狙った標的に必ず当たります。キコさんには当たりません」

「……信じていいんだな」

「はい」

「で、もう一人は俺がやれば良いのか?」

「出来れば」

「分かった」

 プレートメイル相手にキコが持つショートソードは効果がない。プレートを貫通する事はまず出来ないし切り刻むことも難しい。しかしキコには作戦があった。

「よし、じゃあ行くぞ」

 廊下の角からキコとギーガが飛び出した。シュピナはそっと様子を伺った。

 ギーガは怪しげな言葉を発し始めた。呪文の詠唱に入ったのだ。

「ザルララード モンタナルーヤ 出でよ魔法の矢 サンラナ」

 賊の二人はその声に反応してキコとギーガに気付いた。しかしその時にはキコは間合いに入っていた。

(魔法の矢はまだか)

 キコはロングソードを抜くのにもたついてる賊に牽制の意味でショートソードを薙ぎ下ろした。

 しかし案の定ショートソードは硬いプレートメイルに跳ね返された。キコの攻撃に片方の賊は怯んだがもう片方は怯む事なくロングソードを抜いた。

 キコは反射的に半歩後ろへ下がった。

 その時キコのすぐ傍を魔法矢が三本すり抜けた。その矢は片方の賊のプレートメイルも貫通して中にいる賊に当たった。

「ぐほ!」

 その賊は一撃で倒れた。

 もう片方の賊はそれでもロングソードを上段に構えてキコに振り下ろしてきた。

 キコは素早くその賊の後ろに回り込んだ。

(真後ろは死角だ)

 賊はキコを見失ってキョロキョロしていた。

(プレートメイルの視野では俺を見つけられまい)

 しかしその賊は遠くにギーガを発見した。そしてそちらに動き出した。

「え? 私?」

 しかし次の瞬間。キコは賊の膝の後ろを蹴り倒した。不意に膝を蹴られて賊は前のめりに転んだ。

「プレートメイルを着ていては自力で起き上がれまい……」

 キコは倒れた賊に近付いたロングソードを蹴って遠くに飛ばした。そして賊のヘルメットを取った。首元に剣を突き付ける。

「騒いだら殺す。この部屋は何の部屋だ?」

「…………」

「別にお前が死んでも状況は変わらない。俺達はこの部屋に入る事は簡単に出来るんだ」

「……分かった。話す。この部屋には人質が監禁されている」

「素直になったな。部屋の鍵は?」

「鍵は掛かっていない」

 キコはシュピナを呼び寄せた。そしてドアに鍵が掛かっていないか開かせた。

「ドアは開きます」

「嘘はついてないようだな。もう一つ。ウインディーネは何処にある?」

 シュピナはドアを開けて中に入ってしまった。慌ててギーガがシュピナの跡を追う。

「シュピナさん、不用意な行動は危険……」

「あ、人質がいました!」

 キコは賊に再び聞いた。

「ウインディーネは何処だ?」

「資料室に隠してある」

(資料室?)

「資料室とは何処だ?」

 キコは詳しく資料室の場所を聞いた。それはさっき入った部屋だった。

(あの部屋に隠してある? そんな雰囲気の場所は無かったが……)

「どの様に隠してあるんだ?」

「そこまでは分からない。本当だ」

「分かった、信じよう」

 そう言うとキコは賊の頭を剣の柄で思い切り殴って気絶させた。

 シュピナは縄で縛られている人質の縄を解いている。一緒に縄を解いているギーガを呼んだ。

「この二人の賊の鎧を脱がせて縛り上げよう」

 キコとギーガは賊の鎧を脱がせにかかった。脱がせながら今聞いた情報を伝える。

「資料室に? ウインディーネが隠されている様な所は見当たりませんでしたけどね……?」

 人質の戒めを解いて代わりに人質がいた部屋に賊を放り込んでおいた。ロープで猿ぐつわを噛ませた。

「助けて頂いてありがとうございます」

「今ここでのんびり話してはいられないんだ。とにかく付いてきてくれ」

 ギーガを先頭に立たせキコはしんがりを務めて資料室に戻った。

(しかし困った事になったな。人質が一緒じゃ帰り道をどうする?)

 キコ達だけでは木に結んだロープを伝って外に出られるが、人質にそれを期待するのは無理がある。

 そんな事を考えてるうちに資料室に着いた。

「ここにウインディーネが?」

 ギーガは一通り部屋の中を見て回った。そんなに広い部屋ではない。(むし)ろ狭い。いや、狭すぎる。

「うーん。部屋が狭い以外変わった所は無いですが……」

 ギーガは考えてみた。宝石をどうやって隠すのか。

「そうか。本の中をくり抜いてそこに隠しているのかも」

「本の中を?」

 ギーガは近くの本を取り出して下向きにして振ってみた。何もない。次の本を取って下向きにして振る。何もない。

「本の中に隠してあるならこうして振れば落ちてくるはずです」

 キコとシュピナも同じように振ってみた。次から次へと本を振るのだが何もない。

「予想が外れたんじゃないのか?」

 しかしギーガがある本の背表紙を引っ張った時、カチャリと音がした。

「ん?」

 するとその一角の本棚がドアのように手前に開いた。

「隠し扉だ」

 本棚が開く事でその奥に部屋が見えた。

「中は暗くてよく見えない。ランタンを点けよう」

 ランタンで灯すと部屋の中にはまた別の本が平積みされていた。

「ん? あれは?」

 傍らに宝石箱が置かれている。キコは手にとって箱を開けてみた。中にはうっすら青い宝石が入っていた。

「ギーガ、これは?」

 宝石をギーガに手渡す。ギーガは宝石をよく見てみた。ザックからウインディーネの図面を取り出して見比べてみた。

「これは恐らくウインディーネでしょう」

 




どうにかウインディーネを見つけた三人。
人質も無事に助け出す事が出来た。
しかし問題は残っていた。
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