シロツメクサの咲く丘で   作:よしだひろ

4 / 11
ウインディーネも取り返して人質も取り返した。
あとは王都に帰るのみだったのだが。


脱出

「人質も無事、ウインディーネも手に入った。これで任務終了ですね」

「何を言ってるんだ、シュピナ。無事に王都に帰れたら任務終了だ」

「だって来た道を帰るだけじゃないですか」

 キコは不安に思ってた事を言った。

「人質にロープで壁上りさせる気か?」

「……それは」

「人質を無事に帰すには正門か裏口を制圧するしかないぞ」

「どちらかと言うと裏口を制圧する方が楽でしょうね」

 三人は話し合った。正面玄関には何人もの賊が詰めていた。裏口に見えたのは二人だ。

「よし。裏口の賊を突破する事にしよう」

 キコ達は人質を連れて倉庫部屋まで戻った。戦闘になったら人質は危険なので、取り敢えず人質にはこの倉庫部屋で待っててもらう事にした。その上で相談した。

「どうやって賊を倒す?」

「また魔法の矢で片方を倒せば良いんじゃないですか?」

 しかしギーガは言った。

「魔法の矢では届かないですね。もっと近くに行くか、それとも向こうから近付いてきてくれない事には……」

「他に有効な魔法はないか?」

「あるにはありますが、あの距離ですと爆発系の魔法しかないので、その音で他の賊を引き寄せる可能性があります」

「では仕方がない。三人で突撃して近付いて、魔法の矢で片方を、俺とシュピナでもう片方をやるとしよう」

 しかしシュピナが言った。

「私、プレートメイルの相手なんてしたことありませんよ」

「大丈夫。素早く後ろに回り込んでしまえば相手からは見えない。その隙に相手を転倒させるんだ」

「……分かりました」

 早速三人はドアを開けて外に出た。遠くに賊が二人見える。三人は目配せして一気に賊に近付いて行った。

 すると建物の影から別の賊が二人現れた。

「しまった。人数が増えた!」

 賊もキコ達に気が付いた。キコは咄嗟に作戦を変更する事にした。

「ギーガ! さっき言ってた爆発系の魔法で奴らを狙ってくれ! シュピナは人質達を呼んでくるんだ!」

「は、はい」

 ギーガはその場に立ち止まり呪文の詠唱に入った。シュピナは踵を返して倉庫部屋に戻った。キコは賊に立ち向かうと見せかけてドアに近付いた。

 賊も突然現れたキコ達に驚いたが、一人が命令を下した。

「サルノはドアの奴をやれ! ジャルルは戻って応援を呼ぶんだ。俺とデニスはあのひょろ長をやる」

 そう言うと一斉にロングソードを抜いた。ジャルルと呼ばれた男は建物の方へ向きを変えた。プレートメイルを着ているせいで機敏な動きも走ることもできない。

 その隙にキコはドアに張り付くことが出来た。ドアには閂がはめられている。

(思った通り単純だ)

 振り返ると一人の賊がキコの方へ歩いて近付いてくる。キコはショートソードを抜いた。

 キコはその男に向かって体当たりをした。そのまま倒れてくれればと思ったが、男は二、三歩後ろへ下がりそこで踏ん張った。

 しかしキコは反撃の隙を与えなかった。

「オラァ!」

 キコは賊の腹を思い切り蹴った。賊は再び二、三歩後ろによろめいたが、やはり踏ん張った。

 チラリと残り二人の方を見る。ギーガの直ぐ近くまで近付いていた。

 しかしそのタイミングでギーガの呪文の詠唱が終わった。

「火の玉よ ガサーラ」

 するとギーガの目の前に巨大な火の玉が出現して勢いよく前進して行った。ギーガに近付いていた二人はその火の玉に当たり後ろに倒れた。火の玉は元々賊が詰めていた辺りに落下すると大爆発した。

 その爆風で応援を呼びに戻ったジャルルもキコに向かってきたサルノも倒れてしまった。キコもドアに体を叩きつけられた。

「いてぇ!」

 その音に驚いて人質を連れて建物から出てきていたシュピナが駆け寄ってきた。

「シュピナ! 人質をここまで連れてくるんだ。今のうちに逃げるぞ!」

 キコは閂を開けた。振り返ると目の前に倒れている賊が見えた。その時首の辺りにマークが描かれているのを見つけた。

「騎士団の印?」

 ギーガが駆け寄ってくる。キコはギーガにも確認してもらった。

「これは間違いなく王国の騎士団のものですね。何故?」

 その時シュピナが人質を連れて合流した。

「シュピナ。その扉から外に出ろ。安全を確認したら逃げるぞ」

     *

 王都に着いた時はもう朝だった。城門を潜り街へ入る。まだ少し早かったのでみんなはキコが使っている宿に行き朝食を取る事にした。人質達はお金を持っていなかったのでキコがそこは持った。

 少し店で休憩した後ベルナルド卿の屋敷に向かった。

 屋敷に着くと人質は別の部屋にキコ達は応接間に通された。

「それにしてもあの賊は何故騎士団の鎧を着ていたんだ?」

「確かに変ですよね」

「もしかして騎士団に憧れて真似してたんですかね?」

 シュピナだけは余り深刻には考えていなかった。キコはどうしても賊が騎士団の鎧を着ていた事に納得が行かなかった。

「或いは横流し品……ですか?」

(横流し品……か)

「その可能性もあるだろうが俺はそうは思わない」

 その時ベルナルド卿が部屋に入ってきた。

「この度はウインディーネを取り返して頂きありがとうございました」

「人質を取り返したついでです」

 シュピナが強めに言った。

「人質も助けて頂きありがとうございます。つきましては報酬の方を……」

 そこでキコが割って入る。

「報酬は頂く……正当な額をね」

「どう言う意味ですか?」

「ベルナルド卿、我々に何か隠していないか?」

「…………」

「もしかしたら裏に何かあるのではないですか?」

 ギーガも付け足した。

「あれは本当に賊だったのか?」

「それはどう言う……?」

「あの賊は本当は騎士団なんじゃないのか?」

「…………」

「賊という割には全員プレートメイルを着けていたし統制の取れた組織だった。何より鎧に騎士団の印が付けられていた」

 それまで黙って話を聞いていたベルナルド卿は深く椅子にもたれゆっくりと話し始めた。

「良いでしょう。そこまで言うなら全てをお話ししましょう」

 ベルナルド卿はお腹の上で手を組んで話し始めた。

「これは所謂一つのテストだったのです」

「テスト?」

「はい。そしてそれは合格です」

「一体何のテストなんですか?」

「魔王ゲオルグを知っていますよね?」

 魔王ゲオルグは、最近頭角を表し王国に戦争を仕掛けてきたもので、その素性や正体、目的などは何も分かっていない。

「ゲオルグとこのテストは関係ないでしょう」

「所があるのです。魔王ゲオルグは今我が国と戦争をしています。この魔王を倒す為に我々はある作戦を考えました」

「作戦?」

「暗殺です。魔王ゲオルグとの戦いは現在拮抗しています。しかし僅かながら我が王国は押されている。このままではやがて負けてしまうでしょう」

 ゲオルグの軍団は魔法により作り出されていると噂されている。オークを中心とした軍団で疲れを知らず昼夜問わず攻め入ってくる。スタミナで負けているのだった。

 今は僅かに押されているだけでもそれが積もればやがて大きく敗退してしまうだろう。

「そこで我が国では暗殺部隊を編成する事にしたのです」

「それが俺達って事か?」

「いくら何でもそれは無理です。一国の軍隊が束になってかかっても破れない敵を我々三人で立ち向かうなんて」

「三人ではありません。それに魔王の軍団に挑んでほしいのではなく魔王そのものに挑んで頂きたいのです」

「三人ではないとは?」

 ベルナルド卿は少し表情が緩んだ。

「暗殺部隊はあなた方のパーティーだけではなく、いくつかのパーティーに頼むつもりです」

「暗殺部隊は他にもあると言う事か……」

「はい。いくつもの暗殺部隊で魔王ゲオルグに立ち向かいます。どれかのパーティーが魔王を倒すことが出来たら我々の勝ちです」

「魔王の軍団ではなく魔王そのものに挑むと言うのもそう言う意味ですか?」

「はい。戦場を迂回して魔王そのものを討って下さい」

 しかしキコは不思議に思った。

「魔王は戦場にいるのではないのか?」

「我々も魔王ゲオルグの情報を得る為に戦場を隠密裡に偵察していたのですが、魔王ゲオルグはどうやら戦場にはいないのです」

「なるほど。戦場には頼れる部下を配置しているのですね」

「はい。恐らく魔王ゲオルグはどこかの本拠地で魔物達を作り出しているものと思われます」

(その魔王を俺は倒せるのか?)

「私はそんな相手を倒せるとは思えないのですが」

「しかしシュピナさん。このままでは魔王にこの国は乗っ取られてしまいますよ」

「そうなったらどうなるんですか?」

「それは分かりませんが今のような平和な世は終わるでしょうね」

 キコが口を挟む。

「のんびりブーデス教を布教していられなくなるって事さ」

「それは困ります」

 キコは強大な魔王ゲオルグを倒せる自信は無かった。

(しかし魔王ゲオルグを倒せば英雄だ)

 いつか名声を得たいと思っていたキコにはまたとないチャンスでもある。

「この暗殺の依頼、受けてもらえませんか?」

 キコは悩んだ。倒せる自信はないがチャンスでもある。今動かなかったら次にいつチャンスが巡ってくるのか分からない。

 ギーガはサラッと言った。

「報酬次第ですね」

「報酬なら相談に乗ります」

「一国のピンチを救うんです。それなりの報酬は頂かないと……」

「良いでしょう。十分な財宝と宮廷魔術師として迎え入れましょう」

「言ってみるものですね」

 ギーガは満足そうだった。意外と欲望が強いのだなとキコは思った。

「キコさんとシュピナさんは受けて頂けますか?」

 キコもシュピナも迷っていた。しかしシュピナは覚悟を決めた。

「ゲオルグに占領されてはまともに布教活動ができなくなるんですよね。それは困るので私も参加します」

「おお、受けてくれますか!」

 キコはどうするべきか真剣に悩んだ。

(倒せば英雄だ……しかし)

「もし途中で無理となったら逃げ出すぜ?」

「構いません。あなた方の事は王国の預かり知らない事ですから」

「ん? どう言う事だ?」

「つまり……」

 これらの暗殺部隊は非公式のパーティーになる。なので王国からの金銭的な援助は全くない。一応情報共有だけは出来るように城への出入りを許される事にはなるが。

「逆を言えば好き勝手やって良いって事か?」

「はい。我々の知らない事ですので」

(途中無理と分かれば離脱して良いのならやれるだけやってみても良いのではないか?)

「良いだろう。この依頼受けよう」

「ありがとうございます。では後日城へ登城して頂きます。任命式を行います」

 三人はまるで実感が無かったが暗殺部隊となった。




ウインディーネの奪還依頼はテストだった。
キコ達は魔王ゲオルグを暗殺する為に試されていたのだった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。