シロツメクサの咲く丘で   作:よしだひろ

5 / 11
任命式が始まった。会場には強そうなパーティーが何組もあつまっていた。キコ達は任務をうまくこなせるのだろうか。


暗殺部隊

 ベルナルド卿から呼び出しがあった日、三人は一緒に城へ入った。

 ベルナルド卿から呼ばれて来たと伝えると、一角の会議室に通された。

 部屋に入ると既に何組かのパーティーが席に着いていた。

「これみんな魔王ゲオルグの刺客かぁ。強そうだな」

「僕らもそう見えていると良いのですがね」

 その後も何組かのパーティーが部屋に通されてきた。それぞれ席について時を待った。

 暫くしてから国の役人と思しき人々がゆっくりと部屋に入ってきた。その中にベルナルド卿の姿もあった。

 役人の一人が挨拶を述べて任命式が始まった。再度現状が話されてここに集まった人々の任務の事を説明された。

 王国は公式には彼らの活動に関わらない事が強調された。行く先々で必要になる路銀や武器や防具など必要なものは全て自分達で調達せよとの事だった。

「しかし、見事ゲオルグの首を打ち取り、その証を持ち帰ったものには十分な褒美を与える事は既に周知されていると思います」

 キコはどちらかと言うと報奨金より名声を手に入れたかった。確かにお金があれば裕福な暮らしができるがそれには余り魅力を感じなかった。

 次に各パーティーのリーダーが呼び出された。各リーダーには王国の紋様が入ったバッジが手渡された。

「そのバッジを見せれば城への出入りは自由になるようにしておきます」

 全てのパーティーのリーダーにバッジが配布されると暫しの沈黙があった。その後作戦参謀のユヘナから言葉があった。

「諸君らは我が王国の最初にして最後の希望である。魔王は強大で謎の多い存在だ。一筋縄では行かないだろう。しかし諸君らの力を持ってすれば必ず撃破できるはずである!」

 キコは詰まらない士気高揚の演説だと思った。

「つまり諸君らは諸君らの考えに従って自由に行動して良い。味方同士手を取り合っても良いし孤軍奮闘しても構わない……」

(王国からのサポートがないのだ。そりゃ好き勝手にやらさせてもらうさ)

 キコはそう思った。

「私は諸君らの活躍に大いに期待を持っている。よろしく頼む」

 そう言うとユヘナは部屋を後にした。

(一体この中に魔王を倒す者はいるのだろうか。俺は、魔王を倒せるのか?)

 ユヘナが部屋を出るとベルナルドが話し始めた。

「僅かではありますが、王国から支度金を用意させていただきました」

 再びパーティーのリーダー達が支度金を貰いに集まった。

「皆様方には旅で得た情報を王国に報告していただきたい」

「何か情報を掴むたびにいちいち城に帰ってこいと言うのか?」

 みんなはざわついた。

「情報を共有できればその情報の価値が高まります。更に魔王を討伐するまでの時間短縮にもなるでしょう」

(これは面倒くさい事になったぞ)

 みんながザワザワして文句を言う者まで現れた。ベルナルドや役人達は一度集まって話し合いをした。程なくしてベルナルドが言った。

「では、皆さんが仕入れた情報を買い取ると言うのはどうでしょうか? 逆に情報を知りたければ対価を支払う。これならば意味が出てくるのでは?」

 それでもまだみんなはザワザワしていたのだが、大きな声で反対意見を言う者がいなかったので、それで話が決まった。

 ベルナルドは今分かっている魔王に関する情報を話し始めた。

「戦場で捕虜にした者の話によると、魔王の居城は西にあると見ています。魔王の軍団も西の国境を越えてやって来ている」

(魔王の本拠地は戦場より西になるのか)

 王国軍では戦場を迂回して更に西に捜索隊を送った。街道は山道になり険しい谷になった時、そこに大きな門を見たそうだ。

「その門は門と言うよりも壁だったと言います。地形を利用して高い壁を街道を塞ぐように建てていたんだそうです。我々はこの門を入り口の門と呼ぶことにしました」

 入り口の門は大軍勢で守られていた。探索隊の話では門を正面から突破するにはこちらも大軍勢で攻めないといけないと言う事だ。

「しかし周りは山です。入り口の門を大きく迂回できればそこを通過する事も出来るでしょう」

(どのぐらい険しい山なんだ……?)

「もし首尾よくゲオルグ軍の領地内に入れたら、なるべく多くの情報を集めてもらいたい」

「ゲオルグの領地に入れた者はいないのか?」

「挑んだ者達はいます。しかし誰も帰ってきていません」

 ゲオルグに関する情報は少ない。従ってゲオルグの人物像は分かっていない。ゲオルグは魔法によって作り出された怪物を次々に王国に送り込んでくる。恐らくかなりの魔力の持ち主だろう。

「という事で任命式は終わります。今から皆さんの行動は自由です。魔王を一刻も早く討伐して下さい」

     *

 王都を出てからは西の街道を進んだ。ゲオルグの軍団との戦場も入り口の門も西にあるからだ。

 王都を出て数日はのどかに過ごす事が出来た。時折街道を野生の動物が横切ったりした。

 野宿しながら街道を進む事数日、マールの街が見えてきた。マールの街は広大な小麦の畑に覆われていた。

「今夜は柔らかいベッドで眠れそうですね」

「ああ、そうだな」

「あ、私はあなた達とは別の部屋でお願いしますね」

 三人は街の門をくぐり街の中へ入って行った。街は賑わっている。

 三人は手頃な宿屋を探して入った。一旦部屋に荷物を置いて酒場に集まって話し合った。

「一応この街でもゲオルグの事を聞いてみるか?」

 ギーガは懐疑的だった。

「恐らくたいした情報は得られないと思いますよ」

(俺もそう思うが)

「何でですか?」

「こんな王都の近くの街でゲオルグの噂が流れてるはずないと思いませんか?」

「うーん。私には分かりません」

 シュピナは宗教家としては立派な立場にあるのだろうが、このような仕事にはあまり慣れていないようだった。

「まあいい。一応聞くだけ聞いてみることにしよう」

 三人は宿を出て近くの武器屋に入ってみた。店に入ると野太い声の店員が挨拶してきた。

「いらっしゃい……」

 キコは飾られているショートソードを何本か眺めてから店員に話しかけた。

「中々良い品揃えだな。この中に魔王ゲオルグに対抗出来る剣はあるか?」

「魔王ゲオルグ? 近年王国に攻め込んできたっていう奴の事ですかい? 生憎そいつの素性が分からんから何とも言えませんな」

「ゲオルグについて何も知らないのか?」

「さてね。戦場から戻ってきた奴もいないし俺はこの店から出ない。噂を聞くこともないよ」

 キコは店員にチップを支払い店を出た。他に魔法の道具を扱う店や宝石商などにも当たったがゲオルグの情報は得られなかった。

「やはりここは戦場からも遠いしゲオルグについての情報は期待できないですね」

「だな」

 三人は一旦宿へ戻り話し合うことにした。この街はまだ王都に近く戦場の情報は中々入って来ない。

「やはり戦場へ行くのが一番ゲオルグに近付けるのではないだろうか?」

 しかしギーガは言った。

「戦場ではこの街よりたくさんの情報を得られるでしょう。しかしゲオルグは戦場に現れない」

「それはつまり?」

「ゲオルグの情報を得ようと思うなら奴の領地に入りその土地の人間に聞くしかないと言う事です」

 シュピナが驚いて言った。

「ギーガさん、それは無理ですよ。ゲオルグの領地へ行く街道は入り口の門で守られているのでしょう?」

(ギーガの言う事は尤もだ。しかし確かにゲオルグの領地へ行くには入り口の門を突破しなければならない)

「入り口の門は深い山の中にある谷に築かれていると言います。深い山なれば獣道などがあるでしょう」

「獣道だなんて、そんな都合よく……」

「仮に獣道があるとしても、戦場を抜けなければ入り口の門にも近付けんぞ」

 するとギーガはザックの中から一枚の紙を取り出してテーブルに広げた。

「これはゲオルグが現れる前に作った地図です。多少古いですが王国の発行するものよりも詳細に作られています」

「そんな詳細な地図、誰が作ったんだ?」

「僕が歩いて作ったんですよ……と、そんな事はどうでもいい。この地図をよく見てください」

 今、王国軍とゲオルグ軍が戦っているのはボイメン盆地と言われる広い盆地だ。周りは険しい山々に囲まれている。

 王国側からは街道に沿って西に進むと盆地の南側に出る。街道は盆地の南側で北に折れていて丁度盆地の真南に入っている。

 一方、入り口の門はボイメン盆地の西にある。ボイメン盆地の南西側に街道は続いていて、その南西の道が西に折れ曲がり深い谷間に入り口の門が作られていると思われる。

「この地図では正確に入り口の門の場所は分かりませんが、恐らくこの辺りにあると思われます」

 ギーガは街道が西に折れた少し先の辺りを指差した。

「入り口の門の正確な位置は行ってみなければ分からないが、結局は戦場を抜けると言う事じゃないのか?」

「ですよね?」

 しかしギーガは首を振った。

「道と言うのは何も街道だけではないんですよ。僕はこの地図を歩いて作ったと言ったでしょう。街道以外の所も歩いているんです」

「つまり?」

「戦場の南側の、この山岳地帯はそれほど険しくはない。歩いて超えられないものではないと言う事です」

 キコは最初信じられなかったが、それもまた一つの方法だと納得できた。

「つまり、街道が北に曲がっているあたりからそのまま西へ山の中に入り、道なき道を進んで隣りの街道まで出ようって事か?」

「そう言う事です」

 シュピナは露骨に嫌がった。

「そんな! 道のない山の中を歩くんですか?」

「街道でなくとも歩く事は出来ますよ。現に僕は歩いてこの地図を描きあげたんです」

「でも、そもそも戦場に行って情報を集めた方が楽なのではないですか?」

 シュピナは余り山越えをしたくないようだった。

「いや、ですから戦場にはゲオルグは現れない。現れない者の情報は得られないんですよ」

「うーん……そこまで言われたら……」

 シュピナは渋々山を越える道を納得するのだった。

「でも、どうやって入り口の門を突破するんですか?」

「今は全く見当もつきません。とにかく一度その門を見てみない事には」

 三人は取り敢えず山を越えて入り口の門の近くへ向かってみることにした。その日は早めに床に着いた。




王都に近い街ではゲオルグの情報は中々手に入らない。三人は戦場へ向かう事も考えたが一先ず入り口の門を見に行く事にした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。