シロツメクサの咲く丘で   作:よしだひろ

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キコ達は街道を西へと歩いていた。
まだ戦場は遠い。もちろん入り口の門はそれより先だ。


入り口の門

 マールの街を出て数日が経っていた。街道には時折野生の生物が現れて中には獰猛に襲いかかってくるものもいたが、キコ達はそれを逆に仕留めて貴重な食料としたりしていた。

 戦場に向かう街道に入ると人影もなくなってきた。

「他の街へも行ってみるべきでしたかね?」

「徐々に戦場が近くなってるからな。或いは他の街で情報を収集しても良かったのかもしれんが、ゲオルグについては分からなかっただろうよ」

「私はもう野宿は飽きました。ベッドで寝たい」

 シュピナだけは相変わらず呑気だった。

 更に数日歩くと街道は深い森に入った。少しずつ山岳地に近付いているようだ。

「山岳地に近付いてますね。あと数日で街道は北に折れますよ。そしたら街道を逸れて……」

 その時傍らの茂みの中から何者かが唐突に襲いかかってきた。二匹のオークだった。

「オークだ! 気を付けろ!」

 キコは反射的にショートソードを抜いた。ギーガも咄嗟に魔法の呪文を唱え始めた。

「シュピナは俺の後ろをついて来い!」

「は、はい」

 キコは左のオークに切り掛かった。左のオークは革の盾でキコの剣を受ける。と同時に右のオークもキコに切り掛かってきた。

 キコはショートソードをスライドさせて下ろし、右の奴の剣を受けた。

「シュピナ! 右の奴を突け!」

「は、はい!」

 シュピナは言われるままに右のオークの腹を杖で突いた。杖は鎧の上からオークに当たったので、オークは二、三歩後ろによろめくだけだった。

 左のオークが剣を振り上げたのでキコは咄嗟にそのオークに体当たりした。その時ギーガの放った魔法の矢が右のオークに命中した。

 魔法の矢が当たったオークはそのまま後ろ向きに倒れそうになったが、すんでのところで踏んだった。

 キコは一旦間合いを取った。

「あの、もしかして苦戦してます?」

 呑気にシュピナが言った。

「実質二対一なんだ、当たり前だろ!」

「もう、しょうがないなあ……」

 キコは再び立ち向かってくるオーク二匹に向かって雄叫びを上げて突っ込んでいった。左のオークの腹を足で蹴り、同時に右のオークに上段から切り掛かった。しかし片足が浮いてて踏み込めないのとオークの着ている鎧で傷ひとつ負わす事が出来なかった。

「アラルザルドの地の契約により神の祝福を与えたまへ」

 シュピナはそう言って手のひらを握るように組み、頭上に掲げた。キコにはその姿は見えなかった。次の呪文を唱えているギーガはシュピナの体全体が一瞬光り、その光が一つの塊となってキコの剣に飛び込んでいくのが見えた。

 キコはそれらの事には全く気付いていない。再び右のオークの鎧を横に薙いだ。

 すると鎧は真っ二つに裂けてオークの体を剣が切り裂いた。オークは思わず悲鳴を上げる。

「こ、これは……⁉︎」

「キコさんの剣は神の祝福により切れ味が格段に上がっています。ありがとうございます、神様」

 キコは神の魔法の力に驚いた。

 左のオークはそれを見て一瞬怯んだが、今度はシュピナに襲いかかってきた。

「キャー!」

 しかしギーガの魔法の詠唱が終わっていた。ギーガが杖を振り下ろすとその先端から炎が飛び出してまっすぐオークへ飛んでいった。オークは炎に焼かれ後ろに飛ばされた。

 キコは鎧を切り裂かれた右のオークの利き腕を縦に薙いだ。オークは剣でそれを受けたが力が入らず剣を落としてしまった。

 キコはすかさずもう一度そのオークの利き腕を薙いだ。神の祝福を受けている剣の切れ味は抜群で、オークの腕は半分から先が切れ落ちて地面にドサっと落ちた。

 ギーガの炎の魔法が終わるとオークの体を焼いていた炎は消えた。しかし驚くべき事にそのオークは体を起こして立ち上がった。

「体を焼かれてもなお起き上がるのか」

 しかしキコは素早くそのオークとの間合いを詰め、首を横に薙いだ。オークの首は炎に焼かれていたせいもあり、椿の花の如くポトリと地面に落ちた。

 それを見てもう一匹のオークは部が悪いと、切れた腕を押さえながら後ろを向いて逃げていった。

「逃すか!」

「深追いは禁物です!」

 ギーガはキコを制した。キコはその言葉に動きを止めた。オークはそのまま逃げていった。

「それにしても神の祝福というのは凄まじい力だな」

「神様に感謝です」

「しかし、オークが現れるとは、戦場より王国側にいるとは言え、もうかなりゲオルグの領地に近付いてるのですね」

「もうこの辺りはテオベルク山脈に続く山々の麓でしょう。街道を逸れたら少しずつ勾配が出てくると思います」

 数日後、三人は北に曲がる街道を逸れてそのまま西へ向かっていった。ギーガが言ったように道は少しずつ傾斜が付いていて、上りになっていた。森は深く昼間でも辺りは薄暗い。

「木々が密に生えてるおかげで下草も少なくて良かったな」

 辺りには余り草は生えておらず歩きやすかった。三人は時折り狩りをして食糧を調達したりした。そして何度かオークにも出会(でくわ)した。

 やはりオークとの戦闘は厳しかったが、何度かその厳しい戦闘を繰り返す事により、キコはギーガとシュピナの得意とする魔法が分かってきた。

 ギーガはどちらかと言うと攻撃型の魔法を得意とする。直接戦闘に参加する形の魔法が得意だ。

 一方シュピナは補助的な魔法を得意とする。傷を癒したり反応速度を上げたりするような魔法だ。

 そして直接戦闘を担当するのは基本的にキコ一人だ。ギーガもシュピナも敵に攻撃をする事は出来るが決定打を与える事は難しい。

(戦闘を上手くこなすには、俺がこの二人に上手く指示できるかに掛かってくるな)

 そんな事を考えながら森の中を歩いていると前方が明るくなってきた。

「街道があるのでしょう」

「隣りの街道にやって来たか」

「ふう、これで歩くのもいくらかましになりますね」

「それはどうかな……」

 ギーガはピンと来たがシュピナは意味が分からなかった。

「ここはもう戦場を通り過ぎて入り口の門と戦場の間だ。いつゲオルグの兵隊に出くわすか分からんぞ」

「?」

「つまり、のんびり街道を歩いてたら返って危険だって事さ」

「じゃあどうするんですか?」

「このまま森を行くのさ」

「えー!」

 しかしノコノコ街道を歩いていては敵の良い的だ。シュピナにそれを分からせて三人は街道には出ず、街道の左側に広がる森の中を歩いていく事にした。

 二日程経った頃だ。目の前の森が無くなっていた。木々が片っ端から伐採されていたのだ。

 森の中からそれを見て三人はその場で立ち止まった。

「何故木々が伐採されてるんだ?」

 ギーガは顎に手を当てて考えながら言った。

「恐らく入り口の門でしょう」

「入り口の門?」

「はい。もう入り口の門までやってきたんだと思います。木々を伐採してるのは、入り口の門から見晴らしを良くする為だと思われます」

「俺が近付いてみる」

 キコは木々の影に隠れながら伐採されている森との境目に近付いて行った。そして木の影から木々が伐採されている向こうを見てみた。

 森の終わりから向こうは緩やかに下りになっていて、その両側は山の尾根になっていた。尾根と尾根の間に街道が通っていてその先に砦が築かれていた。

(あれが入り口の門⁉︎)

 砦の両側には壁が作られており尾根を超えて長く壁が立ちはだかっていた。砦と壁の上には人影がたくさん見えた。恐らくオーク達だろう。

 キコは二人の元に戻って状況を説明した。

「門というより砦だ」

「見張りの数も多いんですね」

「どうやって突破するんですか?」

 軍隊でも打ち破れなかった入り口の門をたった三人で攻め込んで突破できる筈はない。

「気になるのは両側には築かれている壁だ。一体どこまで作られているのだろう?」

「と言うと?」

「あの壁を迂回出来ないだろうか?」

 ギーガとシュピナは顔を見合わせた。

「ちょっとそれは無理なんじゃないですか? 奴らもそれは考えているでしょう」

「いや、しかし永遠に続いているわけでもあるまい」

 三人は壁を迂回する事について暫く話し合った。しかし話し合いは平行線だった。

 キコが言った。

「では逆に聞くが、壁を迂回する以外にどうやってゲオルグの領地へ侵入する?」

「……それは」

「確かにそれを言われると……」

「だろ? 試しに迂回する道を行ってみないか?」

 ギーガとシュピナは渋々同意した。

「まあ迂回するのは良いとして、砦を正面に見て左の方の壁を迂回するのか右の方の壁を迂回するのかですが」

 ギーガは徐ろに地図を広げた。

「この地図によると入り口の門は大体この辺りです。ここから右は険しい山ですね。左は……ティーファーシュルフト溪谷ですね」

「山と渓谷か。行くならどっちだ?」

「川を下っていけば見つからないのでは?」

 キコもギーガもシュピナのその意見には賛同できなかったが、山道を行く積極的な意見もなかったので渓谷を行こうと言う事になった。

「取り敢えずこの森の中を左へ進み渓谷に出てみましょう」

 三人は徐々に陽が傾いてきた森の中を渓谷の方へと歩いていった。




入り口の門はまるで砦のようだった。
張り出した壁を迂回できれば回り込んでゲオルグの領地へ入れるのだが……。
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