シロツメクサの咲く丘で   作:よしだひろ

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渓谷へ向かった三人。
首尾よく迂回する事は出来るのか。


青年ゲオルグ

 数日後。三人は王都へ戻る為街道を歩いていた。

 あの後渓谷に出る事は出来たのだが、渓谷が余りにも深く険しいものだった為、川まで降りる事は出来なかった。

 辺りはやはり木々が伐採されていたが地面の起伏により入り口の門から直接見えない位置だった。

 なので三人はそのまま渓谷の崖に沿ってゲオルグの領地の方へ歩いてみたのだった。しかし程なくしてその目論見は崩れる事になる。遠くに入り口の門から伸びている壁が見えてきて、その壁の上には見張りが何人か詰めているのが見えたのだ。

 三人は取り敢えず一旦城へ戻り情報を得ようと言う事になったのだった。

 マールの街まで戻ってきた三人は今後の事について話し合った。

「他のパーティーが何か情報を掴んでいるかもしれない。その情報によっては行動が変わる」

「何の情報も無かったら?」

「そ、その時は……」

 ギーガが捕捉するように言った。

「その時は入り口の門の右から回り込むしかないでしょう」

「でも、右は険しい山なんですよね?」

「そうです。しかしいくら険しいと言っても行って行けない事は無いと思いますよ」

 ギーガは楽観的に答えた。

「獣道くらいあるでしょう」

 そんな話をしてから数日後。三人は城に着きベルナルド卿に面会していた。

「成程、あなた方の得た情報はそれで全てですか。それではあまり大したお金にはならないですね」

 そう言うとベルナルド卿はキコに数枚の金貨を渡した。

「これしきの金貨では逆に情報を買う事は出来ないな……二人とも、行こう」

「おっと。待ってください。無償で提供できる情報があります」

「ん? それは?」

「あなた方が旅立った後、ゲオルグ軍の攻撃が激しくなり、戦線が大きく東に動いています。戦場へ向かう際は気を付けてください」

「押されているのか?」

「はい」

(時は一刻を争うと言う事なのか)

 キコ達は城を後にした。城下の宿で三人は作戦会議を開いた。

「折角城まで戻ってきたのに有益な情報はなしだ」

「いや、戦線が東へ移動してると言うのは或いは我々にとって有利かもしれません」

「それは何故だ?」

 戦線が東へずれ込んでいると言う事は敵の勢力圏がそれだけ東へ広がっている。そうなると入り口の門から見て東の辺りは安心して気が緩んで見張りも疎かになっているかもしれないと言うのだ。

「そう簡単な話なのか?」

「分かりません。でもやってみる価値はあると思いますよ」

 確かに今のキコ達には他に作戦はなかった。三人は取り敢えず入り口の門が見渡せる森まで戻る事にした。

     *

「この辺りで獣道も途絶えているが……」

 三人は入り口の門が見渡せる森から北の険しい山に入って来ていた。動物達が移動に使っているであろう獣道を、下草を掻き分けながら進んでいたが、道は徐々に勾配を増してきていた。

「この辺りには背の高い草や木も生えてないですね」

「入り口の門からだいぶ北へやってきたが、例の壁は続いているのだろうか?」

 三人は既に山の中腹あたりまで登ってきていた。大きな木は生えておらず、地面に這うように生えている草がチラホラ見えるだけだった。

「山に登る装備もなくこれ以上上には行けないでしょうね」

 ギーガがそう言った。しかしキコはこのくらいの山ならば大した装備など無くても登れそうな気がしていた。

「私は夜寝る所の心配をしています。こんな斜面で寝る事になるんですか?」

「残念ながらそう言う事になるな。熟睡は出来んから覚悟しておけ」

「とほほ」

 キコは改めて北側の山肌を見た。今はそれでも普通に立っていられるし座ろうと思えば普通に座れるくらいの斜面だ。しかし少し登るだけでそれは斜面と言うよりは崖のような鋭い山肌になっていた。

「入り口の門から伸びている壁は、方角的にはここから西になるんですよね」

 キコは言われるまま西の山肌を見てみた。

 今いる所と同じ高さの斜面が続いており、少し先で峠になっていた。峠の向こうは見えないが、壁がこの辺りまで伸びてるとしたらあの峠の向こうだろう。

 しかしギーガは言った。

「この深い山の中に壁を作りそこに見張りを配しておくのは現実的ではないし困難です。恐らく我々は入り口の門から伸びる壁を迂回出来てる筈です」

 その言葉の成否を確かめるにはあの峠に行ってみるしかない。三人はとにかく西へ向かって歩き出した。

 峠が近付くと地面は昇りの傾斜になってきた。キコはギーガとシュピナをその場に待たせた。

「ここからは匍匐(ほふく)前進して峠から様子を見てみる。二人はここで待っててくれ」

 峠までは五十メートル程ある。キコはその場で地面に這いつくばり、ズルズルと地面を匍匐(ほふく)前進して行った。

 峠が近付くと勾配は緩やかになってきてそれに合わせて反対側の景色が見えてきた。もし向こう側に壁があったらあっという間に見つかるだろう。キコは少しずつ少しずつ前進して偵察した。

 結果、峠の天辺まで来てしまった。反対側には今歩いてきたのと同じ山肌が続いてるだけで壁のようなものは見えなかった。

 キコはその場に立ち上がり、後ろで待機している二人に大きく手を振って応えた。

 キコが立ち上がっている事でそこに壁が無いことを知った二人はゆっくりと峠に向かった。

「どうやらうまく迂回出来たんだな」

「こんな山の奥に来たんですから迂回出来ててもらわないと困りますよ」

「寝床が確保できればもっと良いんですけどね」

 三人は一先ず安心した。しかしここから先はゲオルグの領地である事を再確認するのだった。

     *

 その後西に向かい山岳地を超えた三人は、目立つ街道は避けて草原や森の中を進んだ。ギーガの作った地図だけが頼りだった。

「この地図によると、もう少し西に行くと町があります」

「この地図は正確なのか?」

「ゲオルグが現れる前に作ったものなので、今現在その街がどうなっているのかは分かりません」

 しかし情報を集める為には街へ行ってみるしかなかった。

「でも、街の中にオークがいたら見つかってしまいますよ」

「その時は逃げるだけさ」

 ギーガの地図は素晴らしかった。地図に示された場所にちゃんと街があった。

「市場に行ってゲオルグについて聞いてみよう」

 三人は市場へ直行した。片っ端からゲオルグについて聞いてみたが驚いた事にゲオルグを知る者は居なかった。

「これは一体どう言う事だ?」

 試しに商工会議所に行って聞いてみた。

「ゲオルグ? ああ、あの青年か。そう言えばここ数年顔を見せてないな」

「ゲオルグを知ってるんですか?」

「ああ。時々細工物を売りに来てたあの青年だろ? ここ数年は見てないけどな」

「どこに住んでるんですか?」

「どこだったかな。ビレル村とか言ってたような気がするが」

 三人は高揚した。今までどこの誰とも知れてないゲオルグの住処が分かろうとしているのだ。

 しかしどうもおかしい。魔王ゲオルグではなく青年ゲオルグの話をしているからだ。

「魔王? ゲオルグはそんな大それた事しやしないよ。心優しい恋人想いの良い青年さ」

 三人は礼を言って商工会議所を出た。街から出て話し合った。

「どう思う?」

「どうやらゲオルグと言う同姓同名の青年がいるのかも」

 キコは深く考えた。

「そのゲオルグ青年が何者かは分からない。だが俺達はその青年に会うしか手掛かりはない。会ってみよう」

 三人は一度そのゲオルグ青年に会ってみる事にした。

 取り敢えずはビレル村を目指して歩き出した。数日後遠くに小さな街が見えてきた。三人は迷う事なくその街に入ってみた。

 小さな街だ。街の周りを囲うのは木で出来た簡単な柵だった。街の中に入ると通りを行き交う人もまばらだった。

 その時突然女性の悲鳴が聞こえた。三人は顔を見合わすとその悲鳴がした方へ走り出す。

 すると通りの向こうから一人の女性が何者かに追われて逃げてきていた。

「オークだ!」

 女性の後ろから二匹のオークが女性に迫ってきていた。

(まだ間合いが遠い……)

 キコは咄嗟にギーガに言った。

「ギーガ! 魔法で……」

 しかしその時既にギーガは呪文の詠唱に入っていた。それを見ると今度はシュピナに言った。

「シュピナはスローの魔法でオークの動きを弱めるんだ!」

「は、はい」

 シュピナは呪文の詠唱に入った。キコは女性の元へ駆けつけてオークとの間に立った。女性には顔を向けず迫り来るオークを睨みながら言った。

「大丈夫ですか?」

「は、はい」

 その時ギーガの魔法が唱え終わったようで光の矢がキコと女性の横をシュンと飛んでいった。光の矢は前を走っていたオークに当たった。そのオークは前向きに転んだ。

 転んだオークの横からもう一匹が走り込んできてキコに切りかかった。

 キコは咄嗟に剣を抜いて左手の盾でオークの剣を受けた。左手を力強く弾き返してオークのバランスを崩してオークの腹を横に薙いだ。

 しかしオークの鎧を掠めただけでダメージは与えられなかったようだ。

 転んだオークはやっと立ち上がりキコに向かってきた。ギーガは次の呪文を唱え始めているようだった。

 その時シュピナの魔法も唱え終わったようで、走り込んで来ているオークの動く速度が極端に遅くなっていた。

 目の前にいるオークが剣を頭の上に大きく振りかぶった。

「体がガラ空きだ!」

 キコは左肩を前にしてオークに体当たりした。そしてそのまま押し倒した。オークは堪らずよろけて後ろに倒れた。

 キコは倒れたオークの利き腕を足で踏みつけて剣を突き刺した。オークは悲鳴をあげて剣を手放した。

「もう一匹は!」

 もう片方のオークは今正にキコに斬りかかろうと剣を構えている所だった。しかしシュピナのスローの魔法で動きが鈍くなっていたのでキコはあっさりとその攻撃を交わすことが出来た。素早くそのオークの後ろに回り込み、首の根本を横に薙いだ。

 致命傷には至らなかったがオークの戦意を喪失させるには十分だった。腕を刺されたオークが逃げ出すとスローがかけられたオークもゆっくり後を追うのだった。

 キコ達は襲われた女性に駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「はい。助けて頂いてありがとうございます」

「しかし魔王の支配する土地となると魔王の手下も頻繁に現れるんですね」

「魔王?」

「ゲオルグですよ。魔王ゲオルグ」

「魔王ゲオルグ……まさかあのゲオルグの事じゃないですよね?」

 どうも話が噛み合わなかった。詳しく話を聞いてみると、やはり心優しいゲオルグ青年の話になった。

「ゲオルグは隣りのビレル村に住んでいて時々恋人とこの街にも遊びに来てたんですよ。自分達で作った細工物を売りにね」

「今もビレル村にいるんですか?」

「最近はもう来なくなってしまいました。だから今はどうしているのか分かりません」

 三人はビレル村の場所を確認して街を後にした。




心優しい青年ゲオルグ。彼は一体何者なのか。
魔王ゲオルグとはどのような関係なのだろうか。
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