シロツメクサの咲く丘で   作:よしだひろ

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ビレル村にやって来た三人。
ここにゲオルグ青年がいる。
魔王ゲオルグに繋がる情報を得る事は出来るのだろうか。


エリーザの手鏡

 峠の上で道は二手に分かれていた。西へ向かう道と北へ向かう道だ。西に目をやると大きな湖の畔に小さな村が見えた。

「あれがビレル村だな」

 女性から聞かされた通りの小さな村だった。三人は峠を越えてビレル村に向かった。

 村に着くと村の真ん中に小さな丘があった。シロツメクサが群生している。その丘から右側の方にいくつかの家が並んでいた。三人は村を回ってみることにした。

 通りを行き交う人は殆どおらず、家々の軒先に老人が座っている事が多かった。村はだいぶ廃れていて、廃屋も多かった。

 村が小さかった為に三人はあっという間に村を一周して入り口にあった丘に戻ってきた。

 三人は丘に腰を下ろして話し合った。

「それにしても魔王と同じ名前だなんて、その青年はどんな気持ちなんでしょうね」

「さて……ゲオルグ青年の家はどこなんでしょうね」

 キコは何となくシロツメクサの白い花を数本摘んでみた。ふと、目をやると通りを挟んだ反対側が墓地になっていて一人の老人が何かをしていた。

「あの老人に聞いてみよう」

 三人は墓地へと入っていった。

 老人は三人が近付くと気が付いて振り向いた。キコが持っているシロツメクサを見て言った。

「エリーザのお知り合いかな?」

(エリーザ?)

 ギーガはその老人の前の墓標を見た。

"ゲオルグの深い愛に包まれエリーザここに眠る"

 ギーガは咄嗟に答えた。

「最近ゲオルグとエリーザが姿を見せないもので、村を訪れてみました」

「おお。それはわざわざ痛み入ります」

「エリーザが亡くなったと聞いて驚いています」

「それでエリーザが好きだったシロツメクサを手向けてくれたんですね」

 ギーガはキコに目配せした。キコはぎこちなく頷き持っているシロツメクサをエリーザの墓に手向けた。

「エリーザは……その、何者かに殺されたのですか?」

「殺された? まさか。病気だったんですよ」

「病気……それでゲオルグは今どこに?」

「ゲオルグか……」

 老人は昔を思い出すように顔を空へ向けた。

「ゲオルグは今はもうどこへ行ったのか分かりません」

 すると老人はエリーザとゲオルグの事を話し始めた。

 エリーザとゲオルグは誰もが認めるお似合いの恋人同士だった。住む家こそ違えど何をするにも一緒だった。遠くの街まで細工物を売りに行く時は危険を避ける為にゲオルグ一人で売りに出たが、ゲオルグは愛に満ちその愛でエリーザを包み込んでいた。

「しかしある日を境にゲオルグは一日の殆どを家に籠るようになってしまったのです」

「それはどうして?」

「詳しくは分からんのですが、エリーザに事情を聞いても悲しそうに『みんな私が悪いんです』と言うだけだったんですよ」

 ゲオルグの家からは大きな音がしたり、白や黒の煙が立ち込めたり、時には異臭がする事もあった。住民は怖がって近付く事ができなくなってきた。

「後で分かった事なんだが、あれは魔法の研究をしていたみたいなんです」

「魔法……」

 ゲオルグはエリーザと会う時間も惜しんで魔法の研究に没頭した。

 そして数ヶ月後。突然エリーザが倒れたのだ。意識がなく村の医者では原因も対処も分からなかった。すぐに大きな街から医者を連れてきたのだが、その時にはもう手遅れだった。後一年生きられたら奇跡です、医者はそう言って帰って行ったそうだ。

 エリーザは数日後意識を取り戻した。しかしベッドからは出られないほど衰弱していた。

 エリーザの親友が見かねてゲオルグの家に事情を説明しに行ったと言う。

「エリーザ! 無事なのか!」

 ゲオルグはすぐにエリーザの元に現れた。

「ゲオルグ」

 エリーザの声は弱々しく事切れそうだったが親友が見た限り少し元気になったようだった。

「久しぶりに恋人にあったんだもの。髪くらいとかさないとね。ねえ、ゲオルグ。そこの手鏡を取って」

 それはゲオルグがシロツメクサの飾りを掘って入れたエリーザの手鏡だった。エリーザがとても気に入っているものだ。

 エリーザは上半身を起こし鏡を覗いて髪を手櫛でとかした。

「平和が欲しいと言ったのは世界の平和もあるけれど、あなたとの平和な日々の事だったのよ」

 エリーザはうっすらと目に涙を浮かべて言った。

「あなたがいなければ世界が平和だって意味がない」

「エリーザ……僕だって同じだよ。世界を平和に導いて二人で幸せに暮らそう。シロツメクサの咲く丘で」

「ゲオルグ……」

 と、エリーザの手から手鏡がポトリと落ちた。そしてエリーザは力無くゲオルグにもたれかかった。

「エリーザ! どうした、エリーザ⁉︎」

 ゲオルグがエリーザの体を揺すってもエリーザの体は力無く揺れるだけだった。

「その親友は慌てて医者を呼びに行ったそうなんです。そして医者を連れて戻るともうゲオルグの姿は無かったそうです」

 エリーザの命は既にこと切れていた。

「ゲオルグはエリーザを失った悲しみからか、それともこの村を捨てたのか、それ以降何処へ行ったのかは誰も知らないのですよ。あんたら、もしどこかでゲオルグに会ったら、恋人の墓参りくらいしろと伝えてくれ」

 三人は老人にゲオルグの家の場所を聞いて行ってみることにした。

 ゲオルグの家はボロボロに壊れていた。壁は(すす)だらけ。穴もたくさん空いていた。

「中に入ってみよう」

 しかし中も散らかっていて何のための道具なのか分からないものが沢山置いてあった。

 シュピナは小さな紙の包みを見つけた。

「『痺れ粉』って書いてありますね。きっとこの粉を振りかけると痺れるんじゃないですかね?」

「回収しておこう」

 シュピナは痺れ粉をポシェットにしまった。

 傍らの机の上に地図らしきものが置かれていた。

「これは……地図?」

 どうやらこの世界を統べるための道筋を示した地図のようだった。

「もしかしてここがこの村か?」

 小さな青い丸の横に赤く塗られたエリアがあった。青い丸は湖だと思われた。

「このお城のような絵、もしかしてゲオルグはここを拠点にしているのでは?」

 この村と思われる地点から少し北東に行った辺りに、お城と思われるマークが書き込まれていた。ギーガは自作の地図を広げて比べてみた。

「なるほど。この城がある辺りは平地で周りの見晴らしもよく城を築くにはうってつけですね」

「この城に向かってみよう」

「この地図は回収しておきますね」

 ギーガは地図をザックにしまった。

 他は意味のわからない書物や何に使うのかわからない道具ばかりだった。三人はゲオルグの家を後にした。

 村の入り口に向かう途中、シロツメクサが群生している廃屋を見つけた。シュピナが気付いて言う。

「ここってもしかして……」

 三人はエリーザの家と思しき廃屋に入ってみた。長い間主人のいない家は朽ち果て埃が重なっていた。

 寝室に入る。そこには大きめのベッドが置かれており今も主人を待っている。枕元に手鏡が置かれていた。

 シュピナは手鏡を取って裏返してみた。裏面にはシロツメクサの飾りが彫られていた。

「これってエリーザの手鏡……」

 シロツメクサの飾りは中心に花束、その周りにシロツメクサの花輪が彫られていて長い年月ほったらかしにされた今でも綺麗だった。シュピナは袖口で飾り部分を磨いてみた。すると途端に当時の輝きを取り戻した。

 シュピナはそっとその手鏡をポシェットにしまった。

 三人は村を出て村が見渡せる峠まで戻ってきた。ここから北へ向かう道がある。恐らく城はそっちだ。

「あの地図が正しいなら一日と掛からず城が見えてくるはずです」

 ギーガのその言葉は正しかった。それはつまりあの地図が正しいと言うことでもある。

 峠から半日程歩いた所にその城は建っていた。向こうから見つからないように岩陰に隠れて城を観察した。

「もう日が沈むな」

 城のあちこちからは白い煙が立ち上っていた。城壁によってその内側は見えないが、何やら篝火(かがりび)が盛大に焚かれているようで、城の城壁はオレンジ色に揺らめいていた。

「城の中で何かやっているのか?」

「断言は出来ませんが、魔法による生物を作り出しているのかも知れません」

 戦場では一つ目のサイクロプスの目撃例もある。ゴーレムやキメラが作られているのかもしれない。

「今夜はこの岩陰で城を観察して過ごそう。交代で休憩だ」

 結果朝になるまで城の篝火(かがりび)が消えることはなく、どうやら夜通し何かの作業が繰り返されているようだった。

「ん? あれは何だ?」

 城の反対側から集団の人影が見えた。それはそのまま城の正門に向かって行った。よく見ると人間のようだ。

「あれは普通の人間じゃないのか?」

「ゾロゾロと歩いてますが」

 その集団は全部で六人。そのまま正門に入っていった。

「人間が城に入っていったぞ! どう言う事だ?」

 三人は何故人間が敵の城に入っていくのか理解できなかった。しかし驚いた事にその次もそのまた次も人間達がゾロゾロと歩いてきて正門から入っていった。

「もしかしたら、この土地に元々住んでいる人間達が……奴隷、なのかも知れないですが、城で働いているのではないでしょうか?」

「考えられない事ではないが、奴隷ならば自ら城に出向いてくるのか?」

「人質が取られているとしたら?」

「成程」

 ゲオルグの軍団は基本的にオークを中心とした亜人(あじん)や魔法により作られた生物達からなる。そこへ人間が赴いているとなると何か訳があるに違いなかった。一番単純に考えられるのは強制的に働かされている事だった。

「しかし通いの奴隷なんて聞いた事がない」

 しかしギーガは言った。

「これは逆に利用できないですか?」

 つまりキコ達も奴隷のふりをして城に入ろうと言うのだ。

「そんな事出来ますか?」

 シュピナは懐疑的だった。しかしキコは良い考えだと思っていた。

「他に秘密裏に城に入る手立てはない。試してみる価値はありそうだな」

「一つ問題が」

 ギーガは、奴隷なれば武器や防具を持って城に入る事は出来ないと言うのだ。確かにその通りだ。

 どうしたものかと頭を捻っていると、荷車を曳いた奴隷達が見えた。そしてそのまま城の中に入っていった。

「荷車も入れるのか……ならば武器や防具は荷物に紛れこまして持ち込む事も出来るんじゃないのか?」

 大量の藁を荷車に積んで、その藁の中に武器や防具を隠して入り込む作戦だ。遠くから見た限りでは荷物を改めている形跡は見られなかった。

「一旦ビレルの村に戻って偽装しよう」




痺れ粉や地図、エリーザの手鏡を手に入れた三人。地図に記された土地へ赴くとそこには城があった。
それはゲオルグの城なのだろうか。
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